トリノ・オリンピックは明日(2月26日)で閉幕するが、このコーナーは前回の続きで、知的障がいを持った人達のスポーツ活動「スペシャル・オリンピックス」の話題。去年(2005年)長野で開かれた世界大会の模様を、同じく知的障がいを持った撮影クルーが撮った記録映画『Believe』の、ユニークな“撮影クルー兼主役”の皆さんへのインタビュー後半を、お伝えする。
■KONISHIKI、肉まん、ごめんなさい
―9人の撮影クルーが出会って、一緒に合宿したり、色んな訓練をしたりして、本番の長野スペシャル・オリンピックスの撮影をして。――ここまでやってきた全部の中で、一番楽しかった事と一番辛かった事は?
- 増満:
- まず辛かった事は、雨で撮影がパアになったこと。インタビューしようかなと思ったら、大雨が降ってきて、パアになっちゃった。急遽、中で撮影して、午後は暇だから、寝ちゃった。撮影すっぽかして。
―ハッハッハ。じゃあ、逆に一番楽しかった思い出は?
- 増満:
- KONISHIKIさんと爆笑トークやってから。大爆笑だった。
―あれは面白かった!映画館も笑いの渦になったもん。
- 増満:
- 大爆笑だった。
―あのKONISHIKIの奥さんにね、…ここから先をしゃべっちゃうと、映画を観に行く楽しみがなくなっちゃうから、映画館で観てもらいましょう。
- 増満:
- あれは、機会があったら、何かやろうかなと思ってて。
―何か一発やってやろうと思ってたの?
- 増満:
- うん。やろうと思ってた。
―ズバリ当たったね、その狙いが。和田君の場合は?
- 和田:
- 辛かった事、今、伝えます。僕の辛かった事は、やっぱり、あの録音の事。
- 増満:
- 固まっちゃって、再起不能になっちゃった話!
―和田君が録音で固まっちゃった?
- 和田:
- いや、固まったっていうわけではないんですけど…。
- 増満:
- 最後までやりとげて。
- 和田:
- 録音ですから、ヘッドホン着けますよね。その耳に当てる部分が暖かくて、しかもね、ユニフォームの下にまだ何枚か着てたんですよ。
―服を一杯、厚着してたんだ。
- 和田:
- はい。室内ですから暑くて、もう体の中ムンムン蒸して、まるでシュウマイどころか、肉まんどころか、暑くなってしまって(一同爆笑)、で、どうしようかと思ったんですよ。だけど、やり通したんですね。
―そのシーンあったよね。もうほとんど気絶してるような顔して、大きなマイクを一生懸命持って。あの時、もう肉まん状態だったんだ!
- 和田:
- 肉まんどころか、シュウマイどころか、ショウロンポウどころか!
―一番楽しかったことは?
- 和田:
- やっぱり皆に会う事ですね。もう、何て言えばいいんでしょうかね。スタッフに会えたり、クルーメンバー揃って会うのも楽しいし、こういう雰囲気も楽しいし。で、それを皆で一生懸命頑張って、映画ができて、皆で観させていただいた事も楽しかった事。やっぱり皆、個性あふれる人ですから。
- 増満:
- そうそうそう。
- 和田:
- ね。本当は吉本興業に入りたかった増満君も、クルーになってくれたんだよ。
- 増満:
- 言うなよ、それは〜。
―なんで言っちゃいけないんだよ(笑)。川口君は?
- 川口:
- そうですね。あの実は、私、スタッフ達に謝りたいことがあります。あの、ホワイトリンクで、ちょうど選手がなかなか来なかった。「今日は無理だね、帰ろうか」というところ、あったんですけど…
―つまり、競技場に行って、まだ日本人の選手が出てこなくって、「一度戻ろう」って小栗監督が言ったわけ?
- 和田:
- あの、はじめですね、「なんで? 小栗さん」って言ったんですよ。
―「エッ、何で」って川口君が、文句言っちゃった。
- 和田:
- もう、床に座ってしまって。
- 川口:
- 私のわがままが、現れてしまって、ほんとに情けないです。迷惑かけたなって、反省してます。ほんとにスタッフの皆さん、ごめんなさい。謝ります。
さすが、リーダー。トーク中に突然この謝罪が始まって、私も驚いた。プロのメディアの人間で、こんなに素直に自分のミスを謝れる人が、何人いるだろうか。
■製作クルーとしてのプライド
続いて、3人が、今回の映画作りの中で誇りを感じた部分を、胸を張って語ってくれた。まず和田君は、音の録り方の技について。増満君は、プレスパス(報道陣用の通行証)と、小泉総理への直談判の話。そして川口君は、トーチラン(聖火リレー)の撮影苦労話。
- 和田:
- その人に合った、撮影の仕方もあるんです。
―撮りながら、「この人だったら、こう撮ろう」って考えて?
- 和田:
- そうそうそう。こういう動きだから、カメラも同じように、この動きを合わせて撮ったり。音声だったらね、スケートリンクの氷を、スケート用の厚い靴ありますよね、その刃が削る音も必要だし。あと、動く風の音も録らないといけないんですよね。音声はたぶん、この2つが無ければ、音声じゃないですから。
―これ、映画づくりを学んでいる若者達みんなに、聞かせなきゃいけないね。
- 和田:
- 重要だと思いますよ、きっと。
- 増満:
- 名前付き、顔付きの名札あるじゃない。
―取材するときに使うプレスパスか。本格的だよね。
- 川口:
- あれが無いと、NHKもそうだけど、どこも入れる事が出来ませんから。
―逆にプレスパスさえあれば、オリンピックスの会場、どこでも行けちゃうんだよね。
- 川口:
- そうです。
―僕達もいつもTBSであれを発行してもらって、色んなイベントの取材に行くんだけど、プレスパスをもらって首にかけた時は、どんな気持ちでした?
