G8に備える市民メディア(1)
『デモクラシー・ナウ!』日本でも始動

放送日:2007/12/ 8

来年北海道で開かれるG8(先進8ヶ国首脳会議)に向け、市民メディアも動き出している。その担い手になりそうな団体や活動を、これからこのコーナーで随時お伝えしていく。
今朝は、その第1弾として、インターネットで動画リポートを配信している『デモクラシー・ナウ!ジャパン』事務局の古山葉子さん(眼のツケドコロ・市民記者番号№57)と中野真紀子さん(眼のツケドコロ・市民記者番号№58)にお話を伺う。

■世論が突っ走った時の、「今こそ!」

『デモクラシー・ナウ!』は、4年前にこのコーナーで紹介した、米国ニューヨークにある『ダウンタウン・コミュニティ・テレビジョン(DCTV)』を拠点とし、世界各国に視聴者を持つ本格的な米国の市民メディアだ。

古山: 1996年からラジオで、5年後(2001年)からテレビで、独立放送を行なってるんです。毎日1時間の報道で、最初が国際ヘッドライン・ニュース、大部分の50分位がインタビューで成り立ってるんです。

――テレビ版が始まったのは、9・11のテロの少し後ですね。

古山: そうなんです。このスタジオがあるのがグラウンド・ゼロのすぐ近くで、9・11のときに、びっくりして(スタッフが)駆けつけたんです。ここの凄いところが、その場にいた被害者の家族が「これでブッシュが何でも出来ちゃうようになるのかしら? 私の家族の死が利用されちゃうのかしら?」と言った一言を、その日だかその次の日頃から放送してるんですよ。「これが戦争に利用されてはいけない」とか「もう既にアラブ人への差別が始まってる」とか、そういう反骨的な、あくまでも反戦的な姿勢を、あの愛国ムードが充満した中で貫いたということで信頼も上がって。今では、世界500局以上のテレビ・ラジオ局で番組が拾われてるんです。

それ以来ずっと、CNNや全米ネット局が採り上げないような骨太の社会問題を“眼のツケドコロ”にして報道している。

古山: かなり具体的に「こういう企業がこういう悪い事をしてる」と名指しで言うので、「決してCMを付けない」「CMに頼らない」というのを信条としてるんです。米国の3大ネットワークだったらやっぱり凄く資本が強いから、それに反するような事は言えない。だから、流している局もそういう所じゃなくて、コマーシャルが無いような局を中心に流してるみたいです。

――小さな独立系のCATVとかを中心に…?

古山: あと、大学とか。

この経緯を聞くと、『デモクラシー・ナウ!』の“ナウ!”の部分に込められた切迫感がよく分かる。ワールド・トレード・センターが崩れ落ちた瞬間、全米が愛国心に燃えて一方向に流れてしまうという危機感の中だからこそ、≪今こそ≫民主主義が必要なのだ、ということだろう。

■骨太テーマのオンパレード

では、具体的にどんな作品を流しているのか。ホームページに列挙されたタイトルから拾い出してみよう。

――「米国未開発油田の国際争奪戦」。これは?

古山: 今は中東の石油で争奪戦が起こっちゃってますけど、アフリカにも未開発油田がたくさんあるので、今度はそちらにシフトしてしまうんじゃないかという懸念を放送しました。

――「地球温暖化研究への政治的介入の実態」。

古山: 米国が地球温暖化対策、凄く遅れてたじゃないですか。どうしてかって言うと、たとえば巨大な石油会社(元の番組では実名)が、大きなお金を使って科学者もどきを雇って、テレビで「温暖化は無い」「温暖化があるというのはウソだ」というのをガンガンに流してた、っていうニュースだったんです。

