堀田力氏ら、『教育再生[民間]会議』で真っ向から別の提言!

放送日:2007/3/ 3

安倍内閣が設置した『教育再生会議』は、5月の2次報告に向けて今も議論を重ねているが、今朝は、“もう1つ”の教育再生会議―――『教育再生“民間”会議』に眼をツケる。メンバーの1人、『さわやか福祉財団』理事長の堀田力弁護士(眼のツケドコロ・市民記者番号No.42)にお話を伺う。

――この“民間”会議というのは、いつから活動されていたんですか?

堀田: こういう名前で活動し出したのは、今年の1月からです。「3年B組金八先生」の小山内美江子さん(脚本家)、子供の電話相談『チャイルドライン支援センター』をずっとやっている牟田悌三さん(俳優)、そして元・文部省の嶋野道弘さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.6)というメンバーでやってます。

――メンバーに小山内さんがおられるということは、「金八先生」がもともと、「教育再生の提言だった」と?

堀田: そうなんです。

このうち、嶋野氏には、「総合的な学習を推進する緊急シンポジウム」の話で、以前このコーナーにも出て頂いている。

■地域で、親も育てよう

“政府版”の1次報告が今年の1月24日に出たが、同じ日に合わせて、“民間版”も提言を発表した。ゆとり教育を軌道修正して、教える知識の量を再び増やそうという“政府版”の基本姿勢とは真っ向から異なり、”民間版”は、「知識の詰め込みは、人間力の破壊行為」という強い言葉で警告を発している。

堀田: 政府は「詰め込み教育ではない」と言いながら、言っている事は全部、詰め込み教育ですからね。結局、大失敗した昔の詰め込みに、また戻そうとしている。「これ以上、子供をいじめてくれるなよ」と思いますね。

基本姿勢の宣言に続いて、まず「親の教育」、その後に「学校教育」、そして「地域の教育」という各論が続く。

――この順序には、こだわりが?

堀田: やはり、子供の教育というのは、親から始まるじゃないですか。親が《最初の教育者》ですよね。

“民間版”の提言では、親が担うべき教育のポイントを具体的に列挙した後、「不適切な子育てをしている親に対しては、親を指導する仕組みを作る必要がある」と述べている。

堀田: 歪められてしまった子供達、可哀想な子供達を見ていると、もう本人の責任じゃないんですよね。私達大人の責任、中でもやっぱり、小学生位までのレベルでは、断然、親のしつけによる歪みが大きいですよね。だから、その子供達を何とかしようとして、また詰め込もうなんてしたら、もっと酷い話になるんです。《親自身》がもっと伸び伸びと、子供の伸びる力を信じて伸ばしてくれるようにしてくれなきゃ、どうにもならない。でも親の教育って、なかなか難しいんですよね。

これは、批判ばかりされている現場の先生達が、泣いて喜びそうな提言だ。実際、現場で取材していると、学校任せで文句ばかり言う親の増加によって、先生達は明らかに疲れ切っている。
だが、具体的に誰が・どうやって、親を指導できるのか?

堀田: まさか親を強制入学させるわけには行きません。国の権力でやると、これは酷い事になりますから。やはり、これはもう民間の力です。たとえば、「自分の子供は可愛いけど、何とかもっと勉強させたい、賢くしたい」なんて、可愛さのあまり滅茶苦茶押し付けてしまったりする親御さん達に、「ちょっと違うんじゃないの?」と呼びかける。そういう方達は、近所で上手に呼びかければ出て来て下さいます。「もっと子供達をしっかり育てようよ」と、仲間として働きかけ、子供を意識的・無意識的に歪めてしまっている親御さん達も引き込んで、そして伸び伸びと育てる方向に持って行くような、そういうNPOを学校毎に作る。今年の4月から、放課後の学校開放を小学校でもやりますから、そこへ親御さん達も集まるようになります。そういう所で子供達と接しながら、「ああ、こういう風にすれば、もっと伸び伸びやるんだ」と分かる。そういう仕組みが必要でしょうね。

