インリン・オブ・ジョイトイ、9・11を前に語る

放送日:2005/9/10

明日で、米国同時多発テロから丸4年。あの事件と関連性のあるテーマとしては、このコーナーでも、高遠菜穂子さんのイラク月例報告から、刺激的な映画『PEEP TV SHOW』まで、色々な角度から採り上げてきた。今回は、あのテロをきっかけに「エロテロリスト」と自称するようになった、1人の若い在日台湾人女性―――インリン・オブ・ジョイトイさんにお話を伺う。

インリンさんは今や、各局バラエティ番組などに引っ張りダコで、若い世代には有名だが、出演の多くが夜の時間帯で、朝のラジオには初登場だそうだ。

■"エロスによる平和"を求めて

インリン: 私は10歳の時に、台湾から日本に引っ越してきました。それから17年間、日本に住んでいます。20歳の頃に芸能界に入って、グラビアアイドルとして活動しています。これまでに、写真集を10冊出しています。最近はバラエティ番組にも出させていただいていて、テレビでの仕事も増えてます。

―男性誌には、よくインリンさんのグラビアが載っていますが、そもそも「エロテロリスト」とは、どういう意味なんですか?「9・11テロがきっかけ」というのは?

インリン: そうですね。実はその年の11月、9.11テロによってアメリカが報復戦争をするかしないかという時期に、私はちょうど2冊目の写真集を出す予定だったんですよ。そのときに、私自身は戦争にはすごく反対だし、戦争や武器、暴力で相手を傷つけるんじゃなくて、エロスで平和が叶えられるんじゃないかなと思って、それで、それをかけて「エロテロリスト」というキャッチフレーズを考えました。

このコーナーでも、男達による戦争を止めるために、女達が皆、閉じこもってSEXストライキをやるという、ギリシャの古典劇をテーマにしたミュージカルをご紹介したことがある。《エロスで平和を!》というのは、ギリシャ時代からある考え方なのかもしれない。

私が注目している新しい動きは、そうした考え方を、インリンさんが1ヶ月ほど前から始めた自分のブログでもサラッと展開していることだ。例えば先月(8月)12日には、『新しい歴史教科書をつくる会』の教科書採択問題でストレートな意見表明をしているし、15日=(終戦記念日の記述は、「8・15から9・11へ平和を願って」というタイトルで、まず憲法9条(戦争放棄)全文がそのまま掲載され、その後にはこんな文章が続く。<"…"は中略部分>

…今や地球規模で広めたいとっても大事なこと! 私は、こんな平和的で中立的で進歩的な憲法のある日本を尊敬してます☆
…私は、10歳から日本に住んでます。平和を愛する文化的な日本が大好きです。私は、台湾人<中国人として、台湾にも中国にもいろんなイヤな問題があるのはよ〜くわかってます。
…今年10周年を迎えたユニット「ジョイトイ」の作品ではいつも、セクシー&パロディを武器に、人間の平等と平和をテーマに表現を続けてます。
…私に出来ることは小さいことかもしれません。けど、これからも、国とか政府とか民族の勝手じゃなくて、世界中の普通の人々の生活が少しでも平和であることを願って、M字開脚を続けます(笑)

―最後にいきなり“M字開脚”が来て、自分でも“(笑)”って書いてるけど…

インリン: インリン=M字開脚として知られてますので(笑)。
M字開脚を見て下さった方は、すごく平和な気持ちになってくれてるんじゃないかな、と思うんですよ。その人達が常に平和な気持ちでいられるようにしたいから、そういう意味で、私も「M字開脚を続けます」と書いたんです。

―そういうときの男性の心理を、"平和な気持ち"と言えるかどうかは分からないけどね(笑)。でも、その瞬間には、少なくとも戦争のことは考えていないことは、確かだよね。

■こんな所で、硬派な議論が…

私が小さな"社会現象"だと思うのは、この彼女のブログでのメッセージに対して、それを読んだ人達から賛否両論の書き込みが相次いでいることだ。少しだけ御紹介しよう。

  • 私は日本人として彼女(達)の考えに全面賛同出来るかどうかは別にして、そうして腹を据えて社会に対して堂々と発言したり表現したり出来ることは凄いと思うから、好感が持てますわ。だいたい覚悟決めてなきゃM字開脚なんて出来ないよな(笑)
  • ただのM字開脚だけのオンナじゃないな。これからも社会派M字開脚ブロガーとして注目していきます。

「ブロガー」というのは、ブログを書く人のことだが、「社会派M字開脚ブロガー」というスゴい言葉は初めて聞いた。

  • インリンに共感!
    外見に憧れてたけど、インリンの考えを知ってハートもインリンをめざそうと思った!
    頑張ってインリンみたくいい女になる!
    簡単にはなれない けどめざそうと思うのが楽しいし!
    明日もインリンをめざしていい女道を進むね! インリン大好き!
インリン: 嬉しいですね。同性に憧れてもらうっていうのは、あんまりないじゃないですか。だから、すっごい嬉しいですね。
  • 「こんなに素晴らしい平和憲法を持つ国は日本しかありません」なんて言ってるサヨクは、一切の武器を持たずにイラクやらパレスチナ辺りに行ってみて、「世界は危険に 満ちていて、丸腰では生きていけない」ことを身をもって体験してくるべきだな。
  • いつ日本が侵略戦争をしたんだ? 自分で調べもせずに与えられた情報のみを鵜呑みにして考えを持ち、人の意見に耳を貸さない人たち、こういう人にはなりたくない。
インリン: やっぱり私は台湾人なので、日本でこういう発言をしてしまうと、「あなたは台湾人だから、そんな"反日"の感情を持つんだ」とか言われることもあります。でも、私は普通の《人間》として発言をしてるんです。「自分は台湾人<中国人だから、"被害者"だ」っていうんじゃなくて、私は常に平等な目を持っているつもりです。でも、こういう発言をした時には、やっぱりどうしても、「外国人が何を言ってるんだ」という批判が返ってきます。

