「ワン・コリア・フェスティバル実行委」体当たりの日々

放送日:2004/2/28

去年の1月頃から東京で、「ワン・コリア・フェスティバル実行委員会」という大変興味深い学生達の営みが、延々と続いている。目指すゴールは、ちょうど1ヵ月後の3月28日に代々木公園で、大掛かりなフェスティバルを開くこと。そこに向かって、在日コリアン学生・日本人学生・韓国からの留学生たちが一緒になって、何度も意見を衝突させながら取っ組み合い作業を続けているのだ。本当にこのまま当日を迎えることが出来るのか、ハラハラドキドキ状態!
そのスリリングな“産みの苦しみ”の途中経過を、実行委員に語っていただく。在日コリアンの立場からは、実行委員長の金永振さん、日本人学生の立場からは、広報担当の海老原周子さんにお話を伺う。

−まずはその、目指す「ワン・コリア・フェスティバル」って、どういうものなんですか?

金:
まずは「フェスティバル」としてきちんと≪楽しい≫という事、それを土台にしています。その上で、≪ワンコリア≫という言葉に含まれたメッセージを、きちんと来場者の皆さんに伝えようと。ワンコリアという言葉には、元々「朝鮮半島統一」とか「平和」とかいう意味が込められていたんですが、僕たちはそこから、「アジアの共生」だったり、「世界の平和」だったり、「お互いを尊重する」っていうところまで広げていこうという事で、『ワンコリア・フェスティバル』としてやっています。

−どういう経緯で、「やろう」ということになったんですか?

金:
もともと『ワンコリア・フェスティバル』は、20年前から大阪で続いていて、10年前からは東京でもやっていたんです。それを今年から、若者の手で作り直そうっていう動きがありまして、きっかけはそれでした。

−じゃあこれまでは、年配の大人の手で作られていた?

金:
そうですね。基本的に在日の人が中心になって、日本人が手伝うという形で。
10年前に東京で始まった時は、大阪と同じ「お祭」という形でやっていたんですけれども、やっぱり土地柄の違いがあったんですね。大阪はそういう活動がすごく活発なんですが、東京ではなかなか難しいみたいで、近年は「シンポジウム」という形で学者さんを呼んで、アジアはどうなっていくかとか、権利問題についての話をしていたんです。

−それをもっと楽しくしよう、という事ですね。具体的にはどんな事をやるんですか?

金:
例えば、メイン企画の一つに、『よさこいアリラン』というのがあります。僕達は札幌の『YOSAKOIソーラン祭』にかなりインスパイアされているんですが、あれは、日本各地の民謡とつながったお祭になっているじゃないですか。それを、『アリラン』という、韓国だけじゃなく朝鮮半島南北に伝わる民謡をつなげて、両者が存在できる祭りを作ろうと。意味もあるし、何より見ていて単純に面白いんですね。

そんなわけで、学生たちが口コミで集まって、実行委員会ができた。
私が今回眼をツケたのは、≪フェスティバル≫そのものではなく、≪実行委員会≫の方である。「日本と朝鮮半島の歴史」、「在日が抱える社会問題」、もちろん今の「拉致を含む日朝交渉」等、そういう事を“お勉強”する場なら、よくある。そうではなく、≪「ワンコリア」というイベントを作る≫という作業を通じて、身体を動かすことで、生々しく考え方がぶつかり合い、その都度なんとか前向きに乗り越え、互いの考えを尊重していく―――というプロセスが、今まさに熱く展開されている真っ最中なのだ。

−例えば、どういう事でメンバー同士がぶつかるの?

海老原: 私がメンバーに入ったのは去年の9月頃だったんですけど、主旨が全然固まっていなくて、3つくらいあったんですよ。「朝鮮半島の統一」をかかげたいという人もいれば、在日コリアンを日本の中の一部、ワン・パート・オブ・ジャパンとして捉えて、「日本の中での共生」を目指したいという人もいるし、むしろそうじゃなくて、「楽しいものをやればいいじゃないか」っていう人もいる。何に重心を置くかっていうのが皆違ったんで、そこを調整して、みんなが納得できるような一つのものにくくるのは、すごく大変な作業でしたね。

実は、今回の取材に当たって、70人の実行委員全員にアンケートをお願いした。質問は、
「あなた自身は、何を求めて(何を実現したくて)、この活動に参加しているのですか?」
の一つだけ。
回答は、大きく分けて4つの種類に分かれた。まず、一番予想できた、こういう回答。

