先週日曜(7月20日)、ユニークな映画『きずな+(プラス)~上海に瞳をこらして~』の完成披露上映会が、東京駅前の丸ビルで盛大に開かれた。今朝は、この映画の撮影クルー9人の中から、川口弘樹君(24歳・通称リーダー/眼のツケドコロ・市民記者番号No.20)、増満伸朗君(32歳/眼のツケドコロ・市民記者番号No.21)、和田勇人君(21歳/眼のツケドコロ・市民記者番号No.22)の3人にお話を伺う。
■プロから一任され、発奮
今回の映画『きずな+』は、昨年10月に上海で開かれた、スペシャルオリンピックス夏季世界大会の記録映画だ。
――スペシャルオリンピックスって?
和田: 僕たち知的発達障害のある子が、どんな種目でも楽しめるというような、日常的なスポーツトレーニングを育んでいる、立派な組織(です)。
――日常的に、トレーニングをずっとやっているんですよね。
川口: はい、やってます。
――イベントと言うよりは、年がら年中の活動で、日常的にやりながら国内の大会もあり、時々世界大会みたいな大きなイベントを…?
和田: はい、4年に一度。
――川口君たちは、皆そこのアスリートとして、普段は参加もしているけど、今回は映画も作っちゃったと…?
皆: はい!
――この映画の何が凄いって、僕も上映会を見せてもらって驚いたんですけど、大会本番の映像は全部、映画プロが撮った映像は一切無しで、皆が撮ったシーンで作ってるんですよね。
増満: ええ、そうです。
今回の映画でプロが撮っているシーンは、テーマソングを歌っている松浦亜弥さんとクルー9人が、東京で対話をしている場面だけだ。
――「自分たちだけで出来るのか?」って、ビビらなかった?
増満: はい、普段どおりでした。
――いいですねぇ、この平常心が! 「今回、君たちの映像だけで作るよ」って、最初に(小栗謙一監督から)言われたの?
和田: ええ。もともと上海に行く時から、「僕たちクルーが撮影した映像を映画に出しますよ」ってことで。監督・助監督のその声が無ければ、僕たちだけじゃ、撮影は出来なかった!
――「君たちだけでやるんだよ」って言われて、気合いが入った?
皆: はい!
■世界を相手にする戸惑い
では、まず、映画が始まってすぐ、上海の町を見せながらのナレーションの場面をご紹介しよう。独特の緩急が付いた、何とも味のある語り口になっている。
ナレーション: (音楽に乗せて)スペシャルオリンピックスの世界大会が開かれた上海は、とっても大きな町でした。私たちBelieveクルーは、(中略)上海のいろんな所を撮影して来ました。(中略)世界大会の開会式や、競技なども撮影しました。
――このナレーションは、誰?
増満: 勝又 由貴ちゃんです。
――皆それぞれの役割は?
増満: 私、インタビュアー。
川口: 僕は、録音(係)。マイクを(担当)。
和田: カメラ(マン)です。
実はこの撮影クルー9人は、3年前に長野で開かれた世界大会の時にも、撮影チームとして、記録映画『Believe』の制作に初挑戦しており、当時このコーナーでも紹介した。
――「また、やるか?」って、誘われた?
増満: 誘われた!
――その時、どう思った?
増満: 戸惑うた!
――前やったから、「2度目は任しとけっ!」とは思わなかったの?
増満: 全然思いませんでした。「私たちクルーは、世界に通じるのだろうか?」と思って。
―そうかぁ、前回は長野だけど、今回は上海(外国)だから、自信が…
増満: 無かったんです。
■水音を捉え、花火を見逃さず、インタビューはシャキッと
――川口リーダーも、やっぱりビビった?
川口: いや、ビビってはないですね。
――お、自信があった? じゃあ、話が来た時から、「やったるぜ!」って感じだったの?
川口: はい。
――1本目の『Believe』のときは、プロの映像も結構混ぜて作品にしたでしょう? 今度は、100%自分たちだけっていうことで、2本を比べてみて、作りながら「自分たち、上達してるなぁ」って思いましたか?
川口: 僕は、思いました。
――例えば、どんな所が?
川口: 水泳競技のときに、録音した水の音を使いながらやれました。
――今回は、水泳選手が移動している時の音を、ずっとマイクで追うことが出来た?
川口: はい。
――ああ、思い出した。前回の長野大会の時は、スキー選手がシャーって(前を)過ぎていくとき、マイクを振りながら、その雪を蹴る音を録るのが大変だと言っていたよね。じゃあ今回も、そういう動きを追いかけるってことが上達したわけ?
