前々回は、イラクから一時帰国中のケン・ジョセフさんのインタビュー、前回は、派兵閣議決定を説明する小泉総理会見の41ヶ所の説明不足点についてお伝えした。
連続第3弾となる今回は、派兵部隊が多くいる旭川駐屯地で先日取材して来た時の、
1. 現役の隊員
2. この夏に辞めたばかりの若手元隊員
3. 現役隊員の義母
4. 一生を自衛隊で過ごしてきたOB会幹部
―――の声をご紹介しよう。インタビューしたのは閣議決定の少し前の時点だが、今も変わらない様々な本音が伝わってくる。(これはTBS『サタデーずばッと』で一部放送した内容だが、より詳しくお伝えする。)
■現役隊員の話
まず一人目は、旭川駐屯地の広報担当の自衛官。「イラク派遣についてはノーコメント」を厳守しなければならない立場だが、≪海外派遣≫という点で共通点のある「国際緊急援助隊」については口を開いてくれた。
「国際緊急援助隊」というのは、災害に遭った国の政府の要請を受けると48時間以内に出動していくチームだ。任期半年で全国の自衛隊を巡回する“当番”のようなもので、ちょうど今の時期(今月末まで)は旭川に順番が回ってきている。非戦闘地へ丸腰で行く訳なので、今回のイラク派兵とは話が違うが、≪国際貢献≫をする隊員の心がどんなものかを聞いてみた。
- 隊員:
- 私も国際緊急援助隊の要員でして、6月に予防接種の注射を6本打ち終わっております。
−「もしかしたら行くかも」という人は全員打つんですか?
- 隊員:
- そうですね。援助隊要員にあたっている制服を含めて、注射を打っております。
−イラクに行くとなったらやはり注射を打つわけですね?
- 隊員:
- と思いますけど。
−援助隊の一人になるというのは、気持ちとしては「ヨシッ」という感じなんでしょうか?
- 隊員:
- そうですね。私も6月に面接を受けて、7月から半年間、48時間以内に災害が起きた国には、その政府の要請に基づいて行けるよう、心も体も準備してます。
−心の準備というと、具体的には?
- 隊員:
- やっぱり「行って、やってやるぞ」と。「国際貢献してやるぞ」という身構えというか、そういう事ですね。
災害に遭った国を助ける援助隊と、武器携行のイラク派兵とでは、意味が全く違うが、今回イラクへ行こうと思う隊員自身の動機としては、こういった心もあるのだろう。
だからこそ、その前向きな思いがアダにならないよう、議論を尽くす必要があるのだ。それなのに首相は、話をかわしてばかり。先週の会見に続き、今週の国会議論(閉会中審議)も、同じようなフレーズの繰り返しで実に歯痒かった。
■元隊員の話
現役隊員自身からはなかなかストレートに隊内の様子を聞けないので、つい最近(今年8月)まで旭川駐屯地の内部にいた元隊員に話を聞いた。
−お知り合いが今度行かれるかもしれない?
元隊員: | はい、そうですね。 |
−そういう事を話し合われた事は?
元隊員: | 寮の中で、上から「真剣に考えてくれ」と言われましたね。行くと決まった人は、すごいヤル気になってました。 |
−今までのPKOに参加希望するのと同じような?
元隊員: | 同じ感覚だったと思います。…ぶっちゃけて言えば、「カネがいいから」という感じもあると思いますよ。 |
−でも、それが希望動機だとすると、この情勢の変化で大分…
元隊員: | 変わってきてると思います。 |
−隊の中の空気としては、「俺は行かない」って言えるものなんですか?
