G8に備える市民メディア(2)現地にセンターを作ろう!

放送日:2008/1/26

今年7月、北海道・洞爺湖畔でG8(先進8ヶ国首脳会議)が開催される。こうした大規模な国際会議になると、必ずプレスセンターができて、そこに世界中の大手メディアが集まり、そこから世界に向けて発信していくという形になるが、実は今、もう1つ、《市民メディア専用》のメディアセンターを作ろう!という動きが水面下で進行している。
先週末、このアイデアに賛同する人達が洞爺湖畔で初めて一堂に会し、泊りがけの作戦会議を開いた。中心メンバーの1人、札幌在住の滝口一臣さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.61)にお話を伺う。

■札幌と東京の動きが融合し…

国際会議の場に市民メディア団体が集まって、自分達の関心のある目線に特化した発信をしていくという新しい流れは、世界的には1999年のシアトルでのWTO辺りから当たり前になりつつあるが、日本で本格的に取り組まれるのは、恐らく初めてだろう。

滝口: 昨年9月に、札幌で『市民メディア・サミット』というイベントがありまして、その中で、「洞爺湖G8サミットで、市民メディアは何が出来る?」という分科会をやりました。その席で、東京からの参加者の方から、「市民メディアセンター、作らないんですか?」みたいな呼びかけがあって。札幌のメンバーとしては、G8でカメラを持って何か取材をってことは漠然と考えてたんですけど、センターを作るっていうところまでは考えが及んでなくて…。それで、そこからバタバタ準備をして、という感じになっております。同じ時期に、東京の方でも『G8メディアネットワーク』というのが結成されました。

――札幌の『市民メディア・サミット』については、このコーナーでもお伝えしましたが、それと東京の動きが合体して、話が具体化してきたということですね。現時点で、どういう方々が参加してるんですか?

滝口: フリーランスの記者の方とか、映像制作している方が多いんですけど、市民メディア団体ということで言えば、『デモクラシー・ナウ!ジャパン』『JCA−NET』『世界コミュニティラジオ放送連盟』『レイバーネット日本』『インディメディアJP』などが参加されています。

――滝口さん自身も、普段はそういう活動をしているんですか?

滝口: 僕は、NPO『さっぽろ自由学校「遊」』という所で、メディアを考えるための講座の企画とか、市民がメディアを使いこなすための技能(自分がメディアになって情報を発信するためのテクニック)取得のワークショップの企画などを担当しています。その他、自分自身でも映像制作をやっています。今、重点的に取組んでいるのは、北海道ですから、アイヌ民族に関した発信です。

■「かっこいい」人や思想を取材しよう

――“合宿”ミーティングに先立って、先週金曜(1月19日)に、札幌でマス・メディアとの懇談会が開かれたということですね。

滝口: G8に向けて、北海道のNGO・NPOが集まって、政策提言をして行こうという実行委員会があるんですけれども、そこのグループからの「もうちょっとマス・メディアの方と親しくして情報提供をして行かないと、自分達の活動が上手く伝わって行かないんじゃないか」という呼びかけで、僕達、市民メディアセンターを作ろうとしているグループも、オブザーバー的に参加させてもらったんです。
 実は、北海道の某テレビ局で最近、サミットの特集というのが組まれていまして、そこで報道された内容に「サミットで市民団体が暴れる」みたいな記述がちょっとあったので、それを受けて「いや、そういう事じゃないんですよ」というのを説明したんです。

――世間的には、“サミットに集まってくる市民グループ”というと、暴力的な抗議行動をイメージしてしまう人も、まだまだ多いでしょう。そういうものではないんだ、ということを、これから打ち出していかなければいけないわけですね。

滝口: そうです。G8サミットに集まってくる市民団体というのは、大きく分けて、直接「G8《そのものに反対》してるよ」ということを前面に出していく人達と、手法として《政策提言(代案)》をまとめて「G8を諸国に伝える」という人達がいると思うんです。どちらも《非暴力は当然》の事なので、非暴力で自分の意見を言うということに対して、「(海外から)恐ろしい人が来る」とか「テロリストがやってくる」という風に捉えないで欲しいなと思うんです。

確かに、『G8メディアネットワーク』の議事録を見ると、「かっこいい人」、「かっこいい思想」を取材しよう、という声も出ている。「かっこいい」とは、《非暴力であること、遊び心のある人、楽しい活動をしている人、組織がオープンであること、透明性のあること(行政、マスコミに対して自分たちが何をしているかをきちんと説明できること)、地域の問題・日常生活の問題を世界各国の問題と結び付けて考えられる人、一般市民にも受け入れられる努力をしている人》とのことだ。

■大手メディアの弱点を補う存在に

――抗議行動というと、ごく一部の暴力的に騒ぐ動きが“絵になりやすい”ので、そこばかりニュースになるという傾向は、シアトルのWTO以来ずっとありますよね。

滝口: そうなんです。全体としては0.01%の暴力的な行為を、メディアとしてはどーんと切って映像とか流されるので、一応「そうじゃないんですよ。もうちょっと別の切り口で採り上げて頂いたり出来ませんか?」という感じで説明しました。

――メディア側の返事は、どうでしたか?