先程引用したブログのメッセージの冒頭には、「日本を尊敬し」「日本が大好き」という言葉がある。にも関わらず、そうした反応になってしまうのだという。
それにしても、こういう議論が、若いグラビアアイドルのブログで展開されているということ自体が、新鮮だ。賛否どちらにせよ、普段、全くこういうテーマに興味を持っていなかった層をも巻き込んでいることは、大いに注目できる。

インリン: 別に私、「芸能人だから」とか考えてないんです。ただ《ひとりの人間》として、毎日ニュースを見たりするじゃないですか。私は結構はっきり意見を言うタイプなので、その中で思ったことをただ普通に言ってるだけなんです。そうすると、「芸能人なのに、そんなこと言っていいのか」みたいな批判がくる。でも「どうして芸能人は、自分の意見を言っちゃいけないの?」って思うんです。私だって、日本にずーっと住んで、税金だって払ってるわけじゃないですか。日本が大好きだから、毎日の生活の中で感じたことを話しもする。それが、普通に生きている人間として自然なことだと思うんです。だから、「芸能人なのに…」って言われると、「それは違うんじゃないかな」といつも思ってます。

―芸能人じゃなくて、売れっ子納税者(笑)として発言してるわけだね。 実際、いろんな反応がくる中で、印象深かったものは、他にもありますか?

インリン: ありましたね。戦争にいった経験がある、80歳を過ぎた年配の方から、私のホームページの掲示板に応援のメッセージをいただいたんですよ。それは、ひ孫が代筆してくれたものです。そのおじいちゃんは、戦争に行った人の気持ちとかを書き込んでくれていて、「インリンさんが考えていることは間違ってないよ」って書いて下さったんです。それを読んで、もうすごく、「頑張ろう!」って思いましたね。戦争を経験した方も、こういう気持ちを持ってるんだというのを知って、あらためて自分も、こういうことについて発言しなきゃいけないんだと思いました。本当に嬉しかったですね。

■選挙権のある若者達へ

―いつ頃から、こういう社会的テーマに関心を持ってたんですか? 何かきっかけが?

インリン: そうですね。日本にくることになった10歳のときから、私は日本にすごくいいイメージを持ってたんです。だから、不安より期待を胸に日本に来たんです。もちろん、過去にあった侵略戦争のことも台湾の小学校で学びましたけど、「日本は過去にこんな悪いことをしました」と勉強したからといって、その先入観にとらわれていたわけではなく、「新しい国に行ける。どんなところだろう」っていう、すごく期待に溢れた素直な子どもの心理だったんです。
日本に実際に来てみても、やっぱり平和な国だし、皆すごく親切だと感じました。皆、礼儀正しいし、ディズニーランドにも行けて、「すごくいい国だなあ」と子どもながらにも思いましたね。
それで、中学校3年生のときに、沖縄に修学旅行に行ったんです。そしたら、延々と続く柵があって、「これは何?」って聞いたら、「米軍の基地だよ」って答えが返ってきて。空港から北の方に行く間に見えるのは、もうほとんど基地だらけなんですよ。「ここは日本だよね?」とか、「確か日本の憲法では、軍隊を持たないっていうことになってなかったけ?」とか思って、「これはいいのかな? 大丈夫なのかな?」なんて中学生ながらに考えたんです。
それで、日本というのは平和な国だけれども、実はその反面、こういうところもあるんだというのを知って、戦争についてだとか、平和についてだとか、そういうことに興味を持ったんです。過去に戦争があって、罪もない人がいっぱい死んでるわけですよね。ただ普通に、平和に生きていたかっただけの人が。そういうことは小学生の頃から思っていて、それが、その中学3年生の修学旅行がきっかけで、一気に関心を持って考えるようになったんです。

―それ以来、「芸能人だから、人気商売だから、そういう発言は控えよう」とかいうこともなく、思ったことは口に出している、ということですか?

インリン: 「出している」という意識は、あまり持ったことはないんですけど、「言っちゃいけない」って言われると、ちょっとつらいんですよね。「なんで?」って思っちゃう。

―ところで、明日9・11は、テロ4周年と同時に、総選挙の投票日。でもインリンさん自身は、日本国籍が無いから、明日は投票できないわけでしょ?

インリン: はい、残念ながら。
日本国民ひとりひとり、せっかく選挙権があるんだから、本当に1票1票がすごく大事だと思うんですよ。私と同じ世代で、政治にあまり興味がない人達も、まず関心を持ってもらいたいです。そして是非、投票に行って欲しいなと思いますね。
皆さん、若い世代が楽しく遊びに出かけられたりとか、セクシーな服を着て買い物に行けるのも、《平和だからこそ出来ること》だと思うんです。だから、そういったことを考えて、投票するようにお願いしたいです。

―聞くところによると、インリンさんのマネージャーさんは、今回初めて国政選挙に投票できる年齢になって、しっかり期日前投票に行ってきたそうで…

インリン: 彼女はまだ20歳になったばっかりで、投票は初めてだったんです。それで言ってたのは、「役所の方が無愛想で、なんか分からないことも尋ねにくい雰囲気だった」って。もうちょっとその辺を変えてくれればいいのに、と思います。明るい、皆が入りやすい環境にしてくれたらと思いますね。

―インリンさんのポスターでも、投票箱に貼るとか(笑)。

最後にもう一度繰り返す。
明日は、米国テロから4年。そして、総選挙投票日。どちらも、お忘れなきように!