――「“移民のいない日”米国史上最大級のデモ」。

古山: これは、去年の5月にあったデモなんですけれども、米国政府が「ビザ無しの移民に協力する人は、全て違法である」という法律を通そうとしたんです。この法律は酷いということで、「じゃあ今、米国で移民無しだったらどんな状況になるのか、経験してみな!」みたいな感じで、なんと150万人の移民が皆でデモをしたんですよ。移民がやってる店は全部閉めちゃうし、移民の人たちは学校に行かないし、支援する人たちも学校に行かないし。凄いストライキだったみたいですよ。

――「エコノミック・ヒットマンが語るアメリカ帝国の秘史」。

中野: 1970年代ぐらいに、米国のコンサルタント企業に働いていたエコノミストが、第三世界の資源を持った国に派遣されて、そこの指導者に「世界銀行からお金を借りて開発すると、こんなに凄く経済が上向きになるんだよ」というインチキな指標を出して、「世界銀行からお金を借りなさいよ」と甘言で誘うわけです。そういう風にお金を借りてどうなるかというと、借りてインフラを構築することに使われるんですが、それは米国企業が請け負うと。現地には全然お金が落ちていかないので、実は開発には何にもならず、残るのは借金だけということが分かっているのに、やらせるわけです。“アメリカ帝国”というのは、戦争によって作られたんじゃなくて、そういう形で経済侵略を、それも分かっていながらやっているんだということを、内部告発したインタビュー番組です。

■人材も情報も資金も、市民から

――この4本だけを見ても、確かに扱うテーマが骨太ですよね。

古山: 凄い骨太ですよ。『デモクラシー・ナウ!』見てると、何かホント、マスメディアが選んで報じている世界とは、別世界みたい!

――これだけの作品を生み出し続けるのって、相当な取材陣がいないと出来ないような気がするんですけど、ニューヨークではどういう体制でやってるんですか?

古山: 結構若い人たちも多いんです。25人ぐらいで、それこそ「ABC辞めてきました!」っていう人なんかも含めて、やっています。後は、『デモクラシー・ナウ!』のファンの人たちが、ニュース・ソースを凄い勢いで送ってくるみたいで。

≪市民が視聴している≫メディアというだけではなく、≪市民が情報を寄せる≫メディア。これこそ市民メディアの真骨頂だ。

――その25人の制作コストなど、財政はどうなってるんですか?

古山: ほとんどが寄付と助成金と、DVDの販売だと聞いています。

■世界に散らばる日本人たちの共同作業

――で、その日本での活動支部が『デモクラシー・ナウ!ジャパン』というわけですね。でも、日本ではこういうゴツイ作品って、一般のテレビ局は紹介しようとしないですよね?

古山: いや、ジャーナリストの皆さんの個々の反応は、結構良いんですよ。TBSも会ったし、NHKとかテレ朝とか。何人か売り込みに行ったんです、ラジオとかも。すると、個人的には「うわぁ、これ良いネェ。もう最高じゃん! こういうの、やりたかったんだよ…でも、うち、放送できる番組枠が無い」って言う人が多くって。ケーブルとか衛星も全部行ったんですけど、とにかく、「枠が無い」「お金にならない」…ちょっと難しかったです。

それならもう自分達で発信していこう!と開いた日本版のウェブサイトは、非常に充実しており、先ほど紹介した4作品もサイトから視聴することができる。

――あれは米国で作っている動画作品の中から、日本人が興味ありそうなものをピックアップしているわけですか?

古山: はい。大体15分から1時間位の物をホームページにアップしてます。世界中の日本人の人たちと組んで、字幕を付けてます。
 最初に、「今週の放送の中からこれがいいと思って選びましたので、翻訳して下さる方、翻訳してね!」ってメールで一斉に流すんです。そのメーリングリストには、翻訳者が40~50人、ほとんどボランティアで「やってもいいよ」っていう人たちが登録していて、「自分はこのテーマに興味があるし、時間があるから、やります!」っていう風に飛びついて来て下さるんです。それを、私達が全体監修することが多いんです。

