津波被災地にミニFMラジオを贈ろう

放送日:2005/2/5

前回前々回と、2回連続で阪神大震災の10年に着目したが、今回&次回はインド洋大津波について。一時来日中の、元TBSロサンゼルス支局スタッフ、チャーリー加賀美さんに、「被災地でユニークな救援活動を展開している日本人ボランティア」という立場で、お話を伺う。

加賀美さんは、被災地に臨時のラジオ局を作り、更に被災者へラジオを贈って、情報の混乱を解決しようという運動を展開している。一昨年起きたイラン大地震の被災地でも、同様の支援を行なった。

加賀美: イランの大地震の発生も、12月26日でした。それからちょうど1年後の同じ日に、今度はスマトラ沖で大地震が起きてしまった。
私どもは、BHNテレコム支援協議会というグループです。電気通信による人道支援、つまり、災害や紛争で被害を受けた地域で《通信インフラの整備》を支援するNGOです。

「BHN」はベーシック・ヒューマン・ニーズの略で、衣食住、初等教育、医療衛生など、生活基盤分野のこと。その復興を、通信分野の面から支援していく団体なのだ。NTTのメンバーなどが中心となった専門家集団で、被災地の混乱の中で即時に通信網を立ち上げ、情報交換ができるようにしていく。
4年前の2月、西インド大地震から半月後にも、このコーナーで一度言及したので、通算3回目の登場となる。

加賀美: イランの地震の時は、約7000台のFMラジオ受信機を現地に配り、ミニFM放送局を作りました。毎日5時間の放送が、今でも続いています。これから4〜5年、放送は続くと思います。

−今回は、どんな支援を?

加賀美: 私、実はもう12月30日から1月8日まで、スリランカへ行ってきました。まず、被災地4ヵ所にネットワーク網を作ると。もう一つは、現地の通信省の大臣に会いました。現地のハンバントータという町に、ミニFM放送局を是非作ってほしいという要請を受けたものですから。ラジオを通じて復興のニュースを流しながら、自分達の力で今後の復興に立ち上がってもらう。それを裏から支援するのが僕らの仕事ですね。

−スリランカ以外の地域は?

加賀美: 現在、アチェやモルディブなんかからも要請が来ていますから、現地に調査団が行っています。更に、インドですとか、アフリカの一部も今回の津波の被害を受けていますから、そちらへも拡げていくと。
私達が考えておりますのは、外務省やジャパン・プラットフォーム(NGO、経済界、政府の協力・連携システム)の協力を得ながら、ポータブル・ラジオ20万台を被災地へ贈ろうじゃないかと。津波の被害を受けた全ての国へ、1家族に1台という感じで行き渡るように。お金が集まらないと、果たしてこれだけの支援が出来るかどうか分かりませんが。ラジオ1台につき、費用が1000円くらいかかりますので、20万台だと約2億円のお金が必要になってくるんですよね。
私どもが責任を持って、企業からも一般の方からも募金をお願いしまして、政府・NGOを通じて現地に届くまで、見届けます。実はこのキャンペーン、始めたばかりなんですよ。

−財源は、業界からの支援もあるんですか?

加賀美: はい。情報通信ネットワーク産業協会という、テレビやラジオを作る電機メーカーの協会があるんですが、ここが後援してくれまして。協会の加盟会社に呼びかけをしてくれています。ですから、企業と一般と、足りない分は外務省といった政府機関からも支援をいただく事を考えています。

−イランの時の7000台でも大変だったでしょうが、今回はまさにケタが違いますね。実際、現地では、今どんな情報が必要とされているんでしょう?

加賀美: 生活物資の配給や医療チームがいつ来るかとか、道路の片付けをどうする、消毒をどうする、といった、復興に向けて生活の中で必要な情報が第一。被災地で一番足りないのは情報なんですね。それをバックアップするために、どうしてもラジオが要る。ラジオを現地に送りますと、その後4〜5年は使ってくれますから、我々が出来る事の中では、非常に効率のいい支援なんです。

阪神大震災の時も、ミニFM放送局が非常に活躍しましたよね。ラジオから流れてくる松任谷由実さんの『春よ、来い』という曲に涙した方が、大勢いたそうなんです。ラジオは、音楽を聴くとか、娯楽にもなりますからね。被災地では、皆さん家もなければテレビもラジオもステレオもない。全く、何もないわけですからね。

『春よ、来い』にまつわる逸話は、前々回にもご紹介したばかり。ラジオは、必要最低限な情報だけでなく、こうした《励ましや元気付け》も、運ぶ事ができるのだ。
私が阪神大震災10年に際してあちこちで話を聴いた中で、ミニFM局の『FMわいわい』のメンバーが「当時一番人気があった『わいわい』の番組の一つは、ベトナム語の漫才だった」と教えてくれた。震災後のあの状況で、日本語が分からずに混乱の中にいた在日外国人たちにとって、電波に乗ってやってくる《笑い》が本当に励みになったというのだ。
頭の求めるものと、心の求めるものは、同じとは限らない。つい前者だけを優先してしまいがちだが、心のニーズに応える事も必要なのではないか。

−でも、それだけ膨大な数のラジオを、どうやって被災者に配るんですか?

加賀美: 大使館を通じて入ってくる情報と合わせて、実際に我々がこれから出掛けていって、現地の状況を調査してきます。現在、モルディブ、スリランカ、インドネシアで調査をしていて、インドへも近々、出掛ける事になっております。そうして現地の状況を掴んだ上で、どうやって送ったらいいか、数量と配布方法を含めて決めていきます。

−それで配布までうまくいったとして、その後、現地に作るラジオ局の運営はうまくいくんでしょうか? 日本の政府開発援助で昔からよく問題にされるのが、「設備はきちんと出来たけれど、日本の支援者が引き揚げていった後、現地の人がそれを使いこなせなず、結局無用の長物になってしまう」という事態ですが…。

加賀美: 地元の市役所や災害対策本部に私達が設備を寄贈しまして、運営は現地でやっていただくんです。
イランでも、最初は手探りで放送していたんですが、だんだんと回を重ねるうちに、「こういう放送をするとリスナーが喜んでくれる」とか、「こういう情報が必要だ」とか、彼ら自身が《放送のプロ》になっていくんですね。それで音楽とニュースの配分といった全体的な事を考えたりしながら、中身の改良、改良、改良―――。それで立派なミニFM放送局になって、今でもオペレーションが続いています。

《その地域の人びと自身が、必要な情報を伝える》という、まさに市民メディアの原点そのものだ。

加賀美: ニュースはやはり、非常に価値がある。世界の動きから、「隣の村の人たちはどうしているんだろう」といった狭い範囲まで。ラジオが被災者をつなぐからこそ、復興がスムーズに行なわれると。
全国の皆さんの、温かいご支援を是非、お待ちしています。

BHNインド洋津波ラジオ募金は、4月30日まで実施中。

【振込み先】
口座名義・加入者名: BHN インド洋津波ラジオ募金
 <1>みずほ銀行 新宿西口支店 普通 4499549
   東京三菱銀行 新宿中央支店 普通 5605555
 <2>郵便局 00150−4−389943

※問い合わせ…BHNテレコム支援協議会/FAX:03−5348−2223

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