元隊員: | 多分言う事はできると思います。別に強制とかではないんで。そこで強制にしたら、それこそ戦争まっしぐらじゃないですか。 |
「カネがいい」というのは、手当の話。実際、旭川の街の噂レベルでは、「東チモールから帰ってきた隊員が車を買ってた」というような話を何度も聞かされた。自衛隊OBの方は、「カネの話が先行するのはなげかわしい!」と話していたが、従来のPKOでは、周りからはそういう目でも見られていた現実があるという事だ。
■現役隊員の義母の話
今回も、「戦死したら1億円の手当」という話も報道されているが、隊員(2児の父)を娘婿に持つある女性は、その金についてもこう言う。
- 義母:
- 1億、2億、3億でも、お父さんはお金で買えないよ。子供のお父さんは買えないんだよ、って言ったのさ。そしたら婿さん、黙ってたわ。「あんた言えないんでしょ、だから私が言ってやる」って。「子供2人もいるのに、うちの娘の夫を連れてかないでくれ」って。もうプラカードでもなんでも持つから。「行くな行くなー」って言うから。
今まで国内の災害の現場とか、ああいうのに行ったんですよ。行って活躍してるんだ、一応。給料ドロボーではないんだよ。そういうのはいいんだけど、よそのうち(外国)のケンカを一生懸命、命落としてまで手伝う事ないね。上の人が悪いんだもの。 世の中っておかしいねー。そんな、戦争やるやるって。何なのあれ。欲が深いのかい?それとも名誉のためかい?何の利益もないのにね、戦争やったって…。
ご家族の気持ちとしては、これが当然だろう。話の中で「給料ドロボー」という言葉がパッと出てくるところに、違憲論争の中で自衛隊員達が長い間置かれてきた立場の苦悩が滲み出ている。
■OB会幹部の話
可愛がって指導した後輩たちを送り出す自衛隊旭川のOBたちはどんな気持ちなのか。警察予備隊発足時からずっと隊員だった、第二施設大隊OB会・前会長に話を聞いた。今までは、OB会長というポジションにいると、隊員の親から「うちの子もPKOの派遣に加われるよう、働きかけてください」といった売り込みが来たそうなのだが、今回のイラク派兵では、この方の所には1件もそうした相談が来なかったという。この方は自衛隊が行く事に基本的賛成の立場なのだが、それでも今回の形には異議があるという。
- OB:
- やっぱり自衛隊が行かなきゃならんのは、やむを得ん。行く必要あると思う。それには、国内の世論をしっかり整備し、国民の多くが「自衛隊さん、ご苦労さん」という雰囲気を作っていただきたい。それが無いと、もしも何かあったとき、「何のために私の旦那やお父さんがイラクで?」‥‥と、説明がつかんでしょ。
−安全面とか装備面とかの整備とは別に、国民世論を“整える”と?
- OB:
- そうそうそう。これはもう政治の責任ですよ。声を大にして、国民を良く説得するように説明しないと。小泉さんの責任で、何回も。選挙か何か、もう一回やってほしいぐらいだよね。
−争点それだけで?
- OB:
- そうそう。自衛隊派遣イエスかノーかっていうね。
−国民合意が出来てない中でっていうのは、やっぱり自衛隊の人たちにとっても気分的に引っかかる?
- OB:
- 引っかかるねぇ。引っかかる、引っかかる、引っかかる。やっぱりそこは、≪名誉≫っていうのかな。「お父ちゃん、日本の国の為に」っていう、そういう雰囲気を作ってほしい。OBだけに、今言えることは、後輩に対して、そういう国民世論をしっかり整備した段階で送り出してあげたい。
−この状態から派遣が決められることも、何か隊員の皆さんにとって気の毒のような。
- OB:
- 気の毒だと思うでしょ? そりゃ気の毒だよ。断れないし、誰か行かなきゃいかんし。気の毒を絵に描いたようなもんだよ、ほんっとに。
自衛隊を愛し、「もし自分が現役の隊員だったら、たとえ危険でも、イラク行きに手を挙げる」とまで言っている人ですら、今回の決定の仕方を嘆いている。この方は「比べちゃいけないんだろうけど…」と言いつつも、「戦時中はみんなが万歳で兵士を見送った。今回はみんなに行くな行くなと言われて、これでもし現地で何かあったら、一体何なんだ」と話していた。自衛隊に身を置いた立場としては、これも当然の本音だろう。
≪納得した上で自衛隊を出す≫のか、
≪納得できないから出さない≫のか。
今我々は、この重大な二者択一をすべき時なのに、小泉首相が選ぼうとしているのは、
「納得できないでしょうけれど、出します」
―――という、非常に不幸な第3の選択肢である。