前回3月末の高遠さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.1)の報告では、名古屋の「近藤産興」という会社から寄付された学校の机等が、船でイラクに向かっている最中だった。
■学校配布まで、あと一歩!――その後、どうなりました?
- 高遠:
- (出発から)約1ヶ月後の4月13日にイラクの隣国ヨルダンのアカバ港に無事に着いて、受け取りに行って来ました。ところが、頼んでいたイラク人運転手が、土壇場で「入っちゃダメ!」と言われてしまったんです。アカバからイラク人ドライバーだったら、国境で乗り換えとか、荷物の積み換えなどせずに、そのまま行けたんですけど、仕方なくヨルダン人ドライバーにお願いすることにして、ヨルダンの国境でトラックと運転手を替えました。ちょっと、面倒くさかったです。
――結構な量ですよね? 学校の教室用の個人机133個、椅子187脚、会議用の机19個、中古の足踏みミシン33台、その他小物類とか…
- 高遠:
- もう、大きなコンテナに一杯一杯でしたね。それを国境で、またイラク人のトラックに乗せ換えて、運転手も替えて二度手間三度手間でした。でも、もう無事にイラクに入っています。
――良かったですね。
- 高遠:
- はい。ただ、配布先のラマディという町で、ここ数週間、米軍が道を封鎖してしまって、ドッカンドッカンやっているんです。それでコンテナが橋を渡れなくて、足止めを食らっています。だいぶ前に現地の町には入っているのに、未だに学校に着けない状態なんです。だから、運送会社の社長の(ラマディにある)実家にコンテナのままで保管してあるんですよ。コンテナがかなり大きいので、米軍の動きが静まるまで無理せず、様子を見ようという事になっています。
――現地の学校は、もう机や荷物が来ることを知っているんですか?
- 高遠:
- 生徒達は分からないですけれども、住民は、「このコンテナが学校に行くらしい」という事は知っています。地元の関係者筋も、「中には学校の机が入っている」ということを分かっています。
――じゃあ今は、「遂に到着!」という最終報告を待っている状態ですね?
- 高遠:
- はい、そうです。
■出来始めた“大量寄付”の道筋
――今回のニュースを聞いて、また「寄付したい」という申し出があったそうですね?
- 高遠:
- はい、今度は名古屋の南山中学・高校から、机と椅子800セットという申し出を頂きました。
――物凄い量ですね。机や椅子は更新するから、前のが不要になるんですね。
- 高遠:
- みたいですね。先生と生徒が「イラクに送ろう」と机や椅子を綺麗に磨いている様子の写真も見せて頂きました。それをまた、近藤産興さんが倉庫に保管してくれています。
――その船出も具体化しつつあるんですか?
- 高遠:
- いえ、まずは1回目の結果を見て、住民の反応を見極めてからにしようと思っています。こちらとしてはもちろん、なるべく早く出したいんですけど。今回は量が多いので、軽く見積もっても、40フィートのコンテナで4つ位になるだろうし、向こうもそれを一辺に受け入れられるのか、その辺もちょっと(時間が)かかると思います。
――新しい大量寄付の道が出来始めたような感じがしますね。
- 高遠:
- そうですね。何よりも、今回一番良かったのは、日本からの支援だという事をイラクの人達に公表できたことです。
――確か、1個1個の机にステッカーを貼ったんですよね?
- 高遠:
- そうです。「イラクと日本の平和のために」と書かれたステッカーを貼りに行きました(笑)。
――反応が楽しみですね。現地では誰が受け入れや搬送の準備をしているんですか?
- 高遠:
- イラク人の会社です。今回、日本からヨルダンの港までは日本の皆さんからのカンパで支払い、ヨルダンからイラクまでの運送費すべては、イラクの会社社長がもってくれました。どの学校に寄付するかという下調べや、配布の仕切りなどは、私達のプロジェクトの現地チームスタッフであるカーシムが行なっています。
■ネット転送で、世界の“有名人”に…
――そのカーシム君から高遠さんへ宛てたメールを、これまでも何度も紹介して来ましたが、彼は今、ネット界で“有名”になりつつあるそうですね。
- 高遠:
- (彼自身の)具体的なプロフィールは伏せてますけど、インターネットで何回か、英語で日記を配信したんです。最初は、知り合いの日本人やアメリカ人、イギリス人に出した物が、“転送”されてどんどん広がって、特にアメリカ人からの反応がすごくあったそうです。中には、映画「華氏911」のマイケル・ムーア監督とか…
――監督本人から問い合わせが来たんですか!?
