高遠菜緒子さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.1)のイラク復興支援活動報告。半年ぶりの登場だが、現地の情勢には、劇的な良い変化が起きているという。ミーティングでマレーシアに行っていて、帰国したばかりという高遠さんにお話を伺う。
■生き生きと復興進むラマディ
前回の報告は、高遠さんのイラク現地での活動の中心メンバーであるカーシムさん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.46)のいるアンバール州ラマディ一帯で、戦闘行為がすっかり収まり、カーシムさん達『リビルド・ユース・オーガニゼーション(RYG)』(再建をする若者組織)も公然と活動できるようになってきた、というところまでだった。
――そこからの進展というのは?
高遠: 今回のマレーシアでのカーシム達とのミーティングで、復興の様子の写真を見せてもらったんですが、働いている人達の顔が物凄く生き生きしてます。以前の写真に比べると笑顔が全然増えてますし、報告をするカーシムも、非常に自信を持って進めているのがガンガン伝わってきました。
カーシムが一時的に捕らえられていたアンバール大学の農学部も、米軍が全部板張りにして、コンピューター室やオフィスは完全に軍の基地としてずっと使われていたんです。でも、去年のうちに米軍が撤退したので、そこを全部解体して綺麗に改装しました。そのときの様子を、かなりの枚数の写真や映像で見せてもらいました。
あと、以前お話ししたと思いますが、町の中の下水の修理。爆弾で破壊されていたり、安全確保用のコンクリート・ブロックを置いた勢いで、地面の下の管が壊れてしまって、そこから水がジャンジャン湧き出ていたりしたんですが、そういったものを直す工事をやっていたようです。
――もともとカーシムの本職はエンジニアですから、そういう事が出来るのは職業的にも本当に嬉しいでしょうね。
高遠: いやもう、本当にそれが伝わってきて。物凄く生き生きしてますね。
■女性スタッフだから出来ること
――次なる活動のステップは、何ですか?
高遠: 戦闘が終わって、子ども達が外に出ようと思っているんですが、なかなか子どもらしく笑顔で振舞えていないという報告が入ってきていたり…。それから、私もインターネットで女性達と直接会話するんですけど、子どもが出来なくて悩んでいたりとか。
――不妊になってしまっていると?
高遠: ええ。これは紛争地でよく見られるケースらしいんです。そういった情報が具体的に入ってきて、直接本人達と話しているんですが、そういう(現象が)心の問題(であるということ)について本人達が全然気づいてないんです。そういった所が非常に気になり出しています。それで、カーシムとマレーシアで相談して、『RYG』で女性スタッフを募集しないかという話を…
――確かにそう言えば今まで、スタッフは皆男性ばかりでしたものね。
高遠: そうなんです。で、一応募集をしてみようということになったんですけれども、イスラム社会の中で、女性がそういった社会進出みたいな形で、例えばミーティングで1人でマレーシアに来るというのは、どこまで出来るかまだ分からない、と。ただ、新しい環境の中で何かを始めたいと思っている女性達はいるだろうから、理解してくれる女性スタッフを焦らずに募集してみようかということになったんです。
女性スタッフの眼線で、不妊や子ども達の問題に取組んで行こうというわけだ。
■バグダッドの「ありがとう」、バスラの危機
――ラマディ以外の地域での支援活動は、どうですか?
高遠: バグダッドの国内避難民を支援するため、2月下旬からヨルダンに行って、日本で集めた寄付金を渡して来ました。
高遠さんのブログ『イラク・ホープ・ダイアリー』(3月13日付)には、その寄付金で買ってもらった支援物資を持っているバグダッドの子ども達の、笑顔の写真が載っている。物資には、“ARI-KATO I-H-N(ありがとう、イラク・ホープ・ネットワーク)”というステッカーが貼られている。
――あれは、良い写真ですね。イラクから届く写真は、破壊とか悲嘆が多かったんですが、こういう笑顔の写真が目に見えて増えてきたのを感じますね。
高遠: はい、非常に嬉しくなる写真です。このときはまだちょっと寒い時期だったので、発電機や電気ヒーター、毛布等を配りました。アダミヤ小学校という所には生徒が296人いるので、全員に通学鞄と洋服、それから学校には電気ヒーターを40台輸送しました。これ、第2弾をやろうと思っています。
――じゃあ、引き続き募金、募集ですね。
高遠: そうです。お願いしたいと思います。
寄付金の振替先 : 郵便振替口座番号 02750-3-62668
加入者名 イラク支援ボランティア 高遠菜穂子
こういった明るい面がある一方で、つい最近では、今度は南部のバスラで激しい戦闘があったというニュースも入ってきた。
高遠: イラク政府軍と米国軍が、反米武装勢力と言われているサドル派のマフディ軍を掃討するということで、かなり激しくやって…。『日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)』の事務局長・佐藤真紀さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.13)と、アンマンのボランティアスタッフがクウェートに行って、緊急支援の準備を色々やったんです。特に、がんの子ども達は病院に行けないと命に関わってしまうので、そこを緊急支援としてカバーする。それから、周辺の住民に水を配る、ということをやっているようです。
