今週は伝えたいテーマが沢山あり、1本に絞れなかったため、4つの話を紹介する。
1.アリーナの悲報
このコーナーにもよくご出演頂いた、イラストレーターのエムナマエさんの行く先々でぴったり付き添っていた盲導犬のアリーナが、この間の日曜日(10月10日)未明に老衰で亡くなった。享年14歳9ヶ月。ラブラドール・レトリバー種としては、かなりの長生きだった。
アリーナは、『眼のツケドコロ』の収録スタジオ(右の写真は、前々回出演の時)や、TBS内のレストランにも何度も来た事がある。いつもナマエさんの足元に静かに寄り添っていて、レストランでは、隣の席の人が、アリーナの存在に気づかない程、本当に行儀良く伏せていた。
アリーナは、1992年、2歳の時にナマエさんと中部盲導犬協会の訓練所で出会った。それから、2人一緒の訓練を受けて、行動を共にするようになって以来12年。ナマエさんの個展会場にいるアリーナを見て声をかけた来場者は数え切れない。クイールの次に有名な盲導犬ではないだろうか。
アリーナは、去年の6月に「ハーネス」と呼ばれる胴着を外し、盲導犬の仕事を引退していた。しかし、亡くなるほんの数日前まで、ナマエさんがアトリエに移動しようとすると、盲導犬としてのプライドを持って、一生懸命ガイドしようとしていたそうだ。
アリーナの冥福を祈る。
2.『久和ひとみスカラシップ』第1期生の活動報告
3年前に、ガンで無くなった、ニュースキャスターの久和ひとみさんの遺産で創られた奨学金『久和ひとみスカラシップ』の第1期の受給者2人が、今月初旬から、留学先であるアメリカの大学で、本格的な授業に入ったとの知らせが届いた。
『久和ひとみスカラシップ』は、海外留学を志す女性ジャーナリストのための奨学金だ。募集は、2年前から始まっていたが、初年度は、残念ながら合格者無し。2年目の昨年、長野美穂さんと富沢綾衣さんの2人が、筑紫哲也さんなどの面接試験をパスして、見事合格。この秋学期からアメリカの中西部にある、ノースウエスタン大学でジャーナリズムの勉強を開始した。
亡くなった久和さんご自身は、ニューヨークにある、コロンビア大学で学んでいたが、海外留学も、英語圏で暮らすのも初体験だった。そんな彼女の“何事も体当たりで克服してきたスピリット”を“海外留学を志す女性ジャーナリストに継いで欲しい”という願いから、私を含む彼女の友人5人からなる『久和ひとみスカラシップ』実行委員会が、会の運営や候補者の選考事務を行なっている。
卒業後、彼女達がどのような形で仕事をしていくかは未定だが、是非がんばって欲しい。
現在、『久和ひとみスカラシップ』は、2期生を募集している。募集締め切りは今月(10月)31日。11月の1次選考(書類審査)・2次選考(面接)を経て、12月初旬には、給付者が最終決定される。
申し込みは、こちらのサイトまで。
3.報道に一石!大胆提言のブックレット刊行
先週、『報道は何を学んだのか―松本サリン事件以後のメディアと世論』(岩波ブックレット636号、税込¥504)が刊行された。内容は、サリン事件で報道被害を受けた河野義行さん、映画監督の森達也さん、元長野県松本美須々ヶ丘高校放送部の顧問・林直哉先生、当時「河野クロ説」に異を唱える放送をしていた2番組から磯貝陽悟さん・私(下村)、という5人の対談集だ。対談そのものは、以前このコーナーで紹介済みだが、本の最終章に「対談を終えて」と題して、《報道をこれからどうするか》について、具体的な新しい投げかけがされている。2つほど紹介しよう。
(1)下村健一の提言―――
このブックレットは、読み物としての面白さを提供してハイおしまい、では全く意味がない。荒削りでもいいから,読者に何か鮮明な提案を投げかけて、その実現を迫る切実な物にしなければ、紙とインクの無駄だ。と言うわけで、その責任の一端を担って、私はここで全てのメディア関係者に、次のアイデアを提示する。
「各報道機関は、取材チームを組むような規模のニュース取材に於いては、必ず業務命令として、『主流とは別の視点を探ること』に特化した役割分担の者を最低1名置くことを、社内ルール化せよ。」
