以前このコーナーで別々の機会にご紹介した2つの取組みが、この程揃って、愛知万博のイベントの1つ「愛・地球賞」という大きな賞を受賞した。地球環境問題解決の為の有力技術100件が、日本を含む世界24ヶ国から選ばれたのだが、その中に、一昨年1月紹介の「ふゆみずたんぼ」と、同じく一昨年5月紹介の「水をゆっくり濾過するシステム」が入選し、それぞれが賞金100万円を獲得した。授与式は、9月1日に行われる。
このうち「ふゆみずたんぼ」の方は、一昨年の放送の時は「冬期湛水(タンスイ)田」という難しい呼び名で御紹介したが、こんな馴染み易い名前がつけられた。あちこちの米作農家が実践している、この「ふゆみずたんぼ」で今回「愛・地球賞」を受賞した団体は、なんと『日本雁を保護する会』! 白鳥や雁といった渡り鳥が羽を休める恰好の場所として、水を張った冬の田んぼが機能している点が注目されたようだ。「農業」といった1つの分野に限定されない、広がりをもった環境改善技術、ということだろう。
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そして、その「ゆっくり濾過システム」研究・提唱者の中本信忠教授(信州大)と、「ふゆみずたんぼ」研究者の岩渕成紀さん(高校教師)の2人が偶然そろって参加するフォーラムが、来週末に開かれるという情報をキャッチした(詳しくは文末参照)。会場となる栃木県茂木町の、土づくり推進室長・矢野健司さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.2)にお話を伺う。
―この『もてぎ自然環境フォーラム』では、中本教授と岩渕先生の他、矢野さん御自身も、単なる受け入れ側としてだけではなく、講演もされるんですよね。プログラムによると、演題は「森の菌に働いてもらい自家製堆肥」。実はこれまた、去年の農林水産省の農村振興局長賞を受賞されたプロジェクトだそうですが、どういう取り組みなんですか?
- 矢野:
- これは、町がゴミを集めて堆肥化する直営工場の話なんです。バイオマスを活用し、化石燃料に代わる自然のエネルギー、自然生物を利用した取り組みです。環境を良くするために有機物を堆肥化して、それを土に返して、安全・安心な農作物を作る。「人と自然に優しい農業めざして」ということで、私どもの『有機物リサイクルセンター・美土里館』で進めています。一般家庭から出る生ゴミと、町内の13軒の酪農家から出る260頭分の糞尿を、こちらに持ってきて堆肥化してます。
―その生ゴミや糞尿というのは、町として買い取られているんですか?
- 矢野:
- いや、これは「処理料」というのを逆にもらっています。町民の方には、とうもろこしからできている袋を1枚15円で買ってもらう方式。牛の糞は、1トンあたり千円前後を支払ってもらっている形です。
―演題にある「森の菌」というのは、何ですか?
- 矢野:
- 堆肥を作るには、発酵菌が必要なんですね。昔、茂木町はタバコの特産地で、そのために山の落ち葉を集めて堆肥も作ってたんです。それで、落ち葉というのは素晴らしい能力を持っているというのを前々から感じていたので、これを原料にすれば、きっといいものが出来るはずだということで始まりました。しかし、実際に大きな工場でやったことは無かったんです。でもやってみると、すごい力があるんですよ。いろんな"土着菌"というか、地域に"住み慣れた"菌が発酵を良くして、土に返ったときにも環境に馴染んでいるので息が長くて、すごくいい働きをするんです。
―菌にも、"地元菌"というのがあるんですねー。
- 矢野:
- 私の考えでは、普通、菌というのは暑くなったり寒くなったりすると働かなくなったり死滅したりするんですが、地域に慣れ親しんだ菌は、そういう状況でも活躍できるんです。
―その地元菌がたっぷり付着した落ち葉は、どうやって集めているんですか?
- 矢野:
- 15〜20Kgくらい葉が入る大きな袋を町内の希望者に無料で配布して、それに落ち葉を詰めてもらって私どもが回収するというシステムで、1袋400円で買い取っています。1日に1人で大体15袋くらい集められるので、山を掃除して落ち葉を集めれば、1日6000円くらいのお金になるんですよ。これは結構喜ばれていて、袋の取り合いになるぐらいなんです。100人くらいがその事業に携わっていて、冬には仕事が無かった人の新しい雇用創出にもなっています。山はきれいになるし、収入にもなるし、さらに、その100人の方が「働いて、気持ちいい汗を流して、健康になれる」って言うんですよね。実は、アルコール中毒だった人が2人治ったんです(笑)。町としては、100人の健康にもなるし、ゆくゆくは治療費の削減にもなるんじゃないかと思ってます。
―すごくいい循環が生まれていて、一石二鳥どころじゃないですね。 で、実際に出来た堆肥は、どう使われるんですか?
- 矢野:
- よく言われるのは、「この堆肥を使うと虫がつかない」ってことですね。土の環境が良くなって、農産物が元気に育つんです。耐病性も強くなりますし、「農薬の使用も半分以下になった」という声も聞いてます。ナスやトマトも、姿形も良くて味も凝縮されておいしい"優良商品"ばかりが出来るんです。市場でも、そういうのが口コミで広がって、「茂木の農産物は素晴らしい」と評価されてます。
―その堆肥で出来た野菜も、地元で消費して、いわゆる"地産地消"しているんですか?
- 矢野:
- そうですね。消費者から、そういう農産物は識別できるようにして欲しいという要望がありまして、それで、「美土里シール」をいうのを作りました。それを農家の方に1枚1円で買ってもらって、「美土里堆肥栽培農産物」の目印として貼ってもらう制度をつくりました。お店でも、そのシールが貼ってある農産物から売れていくという状況ですね。
それから、穫れた農産物は地元の学校給食にも食材として提供され、その給食で出た生ゴミがまた堆肥原料として美土里館に戻って来る、というサイクルも出来上がっています。
―まさにアイデア商売で、本当にうまくいってるんですね。こうしたお話が来週のフォーラムでは聞けるわけですね。
- 矢野:
- 今度のフォーラムでは、早急に取り組むべき地球温暖化問題もありますし、こうした《地域資源循環》や《循環型社会》を広めたいと思ってます。この2年間で私が躓いたことや戸惑ったことも全部そこで披露して、それを皆さんがフォーラムの2日間で理解してくれれば、皆さんの地元での導入プロセスがものすごく短縮されて、"節約"になるんじゃないかと考えてます。
成功事例なのに、あえて失敗談を語るところが、とても参考になりそうだ。
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フォーラムでは、この矢野さんのお話と、冒頭で紹介した「水をゆっくり濾過するシステム」と「ふゆみずたんぼ」についても全てを一度に聴くことができる。さらに、堆肥工場見学もプログラムに組まれているし、棚田のホタル鑑賞、北海道キタキツネ物語、那珂川の鮎と野草料理等、本当に楽しく美味しい2日間になりそうだ。
『もてぎ自然環境フォーラム』
・日程…7月9・10日(1泊2日) ・参加申込み締め切り…7月4日(月)
・申込方法…主催者事務局へFAXを。→ 03-5695-1789
参加希望、名前、自宅連絡先(FAX番号等)を記入。
折り返し、案内や申し込み書類等が届く。
・主催団体…NPO『メダカのがっこう』
※当コーナーでもかつて紹介しています。