いじめ自殺で送検と和解と…2人の母の思い

放送日:2007/2/24

今週月曜(2月19日)、2つの別々のいじめ自殺事件で、一方は「関係した生徒の書類送検」、もう一方は「いじめた側の生徒と自殺した子の親との和解成立」という動きが、偶然同じ日にあった。前者は、去年10月に自ら命を絶った、福岡県筑前町の中学2年生、森啓祐君の事件。後者は、8年前に自殺した、当時高校1年生の小森香澄さんの事件だ。
実は、この2つの事件のお母さん達は、今、たびたび連絡を取り合っている間柄だ。交流のきっかけは、小森さんの講演活動の様子をテレビで見た森さんが、小森さんに電話を掛けて来たことだった。

■つながっていく、当事者たち

森さんからの最初の電話が来たのは、啓祐君の自殺からおよそ1ヶ月後の11月17日、小森さんが川崎の中学校での講演(このコーナーで紹介)に向かう車の中だった。『サタデーずばッと』の取材で小森さんに付き添っていた私は、偶然にもその場に居合わせた。(以下、当時の録音より)

小森: どうも、初めまして~! お目にかかろうと思っていて、手紙も今日出すか、明日出すかって思っていたんですよ。会いたい! 会いたい! うん。体、大丈夫? めいっぱい? マスコミは、大丈夫?

私には、福岡から電話を掛けている森さん側の声はもちろん聞こえなかったが、小森さんは8年前に同じ思いをした体験者として、精神的な乗り切り方などを一生懸命アドバイスして、「近いうちに会おうね」と約束し、電話を切った。

小森: はい、これからも宜しくお願いします。ありがとうございましたー。じゃあ、また連絡させていただきます。失礼します、どうも。
[電話を切って下村に] なんと! なんと!! 電話をくれました!

下村: お母さんですか?

小森: お母さんから!

下村: こうやって、つながってくんですねぇ。

小森: 本当に…。

■泣いて謝る母と、「自分に返った」母と

そして、啓祐君の四十九日が過ぎたばかりの12月5日、小森さんは約束通り、福岡の森さん宅を訪ねた。
森さんの家に上がり、まず、啓祐君の遺影の前で手を合わせた小森さんは、肩を震わせて泣きながら、「娘の事件から8年も経っているのに、まだいじめ自殺を無くせず、申し訳ありません」と、啓祐君の笑顔の写真に向かって謝った。

森: とにかく、私の気持ちを分かってくれる方を探していたと言うか―――テレビの画面で小森さんのお話を聞いてて、「絶対に会いたいな」とずっと思っていましたので。

小森: 今日は、お話いっぱいしましょうね。

森: はい、ありがとうございます。

小森: 泣ける? ちゃんと、泣けてる?

森: いや、久しぶり、こんなに…

小森: いっぱい涙が…

森: なんか、気持ちが…気がものすごく張っていて、全然泣けてなかったんですよね。

小森: …でしょう。

森: 今日は本当に、初めて自分に返ったような気がして…。すみません、なんか。

「いっぱい涙が」と言う小森さん自身も、大粒の涙が止まらない。2人とも感情が溢れて、暫くは、途切れ途切れにしか言葉が出なかった。
やがて気持ちが落ち着いてからも、2人のお母さんは、啓祐君の遺影の前で何時間も語り続けた。

森: 笑顔が素敵な子だったので…。

小森: 本当に、笑顔が素敵ね…! これから子供たちが傷つかないように、大人たちがしっかりしないといけないですね。

森: そうですねぇ。

小森: でも、あなたはまだ、泣いていいから…。

■「弱いからいじめられる」んじゃない!

小森: (啓祐君は)家であんまり、辛さは語らなかったでしょ?

森: うん、全然。

小森: うち(香澄)も、あんまり語らなかったのね。いろんな子供に聞いたら、「お父さんが大好きだから、お母さんが大好きだから、だからまさか、親にだけは言えない」って。

森: うちも、前の日に友達が、「おじちゃんおばちゃんに相談したら」って(啓祐に)言ってた(そうです)…。でも本人は「いや、親だけには言いたくない」って。いろんな形で「なんで親は見抜けなかった?」とか、「親には相談できない関係を、親が作っていたんだ」とか言われるんですけど、本当に親に心配かけたくない子っていうのは、やっぱり一杯いると思うんですよね。―――いつも笑ってましたから。

小森: 人を笑わせるタイプだったんですね。

森: はい。そうです。

小森: (香澄も)同じ…。

森: 目立つ子でもあったですよね。だからみんなが「目立ってて、あんなに明るくて元気だったのに、いじめられているなんて思えない」って。

小森: 全く…同じ言葉をもらいました、香澄の友達から。
「あの子は弱い子だったんだ」って言われてしまうのって、やっぱり違うと思います。

森: そうですね。まぁその、よく言われます、その言葉も。

小森: 違和感、感じるでしょ?

