市民メディア団体、一堂に

放送日:2004/01/31

今回は、先週の土日(1月24、25日)に行われたあるイベントについてお伝えする。全国に市民メディアのグループがドンドン増えていることは、このコーナーでも度々採り上げているが、それらがかつてない規模で一堂に会して情報交換するイベントが、名古屋で行われた。このイベントに参加してきた、(株)セラフ・メディア事業部の安田恵子さんに、お話を伺う。(安田さんは普段、下村の助手としてこのコーナーのホームページの制作を担当しているが、セラフのメディア事業部は本来、市民メディア団体の制作サポートを主たる業務としている。)

−今回のイベントでは、どのくらいの団体が集まったんですか?

安田:
会場に集まったのは、200人くらいという事でした。立ち見の方も大勢いて、配布資料も足りない状態でした。

この集まりを実現させた呼びかけ人、
市民とメディア研究会・あくせす』の代表で、
立命館大学教授の津田正夫さんにも、電話でお話を伺う。

当日の会場の様子
当日の会場の様子
撮影:湘南市民テレビ局

−民放テレビ局のようなネットワーク系列があるわけでもないのに、これだけの関連グループや人を、どうやって集めたんですか?

津田:
今回初めて集めた、というわけではなくて、私達『アクセス』は2年くらい前から毎月例会を開いて、各地(主に東海地方)の面白いメディア活動をしている人達に来ていただいていたので、その人達に集まってもらいました。加えて、私自身が北海道や東北へ呼ばれて活動を見学したグループとかですね。今までそれぞれバラバラにやっていたんですが、みんな「あっちのこと知りたいな」「こっちのこと知りたいな」という要望があって、集まってみようかと。当初、集まるのは50〜60人だと予想して、100人収容の会場をとっていたんですが、途中からどんどんどんどん参加希望者が来るんで、「困ったな」と思って。だから途中からはメディア発表もしないで、宣伝もやめたんですよ。でもその後もまた集まっちゃって。「どうなってるんだろう」と思いましたね。
当日集まった中には、僕らも知らなかった新しいところも一杯来ました。1月27日から放送を始めた仙台のケーブルテレビで、『こちら市民リポーター』っていう番組を作っている人達とか。この4月から、愛知県刈谷市で市民チャンネルを始めるというケーブルテレビの人とか。この3月に認可が下りるかもしれないっていう、沖縄の市民FM局とか。お互いに≪情報を知りたい≫っていうのが一番だったと思います。

主催者の顔ぶれを見ても、知る人ぞ知る面白メディアが勢ぞろいしている。

熊本の「プリズム
札幌の「シビックメディア
東京の「むさしのみたか市民テレビ局
藤沢の「湘南市民テレビ局
三重県の「三重テレビ
京都市の「京都三条ラジオカフェ
米子の「中海テレビ

―――が、それぞれ壇上で活動報告した。

−三重テレビは、市民メディアではなく独立UHF局ですよね。なぜ主催者の一員に?

安田:
三重テレビでは、放送局側が、夕方6時台というすごくいい時間帯のコーナーを、市民に開放しているんです。会場で発表された毎週水曜日のコーナーでは、市民が作った作品をオンエアして、その制作者がスタジオで司会者と一緒にトークをしていました。会場で流れた例は、地元の高校の放送部が農園に行って、“最近はBSEの影響で豚肉が人気ですよね”といった感じで、豚にインタビューする、というものでした。豚がマイクに向かってブーブー言って、そこに「この前は8匹くらい子豚を産んだわ」といった字幕が付くっていう、すごく面白い作品でした。
−本職のプロ放送局が市民の作品を放送しようと企画すると、大体ネックになるのが≪作品の質≫ですが、三重テレビの場合はどうやってそれを克服したんでしょうか?
安田:
三重テレビの内部には、「本当にこれが面白いのかな」っていう声も、やっぱりあるそうです。局側としては当初、市民から、市政や地域の環境に対して物申すような作品が上がってくる事を期待していたそうなんですが、現状だと、サークルの活動やイベントの“PRもの”が多くなってきてしまっていると。それが課題と言えば課題なのかな、と、発表者の方はおっしゃってました。
津田:
私も以前は局(NHK)で働いていたものですから、局側の立場から言うと、「もうちょっとこうやればいいのに」「ここはもっと上手いやり方があるよ」と、つい口を出してしまいたくなるんですよね。でも、それぞれの当事者からすると、≪思い≫が一杯あるわけですよ。NHK的にいくら説教されようが、「とにかくこれだけは言いたい」という、止めようがないものが。これから市民メディアが大きくなっていっても、質の問題は絶対的にあるわけで、必ずぶち当たると思います。でもそれを最初に言ってしまうと、市民メディアは芽が出ない。最初はやはり≪何が言いたいのか≫を大事にして作っていかないと。

−既存メディアである地方局の熱心さというのは、安田さんはどう見ました?

