IT見本市に「ユビキタス村TV」

放送日:2004/10/2

デジタルネットワーク関係の新しい技術やアイデアを一堂に集めた、日本最大級のIT見本市『CEATEC JAPAN』(シーテック・ジャパン)が10月5日(火)から9日(土)まで千葉県の幕張メッセで開催される。今年は約700社が出展する予定で、19万人を超える来場者が見込まれている。2000年から始まったこのビッグイベントは、今年で5回目を迎えるが、実は今回、その展示場に、全国各地で活動中の市民メディアのスタッフ達が結集する。そして「この新しい道具、一体どう我々の地域の役に立つのか?」という目線で各ブースを取材し、その場から市民リポーターがインターネットで世界に放送するという、非常にユニークな試みをするという。その名も『ユビキタス村TV』。仕掛け人の岸本晃さんにお話を伺う。

−『ユビキタス村TV』の名前の由来は?

岸本:
“ユビキタス”という言葉は、私も最近知りました。パソコンの世界では、ネット環境に触れる事が「いつでも、どこでも、誰でも」できる、という意味で使われているらしいです。私は、熊本で“住民ディレクター”として、地域づくりに役に立つ《企画力を養う》活動を、テレビの番組制作を通して8年ほどやっています。そのやり方が、「いつでも、どこでも、誰でも」やれるテレビづくりだったので、そういうことをやる人たちが集まる“村”をIT会場に作ろうと思いました。

−他の皆さんも熊本からいらっしゃるんですか?

岸本:
全国からです。たまたま、熊本の南、鹿児島との県境に山江村という人口4000人程の村があるのですが、そこには、20数人の“住民ディレクター”がいて、いろんな村の政策もその人達中心に行われています。実は、山江村村長自身が住民ディレクターです。全国にはこういう発想で動いている市民や住民メディアなどがあります。その全部ではないのですが、今回は実験的に7つの地域の人と有志が幕張メッセに集まります。

−『ユビキタス村TV』のホームページの番組表には、「だんだんなユビキタス村」とありますが。これは、なんでしょう?

岸本:
「だんだんな」とは、山江村地方の方言で、「おせわになります」とか、「ありがとうございます」、「さよなら」など、その時々でいろいろな意味があります。山江村民と全国の人が集まって、「お世話になるユビキタス」ということで、ユビキタス村をいろんな方面から紹介しようというものです。

−つまり、いろんなIT企業の出展ブースをまわってですか?

岸本:
はい、皆さんが「自分の町や村に役立つ事は無いかなあ」と探しながら、カメラに収め、いろんな話を聞いたりして、それを生でリポートするわけです。
これはすばらしい着想だ。この手のイベントには、業界人が集まって、「自分達のビジネスにどう役に立つか」という目で見る事はあっても、各地の村人が集まって、「自分の地域にどう役立つか」を見るという行動は、なかなか出てこないだろう。
岸本:
極端に言えば、山江村の人達は、すごく大らかだから何でも言えますが、例えば、IT用語の“bite”(バイト)等が分からず、「それは一体なんじゃい?」という疑問から始まるわけです。展示会場で対応してくれる人も、「ある程度、ここは常識よね」と思っているかも知れないことでも、とんでもない所から質問が始まるのです。

−いいレポートが聞けるかも知れないですね。ブースの説明員達にとってはちょっと迷惑かもしれませんが、分かりやすい言葉でリポートすることが、本当の意味でITを広げる事につながるでしょうね。カタカナをまったく使わないで、リポートしていってくださいよ、是非(笑)。

岸本:
逆に、最先端の企業の方々に、本当の地域の実情を良く知って頂きたいというのもあります。やっぱり、どうしても、東京中央集権的な目があると思うんですよ。もうちょっとやりようがあるのではないかと。例えば、その辺で企業の方と心を開いて話したりして、ある種、お見合いみたいな感じでできればな、と思っています。それが、今回の企画の主要な点です。

−企業側の何か新しいニーズを発掘できるのではないですか?
今紹介頂いたのは、毎日午後1時半からの番組ですが、3時半からの『かちゃりなっせ』はどのような番組ですか?

岸本:
これも山江村の言葉です。簡単に言うと、昔、田んぼを作るときに、「今日は私のところで、明日はあなたのところを手伝うからね」といって、お互い助け合って、共同でやっていくという意味です。これを「かちゃり」といいます。山江村では、そういう精神が残っているんですが、その「かちゃり」の精神を、全国のIT企業の方、大学の先生、町や村の人が一緒になって、友達の輪を広げていくというものです。これを5日間やっていくと、5日目にはきっと、1つの村ができるのではないかと思っています。そのうねりを今回は期待をしています。

−「かちゃりなさい」と呼びかけて、各ブースのお客さんも企業も、みんな繋いじゃうわけですね?

岸本:
《繋ぐ》という意図的なものではなく、多分なんか、「よう!」(手を挙げて挨拶すれば溶け込めそうな雰囲気)って感じの《自然に繋がる》ということでしょうね。

−各企業のブースをリポートして歩くだけでなく、自分達で展示も行うそうですが?