このコーナーでも、『JIM-NET』がバスラの病院に白血病の薬を届けるという活動を報告したが、その活動自体が戦闘に阻まれてしまうという危機的な状況なのだ。
■カーシムさんが再来日で立つ舞台
希望も危機もある中、以前紹介したカーシムさんの手記が、今までのブックレットの形ではなく、きちんとした本として、昨日(4月18日)、日本で出版された。
高遠: 帯書きの推薦文を、筑紫哲也さんに書いていただけまして…。タイトルは『ハロー、僕は生きてるよ。〜イラク最激戦地からログイン〜』(大月書店出版/本体価格1500円)。(“ログイン”というのは、)ブログやメールが中心だったので。
――そのカーシムさんが、去年に続いて、また日本に来られるそうですね。
高遠: はい、そうです。5月の4~6日に幕張メッセで開かれる『9条世界会議』に、スピーカーとして招聘されてます。イラクからはカーシム、米国からは、イラクに派兵されてあのアブグレイブ(刑務所のイラク人虐待)を目撃した帰還兵のエイダン・アルガドさん、日本からは作家の雨宮処凛さんと私の4名で、「イラク・米国・日本」という初日のメイン・トーク・イベントでスピーチします。次の日に、更に深めた分科会で、またこのメンバーで議論を深めるというのもやります。元米国陸軍大佐のアン・ライトさんも、ここに入る予定になってます。
――こういう所に来てくれる元米兵だから、そんなに大きくカーシムさんとスタンスは異ならないでしょうが、やはり立場の違いはあるから、議論が結構熱くなるかもしれませんね。
高遠: まだ確定はしていないんですが、一応私が考えているのは、「米軍はイラクから撤退すべきか否か」というテーマです。これはもう、イラク戦争に反対している人の中でも結構意見が分かれるんです。米国でもかなり分かれてますし、日本の中でもイラクの情勢を知れば知るほど悩むテーマなので、ここを掘り下げてみたいなと思ってます。
■【シリーズ・私と9条】(1)高遠さんが語る自己防衛策
この『9条世界会議』は、簡単に言うと、戦争の放棄を謳った日本国憲法第9条のファンが、世界中から集まる初めての国際会議で、高遠さん自身も呼びかけ人の1人だ。
――イラクにずっと関わってきた高遠さんにとっての日本国憲法9条っていうのは、どういう事ですか?
高遠: (イラク復興活動で今)必要なのは、《9条の精神を実践すること》だと、私は思っています。「武力行使しない」と。私の経験から言うと、日本人である私と米国人とが一緒に米国でイラクの写真展を開いたことによって、米国人と対話が凄く出来たんです。それは時として、凄くぶつかってしまうこともあって、やっぱり、「9・11の犯人はイラク人だった」とか「イラク人、イスラム教徒はテロリストなんだ」という風に、激しく反論してくる米国人ももちろんいました。でもそういった人達に、「実際にはこういう事が起きてますよ」と伝えたり、イラク人達がいつも言っている事を代弁したりしてみて、私は、「こういう事が、もっと《日本人に出来る》んじゃないか」と思ったんです。
私は2003年からずっとイラクと関わってきて、無法状態となった中で肉親をどんどん殺されて、怒りに任せて《報復の権利》を主張する人達と、「報復をやっていても終わらない」「結果は出ないんだ」という議論をすることがよくあるんです。これ(こうした議論によるアプローチ)を、日本の人達がもっと深めていったほうが良いんじゃないかな、という風に思っています。
――そういう議論に、日本人がリードして導くときの発想法のベースとして、「憲法9条」という道具があると?
高遠: そうです。その一方で、9条を《防衛として》考えています。
自分の個人的体験ですけれども、イラクで私が拘束された事件(2004年4月)というのは、言ってみれば犯人側の主張では、(日本が)自衛隊を送ったことで私達は捕まってしまったんですよ。彼らは、「9条」という言葉はもちろん使っていませんが、9条(が公約する戦争の放棄)を逸脱した行為だということで、「私達は日本人のお前らを殺さなければならない。米国のスパイだ。(我々を)裏切ったのではないか」と言ってきたわけです。でも、その町の人達や病院に対する支援を行なってきた、ということを一生懸命説明したら、「そうだったのか」と言って、殺されなかったという経緯があるんです。
私もここ1年位よく考えているんですけど、結局私は、9条の精神を実践してきたから、それが認められて殺されなかったのではないか、と。ということは、これは《防衛》に繋がるんじゃないか、と。日本人は、年間1千万人以上が海外旅行とかに出てますし、海外に住んでる沢山の日本人にとっても、これ(9条の実践による自己防衛)はもっと身近に考えたほうがいいのではないか、と私は思ってます。
このコーナーも、『9条世界会議』までにあと2回放送があるので、じっくり憲法9条にこだわってみたい。来週は、つい最近「熱愛発覚!」とスポーツ紙や週刊誌などで話題になったグラビア・アイドルのインリン・オブ・ジョイトイさんを2年半振りにスタジオに招いて、「私と憲法9条」を熱愛なみに熱く語ってもらおう。