トリノ・オリンピックでは日本勢の低調な戦いが続いているが、今回は、知的障がいを持った人達の熱い祭典である、スペシャル・オリンピックス世界大会の話題に着目する。去年(2005年)長野で開かれた同大会の模様を、同じく知的障がいを持った撮影クルーが撮った記録映画『Believe』が、今東京で上映中だ。この映画のユニークな“撮影者兼主役”9人の中から、3人にお話をうかがう。
■雪を蹴る音に挑み、総理への一発勝負に挑む
―クルーとして一番多く担当した仕事は何ですか?
- 川口弘樹(22歳・通称リーダー/眼のツケドコロ・市民記者番号No.20):
- 録音です。スキーの時に、選手達が滑ってる音を録ったのが思い出です。
―あのスキーでザァーッと雪を蹴る音?その録音は難しそうだなあ。だって、目の前をあっという間に通り過ぎちゃうじゃないですか。それをどうやって録るの?
- 川口:
- それは、タイミングに合わせて素早く。
―目の前に滑っていくのに合わせて、マイクをヒューンと向けるわけですか。
- 川口:
- はい。思いっきりブーンとやっちゃうと、録音もブーンと聞こえるといけないんで、ゆっくり移動していきながらやっていくんですよ。
―あ、急に動かすとマイクが風を切る音が入ってしまうから? その配慮は、プロ並みですね!
- 増満伸朗(30歳/市民記者番号No.21):
- 私は、インタビュアーを担当しました。
―一番印象に残ってるインタビューは?
- 増満:
- 小泉さん。
―小泉総理!あの映画に出て来る、首相官邸でのインタビュー場面だよね。あの時って他のメディアはどこも小泉さんにインタビューする時間が無かったから、増満君の独占インタビューでしたよね。他のメディアがうらやましがってなかった?
- 増満:
- あれはアポ無しだったから。全然練習しないで、すぐにいっちゃうから。すぐ。
―あのシーンだけ見ると、さすがの増満君も緊張してる感じでしたけど。
- 増満:
- 寝ちゃうから、すぐ。眠たくなるのよ、大物に会うと。その前でつい、居眠りしたくなって。(でも)すぐ起きるから。だからサッとテキパキやらないと気が済まない。このままじゃダメかなあと思って、急遽一発勝負でやった。
―決まりましたね、一発勝負が。
- 和田勇人(19歳/市民記者番号No.22):
- 私は、音声担当でしたけど、色々な機材を使って、よく分からないくらいの機材を使ってましたから。
―機材って、皆使うの初めてだった訳でしょ?
■僕らは、映画を作る仲間なんだ
- 増満:
- そうだよ、そうだ。覚えてる?夏合宿の時。
―合宿を皆でやったの?撮影のトレーニングのために?
- 川口:
- はい。増満君は、テレビの世界に入っちゃって…。
- 増満:
- すまない!
―ああ、あったね、そういうシーン。映画の中で、増満君がインタビューの練習が終わった時に、「フジテレビの○○がお伝えしました」とかふざけて…。
- 増満:
- 大爆笑。
―あの時の川口リーダーのダメ出し、怖かったよね。「ダメ!」って。
- 増満:
- リーダー、あれ、覚えてたのか!?
- 川口:
- 覚えてる。
- 増満:
- 覚えてるなよなァ!
―質問!あれは何で「ダメ」なんですか?
- 川口:
- 僕達は、何のためのクルーなのか。テレビでふざけるためではない。映画(作り)で期待(されてる)仲間で、真面目にやらないといけませんので、テレビと違った《映画》をお客さんに観せてあげたいという気持ちがあって…
―映画を観に来てくれてるお客さんのことをちゃんと考えろ、と。
- 川口:
- そうです。映画はテレビじゃないんで。その映画を観に来てくれるお客さんのために、僕は増満君がしてること、反対(と)言ってるんですよ。
―プロ根性だね!「ダメ」って言われた瞬間のあの増満君の顔は、すごくショボンとしてたけど。「いいじゃん、それぐらい」とか言ってたよね。でも結局、川口リーダーに言われた通りにやり直したんだよね。
- 増満:
- そうだ、そうだ。
- 川口:
- その2人のケンカをするシーンが、ちょっと映画に出てしまったんだけど…
- 増満:
- ボケとツッコミ。
- 川口:
- ここで笑いを取るなっつーの。
―ハッハッハ!和田君、こういう厳しい場面っていうのは、あの映画に出て来る以外にも、製作過程でたくさんあったの?
