G8に備える市民メディア(3)
あと1ヶ月!ラストスパートへ今日もシンポ開催

放送日:2008/5/31

北海道・洞爺湖サミットまで、あと1ヶ月余り。このような国際会議の場には毎回、大手メディアの取材拠点であるプレスセンターとは別に、独立系のメディアセンターが開設され、市民の人達が様々な立場から情報発信を行なうのが、1999年のシアトルWTO以降、世界的常識となっている。日本社会には無かった発想だが、こうした世界的な流れを受けて、今年のG8サミットでも、市民による独立したメディアセンターを設置しようという準備が進行中だ。
この動きについては、去年暮れからこのコーナーで随時お伝えしているが、今朝はその第3弾として、『G8市民メディアセンター札幌実行委員会』のメンバーである松浦哲郎さん(眼のツケドコロ・市民記者番号№67)に、現在の準備状況などを伺う。

■手をつなぐ、世界中の小さなラジオ局

――まずは、自己紹介からお願いします。

松浦: ちょっと皆さんには耳慣れないNGOかと思うんですけど、『アマーク(AMARC=世界コミュニティラジオ放送連盟)』という、世界110カ国に3000局ほどある非営利のコミュニティラジオ局のネットワークによるNGOがあります。日本の大きなラジオ局と比べると「え、これでもラジオ局?」って、一瞬ビックリするような、公民館の隅っこにちょこんと機材を置いただけのようなラジオ局もあるんですけれども、大体がその地域に密着して根付いた非営利の放送局です。

――松浦さんは、そこの役員をしていらっしゃる?

松浦: そうです。大きなNGOで、本部がカナダにあって、大体大陸ごとにグループを作っています。アジア太平洋地域というグループがありまして、そこの理事会のメンバーをさせて頂いております。

――私も8~9年前から、市民メディアに関しては色々取組んでいるんですけど、松浦さんは、まさにそういうジャンルの実践をずっと積み重ねていらっしゃるわけですね。

松浦: いつも、下村さんのお話に励ましを頂いてるんですよ。

■サミット会場の「フェンス」が見つめていたもの

――今日の昼過ぎから、東京の早稲田大学でもシンポジウムを開かれますね。

松浦: そうです。これを主催する『G8メディアネットワーク』は、東京のメンバーが中心になって作っている集団で、このG8サミットを報じる市民メディアの、主にコンテンツを制作していくというグループです。一方、私達が参加している『札幌実行委員会』は、今回の札幌における市民メディアセンターの設置・運営を主に担当しようという(地元中心の)集まりになっています。

札幌の御当地チームと東京の経験者チームが、タッグを組んでいるというわけだ。
今日のシンポジウムのタイトルは、「環境・グローバリズム・メディア~オルタナティブ・メディアはG8で何ができるか?」。

――プログラムには、まず映画『ZAUN』を上映、とありますが、これは、どういう映画ですか?

松浦: ZAUNは「フェンス」という意味です。去年ドイツでG8が開催されたのは、ハイリゲンダムという小さな保養地で、その保養地の周りをなんと13㎞に渡って、サミット前から金網のフェンスで囲ってしまったんです。
 この映画は、そのフェンスの中で暮らすソーセージ屋、G8の警備を統括する警察、いろいろな攻防を取材しようとするメディアの人々、G8に反対して道路を封鎖している若者達など、サミット期間中に会場周辺で起こった様々な出来事を非常に丁寧に記録したドキュメンタリーになっています。

――その中心には、いつもフェンスがあったと?

松浦: そうですね。非常に良く出来た映画なので、ぜひ日本でも公開したいということで、この度『G8メディアネットワーク』や『札幌実行委員会』のメンバーが協力して、日本語に翻訳しました。日本語版初公開ということになります。

■東アジア市民の発信力、東京へ札幌へ

映画上映の後は、早稲田キャンパス内でワークショップがあり、別々の教室で2つのセッションが同時に開催される。松浦さんが報告者として参加するセッションは、「グローバル市民社会とメディア活動」というテーマだ。

松浦: 恐らく2つの意味で語られるかなと思うんです。1つは、今まで考えられなかったような、市民同士の情報発信の交流が生まれてきたと。メール、インターネット、携帯電話を通じて、地球の裏側で起こった事がすぐ私達の手元に届くということになりまして、メディアの在り方というのが変わってきたと。
 もう1つは、グローバルということで、強い国がどんどん世界中に出て行って、自分達の都合を押し付けて、色々な開発途上国と言われる所から、資源や食糧など色々な物を搾取していってしまう。そういう社会の在り方に対して、メディアがどういう事が出来るのか、という意味があるかと思われます。

――松浦さんと並ぶもう1人の報告者、エム・ブラックさんという方は『台湾メディアウォッチ』所属となっていますが、この『台湾メディアウォッチ』って、何ですか?

