結集! 市民メディアを「道具」として使う人々

放送日:2004/11/20

先月(10月)29・30日、『第2回全国市民メディア交流大会』が鳥取県で開催された。これまでにも市民メディアについてこのコーナーで何度か報告している、(株)セラフ・メディア事業部の安田恵子さん(実は私の部下)に、参加してきた報告を聞く。

安田:
 全国大会の第1回は名古屋で開催されたんですが、今回は、鳥取県の米子市に行ってきました。二日間の日程で、各地の市民メディアの事例発表や、パネルディスカッションなどが行なわれました。全国から380人くらいの参加がありました。

−全国大会を決して東京でやらないところが市民メディアらしいけど、なぜ米子で?

安田:
米子に『中海(チュウカイ)テレビ』というCATVがあるんですが、そこが非常に市民参加に熱心で。そこの公開生放送の見学も、プログラムの一つに入ってたんです。だから、全国のCATV局80社近くから参加者が集まっていたということです。どこのCATV局にも参考になりそうな話が、たくさん聞けました。

『中海テレビ』はCATV局なので、このコーナーでよく採り上げる“市民メディア”とは少し違うが、市民の《参加の場》になっていくという役割の面では、区別する必要はない。純粋に市民達が立ち上げたメディアだけでなく、こうしたCATV局の市民メディア的な取り組みもこの大会で紹介されたという事で、『市民メディア』の領域がじわりと拡がってきている感じがする。

−その中海テレビでは、例えばどんな放送を出してるの?

安田:
公開生放送のニュースの中で、天気予報みたいな調子で、こんな情報がありました。

(公開生放送より)------------------------------------------------------------
10月27日、午前11時現在の米子湾の水質です。水に含まれる酸素の量、溶存酸素は、上層・下層とも、9ミリグラムパーリットルでした。魚が住める限界が5ミリグラムパーリットルといわれており、それに比べると、今週は良い状態だったと言えます。また、米子港の透明度は、230センチでした。
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−海の水質?これが、市民参加とどう関係あるの?

安田:
これ、地元で中海(ナカウミ)と呼ばれている水域の水質情報なんです。中海は、干拓事業の影響を受けて、水質がとても悪くなってしまっていたんです。それを「なんとかして綺麗にしようよ」という特集コーナーを、中海テレビで3年前から放送していました。その企画自体は局の企画で市民は関わっていなくて、むしろ最初は「なんで今更?」という反応だったらしいんです。ところが、回を重ねるうちに、住民の意識が変わっていったと。ポツポツと、《点々》で浄化活動に取り組んでいた人たちを放送で紹介する事で、「こんな活動してる人がいるんだ」「私も活動に加わりたい」という反応が出てきて、点が《線》になり、やがて《面》になって、住民による「浄化プロジェクト」の立ち上げにまでつながったんです。
そういう背景があって、視聴者から「天気や株価を毎日放送するように、中海の水質を知らせてほしい」という要望が来て、そこからこの水質情報が始まったんです。

ニュースをきっかけにして、実際に視聴者が動き出せる―――ネタと視聴者の距離が近い、地域メディア《だから》できる放送だ。

安田:
中海テレビは、“いつどこで○○がありました”という《過去》ではなくて、「こういう問題があるんだけど、みんなでどう解決していこう?」「今度こういうイベントがあるんだけど、どうやって成功させよう?」という《これから》を採りあげて行くのが方針だという事です。
中海の話の他にも、米子市の一角にあった交通事故の多発地区を採り上げた事で、実際に信号や外灯を増やすなどの改善に繋がった例もあったそうです。
専務、報道制作統括マネージャーの方が異口同音に、「《放送》は二の次。一番に目指すのは《町づくり》」だとおっしゃってました。

元をたどれば、「CATV」の語源は「ケーブルTV」ではなく「コミュニティー・アンテナTV」だ。まさにその原点に帰っている。

安田:
政治や行政の面だけじゃなくて、商売の《これから》を作ることにも一役買ってるんです。
公開生放送では、地元のお肉屋さんが新商品のロールキャベツの開発を番組に依頼する、なんて事もやってました。番組レギュラーの3人がそれぞれレシピを考えて、集まった観客に試食と投票をしてもらって、1位だったものだけが実際に発売されるっていうものでした。

(公開生放送より)------------------------------------------------------------

番組MC : 大山(ダイセン)ハム、ロールキャベツ結果発表―!さあいよいよ、大山ハム・米子高島屋売り場で発売されます新メニューのロールキャベツ、その結果が出ました。発表していただきたいと思います。お願いします!
大山ハムスタッフ: 今回人気投票の結果、「コンソメ」に決定致しました。
番組MC : コンソメに決まりました、こちらでーす!おめでとうございました!(会場拍手)
大山ハムスタッフ: 11月の17日、水曜日から発売致します。大山ハムコーナーにて販売致しますので、どうぞお立ち寄りくださいませ。
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−これ、全国放送には真似できないですね!

安田:
ですよね。で、ここまで紹介したのは、中海テレビの局側が制作した番組ですが、中海テレビには、実はパブリック・アクセス・チャンネルもあるんですよ。

“パブリック・アクセス・チャンネル”とは、一般市民の作品を、プロが手を加える事なく、そのまま放送するチャンネルの事。
例えば、ニューヨークのMNN(マンハッタン・ネイバーズ・ネットワーク)では、一般市民からの作品持込が大行列で、私が暮らしていた2000年頃の時点では、放送されるまで約3ヶ月待ちという状態だった。

−中海テレビの場合は、どのくらい作品が寄せられてるの?