- 和田:
- そうですね。増満君だけじゃないですね。ちょっとしたことで、すぐケンカになってしまうことも度々なんですね、いろいろありまして。まあ同じクルーですから、すぐに仲直りできました。
―まあ9人いたら、そりゃ意見が合わないこともあるよね。そういう時の仲直りの仕方っていうのは、どうやって?
- 和田:
- そうですね、何か先のことを楽しく言い聞かせる。もう、それしかないですね。
―次の目標とかを言うわけか。そういう役は誰がやるの?
- 和田:
- まあ、その時にひらめいた時に言うんですね、色んな人が。
―こうして、段々と出来てきたのが、この映画というわけですね。
■華麗なるアスリート歴
―今回は撮影クルーだったあなた達も、もともとはあの映画の舞台と同じ、スペシャル・オリンピックスのアスリートなんでしょ?種目は何ですか?
- 川口:
- 陸上とか。
- 和田:
- 僕は水泳とボウリングだけ。
- 増満:
- 僕も水泳とボウリング。あ、スキーもやってんだ。
- 川口:
- 僕は数え切れないくらい沢山のスポーツをやってます。
―もともとスペシャル・オリンピックスは、4年に1回のオリンピックと違って、日常的にいつもいろんな所で活動してるんでしょ。その一環として、去年開催された長野大会のような世界大会があったりするわけで。5年前(2001年)のアラスカ大会の時は、日本選手団の劇的な活躍ぶりを、このコーナーでも詳しく紹介しましたよ。皆さんは、大きな大会に出た経験は?
- 増満:
- ボウリングの全国大会があって、KONISHIKIさんや有森裕子さんと最初に会った。
- 和田:
- 世界大会じゃないんですけど、ちょっと似たような感じで、スペシャル・オリンピックスの夏季ナショナルゲームを、東京の調布でやったんですね。それに私が水泳のアスリートとして参加しました。
―結果はどうでしたか?
- 和田:
- そうですね、1位ですね。金メダル獲りました。
―ホント!金メダルは今も家にある?
- 和田:
- ありますね。
―ああ、持ってきてもらえば良かった。
- 川口:
- 僕は外国ですけど、アメリカのノースカロライナ州で陸上の大会があって、私は1500メートルの種目で走りました。
- 増満:
- リーダーやるじゃん、外国! 英語はどうだったの?
―グッド・クエスチョン! さすがリポーター!
- 増満:
- 英語、苦手なんでしょう?
- 川口:
- 何を言ってる…。
- 増満:
- リーダー、大丈夫か? 照れくさそうだけど。
■僕らにとって“ビリーブ”とは…
―では、3人に訊きます。『Believe』っていう映画がどんな話か、説明してもらえますか?
- 和田:
- 笑い、涙、それぞれ感じますよね、観て。“Believe”っていうのは「信じる」っていう意味ですよね、日本語で。ですから、「僕達はここまでやってきたから、信じて欲しい」っていうテーマで、映画を観る人達が、こういうことを障がいがある子でも出来るから、他の別な子でも頑張れるような、励ましなんですね。
―増満君流に説明すると?
- 増満:
- 私がたくさん出てる映画。
―それは言えてる(笑)。
- 増満:
- 私がやってるインタビューが一番多い。
―リポーター役だからね。あれは、普段から練習してるの?
- 増満:
- アドリブだけ。
―テレビのアドリブを見て練習してるの?
- 増満:
- そうそうそう。
―ホントに?
- 増満:
- テレビを見て勉強して、それで練習するんですわ。
―それであんなにポンポン出るんだ。だって、増満君のしゃべり、映画の中でも面白いもんね。(映画館の)観客席からも、しょっちゅう笑いが起きるもんね。
川口君がこの映画を宣伝するなら、どういう映画ですか?
- 川口:
- 数多くの人達に、「これがスペシャル・オリンピックスだ」と、「僕達はこういう団体だ」っていうのが分かりやすくするために、この映画を観て欲しいんですよね。できたら、数多くの皆さん、ラジオを聴いてるリスナーの皆さんが、映画館に足を運ぶことがあれば、是非観に来て欲しいです。
この映画『Believe』は、3月中旬まで東京・渋谷の『シアター・イメージフォーラム』で上映中。その後も、全国で上映予定だ。
3人とのトークは、来週も続編をお伝えする。