求めている物1・「理念」追求型

  • 在日コリアンについて、多くの人に存在や想いを知ってほしい(日本社会でも韓国社会でも)。
  • 存在を知り、友達になれば、いずれ歴史も知る。
さらに、そうやって「知り合った」その先のゴールまで見据えている学生も。
  • 国交正常化を実現するためのプロセスの一部でありたい。
一方では、これとは正反対に、「そういう小難しさを払拭しようと思って参加」したという、回答群。

求めている物2・「楽しさ」追求型

  • 「無知は罪」「在日の事を知れ」「社会問題に興味を持て」といった言葉の偉そうさ。
    →大切なのは、議論ではなく、コリアをいかに楽しんでもらうか!
  • 「ワンコリア」をエンターテイメントで表現しようとしているところ。哀しい時こそ笑いが必要。
  • “在日はイケてる”という一面を提示したい。

−“イケてない”方に追い込んでいたのは、日本人の側でもあったわけですが…。この二つの回答群に代表されるように、「どういうイベントにするか」という根本的な主旨の部分で、ずっと堂々巡りが続いていたと。

金:
そうですね―――。在日コリアンだけをまとめるんだったら、実はまだ簡単なんですよ。「南も北もなくていいじゃん」とか、「在日コリアン、もっと楽しくやろうよ」とか。そこへ日本人の学生が入ってきた時に、それではくくれなかったり。更にそこへコリアンの留学生が入ってくると、彼らには徴兵制もまだ残っていて、南北問題っていうのは正に生々しい問題ですよね。その三者をまとめる主旨文は一体なんなのか、かなり難しいところでした。

−それは乗り越えつつあるんですか?

金:
一応…ですね。細かいところまで主旨を決めてしまう事が難しいので、大枠で、皆が共感できる文章を作った上で、後は個人個人が強い思いを持って参加しようと。それだったら皆まとまれるし、むしろそれが一番大切なんじゃないかっていう事で、今はまとまっている状況です。

−最近では、どんな事でぶつかっています?

海老原: 最近は…寄付金と、「ワンコリア」をどう解釈するか、でしょうか。
金:
そうですね。今は「お金」っていう現実問題が一番…。運営資金を集めなきゃいけないところに来て、それまで表層に出てこなかった≪思いの強さ≫の個人差っていうのが出てくるんです。ちょっと楽しみたいから参加してる人と、マジで参加してる人と。友達や身内に話してお金を集めるっていう作業が、軽いノリで参加している人にとっては重たいんですね。僕達は、そういう軽いノリで参加する人も大事にしたかったから、彼らに「お金集めて来い!」っていう事もできないし、かと言って、思いが強い人だけがお金集めに走って、そのお金で、軽いノリの人達が制作するっていうのもおかしな話だし。じゃあどうしようかって。
後は、ある程度は乗り越えたんですけど、未だに「ワンコリア」って言葉の解釈で揺れてます。「南北の共存」だったり、さっき言ったような「日本との共存」や「世界平和」という意味だったり。今、北朝鮮っていうだけで反感を持ってしまう空気がある中で、「ワンコリア」が持つすごく平和的な意味を、スタッフの中でも本当に受け容れられるかっていうと、なかなかそこまで踏み込めない現実があって。日本人だけじゃなく、在日コリアンですら、いつのまにか「日韓」友好のお祭になってしまったりとか。最近は寄付金の問題の方が大きいですけど、「ワンコリア」の意味についても、これから話し合っていかなきゃならないですね。

−でも、そういう意見のぶつけ合いというのは最初からできました?

金:
最初はやっぱり、僕も遠慮しちゃいましたね。どこまでが日本人の学生に言っていい事で、どこが受け取れないくらい重いものなのかが分からずに、素直に言えなかったです。それは、僕よりも海老原さんの方が、見ててもどかしかったと思います。
海老原: 私が関わっていてすごく思ったのが、例えば『よさこいアリラン』であったり『巨大チゲ鍋』であったり、確かに楽しそうな企画は一杯あるんですよ。ただ、在日社会の事、1世や2世の事を伝えるような企画が、最近まで全然なかったんですね。「果たしてこれでいいのか」って、日本人の立場から言おうとしても、なかなか、どうやって言えばいいのか―――。
金:
そうなんですよね。在日コリアンとして、1世や2世がどうのとか、そこには苦しみや差別が伴ってるんですよ。そういう事を「日本人の学生に伝えていいのか」って悩んでいる一方で、実は日本人の側から見れば「隠してるんじゃないか」って。一番問題なのはそこなんですよ。

