このコーナーに2回出演していただいた絵門ゆう子(本名=三門裕子/旧名=池田裕子)さんが亡くなった。昨日(4月7日)、聖路加国際病院のチャペルで盛大なお別れの会が開かれた。
■元気な活動、最期まで。
去年のクリスマスイブの朝に、このコーナーで絵門さんが語った、イブの思い出。
- 絵門:
- 4年前、聖路加国際病院に入院したのが12月26日で、その2日前のクリスマスイブは、私は東中野の渡辺医院で、もう息も絶え絶えで過ごしていたんです。そんな時、窓から、お隣の教会の信者の方達が外で歌う賛美歌の声が聴こえてきたんです。その声に、「ああ、まだ生きている」と癒されたんです。「もう命がダメになるのかな」っていう中で、クリスマスイブが今ある。あの日の事はやっぱり一番忘れられません。
やっぱりあのときに、4年後に自分の命があるとは思えない自分がいて、その自分に怖くて震えてました。そんな日々を過ごしてきましたから、4年経って2冊目の本が書けて、今ここにいる、このイブというのは、本当に、本当に嬉しいです。
絵門さんは、この2冊目の本、『がんでも私は不思議に元気』のタイトル通り、本当に不思議に元気で明るい人だった。最近では、対談や講演会などの合間には、ぐったりと横になっている事が多かったというから、病状の進み具合からすると、もっと元気がなくても当たり前の状態だったはずだ。それでも、ガンと共に生きる人生をテーマにしたさまざまな講演会や、自作絵本『うさぎのユック』などの朗読会を精力的に続けていた。
前回一部分をご紹介した、『うさぎのユック』朗読会。2月下旬には、絵門さんの地元である千葉県八千代市で、子ども達も出演して行われた。その模様を電話で報告してくれたとき、彼女は「私ね、出番の時以外は舞台裏のソファでひっくり返っていたのよ」と、明るい声で話していた。
続いて先月、あるボランティアのビデオテープ作りでナレーションをやってみないかと誘ってみると、「ごめんなさい、私いま、講演以外に向ける体力がまったくないの」と、断りつつもやはり明るい声だった。それが、私が絵門さんと話した最後となった。
活動の一環で訪問した病院で出会った小児ガンの女の子、小学6年生のまゆちゃんと、絵門さんは一緒に絵本を出そうと指きりげんまんの約束をしていた。そのまゆちゃんが先に逝ってしまった話を、前回のスタジオで語っていた絵門さん本人が、今、その後を追った。
■果たせなかった『また呼んで』
前回このコーナーに出演してくれたときのエンディング−−−絵門さんとの最後の会話は、こんなやりとりだった。- 絵門:
- どこまで生きられるか分からないけれども、できれば、煩悩がなくなると言われている年齢の、108歳まで生きたいと思っています(笑)。
―来年か再来年か分からないですが、3冊目のタイトルが決まったら、是非教えてください。
- 絵門:
- これにね、「追悼」って帯は似合わないでしょう?
―当たり前じゃないですか! また、来年の活動の報告を楽しみにしています。
- 絵門:
- はい、また呼んでください。今日はこんなイブの日に呼んでいただいて、ほんとにすごく記念すべきイブになりました。幸せです。ありがとうございました!
『また呼んで下さい』の一言を受けて、次回のこのコーナーへの出演の話も、実は具体的に決まっていた。エム・ナマエさんと一緒に製作した、新しい絵本がつい先日完成したのだ。全盲のエムさんの描いた主人公の女の子が、絵門さんの雰囲気によく似ているということで、絵門さんも大変喜んでいたという−−−。冗談で言っていた《追悼》という帯は、現実のものとなってしまった。
最後に、絵門さん自身が前々回スタジオで朗読してくれた著書の一節と、『うさぎのユック』のテーマソング「光る星があったから」の歌詞を再掲して、故人を偲びたい。
(著書『がんと一緒にゆっくりと』より)
がんのおかげで、私は人間として、少し成長できたと思う。がんになったことを、もろ手を挙げて良かったとは決して言えないが、それでも、がんになったことも含めて、自分の人生をけっこう楽しめ、捨てたものじゃないと思えるようになった。これからも、がんから逃げず、がんの問いかけに一つずつ真面目に向かい合って生きていってみようと思う。そしていつか、もろ手を挙げて「がんになれて良かった」と言える日を迎えたい。
今はまだ、あまり大きな声ではないけれども、小声でなら「ありがとう」と言える。がんに向かってこっそり「ありがとう」と言う時、私はけっこういい顔をしていると思う。
私の最後の一呼吸がいつになるのかはわからない。でも、最後の一呼吸まで、私は『がんちゃん』に「ありがとう」と言い続け、生きていくことに向かっていたいと思っている。
「光る星があったから」 作詞・歌: 絵門ゆう子
(樹原涼子CD『harahara倶楽部』より)
♪ 何度もみつめた 君の後ろ姿 生きぬいて欲しいと 祈りをこめて
何度も探して 呑みこんできた 君を励ます 言葉と思い
できれば 一緒に 歩きたい 君が 歩いてる 険しい道
続く道の 向こうに ほら 何万光年 遠くから
青い雲のうしろ 見てごらんよ 君に 届く光 ♪
(絵門ゆう子 著 『がんでも私は不思議に元気』P210より)