中野: やはり、もっと知っていただきたいということで、(ネットで流すだけでなく)DVDも作ってます。(誰でも)買えますよ。

古山: ホームページから注文していただくと、私達からご連絡差し上げます。

■「チャンネルを1個、市民によこせ!」

中野: 私達の番組って、もっといろんな所に流されていいんじゃないかと思うんです。元々が、米国だとパブリック・アクセスのネットワークで放送されてますし…

「パブリック・アクセス」とは、簡単に言うと、「放送用の社会資本(ケーブル網とか、電波帯とか)を占有させてもらっている者は、その地域の市民が制作した映像をそのまま流す放送枠を確保する義務がある」という制度で、欧米の少なからぬ国で、放送事業を預かる側の当然のこととして捉えられている。以前このコーナーでも紹介したが、これは日本社会にはなかなか馴染まない考え方だ。

中野: 米国のものをそっくりそのまま同じ制度にしろとは言わないんですけれど、日本に今ある仕組みの中で、その理念に少しでも近づけるものを作っていければ凄くいいなと思っています。そういう意図で、私たちは「パブリック・アクセスなどに関する研究会」というのを定期的に開くことにしてるんです。他の研究会とどう違うのかと言うと、(勉強するだけでなく)「具体的に今どうやったらチャンネルが取れるか」という具体的な目標があるっていうのが、結構ポイントかなと思います。

古山: 要は、「チャンネルを1個、市民によこせ!」と。様々な人たちが、ちょっとしたドキュメンタリー番組を作って、でもどこにも流してもらえてない。けど、結構皆が見ることが必要な内容だったりして。だから、「そういうのばっかりを集めたようなチャンネルを作ってよ」と。

――この研究会は、そういう事に関心のある人だったら、誰でも参加していいんですか?

中野: どーぞ、来てください!

古山: 来てくださいよ! 次回は1月12日です。(詳細は、ホームページに掲載)

■市民メディア専用プレスセンターを

――今は米国製の『デモクラシー・ナウ!』の作品を受け取って紹介しているだけですが、もっと日本からも作って発信して行こうという方向に拡げていくんですか?

古山: 皆さんからのフィードバックを待ってます。『デモクラシー・ナウ!』の本家が作らなくても、皆さんが「流したい」って思ったら、どんどん『デモクラシー・ナウ!』に流して欲しいんです。そういう意味で、私達の日本版ホームページだけにアップするって言うんじゃなくて、(日本人が制作したものを)世界に向けて『デモクラシー・ナウ!』の放送で採り上げてもらうことだって出来るんです。

日本のニュースを世界に向けて発信していくと考えるとき、まず思い浮かぶのが、北海道で来年開催されるG8(先進8カ国首脳会議)だ。これは世界中が注目するわけだが、国際会議になると、まず必ずプレスセンターが1つできて、そこに世界中の大手メディアが集まり、そこから世界に向けて発信していく。だが最近は、そのプレスセンターのすぐ近くに市民メディア専用のプレスセンターもでき、そこに市民メディア団体が集まって自分達の関心のある目線で発信していくという、新しい流れが出来つつある。1999年のシアトルでのWTO辺りからその傾向は顕著になったが、日本でも来年の洞爺湖サミットで、そういうセンターを作ろう!という話が動き出している。初動メンバーのメーリングリストには、『デモクラシー・ナウ!ジャパン』や私も参加している。

中野: あれは、凄く大事なことだと思うんですよ。《自衛のため》って言うんですかね。撮ってもらう一方だと、やっぱり(情報の切り取り方が)一方的なところしか見られないっていうことありますし。

――まだイメージの段階でしょうけど、『デモクラシー・ナウ!ジャパン』がG8の発信に関わるとしたら、どういう役割分担が出来そうですか?

中野: まぁ、私達は翻訳者の集まりですからね。日本語を英語に直して発信するっていう部分が、具体的には分担できる方だろうなとは思います。ぜひ皆さん、積極的にここで取材して発信していくということを、やっていただけるといいなと思います。

このコーナーでは、今後も7月の洞爺湖サミットに向けて、いろいろな団体の動きを随時お伝えしていきたい。

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