- 高遠:
- はい。「あなたの顔写真とプロフィールを送って下さい」って。それはもちろん、セキュリティの問題上、出来ないんですけど。それから先日、ホワイトハウスの前で、軍の撤退に関するイベントがあったんですけど、その時の誰かのスピーチにも、カーシムの日記が引用されました。
――世界的な存在になって来ましたねぇ(笑)。
カーシム君は、私も3月にアンマンで会ってじっくり話した。元はイラク軍の兵士で、反米感情に凝り固まっていたのが、高遠さんと出会って、“大喧嘩”の末に随分変わっていったと、本人が述懐していたのが印象的だった。
■イラク支援グループ、明日大集結!
――今はまた日本各地を講演行脚中ですか?
- 高遠:
- はい。イラク戦争後この3年間に、北海道から沖縄までの様々な団体や個人がイラク支援をしてきたわけですけれども、実は明日(5月21日)、「イラク・ホープ・ネットワーク」の主催で、その支援者達が東京で初めて一堂に会して、支援報告をするというイベントがあります。
――どんな内容なんですか?
- 高遠:
- タイトルは『イラクに咲く花――見る、聞く、知る、イラクの今と私たち』。東京の御茶ノ水駅近くの明治大学、リバティタワー地下1階で10時から19時までやります。普段、テレビではなかなか見られないイラク関係のドキュメンタリー映画5本を、丸1日かけて、一挙に上映します。ロビーでは、今回集まった団体がそれぞれどんな医療支援や復興支援をして来たのか、そういった写真や経過報告などを、ブースで展示します。それから物販もあります。今回皆さんには、イラクの雰囲気を味わって頂きたいと思って、イラクの服やアラブの衣装をスタッフが着たり、イラク・ティー(チャイ)などもサービスしようと思ってます。そのためのグラスも先日、アンマンで購入して来ました。
――じゃあ、会場が“ミニ・イラク”になるわけですね?
- 高遠:
- そうですね(笑)。
――プログラムを見ると、「イラクの現代アート」とか「アラブのポップミュージック映像」とか、いろいろあって面白そうですね。
- 高遠:
- イラクは「怖い」「暗い」というイメージが一番多く出てしまいがちなので、今回は、イラクの人々がずっと続けてきた《日常》について、たとえばアートとか、どんなお茶を飲んでいるのか、若者がどんな音楽を聴いているのか、などを見て頂こうと思っています。
上映される作品は、次の5つ。
11:00〜 『IRAQ WAR』(池上宗徳)
11:40〜 『イラクニ接近ス』(谷澤壮一郎)
13:15〜 『アッバース君が6歳で死んだ理由』(田保寿一)
15:30〜 『ファルージャ2004年4月』(土井敏邦)
17:00〜 『ファッルージャからの証言』(イサーム・ラシード)
『IRAQ WAR』は一昨年、後の4本は皆去年作られた新作だ。イラクで撮ってきた日本人の作品と言えば、綿井健陽氏の『リトル バーズ』をこのコーナーでも紹介したが、他にもこういった短編はいろいろあるのだ。
- 高遠:
- このイベントに参加するのは14団体なんですが、一般の人達からこの各団体への寄付金を今回合算してみたら、この3年間で、総額2億円を超えたんです! 私もびっくりしました。ホントに、100%カンパなんです。そのカンパをどう活用したかを、明日のイベントで見て欲しいですね。
――その14団体の中には、高遠さんの個人活動も入っているんですよね?
- 高遠:
- はい。
――明日のイベントは、誰でも参加していいんですか?
- 高遠:
- もちろんです。入場無料です。インターネット放送局『OurPlanet-TV』から生中継に挑む計画もありますので、地方にいて、来られない人にもぜひ観ていただきたいです。
――ネット中継は技術的に難しいから、繋がるかどうかは明日のお楽しみですけど、うまく行けば地方どころか、イラクの現地でも見ることが出来るわけですよね!
- 高遠:
- あ、そうですね。現地に早く連絡しよう…(笑)。