川口: はい。
今回の映画『きずな+』の1シーンを再びお聴き頂く。上海世界大会の盛大な開会式で、ジャッキー・チェンがステージに登場してくるシーン。
ジャッキー・チェン: Are you ready? (大歓声と花火の音) ニイハオ! ニイハーオ!
本物の五輪かと見まごう程の、規模と華やかさ。この大会には、全世界から164もの国や地域、そして、7291人のアスリート、3500人の競技役員、4万人のボランティアが参加した。今、北京オリンピックばかりが注目されているが、このスペシャルオリンピックス世界大会も、半端ではないスケールだ。
大きなスタジアムを撮っていたカメラが、打ち上げ花火のドドーンという音がすると、即座に上を向き、花火が夜空に広がるのを捉えている。このカメラワークは、まさにあの場にいる一般客の目線で、その場で見たものに瞬間的に反応しており、計算など全くしていない。映画を観ている人たちも、まるで大会の会場にいるような感じに浸れる。
増満: 今回のインタビューは、凄い大物ばかりで…。ジャッキー・チェンや、(米国でスペシャルオリンピックスの運動を始めた)ティモシー・シュライバーさん、あとチャン・ツィイーさん(中国の人気女優)。
――凄いよなぁ! 僕だって、そんな人たちにインタビューしたこと、全然無いよ。緊張したら眠くなる癖(前回参照)は、相変わらずですか?(笑)
増満: はい、そうです。
――1本目の『Believe』のときは、官邸で、小泉首相(当時)にいきなり突撃インタビューして、あの時も「眠くなった、眠くなった」って言っていましたけど、今回は?
増満: シャキッとやりました。一度マイクを握ると、サッと(目が)開いて、サッと(マイクを)持って、インタビューに成功したんです。
――おおっ、もはや、プロですね。
■チャン・ツィイーには動じず、ジャックはきょとん
そのVIPたちの記者会見のシーンでは、『Believe』クルーたちが、プロの記者たちに混じって、果敢に挑んでいる。
――増満君のチャン・ツィイーさんへのインタビューは、最高でしたね! 一般のプロの記者が大勢いる中で、「はいっ!」って手を上げて、彼女に向かって、直接質問したでしょう? あれは、何を喋っているのか、頭が真っ白にならなかった?
増満: ならない、ならない。
――ほんと? チャン・ツィイーさんがあの綺麗な目で、増満君のほうを真っ直ぐ見ていたでしょ。ああいうのは、硬くならない?
増満: 全然。
――おおっ、大物! チャン・ツィイーぐらいじゃ、動じない?
増満: (平然と)動じない。
――アハハッ、そうなんだ!
映画の中で、競技が始まると、マラソンに参加する外国のアスリートに、増満君が英語でインタビューしている。
――映画より――――
増満: Good morning! Hello, everybody! What’s your name イズ?
男性: Jack.
増満: This is ア Jack. (周囲、明るい笑い)
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――これは、英語を練習して行ったの?
増満: ええ、昔、YMCAで英語を習ってたせいか…
――ちゃんと習ってたんですね。増満君の英語のインタビューを見て、出来栄えはどう?
和田: まだまだ! (一同、笑い) 「This is ア Jack」って言うから、「ジャックさんは物じゃない!」と思ったんです。
――大事な指摘ですね、それは。「これはジャックだ」って言われてもねぇ、言われたジャックが、きょとんとしてたよね。(笑) あそこは、上映会の観客たちも相当ウケてましたけど、リーダーとしては、あのインタビューはどうでした?
川口: ちょっと恥ずかしかったなぁ。
――でも、あの後、通訳を介して「フルマラソン走るんです」とか、インタビューはちゃんとつながってたもん、良かったよ。クルーの仲間は厳しいですけど、どう?
増満: いつも、そうだもん。(苦笑)
――増満君のインタビューに対して、いつも厳しいの?
和田: 増くん、いつも面白ばっかりだから、真面目なとこも、ちょっとね、見せて欲しいっていう気持ちがあるんです。
――皆は「もうちょっと真面目にしろ」って言ってるけど、どうですか?
増満: …こ、こ、声も出ません。(一同、笑い)
今回の上映会があった東京の丸ビル3階では、スペシャルオリンピックスの写真展も開かれている。今月(7月)31日までの開催なので、夏休みで東京観光に来られる方は、ぜひルートに加えていただきたい。
来週も、この3人とのトークを引き続きお伝えする。