安田:
事例発表の後の、車座のディスカッションで三重テレビの方に伺ったところ、地上波テレビがデジタル化されて、ローカル局は存在意義を問われていると。だから、今後の≪生き残り≫をかけて、手探り状態ではあるけれど、市民の番組参加に取組んでいるんだ、とおっしゃっていました。
三重テレビに限らず、会場には地方のケーブルテレビ局や地上波のローカル局の方もたくさんいらっしゃっていました。私は、この集会には市民メディアの発信者、市民側の人ばかりが集まると思っていたので、それは大変びっくりしました。やっぱり東京の、例えばTBS局内で「市民による発信」「市民が作ったものを流しましょう」って言っても、そこまでボルテージは上がらないと思うんですよね。でも地方では、局側が生き残りをかけて、≪いかに地元の人を取り込んでいくか≫っていう問題として、積極的に取組んでいるんだと感じました。

−これは全国的な傾向なんでしょうか?

津田:
そうでしょうねえ。今、一番とっつきやすいのはコミュニティFMでやっている人達だと思います。全国で170近くあるコミュニティFMのうち、半分はいろんな形で市民が参加していると思うんですね。ケーブルテレビは、300あるうちの一割、30くらいのところが市民チャンネルをやっています。全国的にそうなんですけど、面白いのはね、札幌にしろ武蔵野三鷹にしろ、熊本も京都も、みんなNPO化する傾向にある事です。以前は、市民が「呼ばれて出演してちょっと面白い事を言う」といった感じだったんですが、今は放送する事を前提にしたNPO法人を作って、システマチックにやっていくという形が、じわじわ増えてますね。

−イベントに参加してみて、他に印象に残ったものはありましたか?

安田:
会場で、熊本の『プリズム』の作品を実際に見せていただきました。番組のさわりの部分だったと思うんですが、駅のホームみたいなところで、MC役の地元のおじちゃんとおばちゃん達がニコニコして、満面の笑みでしゃべっていて、バックは夕日が当たっている山、という映像でした。本当に温かい地元、という感じがして印象に残りましたね。イベント会場に、プリズムの『住民ディレクター』の方がいらしていたのでお話を聞いたんですが、「私らそんなすごい事やってるって意識はないからね」っておっしゃっていて、すごくあったかい人達だなって思いました。
津田:
やっぱり、≪地域がどうやって生きていこう≫っていう事があるんですよね。 放送局側の人からすると、「え、この人達が放送やるの!?」っていう、地域の住民自身が喋り始める事に対する驚きがあるんです。でも一方で、発信する市民の人達は、自分達が“放送”をやっているっていう意識がないんですよね。地元の産物とか、自分達が悩んでる事、例えば過疎の事とか若者の事とか、そういうのを言ってるだけなんだけど、なんかテレビ局の人が驚いてる、という。
安田:
熊本『プリズム』の方たちは、≪住民ディレクターは、番組制作ディレクターではなくて、地域作りのディレクター≫という言い方をされていました。 私はそれがとても象徴的だなと思ったんですが、全体として、取材と発信という行為自体が目的なんじゃなくて、≪地域おこし≫をキーワードにやっているんだなと感じました。

−2日目は作品の上映会があったそうですが、「これぞ、市民メディアだからできる」というような作品はありましたか?

津田:
日曜日の上映会というのは、『まちコミ映像祭2003』(「マスコミ」をもじって『まちコミ』)といって、名古屋市のお金で毎年やっている、3年目のイベントです。今年は110本くらい集まって、グランプリは熊本の「風の女たち」という作品でした。熊本の主婦達が、町の中の大きな廃屋になりかけている民家を、自分達も大工さんも左官屋さんもみんな一緒になって、1年がかりで修復していく、そこを町の集会場・イベント会場に作り上げていく、というプロセスを追った作品でした。そういう、長期にわたって丁寧に記録していく作品は、現場にちょっと来たプロにはできないですよ。 また、NGOやNPOが現地に行って作った作品にも、強みがありますね。例えば、ベトナムで枯葉剤をまかれて手足がない子達を、現地で応援しているNGOが作った作品。それは、そこで一緒に生活しているわけですから、NHKやそこらが2〜3日行って撮れるような映像じゃないですよね。それは、遠慮会釈なく、愛情深く、当事者として撮っているから。これはちょっと真似ができんな、と。

−今後、市民メディアのネットワーク化の計画はあるんですか?

津田:
ネットワークを結びたいのはやまやまなんですが、それを誰がやるかという問題ですね。お金も人も必要だし。
安田:
ネットワーク化して全国で共有できるものがあるとすれば、「こうすればもっとメッセージが伝わる」「こうすればもっと自分達の味が出せる」といった、制作のノウハウみたいなものだと思います。

『市民メディア・アドバイザー』を自称している私としては、まさにそこの部分を支援していきたい。

津田:
僕らも、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、カナダなんかをあちこち回ったんですが、結局分かった事は、「やってないのは日本だけ」という事ですね。それから、公共放送の「公共性って何だ」って事。それについてね、イベント会場で京都ラジオカフェのある人が、「受信料の何%かを地域の公共放送にまわそう」っていうお話をしてました。現にアメリカもドイツも5%そうやってますし、ドイツも2%、コミュニティチャンネルにまわしてるんですよね。
地方分権とか市町村合併とか、これからどんどん進んでいくと思うんですよ。その時に、地域が話し合って、自己決定するためのツール、一緒に生きていくため・コミュニケーションするためのツール、そのためのメディアがないと、日本の将来ダメなわけですから。是非、これから進むといいですね。
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