『ユニークフェイス』自らメイク・サービス展開へ

放送日:2005/11/26

これまでにも何回かこのコーナーで活動を紹介しているNPO『ユニークフェイス』が、また新しいことを始めた。その一環として再来週木曜(12月8日)に開催されるのが、「心を育てるメイク」というイベント。スタッフの外川浩子さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.16)にお話を伺う。

■カモフラージュ・メイクとは何か

外川:
イベントの説明をする前に、「そもそも“カモフラージュ・メイク”とは?」というところから、お話させていただきたいんですが、カモフラージュ・メイクとは、顔のアザですとか、火傷といった症状をメイクで目立たなくする、そういうメイクを総称してカモフラージュ・メイクと言います。
今回のイベントは、まず皆さんに簡単にカモフラージュ・メイクとはどういうものなのか、というのをご説明して、それに、メイクの効果や問題点などを話し合うシンポジウムを合体させたものです。

―女性が出かける前に、普通にしているメイク(お化粧)と、カモフラージュ・メイクとは、かなり違うものなんですか?

外川:
使うファンデーションなんかが、一般の化粧品とは少し違ったりしますので、塗るときのコツですとかテクニックというのが、多少、必要になります。
ただ現実には、(カモフラージュ・メイク用の)商品を買っても、いまいち使い方が分からず、「もう少し塗り方を工夫すれば、上手く出来るのに」という方もいます。ですから、頭だけで理解するより、実際に見ていただいた方が良く分かると思いますので、(イベントでは)まず私達自身の手で実演を披露することにしています。

―シンポジウムの方は、どんな内容を?

外川:
パネリストの方3名に、私と(『ユニークフェイス』代表の)石井を加えた5名で行います。パネリストには、化粧心理学、ジェンダー研究、カモフラージュ・メイクのプロの方に来ていただくことになってます。

―化粧心理学というのがあるんですね。

外川:
お化粧が、心にどういう影響を及ぼすのか。プラス面は皆さんもなんとなく想像できると思うんですけど、お化粧のマイナス面についてもお話いただこうと思っています。
ジェンダー研究の方には「アザのある女性と、アザのある男性とでは、辛さが違うのか」という点からお話いただく予定です。男性の方でも、カモフラージュ・メイクを受けてみたい、という方は実際にいらっしゃいますし、代表の石井も男ですから、「男性が化粧をするというのは、どうなのか」という観点も絡めてお話いただこうと思ってます。

―石井さんの場合は、顔の右半分にかなり濃い、赤紫色のアザが広がってますけど、彼も実際にカモフラージュ・メイクをしてみるんですか?

外川:
はい。彼は高校生の時に、カモフラージュ・メイクをしてみたことがあるそうです。一度やってみたうえで彼は、「自分は、素顔で生きる」という道を選んでいますので、その辺も含めて、「ジェンダー的に何か違うのか」ということも話していただこうと思ってます。

―普段の生活で、まったく考えたことのないテーマですね。

外川:
もうひとりの方は、カモフラージュ・メイクのプロの方で、実際にお仕事をされてる立場から、「現場は実際にどうなのか」ということをお話していただこうと思ってます。

■《する》側と《受ける》側のギャップ

外川:
当日はですね、モデルは代表の石井で、メイクは私、外川が実演させていただきます。今、メイクの猛特訓をしてるところです。

―『ユニークフェイス』は、いわばカモフラージュ・メイクを《受ける》側の団体ですよね。なぜ、メイクを《する》役まで自分達でやるんですか?

外川:
今までのサービスというのは、サービスをする側に、顧客である《当事者の視点》というのが、あまり反映されてこなかったんです。それが、いろんなメイクの方達とお話しさせていただくなかで分かってきました。

―つまり、メイクする側の人の顔にはアザや傷はないから、カモフラージュ・メイクされる側の本当の感覚を分かっていないといいうことですか?