“しつけ”と“おしつけ(押し付け)”は違う、と言うわけだ。

■「総合」の復権、学年の緩和

続く「学校教育」の節で、なんと言っても異彩を放つのは、「授業時間をもし増やすのなら、その全てを『総合的学習の時間』に充てよ」という提言だ。

――これは、“政府版”に、真っ向から喧嘩を売ってますね。

堀田: そうですかねぇ。(苦笑) “政府版”は、「授業時間を10%増やす」と言っています。でも、何をするために増やすか、って、何も無いんですよ。政府がどうしても増やしたいって言うなら、「総合的学習の時間」にしましょう。これが、《人間教育の中心》というか、伸び伸び教育の中心ですから、これに「全部充ててくれ」という主張を、私達はしてるんです。

――今、「総合的学習の時間」は、設立した本来の趣旨を、現場がなかなか具現化できない中途半端な時間になっていて、どちらかと言うと、旗色悪いですよね。

堀田: 「総合的学習の時間」こそが、人間が将来、本当に幸せに生きて行く力を持ち、社会にとっても、今一番必要な人を育てる中核の教育なんですよ。だから、「これにしてくれ」「これがベースだ」と、こう言ってるんです。

そして、一般の教科に関しては、「最小限度の基礎知識以外は、学年の枠も超えて、1人1人の子供の興味に応じた選択クラス制度にせよ」と述べている。これを実行したら、かなり根源的な教育改革になるだろう。

堀田: 私共はもちろん、学年から全部開放しろと言うんじゃないんです。人間的な力―――これは、一緒に遊んだり、一緒に共同作業をやったりすることで育って行きますから、学年単位にやってもらいましょう、と。それから、誰もが身に付けなきゃいけない、基礎的な知識がありますよね。新聞の見出しぐらいは意味が分かりたいし、買い物のお釣りを間違えちゃいけないですよね。その程度の算数は、同学年できちんと身に付けなきゃいけない。でも、生きて行く最低限度の基礎がそこまで出来たら、後はもう、好きな事を勉強すればいいんです。算数とか音楽が大好きで、「もっともっとやりたい」っていう天才みたいな子を、何も皆のレベルに押し留める必要は無いんです。どんどん、それこそ中学生でも大学に入れるぐらいのところまで、好きにやればいい。本人にはそれぞれの能力があって、自分の能力に合った事って、やっぱり楽しい。これを思いっ切り、それぞれ伸ばす、という風にしようと思えば、学年にこだわってられないですよね。そういうことを、僕らは主張しているんです。「1人1人を大切にする」ということです。

■生徒も教師も、評価の仕方を大改革

“民間版”の提言は、こういう改革を実行するに当たっての現実的な壁となる大学入試問題についても、「入学試験が、人間力を身に付ける学習を誘導するものになるよう、研究する民間機関を発足させる」と明記している。

――入試自体を変えてしまおうと?

堀田: そうです。大学入試、高校入試があるからやっぱり、それに受かるように教えようとする。そうすると、入試に出る問題が全部解けるところまで教えなきゃいけない。これ全部、知識強化ですからね。入試センター試験の問題って、公表されるじゃないですか? あれ、出来ないですよ~。私、72年生きて来てるんだけど、歴史の問題なんかでも「見たことも、聞いたこともない。そんな知識、全く必要ない」というのがほとんどですよ。「こんな事を覚えなきゃ、大学にも行けないのか!」と、愕然としますよ。

また、教師の指導力問題は、“政府版”でも焦点の1つになっているが、”民間版”の提言の中では、教師の評価を「子供や、良識ある保護者によって行なう」という言葉がある。

――これ、難しくないですか? どうやって、「良識ある」保護者と良識の無い保護者を見分けるんですか?

