小下村塾/投球の仕方--自分で発信!
東京大学「メディア表現演習」講義
この講義では、時事ネタにもフットワーク軽く対応していく。今回まずテーマに取り上げるのは、一昨日土曜日(5月10日)に放送された、『みのもんたのサタデーずばッと』下村コーナー。今マスコミが大騒ぎしている"白装束の集団"についてのリポートである。
[1] "白装束の集団"リポート構成
【スタジオ解説】
・これまでの報道で見えたこと → 白い。時々道をふさぐ。
・見えなかったこと → 具体的に危険な点は何?
【VTR】
千乃正法筆頭幹部(エル・アール出版社長)にインタビューし、施設内を案内してもらう。資金はどこから出ているのか、千乃代表の死後はどうするのか、など質問をぶつける。
【スタジオ解説】
・これまでの報道で見えたこと → 行く先々の車列の眼前での騒動。
・見えなかったこと → 各地域の車列到来前、退去後は?
【VTR】
山梨県大泉村、福井県福井市での地元の対応を取材。
[2] 制作プロセス解説
オンエアまでの行程
: | 定例企画会議。「"白装束"話は、これだけ大騒ぎになっている(この時点ではなっていた)のだから、『サタデーずばッと』でもやらざるを得ない」と判断。キャラバン車列の追っかけには加わらず、車列騒動の起きた場所を2ヶ所サンプルに選んで"定点観測"する方針を打ち出した。 | |
: | 下村が大泉村に、他ディレクターが福井市へ飛ぶ。夕方の大泉村記者会見で冷静な対応を見せた村の助役に、即座にインタビュー申し込み。 | |
: | 千乃正法筆頭幹部A氏に手紙で取材申し込み。午後、村助役インタビュー収録。 | |
: | 筆頭幹部A氏から取材受諾の連絡が入り、午後に団体施設内部を撮影、A氏にもインタビュー。夜8時前、東京へ帰着、徹夜の構成・編集作業へ入る。 | |
: | 朝7時から生放送。VTRにナレーションを入れる時間がなく、本番でオンエア画面を見ながら、スタジオの下村がその場で喋った。 |
取材・構成の工夫
<テレビは映像がなければ作れない>
大泉村助役へのインタビュー後に取り組んだのは、助役の話の各場面を≪言葉≫から≪映像≫に置き換える作業。当たり前のことだが、テレビは映像がなければ作れない。助役が語った村内の出来事一つ一つを撮影しているか、地元テレビ局へ問い合わせたり、当日の村内放送の録音テープを発掘するなどして、「その時」のリアリティを追求した。
<いかに取材相手の懐に飛び込むか?>
白装束の集団は、徹底した"取材お断り"の姿勢。たまに施設の外に出てくるメンバーに話しかけても何も答えてもらえない、助役など当事者に聞いても「団体側の取材は無理だと思いますよ」と言われる。そこで下村は、筆頭幹部A氏に取材を申し込む直筆の手紙を、宿泊先で、夜3時間かけて丁寧に書き上げた。手紙には、こちらの身分、取材の意図を誠実に明記した。この手紙はA氏の手元へ届き、インタビューが実現した。
<過剰演出はかえって情報伝導率を下げる>
オンエアで気を付けたのは、「独占取材!」「ついに潜入に成功!」といった仰々しいニュアンスを避け、淡々と伝えること。無理に雰囲気を煽ろうとすると、制作側の意図が透けて見え、賢明な視聴者の観る気を削いでしまう。受け手をバカにしてはいけない。
[3] ディスカッション
『渦中の人物から"取材させてやる"と言われたら?』
今回のようなケースでは、渦中の人・団体側の主張をどこまで伝えるか、判断が非常に難しい。一方的な宣伝になってはもちろんいけないが、何を考えている人・団体なのかを伝えることは立派な「ニュースバリュー」だ。一律のマニュアルなどはなく、ケースに応じて微妙な判断をせざるを得ない。
では、もし、"白装束の集団"トップの千乃裕子氏から「単独インタビューをさせてやるから来い」と連絡が来たら、君ならどうする?
【生徒からの意見】 赤:「行く」派(8割) 青:「行かない」派(2割)
・誘いに乗ってしまうと、向こうのペースに乗る危険がある。
→ 取材する側が主導権を持てるか。
・とりあえず行ってみて、何をどう放送するかは撮ってみてから考える。
・トップのインタビューを放送する必要性があるのか疑問。
(果たして"白装束の集団"は本当に社会的な危険になりうるのか?)
・≪放送する必要性≫の有無を、送り手が事前に判断すべきではないのでは?
→ メディアは、知り得た全ての情報を伝える『パイプ』であるべきか、「国民に伝えるべき情報」を取捨選択する『バルブ』であるべきか?
・一度始めたのなら、最後まで取材をするべき。
→"のど元過ぎれば熱さ忘れる"の報道が、確かに多すぎる。一つ一つのニュースに≪着地点≫をつけよう!
● 制作実習(音声編)―ラジオ・リポート制作1
制作実習第一弾は、ラジオ・リポートを作ること。リポートのテーマは、
- 時事ネタでないこと。あまり時事性が強いと、その問題についての各人の見解の相違などが影響して、純粋に≪伝導率≫の比較検討がしにくくなってしまう。
- 各人が持っている情報量がなるべく揃っていること。このスタートラインに差があると、当然「よく知っている者のリポートの方がわかりやすい」というハンディが生じてしまう。
―という二条件を満たすテーマとして、「社情研で下村の講義はじまる」とした。 前回からの宿題で、下村の公式ホームページから下村についての情報を収集してもらった。今回は、それらの情報を元に、学生全員が記者役となって、下村健一記者会見を行った。
[4] 下村健一記者会見
Q: | この講義の目的は? | |
Q: | なぜTBSを辞めたんですか? | |
Q: | 今一番コミットしている活動は? | |
Q: | 市民メディア・トレーナーをしていて、「市民メディアが芽吹いている」と感じる瞬間はありますか? | |
Q: | 高校を卒業してから大学に入るまで、何をされていましたか? | |
Q: | なぜテレビの仕事に就こうと思ったんですか? | |
Q: | 仕事と家庭との両立はできていますか? | |
Q: | 今後の夢は? |
質問のテーマが似たり寄ったりで、答えが弾むようなユニークな視点が全く出なかった。下調べ(下村ホームページ)の段階で、育児休暇とか選挙運動とか、各人の感性にピンと引っかかってくるテーマは色々と発掘できたはず。「ニュースリポートを作るなら、まず最大公約数で」という自縄自縛から、これから半年で皆自由になってもらいたいものだ!