安田:
平成15年1月〜12月までの1年間では、合計125の作品が寄せられて、放送されたそうです。

−どんな人達が、持ち込むわけ?

安田:
それも、今回の全国大会の中で、事例報告がありました。そのうちのひとつ、鳥取県西部中小企業青年中央会は、自分達の活動報告や意見表明などを、放送を通じてやっていると。元々は、外部に映像の制作を発注していたんですが、だんだんと自分達で作るようになっていったんですね。実際にやってみると、「素人でもここまで出来るんだ」「もっと気軽に映像メディアを使っていいのでは」という意識に変わっていったそうです。

発表では、今年の夏に地域で行なわれた『第24回全日本トライアスロン皆生(カイケ)大会』について発表されていました。これは毎年行なわれている大会なんですが、運営には約3000人のボランティア・スタッフが必要だと。それを集めるために、この青年中央会が中海テレビとコラボレーションする形で、応募CMを作って流して、実際にスタッフを集めてしまったんです。それに加えて、その大会を「中継で放送しようよ」と、青年中央会の方から提案したり。その時、中海テレビはたまたま中継のための人手が割けない状態だったんですが、青年中央会側としては「どうしても伝えたい!」という事で相談をして、青年中央会とボランティアのスタッフが協力する形で、最終的には中継を実現させてしまったんです。
その時を振り返って、青年中央会のメンバーの方は、こんな風に語っていらっしゃいました。

(分科会での発言より)--------------------------------------------------------

青年中央会・畠山さん :
15、6歳の女子高生がですね、当日の中継を、非常にしんどい思いをしながらやったわけなんですよね。炎天下の中でタオルまいて、地べたにケーブルを押さえつけながら。彼女達だって初めての経験です。おっかなびっくりの世界だったわけですけど、終わった後に、一様にみんな笑顔で、「来年もぜひここでやりたい、やらせてほしい」「いい経験ができた」「自分が今まで生きてきた中で、こんな経験はなかった」って、目を輝かせて言ったんです。
そういう場を、僕らが一緒にできたという事が、非常に嬉しかったですね。
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トライアスロンというイベントそのものの他に、「イベント中継を皆で実現すること」が、もう1つのイベントになってしまったのだ。

−青年中央会って、やや公共っぽい団体だけど、もっと趣味的なグループが番組を出したりはしてるの?

安田:
他に今回の大会では、「サロン ユー」という喫茶店のマスター・浦木さんが事例発表をされていました。浦木さんは、「ビデオサロン ユー」というグループ名で、大好きな登山をテーマにした番組なんかを、たくさんパブリック・アクセス・チャンネルに出品しています。最初は自分の《趣味》で作品を作っていたけれど、出品を重ねるうちに、「友人に見せるのと、不特定多数を相手に作るのとでは、作り方が全然違うんだ」「自分たちで何でも流していいチャンネルという事は、流すものに、自分なりの責任を持たないといけない」という風に、意識が変わっていったそうです。そうして今では、数々の賞を受賞したアマチュア《映像作家》として、こういう場で発表をしていらっしゃると。
加えて浦木さんは、「伝えたい事はあるけど、映像作品を作るのはちょっと…」という人のところへビデオ・クルーとして出かけて行って、制作を引き受けたりもしているそうです。

−市民の「自分達が伝える」という責任感や発信技術が、ドンドン上がってく感じだね。

安田:
マンパワー的、技術的な面での《壁》も、実際に活動をしている中で突破されつつあるんですよね。事例発表の後の分科会で、こんな話がありました。

(分科会での発言より)--------------------------------------------------------

中海テレビ・柳沢さん :
《できる事を考えていく》っていうところから入るようにしてるんです。やっぱり最初から「ダメ、できない」で終わらせてしまうと、それから先広がらないので。
だから例えば、ある番組を作るのに10人の人手が要るとして、「10人雇うとこれだけお金がかかっちゃう」としますよね。そこで諦めずに、「だから青年中央会さん、人を何人貸してよ。そうしてもらったら作れるから」っていうところから、まず話し合うんです。

青年中央会・平新(ヒラシン)さん :
中継車の中に、私らみたいな素人が入ってスイッチングしたり操作をするってことは、普通は考えられない話らしいですよね。でも僕らは、そんなこと当たり前だと思ってて。「ああ、中継車来るの、ふ〜ん」みたいな感覚で、「じゃあ誰が入るの」、みたいな感じで(笑)。
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安田:
こういう地元での市民メディア的な動きは、米子だけの話じゃないんですよ。大会ではこの他、福岡ケーブルネットワーク、山江村民てれび(熊本)、むさしのみたか市民テレビ局(東京)などから、事例報告がありました。

「山江村民てれび」は、前にこのコーナーでもご紹介した「ゆびきたす村民TV」の岸本さんの話に出てきた所だ。

こうしてみると、市民メディアの2つの系統が浮かび上がってくる。1つは、これまでこのコーナーで再三ご紹介してきたような、《作って伝えること自体が楽しい》を原動力に活動しているタイプ。もう1つは、今回のような《地域作りの道具として活かそう》を原動力にしているタイプ。
私は主に前者のアドバイザーをすることが多いが、地域に根を張って活動する後者にも注目だ。

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