“べき論”で、「違う見方を忘れるなよ」と言ってもキリが無い。もう、業務命令で「あなたは、みんなと同じ見方をしちゃだめ!」という人を、チーム取材する場合に1人置き、その人は、必死になって、“違う見方”を探そう、というわけだ。
例えば、松本サリン事件なら、業務命令を受けた人は、河野義行さん以外の犯人の可能性だけを探し続けなければならない。また、容疑者逮捕の段階まで行っている場合でも、警察発表には一切影響されず、容疑者側の主張だけを一生懸命取材するなど、常に全体とは逆のサイドからの情報発信をするという役割を担う。
これは、報道局のマンパワーの問題もあるため、クリアするのはなかなか難しいが、私自身、いろいろな番組の中で、こういうスタイルでニュースを伝えられないか、を何年かかけて実験していきたいと思っている。これが上手くいくと、報道自体が、「1つの見方でしか報じることが出来ないんだ」という思い込みによる呪縛から解かれるかも知れない。また、受け手がそれを受け入れるかどうか―――ニュースで「こういう見方もあります」といった場合に、「どっちなんだ、はっきりしろ」と言わずに、「なるほど」と聞き入れるだけの器があるかどうか、も問われることになる。世の中全体が、根本的な意識変革を求められる事になるだろう。
(2)林直哉さんの提言―――
何か事件が起きた時、当事者が大企業だったら広報部がすぐに対応できる。しかし、河野さんや、最近では浅田農産など、個人や弱小組織が巻き込まれたときには、対応するプロがいない。その結果、記者会見は“吊るし上げ”の様相を呈してしまい、当事者から見ると「報道被害」、記者側から見ると「事実が見えてこない苛立ち」を生じてしまう。そこで、
被取材者の意図が報道する側に伝わりやすくするためにコーディネーターが必要なのだ。私は、全国の20万人都市に1団体くらいの割合で、一般市民がすぐに活用できる「広報ボランティア」「情報コーディネーター」の団体が必要だと考えている。何か問題が起こってから対処する第三者機関よりも、一般市民には切実で利用価値が高いシステムになる。
すぐに林さんが言うほど普及させることは困難としても、まず「流しのお助け広報部」として、1団体作ってみてはどうか。報道機関側も、決して“邪魔者”が現れると見るのではなく、むしろ、現場を整理して聞きたい事を当事者に伝えてもらって、そこから本質を引き出す、いわば、“交通整理役”の登場、として見てはどうか。これもまた、報道側と視聴者側の双方が受け入れられるかどうかにかかっていると言えよう。
このように、このブックレットは「自分は何もしないで茶をすすりながら文句ばかり並べている」無駄な座談会(ありがち!)とはわけが違う。具体的で新鮮な考える材料が満載なので、是非ご一読をお願いしたい。
4.サリン事件被害者への無料定期検診
NPO法人リカバリー・サポート・センターによる、年1回のサリン被害者への無料定期検診が先週末から下記の場所で行われている。
健康診断を担当する医師は、サリン事件が起こった時、実際に現場で緊急対応に当たった先生達で、ボランティアとして引き続き検診を引き受けている。サリン事件のようなケースは前例が無いだけに、被害者自身も、自分の変調が事件と因果関係があるのかどうかも分からないことがある。診てもらって、「単なる歳のせいですよ」などど言ってもらうだけでも、安心材料になったりして良いかも知れない。また、同じ被害者同士が待合室で会って話をすることで、ずいぶん気分が楽になるという話も聞く。
予約制になっているが、「自分はあの時被害を受けたけど、その後病院などに行かなかった」とか、「後遺症かも知れず不安がある」という方は、これからでも事務局(FAX03−5919−0876)に連絡して、是非お越しいただければと思う。
サリン事件に関する無料定期検診(既に終了分を除く)―――
足立区中央本町 10月16日(土)午前9時30分〜午後4時30分
保健総合センター 10月17日(日)午前9時30分〜午後4時30分
港区みなと保健所 10月23日(土)午前9時30分〜午後4時30分
サービスセンター 10月24日(日)午前9時30分〜午後4時30分