G8に備える市民メディア(4)発信拠点、いよいよオープン!

放送日:2008/7/ 5

いよいよ明後日(7月7日)から始まる洞爺湖G8サミットに備えて、今週月曜(6月30日)、市民メディアセンターが札幌市内3ヶ所にオープンした。大手メディア用のプレスセンターとは別個の、市民メディアだけが自由に使える、専用の発信拠点だ。
市民メディアというものが世界に広がっているんだ、ということは、この分野で大きく遅れをとっている日本社会では、今まで話に聞くだけで、目の当たりにする機会は無かった。しかし今回は初めて、各国から本当に市民記者達が今、このセンターに続々集まってきている。
今朝は、この準備活動に専念してきた、G8市民メディアセンター札幌実行委員会・広報担当の加藤知美さん(眼のツケドコロ・市民記者番号№69)に現在の状況を伺う。

――ついに、目に見えて「(市民メディアの世界的拡がりって)ホントだったんだ!」っていう感じですか?

加藤: はい、実感しました。今朝も、5時頃にラジオの放送をしていた、メキシコの方がいました。本当に国際色豊かで、その為にトイレからゴミ箱から、全部多言語表示にしております。

■それぞれの国の言葉で、ラジオ・映像・記者会見

――札幌市内3ヶ所、というのはどういう所ですか?

加藤: 1つは、天神山という、札幌市豊平区にある公園の中の建物なんです。ここを24時間使ってまして、ラジオのスタジオとか、(ビデオ)編集室、いろんな交流が出来るスペースもある大きな所です。

――24時間というのは、世界中の市民記者が集まっていて、いろんな時間がそれぞれの(国の)昼間だから、ということですね。あとの2ヶ所というのは?

加藤: (2つ目は、)北海道大学のクラーク会館という建物をお借りしまして、ここは、いろんなNGOの方が記者会見をするという会見場になってるんです。なので、市民記者の拠点ではありますけれども、マス・メディアの方もここを利用してNGOの情報を得る、という取材活動をされています。
 3つ目は、西18丁目と呼んでますけれども、ここではインターネットによるライブ配信が行なわれています。1日の出来事をダイジェストでお送りする「インターネットニュース」を、毎日夜10時から30分間、ナマ放送しています。放送は一昨日(7月3日)から始まっています。

――言葉は、どうしているんですか?

加藤: これは主に、日本人の方が見て楽しめる(ための番組なので)、基本的には、日本語です。ゲストが海外の方だと、通訳を交えて、という感じです。

この「インターネットニュース」は日本人向けに日本語で発信し、世界に向けての発信は、それぞれの国の人がやっているから、母国語で発信する、というわけだ。

■「どこの話?」から「どうしよう?」になって…

年1回行なわれる『市民メディア全国交流集会』が、昨年の9月に札幌で開催された模様は、このコーナーでも紹介した。加藤さんは、その時の実行委員長で、本番当日、乾杯の音頭取りをしている様子が、私のオフィシャル・サイトの動画『けんいち.TV』第6回の冒頭シーンにも映っている。私もその数ヶ月前、札幌での準備会に参加したが、その時に「来年の洞爺湖サミット、どうするの?」という話が出た。

加藤: 『市民メディア全国交流集会』の準備の段階で、G8サミットが洞爺湖になったということで、「あぁ、来年北海道、大変なんだ」と。私は実はその時、「サミットって、自分の生活にあまり関係ない」と思っていたんですけれども、「今や、そうではない」と、下村さんから言われたんです(笑)。「1999年のシアトルのWTOの時から、世界中の市民メディアが集まってきて、NGOの様子を発信している。その市民記者の取材拠点、大きいプレスセンターというのがあって…」という話を聞いて。それでもまだ、「どこの話かなぁ?」と思っていました。

――あぁ、その時、加藤さんが物凄くきょとんとしていたのを思い出しました!

加藤: 何の事だか、本当に分からなかったんです。で、去年9月に行なわれた、その『市民メディア全国交流集会』で、「洞爺湖G8サミットで市民メディアは何が出来る?」という分科会をやったんです。そこで実際、その年(2007年)のドイツのハイリンゲンダム・サミットの時に、ロストック(という町)の市民メディアセンターで活動した方のお話も聞きながら、「どうしよう?」という事を話し始めたところから、準備がスタートしました。

■行政から場所を借り、公的助成金も得て

――加藤さんが今いらっしゃる天神山(メディアセンター)は、札幌市からの場所提供、ということですか?

加藤: そうなんです。今年3月に札幌市に要望書を出しまして、ずっと交渉して来ました。

――そして実際、契約が出来たということは、公的機関・行政も、この市民メディアセンターを公認している、ということですね。

加藤: そうですね。これはとにかく、日本で初めてのことなので、「一体どうなるのか?」と貸す方も不安だとは思うんですけれども、何せ24時間ですので、私達も自分達で交代で建物を管理したりながら、やっているところです。

――財源は、どうされているんですか?

加藤: 財源は非常に厳しくて、今も寄付を募っております。とは言え、去年からいろいろ準備していく中で、いろんな助成金・補助金の募集に対して応募をしました。そして、幾つかの助成金を頂くことになり、環境省が元になっている『地球環境基金』も頂いております。

――場所も財源も、公的な部分からサポートを得られているということですね。

加藤: そうです。いろいろ理解をして頂く為に、説明を尽くしました。こういう事は、「世の中にはいろんな見方があるということも知っていただくために、大事なことなんだ」という言葉が、何度も口をついては出ておりました。

■過激な暴力集団と同一視されて

今や、受け皿が出来上がって、世界から市民記者が続々と入ってきている。

――成田などの入国管理局でトラブっているということも聞きましたが?

