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松下村塾

今日・明日「日本映画学校」作品発表

2001年3月10日

今、日本のドキュメンタリー映画の世界に、確実に新しい風が吹き始めている。ノンフィクションの映画ではあるが、従来のドキュメンタリー映画とは明らかに作り方が違う作品が、最近多く出てきている。その傾向を色濃く感じさせてくれるのが、明日の日本映画を背負って立つ若者たちの登竜門の一つである、今村昌平監督らが作った「日本映画学校」だ。この映画学校の今年度の卒業制作の作品を見る機会があり、そこで本当に舌を巻いた。

私が最も衝撃を受けたのは、この学校の生徒である小林貴裕君製作の「Home」という作品だ。この作品で彼は、長野の実家にカメラを回しながら帰る。実家には、7年間ひきこもっている兄、そのことですっかりふさぎ込んでしまい鬱状態になっている母、ガンが悪化している祖母の三人が暮らしている。家族を支えていた父は東京に働きに出ており、小林君自身も進学のために上京していた。彼はコミュニケーションが得意ではなく、上京したのには「家族から逃げ出す」という理由もあったのだが、どうしたら家族と再び向き合うことができるのかを考えた時に、「カメラを媒介にすればよい」という結論に達した。そして実際に、実家でカメラを回しながら、「撮影だから家族と話し合える」という環境を作って、ひきこもっている兄やふさぎこんでいる母との対話をしていこうとする、ありのままの過程を撮っていく。

カメラを回していることに対する家族からの疑問、それに対する小林君自身の苦悩が、映像として記録されている。「自分はこんな事をしていていいのだろうか」と悩みながらも、さらに撮影を続けてゆく小林君。映画の中には、兄弟で取っ組み合いになるシーンもあり、母は難を逃れるために車の中での生活を始める。やがて兄は、苦しみながらカメラに向かって自らある宣言をし、兄の葛藤が叩き付けられた日記が、ラストシーンに大映しとなる。

この他、少年犯罪被害当事者の会に密着取材した作品「止められた時間」も注目の力作だ。16歳の息子を、同い歳の少年の暴力によって失ってしまった両親が、少年犯罪であるがゆえに裁判プロセスを知ることができずにいるやるせない気持ちを、丹念に描いていく。

監督の小堀陽太君は、大手メディアの取材を受け付けない加害者側の両親の声まで、収録している。その取材交渉には、旧来のプロ的な手法は一切使われない。

このような作品が次々と誕生してくるところを見ると、「もしかしたら日本映画界の将来は明るいかもしれない」という気持ちになってくる。ここで紹介した作品は、今日・明日、徳間ホールでの入場無料の一般公開でデビューする。今後、話題になれば、東京だけでなくいろいろな地方でも公開されることになるかもしれないので、今から注目しておいてもらいたい。

※文中の情報は、全て執筆時点(冒頭記載)のものです。