除草剤不要!「冬期湛水田」の試み

放送日:2003/01/25

今日明日(1月25日、1月26日)と、”ネットワーク未来シンフォニー”という市民グループが主催する、「除草剤を使わない稲作りフォーラム」が、琵琶湖のほとりで開かれる。その中のある円卓会議のテーマ『冬期湛水田』というテーマに、今回は眼をツケよう。―――これは、「冬の間も田んぼに水を張っておこう」という発想だ。

実は最近、日本全国でぽつりぽつりと、冬の間も水を張ってある田んぼが増え始めているそうだ。昔は、水がそのまま張ってある田んぼもあったそうだが、最近は冬は水をぬいてしまってカラカラ、というのがスタンダード。一体、冬も水を張っておく田んぼとはどんな物なのか、実際に実施している福島県郡山市の米作り農家、中村和夫さんに、電話でお話を伺う。

−いつ頃から始めておられるのですか?

中村:
平成11年の暮れからです。我々は今迄に何度も、除草剤を使わない米作りに挑戦してきたのですが、私の所は冬の間、雪は降っても降水量が少なく、田んぼがカラカラになってしまいます。そうすると、春になると草がたくさん生えてきてしまうんですね。色々思案をしてみたんですが、その時、冬の間も水を張っておいて、酸欠状態にしたら春草が生えないんじゃないか、という話を聞いて、早速やってみたんです。
うちの方はたまたま、自然の流水を使っているので、一年中水が流れ込んでいます。それを田んぼに引き込んでおけば良かったんです。

−今迄にはどんな取り組みをやっていたんですか?

中村:
鯉の子供を田んぼに放してみたり、除草機を取り入れたりしてみました。ですが、もっと手間暇のかからない方法はないものか、と模索していた所なんです。

−効果の方はどうですか?

中村:
今迄は、スズメノテッポウという草が絨毯のように生えていましたが、二年目には、ウソのように草が無くなりました。
田植えの際も、土が軟らかくて簡単になりますし、土の生命力もかえって強くなるように感じています。お米の出来も、むしろ旨くなってきてるのではないかと自分で思っています。単に、抑草効果を考えて始まったことなんですが。

これについては、雑誌「現代農業」の昨年11月号に、興味深い記事が掲載されている。 同じように、冬の間田んぼに水を張っておく方法にチャレンジした、千葉県佐原市のコシヒカリ農家・藤崎さんによれば、土がとても軟らかくなり、「トロトロ層」と言われるものが出来たそうだ。このトロトロ層の中には、微生物やイトミミズがたくさん住み、残っている稲ワラを分解して肥料に変えたり、イトミミズの糞も肥料になるそうだ。また、イトミミズは口を下にしてエサを食べ、上にフンをするので、自動的に耕す(下の土を上に掘り返す)効果もあるらしい。

−それ以外にも、珍しいことはないですか?

中村:
白鳥が池と間違って冬の間に来たりもしています。最初の年、近くの子供達が「中村さんの田んぼに白い鳥が来ている」と言うので行ってみると、12月のクリスマス頃、5羽の白鳥が来ていました。それからは白鳥が増えるばかりで、去年一昨年の多いときで300羽、今年も120羽くらい来ています。普通は猪苗代湖とか阿武隈川とか、著名な所にしかいないんですが、まさか自分の家で見られるとは思ってませんでした。これは誇りですよ。

−それだけ白鳥がいると、これまたフンが翌年の肥料になったりもするわけですよね。

中村:
それが、去年はイネが倒れてしまったんです。あれだけ白鳥がいるから、フンには注意してたんですが、多すぎてチッソ過剰になって、立っていられなくなってしまったんですね。

−ぜいたくな悩みですね。

冬期湛水田に鳥が寄ってくるという現象は、日本各地で確認されている。白鳥の他にガンが寄ってくる場合もあり、「日本ガンを保護する会」もこの効果に注目しているそうだ。今日本では、渡り鳥の羽を休める場所が減っており、数少ない場所に一極集中するという問題も起こっている。だが、田んぼに水を張っておくことにより、鳥の休息所を分散させる効果があって、鳥の伝染病の急拡大防止などにも効果が期待されている。この効果は世界的にも注目されており、「日本ガンを保護する会」の岩渕成紀さんの資料を読むと、韓国・フランス・イタリア・スペインなどでも実施され始めている。

−色々な試みをやって、自然に優しい物を取り入れなければいけないですね。

中村:
そうですね。田んぼ=米を取る所とだけ見ていたけれど、田んぼの中の生き物等にも興味がでできました。

−今後の課題などは?

中村:
土地改良区などの場所によっては、田んぼに水を入れるのにポンプを使う所もあります。そのような所のために、冬季の水源確保の問題がありますね。
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