森: 違和感、感じますね。

小森: 「弱かったのね」とか、「優しすぎたのね」とかって言われた時に、何かこう、刺さるものがありますよね。

森: そうですね…。

「弱いからいじめられる」という捉え方は、違う。―――これは、いじめの現場で非常によく聞かれる、今や“常識”ともなっている。実際、同じクラスの中でいじめのターゲットがある日いきなり変わる、という特徴が、最近のいじめにはある。その点だけを見ても、この2人の母親が違和感を覚えるように、「いじめられる側にも固有の問題がある」という見方は、全くの《古典的思い違い》だということは明白だ。

■支え合いのスタート

対話が終わり、小森さんが帰った後、森さんに話を聞いた。

森: 正直言って、下の子供(啓祐君の弟達)もいるんでね、「あなた(親)がしっかりしなくちゃ」と言われたりとか、「(自分が)頑張らないといけない」という思いの方が強くて、彼を悲しむ時間というのが、なかなかこの2ヶ月間、なかったような感じがします。特に、小森さんにお電話をした時は、「親が悪いんじゃないか」とか、中傷的なことを言われていた時期で、本当に主人も私も結構辛い時期だったので、小森さんの第一声の「会いたい!」という言葉で、本当に思いが伝わって(来て)、前を向いている小森さんを見て、本当に「私も前を向いて歩いて行きたい」と感じたのは事実です。

下村: これから小森さんとお付き合いを重ねていく中で、お二人は、何処へ向かっていくんでしょう?

森: まだちょっと見つけられないですけど、見つけて行きたいと思っています。難しいけど、やっぱりいつか(どこか到達点に)辿り着けたらいいかな、と思っています。

一方、小森さんも、自分とは事情の異なる森さんのしんどさを、帰り道で思いやっていた。

小森: 他の兄弟への遠慮というのが、生活の中で常にあると思うんですね。だから、私みたいに、1人っ子を亡くした親と、他に兄弟がいる場合の母親の苦悩というのは全然違うなと、彼女の苦労を想像しました。今日は、《スタート》っていう感じがします。

下村: 何の《スタート》ですか?

小森: 支え合いの《スタート》だし、どうやって生きて行くか、お互いが考える《スタート》だと思います。

■そして森さんは、動き始めた

今月10日、小森さんが主宰する、いじめ問題に取組む大人たちのNPO『ジェントルハートプロジェクト』が開いた東京での勉強会に、森さんが福岡からやって来た。これまでずっと息子・啓祐君のことを匿名にしていた森さんが、この勉強会で初めて、会場の参加者や報道陣を前に、実名でメッセージを語った。

小森(司会): 親御さんからのメッセージを紹介していただこうと思います。

森: …皆さん、こんにちは。私は、福岡県の筑前町から来ました、…森啓祐の母で、森美加と申します。

この後、森さんは、啓祐君の作文を紹介し、親としての自分達の思いを語った。そして、啓祐君の兄弟のこんなエピソードで、話を締めくくった。

森: 遺された(6年生の)弟から、「お兄ちゃんは、何も悪い事をしていない。僕達も、お母さん達も、お父さん達も、何も悪い事はしていない。だから僕は、胸を張って(4月からお兄ちゃんと同じ)中学校に行くよ」と言われた時、私たち夫婦は、子供達から大きな勇気を教えてもらいました。私たちは、亡くなった啓祐を含め、今でも家族です。これからも家族です。いつまでも、笑顔の絶えない啓祐を思い続けて、私たちは生きて行こうと思ってます。今日はありがとうございました。(拍手)

小森: ありがとうございました。

兄弟がいるから泣けない、と言っていた森さんが、その兄弟から、勇気をもらった―――。

「もうこれ以上、1人も同じ思いをさせたくない」という、同じ立場の他の親御さん達とも一緒に考え励まし合いながら、森さんと小森さんは、いじめ自殺の無い社会を目指して、これからも活動を続けて行く。

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