- 増満:
- プレスパスをしてるおかげで、色んな場所にも行けたから。
ほんと、………ほんっと、自分にしか、《他の事では出来ない》と思ったんです。いや〜、………みんな、みんなよくここまで来れたなあ、と思って。
――小泉さんの話に戻そう!
- 和田:
- なんで?
- 川口:
- なんで小泉さんの話?
―いいよ。小泉さんにインタビューした時の事。
- 増満:
- 小泉さんへのインタビューで、「トーチラン見て、どうでしたか?」って(訊いたら)、「トーチラン、いや〜熱かったね〜。なんか体が熱くなってきましたよ」って言ったんですよ。それで、「長野の開会式に来てくれますよね」って言ったら、来てくれた。
―その時に「来てくれますよね」って増満君が言ったから、小泉さん来たんだ。
- 増満:
- そうそうそう。
―一国の総理大臣を動かしたわけね。
- 増満:
- そう。
―なるほど。トーチランでいうのは、皆で聖火リレーみたいに、手分けして走るやつのことだよね。あれが首相官邸に着いた時に、インタビューやったんでしょ?
- 和田:
- そうです、はい、彼が。
- 川口:
- トーチランの時に、スタッフの仲間と、カメラ(担当)だったんですけど、早く行かないと、トーチランが行っちゃうから、先に行かないとダメで、あれがほんと、しんどかったんですよ。
―トーチランが走ってるのを撮って、またビューッと先回りしなきゃいけないから。川口君がカメラを担いで必死になって走ってるそのシーンも、映画の中にあったよね。
- 川口:
- はい。もうダッシュで行かないと、トーチランが先に到着するといけないから、先にピューンって行ったんですよ。
3人とも、映画づくりという作業に対するプライドと自信に満ち溢れている。
■9人のこれから / リスナーへのメッセージ
―これから、この仲間と何がしたい?
- 川口:
- 僕は、映画づくりをこのまま続けたいですね。
―じゃあ、これから小栗監督と相談?
- 川口:
- はい。
―増満くんは?
- 増満:
- このまま終わるのはもったいないから、「クルー会」を作ろうかなと思って。
―この9人の同窓会みたいなもの?
- 増満:
- はい。「クルー会」を作って何をやろうかな。漫談とか、講演会。
―いいねえ。和田君は?
- 和田:
- 盛大なパーティーがしたいですね。映画『Believe』の記念に、お楽しみ会がしたいですね。ちゃんとしたイベント。プログラムがあったり。プログラム1番が、例えば映画監督の挨拶とか。クルーのメンバーの紹介。で、紹介の間にね、喋ってるクルーの写真が(舞台上に)出たり。ビリーブだけの時間を楽しみたい。
―それは、大勢のお客さんを呼んで?
- 和田:
- はい、もちろん。壇上に9人並んで、リーダーが一番先頭で! そこはリーダーに任せて!
- 増満:
- リーダー、大丈夫か?
―そうやって、皆にワーッと注目されるの、好きなの?
- 和田:
- うん、ほんと大好き。
―最後に、ラジオを聴いてる人に一言すつメッセージをお願いします。
- 増満:
- この映画を世界中の子ども達、観て下さい。
- 和田:
- 全国の皆さん、こんにちは。僕達の映画『Believe』、テーマは信じる。それを胸に秘めて、たくさんの方に、ぜひとも日本国内の皆様、僕達の映画を思う存分観て下さい。お願いします。
- 川口:
- 数多くの皆さんから、「スペシャル・オリンピックスの団体の事がまだ分からない」っていう声が届いているんで、この映画を観て、自分達、障がいが(あっても)、これから成長してくんだな、ということを実感して下さい。笑いあり、涙ありの映画です。ぜひ観に来て下さい。
この映画、小栗謙一監督率いるプロのスタッフが撮った映像と、この川口君達9人のクルーが撮った映像とが、ミックスして構成されている。総理インタビューの場面や、ラスト近くのクライマックスでのフィギュアスケートの長いシーンなど、ここぞという場面は川口クルーが撮ったものだ。プロの透明感とは明らかに違う、撮影者の呼吸まで刻み込まれているような映像だ。
今回のインタビューも、実はじっくり2時間ぐらいかけて収録し、それを先週・今週合わせて約30分に縮めている。本当は、長い沈黙や突然の脱線、繰り返しなどがあるのだが、それを編集でジャンプしたら(=リスナーの待ち時間を取り除いたら)、こんな楽しい会話になった。―――つまり、聞き手がちょっと待ってみたら、知的障がい者と言われる人達も、それぞれの言葉で素晴らしい考えを表明した、ということだ。
この人達は、言葉を《持っていない》のではない。ただ周囲が待ちきれずに先回りして「こうなの?」とお節介を出してしまうから、話す《チャンスを摘まれている》だけなのかもしれない、ということを、今回のインタビューで痛感した。
映画『Believe』は、来月(3月)中旬まで、東京・渋谷の『シアター・イメージフォーラム』で上映中。その後、各地でも順次公開予定なので、ぜひ御覧いただきたい。