外川:
はい、そうです。もちろん一生懸命やっていただいているんですけども、実際のニーズとは少しズレがあるんじゃないかな、というのが正直な感想でした。そこで、メイクする側に当事者の視点が必要だろうということで、「じゃあ、私達自身が発信していこう」というのが、最初のきっかけです。

―その「ズレ」というのは、具体的にはどういうことなんですか?

外川:
それはいろいろあるんですけど、まず、メイクする方にとっては、とにかくアザは《隠すもの》というのが、大前提になっちゃってるんですね。だから、「どの程度、アザをカバーしますか?」と聞かれることはまずない。ただ、メイクされる当事者の側からしますと、「完全には隠さなくてもいい」「ちょっとカバーするぐらいで、自然に見えた方がいい」という方が、結構大勢いらっしゃるんです。なので、「なぜ初めに確認していただけないのか」というのが、当事者の視点なんです。

―アザとの付き合い具合が、ひとりひとり違うというわけですね。その感覚がないと、「完璧に隠す」のが当たり前だと決め込んで作業を始めてしまう…。

外川:
だから「どういったふうに、したいですか?」と、まず訊いてもらいたい、というのが出発点です。でも、メイクをする側の方には、この話はあまりピンとこないようで、「そもそもアザは完璧にカバーするんじゃないんですか?」って、逆に訊かれました。これはちょっとズレてるなぁ、と。
『ユニークフェイス』でアンケート調査もとったんですが、そうしたら続々とメイクの現状について、クレームが寄せられました。「行ったらまず座らされて、そのままただメイクをされただけ」とか、あと一番大きな問題は、アザを隠した後に、「アザが隠れましたよ、良かったですね。キレイになりましたよ」って、メイクをする側の方が言っちゃうんです。これは、悪気がないのはよく分かるんです。アザを隠しに来たんだと思ってるわけですから。ただ当事者の方からすると、「ああ、やっぱりアザは隠さなくちゃいけないんだ」、「アザがあるというのは、やっぱり醜くて汚いんだね」と思わされてしまうんです。メイクをする側の方に、このことをお話ししたらビックリされてました。

■他所では出来ないメイク塾

今度のイベントを足掛かりに、『ユニークフェイス』はメイク関連で様々な展開に取り組んでいこうとしている。

外川:
特に今年はですね、先月(10月)から「メイク塾2005 カモフラージュ・メイク勉強会」というのを行っています。これは、メイクの技術そのものを教えているわけではなくて、どういうふうにコミュニケーションを取ればいいのか、ということをお伝えする勉強会です。生徒さんは、実際にプロとして働いている方ですとか、メイクのプロを目指している方ですね。

この勉強会で指導役を務められるのは、『ユニークフェイス』ぐらいしかいないだろう。

外川:
メイクの方といろいろお付き合いさせていただいて感じるのは、メイクアップのプロの方、お一人お一人の問題ではないんだな、ということです。そもそもメイクを習得する過程で、これまでのカリキュラムの中には、当事者心理を学ぶということがなかったんです。それが問題なんだろうと思いました。

―今までのメイクアップ・アーティストには思いやりがない、というわけではなくて、システムの問題だと捉えたわけですね。

外川:
最近よくバリアフリーの活動で、最初から当事者の方と一緒になって作り上げていくというのがあると思うんですけど、これもまったく同じだと思うんです。カモフラージュ・メイクを勉強する最初の段階から、当事者の方と話をすれば、そういう視点が欠落していくことはないんじゃないかと、そう考えています。

このメイク塾を実際に受講したプロの方に、この講義の意義を証言してもらおう。

山崎靖子: メイクの技術を学ぶ学校というのは沢山ありますし、カモフラージュ・メイクを学べる学校も幾つかはあります。しかし、教わるのはだいたい技術だけで、当事者の方から直接、「こういう態度に実際に傷付いた」などという実例を聞けるところは、『ユニークフェイス』の他にはありません。教科書でじゃなく、当事者の方の声を直接聞くのは初めての機会だったので、とても新鮮でした。

―実際の仕事上、スキルアップした感じですか?

