高遠菜穂子のイラク月例報告(2)子供達の職業訓練開始!

放送日:2004/10/23

先月、アメリカ同時多発テロから3周年の「9・11」をきっかけに始まった、高遠菜穂子さんのイラク現況リポート。第2回の今日は、イラクの隣国ヨルダンの首都アンマンに滞在中の高遠さんに、国際電話でお話を伺う。

※写真右:「月例報告第1回」に出演時の高遠さん(04/9/11)

―前回出演頂いた時も、ヨルダンからの帰国直後でしたが、再びそこにいらっしゃるんですね?今回はどのような目的ですか?

高遠:
9月26日に日本を出て、まずローマへ。その後、10月5日にヨルダンに入りました。前回と同じように、現地のイラク人スタッフにアンマンまで出て来てもらって、ファルージャのプロジェクトと子供の自立支援プロジェクトの打ち合わせをしています。また今回は、薬の緊急支援も要請されたので、そのお手伝いもしました。

―イラクで拘束され「殺害」と報じられていたNGOのイタリア人女性2人が、ちょうど高遠さんがローマに立ち寄っている最中に、生きて解放されましたよね。その時、高遠さんが現地イタリアのメディアに一生懸命コメントしている様子が日本のニュースで流れましたが、あの件にはどのように関わっていたのですか?

高遠:
拘束されていたシモーナ・トレッタさんのご家族と面会をしているときに、ちょうど人質解放の知らせが入ってきました。びっくりしました。

―その後、日本で高遠さん達が受けた「自己責任」バッシングみたいなことって、イタリア国内ではこの2人に対して、どうでしたか?

高遠:
解放された後、じわじわと「身代金を払った」とか「払わない」等の話は出てきましたが、その話自体はそんなに長引きませんでした。出演したワイドショー等でも、イタリアの皆さんはイラクの現状に関心が高いので、「なんでこんな(人質)事件が起きたんだ」という(本来の)話になっていました。その辺は、「すごいな」と思いましたけど。

―“迷惑を掛けたじゃないか”論みたいなものは、番組には出てこなかったんですか?

高遠:
一部の新聞等では、あったみたいですけど、テレビに出ている限りではそのような事は、あまりなかったと思います。「身代金は払ったと思いますか」と質問された事はありましたが、あくまで憶測という感じでした。

―解放された2人は元気ですか?

高遠:
そうですね…。でも、かなり疲れている様子だったので、記者会見では「しばらくは休みたい」と話していました。

―本題のイラクの現状についてですが、今回高遠さんが行なった「緊急支援」とは?

高遠:
ローマに滞在中に、バクダッドのムハンマド医師から、「緊急支援で、抗生物質・コットン・ガーゼ・包帯などを含め、薬品が欲しい」との要請がありました。そこで、イラク現地スタッフのリーダーのスレイマンさんに、バクダッドで薬を調達してもらい、アンマンにいる日本国際ボランティアセンターの原さんと連絡を取り合って、対応してもらいました。

この緊急支援は、日本国際ボランティアセンターの資金が中心ですが、私が今回、NGOの細井さんから預かってきたお金とあわせると約7400ドルありました。支援物資は2回に分けて、主にファルージャとサドルシティに送りました。もう実際に現地に届いて、ファルージャからは領収書が送られてきています。

―高遠さん達の活動って、いつも現地の人たちとリンクしているので、結果が出るまでが本当に早いですよね!

高遠:
原さんとも「スレイマンさん達を含め、現地の対応が早かった」と話しています。

―これは緊急対応ということでしたが、もともと今回の主目的は、ファルージャ再建プロジェクトの進行ですよね?

高遠:
はい。今年1月から私達が拘束されていた間までに全国から寄せられた寄付金(残高約800万円)で、ファルージャの空爆被害を受けた学校施設の再建をしていこう、というのがこのプロジェクトの主旨です。

―最近、またファルージャへの米軍の攻撃が激しくなっている様子が日本でも報道されていますが、高遠さんの現地の活動仲間は大丈夫ですか?

高遠:
このファルージャ再建プロジェクトのパートナー・グループに、現在14名のメンバーがいますが、新しく2人が入る予定でした。ところが先月、サマラで大きな掃討作戦があって、大勢の子供が亡くなったという報道が日本でもあったと思うのですが、そこにその2人は行って、米軍の狙撃に遭って死亡してしまいました。

彼らとしては、「死者何名、負傷者何名」だけでプツンと切れてしまうニュースを、イラク人が「どのように死んでいったのか」、「病院はどういうことになっているんだ」、「家族はどうしているんだ」とかいう事を、彼ら自身の手で記録しようとしていたんです。ところが、カメラを持っているという理由で、2人とも狙撃され、殺されました。

別の現場でも、また別の1人が、カメラを持って行ったら、米軍に撃たれたんですよ。その人は怪我はありませんでしたが、このように、報道したり記録したりする行為に、極端に圧力が掛かっているように感じられます。

外国人の報道陣がほとんど皆無の状態で、現地人の中にも、イラクの現状を見るに見かねてビデオやカメラを手にする人が結構いると思うんですよ。だけど、実際に持った人は、こうやって撃たれてしまう。

―それは、カメラが“武器”に見えるから、ではないですか?