滝口: やっぱり、「市民活動団体の普段の活動というのは、“絵になりにくい”。ついつい車が燃えるとか、そっちの方に目が向き勝ちになってしまう」と。それから、「情報がバラバラで集約されてないから、取材しにくい」という部分があるそうです。「どこかに情報がまとめてあって、そこに問い合わせると記事が書きやすい」と。何かよく分かんないですけど、「(大手メディア側が)ちゃんと働いてくれたらいいんじゃないの?」って思いたくなるような返事でしたね。

――お役所の中に記者クラブがあって、常駐していれば情報の方からやって来る、という状態に慣れっこになっている発想ですねぇ…。でも、そういうリクエストが出て来ると、ますます市民メディアセンターを作る意味が増す感じですね。

滝口: そうですね。マス・メディアの方も、「情報が集まる拠点があるとやりやすいし、マス・メディアと市民メディアがそれぞれ違う視点で、同時に情報を発信するのは良い状態じゃないか」ということで、注目して頂いてるようです。

もともと市民メディア団体の多くは、マス・メディアのあり方を批判はするが、敵対や否定はしない。ある面ではマス・メディアと協力し、相互補完の共存関係というスタンスを目指すところが多い。この『G8メディアネットワーク』にも、そうした性格が感じられる。

■スタジオがあって、ワークステーションがあって…

――その翌日(1月20日)に、札幌で開催されたシンポジウムの内容は?

滝口: これは、地元・札幌としては、「市民メディアセンターをちゃんと用意できないのは、市民メディアをやっている人間として恥ずかしいんじゃないか?」というところがありまして、是非、各方面に協力を求めて行きたいということで、シンポジウムをやって、行政とか一般の全然関係の無い人にも関心を持ってもらおうというところです。

――行政に、ということは、つまり「公的な場所にセンターを作ってくれ」ということですか?

滝口: 僕達は、(市民メディアセンターは)公共性が高いと思っているんです。なので、そこはやっぱり行政の施設を是非お借りして、センターにしたいという思いがあるんです。

――で、シンポジウムから引き続き、泊り込みミーティングで、「G8市民メディアセンターを作ろう」ということが方針として正式に確認されたと言うことですが、センターは、具体的にはどういう場所になるというイメージですか?

滝口: 今のところ予算の問題があるので、わりと願望の話の部分も含まれるんですけど、1フロア40畳ぐらいで、最大4階建て、少なくとも2階建てが欲しいという話で、結構、大規模なんです。で、(インタビューなどの生放送が出来る)スタジオがあって、動画編集が出来るパソコンというかワークステーションがあって、ネット発信用にLAN回線が引いてあって、あとは、ミーティングルームや仮眠室みたいな所があるという具合です。

――つまり、映像系もラジオ系も文字系も、いろんな団体の市民記者がそこに出入りして、スタジオや機材を自由に使っていいという場所ですね。市民メディアであれば、誰が使ってもいいんですか?

滝口: 基本的にはそういう方針にして行きたいと思っているんです。ただ、どれくらいのキャパシティが取れるか、建物の大きさ(次第)ですね。結局のところ、事前に記者登録はしてもらう。それは、非常に緩い記者登録になると思いますが。

■日本が恥をかかない為にも

――海外の国際会議では、そういうセンターの存在が当たり前になりつつあるから、今回も当然、外国の市民メディアの記者達も洞爺湖に来ますよね。その人達もそこを使うということになるんですか?

滝口: それはもちろん、大前提です。僕達だって海外に取材に行くこともあるかもしれないですから、その時に受け入れてもらいたいですし、今国際的な市民メディアの連帯というか繋がりの中でやっていることなので、当然受け入れるという方向です。実際のところ、もう問い合わせも来てまして、東京の関係者のほうには、「取材に行きたいんだけど、センターは出来そうか?」というのが多方面から来ているという話です。

――洞爺湖に取材に来て、「センターも無いのか」ということになると、日本は“赤っ恥をかく”ということになってしまうと…?

滝口: そうなんですよ。外国の市民メディア記者が、「日本の民主主義はどうなってんだ?」くらいな感じの報道をしかねない、と。

■映像発信、3月からスタート!

――センターという“器”を用意する他に、“中身”である『G8メディアネットワーク』自身の発信活動の準備は進んでいるんですか?

滝口: はい。場所の設定と同時並行で、1日10本から15本位の動画を撮って発信して行こうと、動画の配信を準備しています。もう、そのサーバーは立っていて、3月頃から事前情報を配信して行こうという話になっています。

大手メディアが伝えている事だけが、世の中の大切な事全てではない! 「その報道機関が大切だと思った事」を選んで伝えているだけだ。もちろん、それは大抵「本当に大切な事」と一致しているが、時にはズレることもある。例えば、「市民メディアの動き」。大手メディアの人は、それが大切だとは当然思わないから、全くニュースに採用されない。だから、大手のニュースしか観ていない人は、この大規模な胎動が世の中に存在することに、全く気づいていない。
『眼のツケドコロ』では、この動きをこれからも、7月に向けて時々採り上げていきたい。

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