松浦: メディアがちゃんと市民に正しい情報を提供しているのかということを(市民の目で)監視して、それが正しく行なわれていないということになれば、自らが情報を発信するという団体です。

更にその後のシンポジウムは、「東アジアにおけるメディア・アクティビズムの可能性~洞爺湖G8サミットにむけて」というタイトル。1月にこのーナーでお話を伺った滝口一臣さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.61)がコメンテーターで、面白いのはパネラーの顔ぶれだ。先程のエム・ブラックさんに加えて、台湾『苦労網』の代表・劉光瑩さん、韓国『メディア・カルチャー・アクション』のパク・ドヨンさん―――。パネラーに日本人が1人もいない!

松浦: 東アジアでも特に、韓国とか台湾、香港という所は、こういう市民メディアが非常に盛んですね。

――私は「市民メディア・アドバイザーやってます」と日本で言うと、「何それ?」って必ず言われるんですけど、多分東アジアの他の国に行ってそう自己紹介すれば、「ああ、そう」で済みますよね。

松浦: いやもう、ほんとに海外の方でも、「下村さん」と言ったらご存知の方がいらっしゃると思いますよ。

――おおっ、それは、光栄です!

このパネラー全員が、この後すぐ明日(6月1日)には丸ごと北海道に移動して、「環境・グローバリズム・メディア in Sapporo」という同タイトルのシンポジウムを開催するという。

松浦: 皆で札幌に入りまして、多くの市民の方々に、より一層関心を持って頂こうと。

■大手メディアが伝えた外見、市民メディアが伝えた内面

松浦さんは、去年のドイツ・サミットでの市民メディア発信を、現地で体験したという。

松浦: ドイツでも、同じように市民メディアセンターというものが立ち上げられて、私達は、その中でラジオフォーラムという活動を行ないました。世界の約20カ国位から集まったメンバーと一緒に、多言語で毎日、放送を行なっていました。ヨーロッパでは衛星放送でラジオを聴くということが非常に盛んですから、衛星を通じてヨーロッパ全土に放送していました。

――多言語というのは、日本語もされていたんですか?

松浦: 日本語は、私が日本から唯一の参加者だったものですから、私が細々と行なっておりまして…。(笑)
 凄く印象的だったのは、日本でもよく報じられた、若者が“暴徒化”したという報道です。「ブラック・ブロック」と言われた若者の団体で、随分流れましたよね。皆、黒い服を着てマスクをしている集団として見れば、何か過激な集団に見える。―――そういう見せ方も出来るかもしれませんが、マスクを外した1人1人を見たときに、社会に対する不安とか、これから生きて行く上での不安とかを抱えているように見えたんです。“暴徒化”したということよりも、もっと深く、個々の人間と関わりあって、そういう彼らの話をよく聞いてみるという姿勢が必要なんじゃないかな、と思いました。

――市民メディアは、それが出来たと?

松浦: そうです。私達は、日頃から1人の市民として、「彼らの意見や気持ちを聞きたい」というのが自然な感情なんです。ですから、彼らにも、マイク1本持って、自然に近寄っていってインタビューする、と。

それはまさに、大きなメディアが大クルーで押しかけて行って、身構えて行なうインタビューでは採れない声だ。

――そういう所に市民メディアの真骨頂が出ますよね。

松浦: 《役割分担》というところもあるのかなと思うんです。大小さまざまなメディアが、いろんな角度から伝えていく、ということが大事なのかな、と。

アンチ・大手メディアというのではなく、それぞれのメディアが共存して、それぞれの得意分野をカバーするということが出来ればいい。
洞爺湖サミットは、7月7日から。準備のラストスパートに突入する市民メディアの皆さんにも、最後まで息切れすることなく駈け抜けて、大手とは違った目線の情報を、多彩に社会に届けて欲しい。

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