イラン大地震で日本が贈ったFMラジオ局大活躍

放送日:2004/5/29

昨年12月にイランで起きた大地震は、死者4万人を越す大惨事と報じられた。その被災地で情報伝達のために、日本のNGOがイランにFMラジオ《局》を寄付するという一風変った支援をした。今月ひとまず完了したそのプロジェクトの現地派遣スタッフ代表・加賀美靖彦さんにお話を伺う。

―ラジオ《局》を寄付するとはどういうことですか?

加賀美: 先の大地震で建物はほとんど崩壊し、現地では情報を必要としています。しかしながら、食料や水、テントや医薬品を配ったりする際に、被災者にそういった情報がなかなか伝わらないんです。私たちのNGO「BHNテレコム支援協議会」は、無線に関する専門的な知識、アマチュア無線の技術を生かして、まず手作りのFM放送局の送信機を東京で組み立てた後、一旦崩して現地へ持って行き、現地で組み立てなおしてラジオ局として寄贈しました。

―すべての設備が、車一台にコンパクトに搭載することができるサイズだったという話ですが?

加賀美: そうです。当時は、被災地のどこから放送したらよいのか場所が決まっていなかったので、車を走らせながら放送できることに意味がありました。被災地は半径約30KMあるのですが、全域にこの放送が届かないと意味が無いので、出力の高い送信機でないといけません。この送信機は出力90ワットですので、被災地をらくらくカバーできました。テヘランで小型の新車を買って、被災地までの1000キロを陸路で運び、日本から持っていった送信機をその車の後部座席に設置して、屋根にアンテナを立て、走りながら放送ができる“車載局”にして、現地に寄贈してきました。

―放送局はあっても受信機がなければラジオは聞けないのでは?

加賀美: 合計5858台のFMラジオも、被災者に寄付しました。

―実際、そのFM局から発信されるのは、どんな情報ですか?

加賀美: 10年前の阪神淡路大震災でも、ミニFM局が活躍したという実例がありますよね。そこからヒントを得ました。
被災地には災害対策本部がありまして、生活に必要な情報をここから放送するわけです。例えば、瓦礫回収の日程、薬品・食料の配給の日程や、海外から来る医療チームの無料医療相談の場所などのニュースを、この放送を通じて提供するのです。実際の運用には日本人はタッチせず、現地スタッフに任せてあります。

現在、プレハブの仮設住宅工事が進んでいますが、いつそちらに移り住むかなどの重要な情報も、このFM局から発信しています。日本がこれまでにしてきたいろんな支援の中で、このFM放送局の寄贈は、とてもよいアイデアだったと自負しています。

―本当にユニークな発想だと思いますが、大地震が年の暮れに起きて、現地に最初に入る時点でラジオ局を作ろうと思っていたわけではないですよね?

加賀美: はい、違います。現地に入った時、通信インフラは壊滅状態でしたので、我々が持参した衛星電話や携帯電話をテント村に住んでいる人たちに使用してもらい、親戚や友人に連絡をとってもらうなどして安否確認の無料電話サービスを行いました。このような活動を通して、「現地では情報が必要だ」と痛感し、第2次復興支援として、現地に放送局を作ろうと思いました。そのための資金はジャパン・プラットフォームから提供されています。

―ジャパンプラットフォームの出資ということは、もともとをたどって行けば、私たちみんなの寄付金や税金だったりするわけですよね?

加賀美: そういうわけです。最終的には、国民の税金が使われているということです。

―これは、良い税金の生かし方ですよね。まさしく、ラジオの一番有効な活用法ですよ。ただ、もともと現地には、情報を伝えるラジオ局は無かったのですか?

加賀美: 首都テヘランにラジオ局はあるのですが、地方局が無かったのです。つまり、テヘランからの全国放送は地方にも放送されますが、水の配給などの細かい情報については、なかなか放送することがないのです。ですから、まったく新しい周波数で、別の小型ラジオ局を作って寄贈したわけです。この放送局では今も、音楽やコーラン、被災者の人を勇気づけるような番組を流しながら、自分たちの力で何とか立ち上がってもらいたいということで、イラン国営放送のスタッフが、生活直結型の放送を毎日6時間放送しています。

―実は、3年前の2月、インド大地震の半月後に、このBHNという団体を『眼のツケドコロ』で紹介したことがありました。その時は、現地で活動する日本のお医者さんたちのNPOに国際電話で出演していただいたんですが、そのとき医療活動に必要な通信機器を現場で提供してくれていたのが、BHNでした。

加賀美: この団体は、NTTやNECや電気通信網専門の企業がお金を出して12年前に設立されたNGOです。仕事の中身は、テレコミュニケーションの分野で人道支援をするというものです。

―“BHN”とはベーシック・ヒューマン・ニーズですよね?人間の基本的な衣食住とか、医療とかですよね?それをテレコムの分野で支援しようと?

加賀美: はい、難民や大災害時の緊急支援、途上国の電気通信関係者の人材育成、例えばIT関連の技術者の養成や、インターネット網の構築などをしています。イラクの難民キャンプなどでも、通信関係で支援をしています。

―BHNのホームページには、「連絡ができないというだけで、幼い命が消えてゆくことがある」と書かれています。本当に電話というのは、命を救うために役割が大きいですよね。今回イランで活動をする上で、一番大変だったのは何ですか?

加賀美: 日本から通信機材を持ち込む時に苦労しました。イスラム国家でもイランという国は、通信機を輸入するのは法律で禁止されています。人道支援で、被災者の皆さんに使ってもらうという目的がはっきりしているのですが、法律は法律ということで通関するのに非常に時間がかかったことが大変でした。

普段からある法律や社会的ルールが、突発的なことに即応するNGOの敏捷性に追いつけない、ということがあるんですよね。逆に力づけられた手ごたえとかエピソードは?

加賀美: 日本の支援が現地で高く評価されて心からありがとうと言われると、次に何かしなきゃいけないなという気になります。本当に役に立っているということを自分の目で見て実感すると、次の支援に出かけたいという気持ちに駆られるんです。

―大地震発生から半年近く経っていますが、現地は復興してきているのですか?

加賀美: はい、災害対策本部では、3万軒のプレパブ住宅を作るということで、いわゆるバラック住宅建設が着工しています。すでに入居は始まっていますが、あと6ヶ月くらいで、全ての工事が終わる予定です。本格的な復興は、一旦被災者が仮設住宅に入り、本格的な家を作った後ということを考えると、10年位はかかると思うのですが。

―その間、今回寄贈されたFMラジオ局は役立ち続けるわけですね?またどこかで支援したいとおっしゃっていましたが、今回得たノウハウは今後の災害にも生かせそうですか?

加賀美: 情報を伝えるための私たちの支援は、例えばアフガニスタンで、看護婦さんしかいないような小さなクリニックを、中央病院と無線でつないで、治療に関する情報を中央病院のドクターに聞いて、地方で治療をするなどしています。まだまだ電話通信網の無い途上国がたくさんあるので、私たちがお手伝いしていかなければならない分野がたくさんあります。

―さらにお忙しくなると思いますが、がんばってください。

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