そういう面から言えば、ぶつかり合えるという事は、“互いに表面的には分かっているフリをして、いつまでもすれ違い”というパターンよりは、一歩進んだ証と言えるのではないだろうか。

実行委員全員への質問の回答、先に紹介した2つの回答群が、イベント全体のあり方を意識しているのに対し、後の2つの回答群は、もっと個人的な動機だ。

求めている物3・「友とのつながり」追求型

  • メンバーの考え方や人間性に惹かれた。同じような歳だから、意見がぶつかり合うのが面白い。
  • 在日コリアンの問題には関わらないと思っていた身近な日本人の友達が一緒にやっている状況が何より嬉しい。(在日コリアン学生)
  • 歴史的背景が出てくると何も語れなくなるが、今、仲のいい友達の悩み解決の一助になるなら、それは素敵なこと。偽善ではない。(日本人学生)
  • 私(日本人)は、在日コリアンと同じ経験や感情を、《理解》しようとすることは出来ても、《共有》は出来ない。私は在日コリアンじゃないから。でも、それだけじゃ寂しい気がした。ワンコリアでなら、「祭りを作る」という作業を《共有》することで、経験をシェアできる。
求めている物4・「自分のため」追求型
  • 「面白い事」を作る側に回りたい(与えられる側でなく)。
  • やりがい・刺激を求めて。
  • 色々な人間に会ってみたかった。
  • 考える力を自分に身に付けたい。
1つ統一された動機があって、その旗の下に集まっている、という形では全く無いのだ。
創造力にも破壊力にも満ちたこのパワフルな実行委員会をまとめて、3月28日の「ワン・コリア・フェスティバル」当日まで持っていくリーダーの任務は、相当大変だ。実際、代表の金君は、アンケートでこう書いている。

  • 正直ビビる。自分と「ワンコリア」の関係って、一体何だ。正直わからん。
    けど「ワンコリア」って、いい言葉だと思う。堂々と探し物しながら、祭りの準備もしている。
金:
僕は『ワンコリア・フェスティバル』を始めてもう1年経つんですけれども、僕自身が朝鮮半島の問題にどう接していくべきか、在日コリアンではあるんですけれども、なかなか難しいところがあって。それを、フェスティバルを作っていく過程の中で、まず見つけなくちゃいけないと最初は思ってたんですけれども、≪僕が探し物をしている姿≫に共感してくれたり、一緒に悩んでくれたりする仲間がいて。その中で、「もういいじゃん」「わかんなくていいや」って。祭りが終わるくらいまでに分かればいいやって、そういう気持ちで今やってます。

皆が一斉に探し物をしているけれど、同じ1個のものを探しているわけではなく、銘々が、それぞれに探しているものを見つけられれば、それでいいのではないだろうか。「君の探してる物、これじゃない?」と、教えてあげることも、時には出来るだろうし。

−もしうまく進んで、空中分解せずに当日を迎えることが出来たら、どんなイベントになるの?

金:
さっき話した『よさこいアリラン』と、ステージでのライブ(音楽、ダンス、トークなど)が、見せ物としてはメインになります。後は食べ物で、『焼肉天国』っていう企画名で関東中の有名焼肉店を集めて、各店の名物をちょこちょこ食べ歩きできるようにします。後は、2メートルくらいの大鍋でチゲを作って販売するとか。それから『アジア物産展』。コリアが多いんですけど、日本の物産展も出展してくれて、色々見て回れます。日本人の美大生がリメイクして作った、チマチョゴリのファッションショーもありますね。他にもまだ、企画は進行中です。そういう情報は、ホームページ上で、随時更新していきます。

まだまだ展開はハラハラだが、今悩んでいる事も、必ずメンバーにとってプラスになるはず。
今回のアンケートで実行委員の学生たちから寄せられたコメントの中で、一番私の心に残った一言を、最後に御紹介しよう。

  • 正直、面倒くさい事は多いし、メンバーからはよく叱られるし、金も無くなるし、朝眠いし、
    犠牲になるものは多いが、このままいけば、最後に皆で笑えるのではないかと思う。


追記-----------------------------------------------------
この一ヵ月後、『ワンコリア・フェスティバル』は、無事に開催された。
好天に恵まれた代々木公園は、イベント来場者で大賑わいだった。

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