加藤: ここが今週初め(6月30日)にオープンして、7月の2日、3日辺りから、続々と海外の方が多くなってきたんですけれども、入国出来ないというケースが幾つか出てきました。「日本に来て何をするんだ?」みたいなことで、どうもなかなかすぐには入国を認められなくて、入管で何時間も足止め・拘束をされたり…。

――つまり、「市民メディアの活動です」と言っても理解してもらえなくて、「暴力的な反対運動をしに来たんじゃないか?」と疑われている、ということですか?

加藤: そうですね。例えば、「滞在期間中の行動予定が明確でない」などというような事が言われるらしいんですが、何せ来てから情報収集して取材活動をするわけですから、事前に全てを計画して、というわけにはなかなか行かない話ですので。

――取材は発生に対応して行くものですからねぇ。実際に、それでスケジュールが空白だと、「帰れ」と言われてしまうようなケースが出ているわけですか?

加藤: そうですね。もしくは、滞在期間が短縮されたりとか、そういった不便な状況が出てきているようです。

こういった不慣れな局面になると、どうも日本は、未だに鎖国のような対応をとる癖が出てしまうようだ。この件では、今週月曜(6月30日)、東京の参議院議員会館でも過剰反応を憂慮する記者会見が行なわれ、法務省などに申し入れまでなされる事態となった。

――警備・安全対策という事情は分かりますがね…。

加藤: あくまでも、取材をしてそれを世界に発信するということを目的に、日本に来られている方達ですので、そういった形で入国が遅れたり足止めされたり、というのは、ちょっと寂しい気がします。どんどん日本から発信をして欲しいと思います。

――そういった誤解をされないために、本当に暴力的な行動をしようとしている人達が、市民メディアを装って、市民記者に紛れ込むことが無いようにする対策もしているんですか?

加藤: 入国したいという方に対しては、(事前にやり取りの上で)まず招聘状をお送りしてそれを持って来てもらったり、入国して札幌に着かれましたら、取材活動ということが分かるような記者章を持ってもらったりとかしています。

■ひと足早く本番突入、事務局は食事にまで配慮

――もういろんな情報発信が始まっているということですが、各国の利用者の様子は、いかがですか?

加藤: まずは情報収集ということで、この期間どういう状況があるのかを、皆さんいろいろ調べています。洞爺湖サミットは7日からですが、既に今日・明日辺りから、市民の大きな動きがあります。今日(7月5日)は、札幌市内中心部で、(皆で歩く)ピースウォークがあります。一応、1万人規模を予定しているんです。

――そういう報道から、本番突入、ということですね。

加藤: はい。市民メディアとしては、NGOの動きを報道するという意味では、正に今日・明日辺りが山場になるんじゃないかなと思います。

――これだけ世界からいろいろな市民記者が集まってくると、加藤さん達も受け入れ態勢が大変でしょうね。

加藤: やはり、いろんな文化の方がいらっしゃって、喋っていると楽しい部分もあるんですけれど、ベジタリアンとか宗教上の食事の決まりとか、食べ物が違うと非常に大変なところがあります。動物性の物を採らないビーガンと言う(徹底した菜食)主義の方もいらっしゃいます。そうなってくると、なかなか街中の普通の食堂で食事というわけにも行かなくなってしまいます。私共が今いる天神山のメディアセンターでは、毎朝30食、夕方50食ということで、そういったビーガン対応の食事の提供もしています。

――そこまでいろいろ準備されていたら、各国から来た人達からの評判も良いんじゃないですか?

加藤: そうですね。札幌はちょうど今、季節も良いですし、ゆっくり過ごして頂いて、取材活動に専念して頂けるという環境を一生懸命作っているところです。

――市民メディア界で日本の評判がまた上がるといいですね。

加藤: いいですね、はい。

■洞爺湖を包む霧の外にも眼を向けよう

――リスナーの皆さんの中には、「市民メディアがサミットを報じるということは、大手メディアが報じるのと何が違うんだろう?」という基本的な疑問もあると思いますが、大手メディアの報道では分からない、どんな面が、これから市民メディアで伝えられると思いますか?

加藤: G8サミットに対して、NGOはいろいろ独自に政策提言をしたりとか、違う考え方を表明したりしていますので、マス・メディアでは報道しきれない部分の情報が、インターネットで凄く沢山得られるんじゃないかなと思います。

「G8の首脳達は、現場の実感からかけ離れている」と大手メディアは度々批判するが、その大手メディア自身が、まさに“現場の実感”を訴える市民グループの声を「反対派」の一言で軽く片付け、首脳達の動きや考え方ばかりを圧倒的な比重で伝えているのだから、皮肉な話だ。このように情報源が偏るときには、逆の偏り(NGO等の動きや考え方ばかりを圧倒的な比重で伝える)を持った発信者にも、耳を傾けたほうが良いだろう。

――各国のそれぞれの市民メディアサイトで、ということになると思いますが、全然そういう所にアプローチしたことが無くて分からないという人のために、一番基本になる入り口はどこですか?

加藤: まずは(インターネットで)G8メディアネットワークと検索して、入って下さい。ここからニュースもいろいろ発信していますし、G8メディアネットワークTVということで、映像(動画)も沢山発信しています。かなりもう何本も記事が出ていますし、また今日も記事が沢山増えると思いますので、是非ご覧下さい。

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