岸本:
表には出ていませんが、山江村だけでなく、《地域づくりの道具》としての“住民ディレクター”のようなソフトが各地にあるんです。IT“製品”と言うことではなく、そういうITを使った《人間と人間のうまい仕組み》とかがあると思うんです。例えば、佐賀県には、『インターネット市民塾』というのがあります。そこは、一般の方々が塾生でもあり先生でもある、という仕組みを非常に上手に使って運営しています。今回はそのような事例を7つ、《地域づくりの道具》展としてご紹介する予定です。

−7つの例として、三鷹、富山、桐生、兵庫から2つ、佐賀、山江村から出展するそうですが、要するに、新しい《モノ》を持ってくるのではなく、新しい《仕組み》を紹介するのですね。

岸本:
目に見えないものを持ってくるわけですが、仕組みはパネルなどで紹介します。一番大事なのは、こういう道具ができた風土とか、背景です。どこの地域でも成立可能だったものではありません。山江村が分かりやすい例ですが、住民ディレクターのノリが良いのは、焼酎を飲むからで、そこから何事も始まるんです。そうすると、焼酎と住民ディレクターとが密接に絡んでくるわけです。その地域の香りをプンプン嗅いでもらいながら、その道具の仕組みを体で覚えて頂きたいと思います。

−なんだか、そこだけ、異色なブースになりそうですね(笑)。ITが進めば進むほど薄れていくと言われる人間くさい部分を大切に取り扱う事が、IT世界の広がりにつながっていくという訳ですね。 今回の『CEATEC JAPAN』は、9日に終わりますが、その後も『ユビキタス村TV』は展開がありそうですね。

岸本:
実は、展示会が終わった翌日の10日から、来年の『CEATEC JAPAN』に向けて全国放送とか、インターネットライブを引き続き行っていきます。例えば、山江村なら、お役立ち商品を企業の方と相談して、持ち帰らせていただき、実際使ってみようと思うんです。部品も含めて意外に役立つ何かがあるんじゃないかと思うんです。それで、もし、どうしようもないときには、企業の人に村へ来てもらったりすることで、交流を深めながら、ある種共同開発みたいな事が1つでも2つでも出来ればいいなと思っています。そのプロセスを展示会終了後から来年1年かけて、各地域にどんどん伝えていこうと思っています。

−5日からのインターネット放送、楽しみにしています。

岸本:
お二人とも、是非会場に来て、ライブ(生放送)に出てくださいね!
※[後記] この後相談して、下村は5日(火)14:15〜30のコーナーに生出演する事になった。会期終了後も、オンデマンドで視聴できるようにするらしい。

この『ユビキタス村TV』だが、会場に常設されているインターネット放送局の『intebro』(インテブロ)から発信される。そのネット局を開設するのも、企業ではなく学生達なのだ。今度は『intebro』のリーダーの岸下 正嗣君(東京工科大学2年)に話を伺う。

−『intebro』はネットの運営だけですか?それとも、自前の番組も放送するんですか?

岸下:
ネット運営も自前の放送もします。例えば、富山県の山田村では、村民に無償でパソコンが配られましたが、そちらに僕らが取材に行って、現在の情報教育の有り方をテーマに制作したリポートがあります。また、放送当日に企業の方をスタジオに呼んで、出展内容を解説してもらうといった番組もあります。

−同じインターネット放送サイトで、時間帯によって、学生の皆さんが作った『intebro』の番組や、住民ディレクターが作った『ユビキタス村TV』の番組が、取っ替え引っ換え見られるということですね?

岸下:
そうですね。基本的にはそうです。

−『intebro』の普段の活動は、誰がどのようにしているのですか?

岸下:
東京工科大学のメディア学部で、授業の一環としてインターネット放送を扱っています。そちらのほうで基本的な放送局運営のノウハウを学んで、今回のような場で応用する形で、実際に学生がインターネット放送局を運営しています。

−一般的に市民メディア系というと、社会問題をリポートするということで、文科系の人が圧倒的に多いですが、東京工科大学だと、技術も強そうですね。

岸下:
そうですね、『intebro』の活動方針の中で、「次世代放送技術の言及と実証」が含まれているんです。例えば、「多視点切り替えシステム」。3つのカメラを設置して、WEB上に3つの映像情報を同時に流します。画面に映っているのは1つの映像なのですが、視聴者が1カメ(第1カメラ)、2カメ、3カメのうち、「3カメからの映像が見たい」時に3カメのボタンを押すと、3カメで撮っている映像になるんです。画期的なシステムです。

−つまり、正面の顔が映っているときに、視聴者が手元のボタンを押すと、横顔に切り替わったりするわけですね?

岸下:
あと、東京工業大学との合同研究として、TVMLという、簡易的にテキストを打つだけで、映像を作って、それを基にニュース配信をするという独自の配信システムがあります。

−テキストを打つって、つまり文字情報を入れるって事ですよね?そうすると映像が出来るんですか?どういうことですか?例えば、「下村」って文字を打ったら、サーバーにある下村の映像、つまり、ライブラリーされているものが出てくるということですか?

岸下:
そうですね。ま、実際に今我々が動かしているシステムでは、CGキャラ(コンピューターで作画したキャラクター)がありますので、そのCGキャラが喋ってくれるということです。

−さっきの「山江村なら焼酎でしょ」という放送と、この技術を駆使した『intebro』の放送と、両方が同じサイトから出てくるのは、結構面白い事になりそうですね。

『ユビキタス村TV』と『intebro』のインターネット放送は、
2004年10月5日(火)〜9日(土)午前10時から午後5時まで、
幕張メッセの『CEATEC JAPAN』会場からライブで行われる。
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