堀田: もちろん全部の保護者に評価してもらいます。その上で、その書かれた事を読めば、良識があるか無いかなんて、分かりますよ。ここはやっぱり、良識のある方の評価を採用しないと、教師が歪みますよ。

単なる投票数で評価するのでは無く、指摘の内容を吟味する、ということだ。

■教師は地域へ、勤め人は家庭へ

また、教師に求められる能力の1つとして、「地域の協力を引き出す能力」と、提言には書かれている。しかし、現場の先生達に「総合的学習の時間」の難しさを訊くと、「地域の人材を見つけてくる時間なんて無い」という悲鳴がよく返ってくる。これは、教師の《能力不足》というより、《時間不足》の問題なのではないだろうか。

堀田: 地域の協力を引き出す能力、これは大事です! それはもう、地域に目をやれば、どの人がリーダーなのか、商店街で引っ張っている人は誰なのか、その商店街の誰か1人に訊けば、すぐ分かりますよ。「その人は、なんでリーダーシップがあるの?」「あの人は、こういう風に地域をまとめて、こうやっているんだよ」と。それで十分じゃないですか。それから、保護者会をやるわけですから、保護者の人達は相応に、それぞれ情報を持ってる。そしてやっぱり、一番情報を持ってるのは、子供達ですよ。「街で遊んでて、どこでお手伝いしてみたいと思う?」「どのお店が凄いと思う?」とか訊いてみる。あるいは、お父さん達です。自分の子供と日曜日に遊んでて、「あのお父さんの子供だったら良いなと思うお父さんは誰?」とか、我が子に訊けばいいんですよ。
情報源は、山ほどあるんです。それを全部、先生が自分でリサーチしようとしたら、そんなのいくら時間があったって、足りませんよ。

そういう情報源を《見つけて来る》能力が、地域の協力を《引き出す》というわけだ。

「地域や社会の教育力」という項では、期待される役割が沢山列挙されている。これが“お題目”に終わらないようにするための具体的な提言として、「企業・官庁は、勤め人が定時に帰宅できるようにしよう」とある。これが実現して、「親子の時間が平日の夜に急激に増えたら、どう過ごそう?…」と、働き過ぎパパの私は、思わず考え込んでしまった。

――これが実現したら、結構、インパクトありますよね?

堀田: そうですね。この(勤め人の)方々が家庭に戻らないと、これは当然、地域と繋がらない。子供とも繋がってないですよね。ですから、お父さんがたまに早く帰ると、子供はスーッと立って子供部屋に逃げて帰っちゃうじゃないですか。

この提言は、読んだ父親達の胸を痛め、「どうしよう…」と己を省みることを促す効能が、かなりありそうだ。

堀田: 私も、胸を痛めました。(笑い) 私共、「お父さん、地域に帰ろう」という運動は、15年前、このボランティアの世界に入った時からずっとやってますからね。

■《代案》を、現場の力で広めたい

――今後は、活動をどう展開されるんですか?

堀田: まずは、『教育再生民間会議』のいろんな提言を、今後も続けます。また、“政府版”の提言で具体的になったものや、「問題あり!」と思うものについては、どんどん、代案を提言して行きます。これはもう、皆さんに、どっちが良いのか考えて欲しいからです。たとえ(“政府版”が採用されて)基本方向が少々おかしくなっても、その中に(現場レベルで“民間版”の)良いものを盛り込んで行けば、何とか救われるじゃないですか。だから最後は、《現場の力》という思いで、この理解・共感を全国に広めて行きたい。『さわやか福祉財団』のホームページでは、この提言への賛同者を募集しているんですが、そこには本当に熱いメッセージが沢山届いています。腰を据えて、まだまだ長期的にやろうと思ってます。

――せっかく代案が示されても、それが十分に報道されなければ、国民の選択肢の幅は広がりませんよね。

堀田: ですから今日、呼んでいただいて、本当に嬉しいです。

――また、展開があったら、来てくださいね。

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