高遠:
武器に見えたのか、撮られるのがイヤなのか、どっちにしても連続してそのような事が起きています。ちょっと、米兵側がかなり敏感というか、恐怖心があるみたいです。

―メンバーになるはずだった2人が亡くなったりして大変だと思いますが、プロジェクト自体の進捗状況はいかがですか?

高遠:
30万人いるファルージャの市民の半数は、疎開しています。しかも、包囲攻撃があるので、ラマディではプロジェクトが展開できません。そのため、比較的空爆が落ち着いてきた郊外の学校をまず選定して再建プロジェクトを進めよう、という話になっています。再建する学校は決めた、との報告はありましたので、今、その見積もりと写真が到着するのを待っているところです。早ければ、今月中には工事の着工が出来るのではないかと思っています。

彼らの前向きな気持ちがすごいな、と感動します。戦闘が激しくなっている時こそ、プロジェクトを続けて、そこに働き口を作ることで、若者が戦闘に流れて行かないようにしたいな、と私達は考えています。

―もう1つの「ストリートチルドレン自立支援プロジェクト」の進捗状況はいかがですか?

高遠:
こちらは、スレイマンさんに力を発揮してもらっています。子供たちの職業訓練が実際に始まりました。最初のグループは14人いますが、大工、溶接工、料理人、理髪師になるための訓練が始まっていて、写真を頂きました。

―本職の人の所に派遣されるという形ですか?

高遠:
スレイマンさんが、各会社やお店の雇用主と話して、1ヶ月〜半年の職業訓練の契約をとりつけています。その間子供たちへは、日当と交通費として、日本の皆さんから頂いた寄付金から、お金が支払われます。そして、訓練期間が終わると、正式雇用になります。

―先生役の職人さん達の協力はどのように取り付けているんですか?

高遠:
これは、スレイマンさんに各お店や工場で事情を説明してもらっています。でも、最初は“ドラッグをしていた子供たち”ということで、快く引き受けてくれはしなかったようです。

スレイマンさんにアンマンに来て頂いた時に、子供たちの写真を持ってきてもらいましたが、彼らの変わり様を見て、かなり興奮してしまいました。私がバクダッドにいた時は、彼らはドラッグ浸けでした。1人の子は、シンナー中毒で、体が痙攣し泡を吹いたりして、体はボロボロ、ぼろ雑巾みたいな状況だったんです。それが、今回写真で見た時は、別人のように爽やかな笑顔で大工仕事をしていました。

そうした写真の何枚かは、高遠さんの『イラク・ホープ・ダイアリー』に載っている。理髪コースの14、5歳位の子供達が、仲間を練習台にして、皆で真剣にはさみやバリカンで練習していたり、本当に良い写真ばかりだ。

スレイマンさんから高遠さんへのメールより―――
君に会ったこともない子供達も、君のことをよく知っているようです。なぜなら、子供達が、母親である君の事を彼らに話しているからです。アッバース君は、もうドラッグを止めたと言ってきました。君が人質にとられた時から、願をかけるつもりで止めたそうです。

―このまま、皆ドラッグを止められそうですか?

高遠:
ドラッグというのは常習性があって、特にシンナー等は簡単に手に入りますから、もしかしたら、仕事が上手く覚えられないとか、嫌な事があったとかで、またドラッグに走ることはあるかもしれないとは思います。これは、しょうがないです。しょうがないけど、「私は絶対に見捨てない」って事だけは伝えて行きたいと思います。

―イラク人の外国人に対する感情は、どんな状態ですか?

高遠:
この前、イラク人が集まっている場所に行った時に、日本の自衛隊の事でとにかく責め立てられました。「日本人だろうが、すべての外国人に対して疑う」という感じで言われました。あのガソリンスタンドで拘束された時(人質事件発生の瞬間、高遠さん達がイラク人たちに取り囲まれた時)のショックを思い出しちゃって…。

―じゃ、イラク人スタッフ達とアンマンでミーティングをする時なんかも、周囲を気にしなければならないんですか?

高遠:
そうですね。スレイマンさんが私達と接触しているのを、イラクから来ている人(例えばドライバーなど)に見られたくない、という状況です。とても深刻なことなんですよ。別れ際に、運転手が迎えに来たりするじゃないですか。そういう時は、私は外に見送りに行けないんです。他人のフリ。

―まるで、地下活動みたい。これは、黙々と実績を積んで、失われた信頼(高遠さんたちのせいでは全くないけど)を回復していくしかないですね。

高遠:
高遠:そうですね。はい。

【高遠さんの帰国報告会スケジュール】

11月2日   京都 精華大学
11月13日  長崎 ワールドスタディーズセンター「国際理解講座」
11月19日  宮崎 イラクピースキャンペーン(予定)
11月20日  宮崎 イラクピースキャンペーン(予定)
11月21日  長崎 佐世保 「平和大会」※ワークショップ
11月22日  宮崎 イラクピースキャンペーン(予定)
11月23日  宮崎 イラクピースキャンペーン(予定)
12月2日   京都 龍谷大学
12月3日   東京 青山「戦争と女性パート3」シンポジウム
12月5日   新潟 新潟宗教者平和の会
12月8日   北海道 とかち平和を考える市民の会(帯広)

日程は随時アップデートされるので、『イラク・ホープ・ダイアリー』で御確認を。

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