山崎:
そうですね。

こういう当事者心理やコミュニケーション技術を学ぶ事は、ありとあらゆる場面で応用が利く。メイクに限らず、すべての職種の人に、「顧客との付き合い方」という点で、いくらでも通用しそうな話だ。

■“平凡フェイス”に出来ること

―素朴な疑問なんですが、顔にアザ等があるわけでもない、“平凡フェイス”の外川さんが中心的に動いているのは、どうしてなんですか?

外川:
今年から『ユニークフェイス』では、当事者と非当事者が共同で活動しようという方針に変えてきたんです。これまでは当事者だけでというのが多かったんですが、非当事者と共同でやると、視野もすごく広がりますし、一緒にやりたいと言って下さる方も多くなってきました。
カモフラージュ・メイクも、当事者と、メイクのプロの方との共同事業でやりたいという意向がありましたので、そこで、両者の橋渡し的な立場を(“平凡フェイス”の)私が中心となって進めております。

―こうなると、結構本格的な「事業」ですよね。資金やマンパワーの面で大変なんじゃないですか?

外川:
はい、正直すごく大変なんですが、今度(12月8日)のイベントに関しましては、日本財団から助成金を出していただきました。それから、これまでもいろいろと手伝って下さってきた羽仁カンタさん(環境NGO「A SEED JAPAN」)も協力して下さるとのことで、当日、イベントを回すのに必要な人手として若いメンバーを連れてきて下さいます。他にも、メイク塾の生徒さんや会員の皆さんも、「ボランティアとしてお手伝いします」と言って下さってます。

■さらなる多角展開へ

―再来週のイベントが成功したら、今後の構想は?

外川:
来年はですね、このメイク塾も年4回とプラグラムを固定させて、徐々にステップアップしていくような形にしたいと思ってます。そして、卒業された方に対しては、『ユニークフェイス』として「この方なら間違いない」と推薦させていただくとか、あるいは一緒にお仕事をさせていただこうと思ってます。

―『ユニークフェイス』の“お墨付き”ということですね。

外川:
はい。あとは、化粧品メーカーと組んで、化粧品やスタッフ教育の共同開発をさせていただくことや、一般のメイク・スクールに特別授業として組み込んでいただくことを考えてます。

―随分と具体的な展開がありそうですね。

外川:
そうですね。走り出したばかりなんですけど、これまでの活動の土台がありましたので、そこに「プラスα」する形で、具体的な活動をと考えています。
それから、『ユニークフェイス』の当事者は、就職差別という問題を抱えており、「当事者の雇用促進」というのが、NPOとしての目標のひとつなんです。今回のカモフラージュ・メイクでは、当然メイクモデルの仕事には、当事者の皆さんに就いていただくことになりますし、あるいはコミュニケーション技術の授業の先生の仕事もしていただこうと思っています。さらに、当事者の中からも、「メイクアップのプロになりたい」という方が出てくれば嬉しいな、と思ってます。

―そういう明るい未来への足がかりが、再来週のイベント「心を育てるメイク」というわけですね。

外川:
はい。カモフラージュ・メイクをあまりご存知ない方にも広く知っていただきたいということもありまして、一般の方にも参加を呼びかけたところ、予想以上の反響をいただきまして、おかげ様でもう予約で満席になりました。

今回のイベントには、もう出向いても入場できないということだが、こういう 動きが始まっていることには、来年以降も要注目だ。

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ところで、前回このコーナーで『ユニークフェイス』を採り上げたときのテーマは、自前で映画を作り始めるという話だった。こちらは、先週日曜(11月20日)にクランクアップし、年内にも完成を目指すとのこと。このメイクイベントと同様に、「当事者でなければ撮れないものを撮ろう」という発想でスタートしたこのプロジェクト。その視点がどう結果に映し出されるのか、映画が完成した時点で、あらためてご紹介したい。

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