今回は、先週の火曜日から日曜日まで札幌で開かれていた、第11回YOSAKOIソーラン祭りの様子をお伝えする。一般市民がチームを組んで、札幌市のド真ん中『大通公園』のステージや、大通りそのものを踊り歩く。今年の参加者は、340チーム3万6千人にもなり、見に来たお客さんの数は、なんと述べ151万人!大変な規模の祭りだ。
この祭りは、たった10年前に一人の北海道大学の学生の思いつきで始まり、あっという間にここまで成長した。どうしてそんなことが可能だったのか、その秘密を書いた本が今月出版され、あまりの興味深さに現地・札幌まで出向き、私自身の目で確かめてきた次第。
その本は、「YOSAKOIソーラン祭り/街作りNPOの経営学」(岩波アクティブ新書/坪井善明・長谷川 岳著)。この長谷川岳さんが、この祭りの生みの親だ。
中村−今年の祭りはいかがでしたか?
- 長谷川:
- 今年は、ワールドカップの関係で、6月第2週の予定を第4週にズラしました。そうしたら、蝦夷梅雨にあたってしまい、6日間の会期のうち3日間が雨に降られてしまいました。ワールドカップ自体の影響もあって、お客さんは去年の3割減くらいでしたね。天候だけは、やむを得ないと思っています。
−踊り手も、実行委員の学生も、「自分が主人公だ!」と思えることが、この祭りの人気の最大の秘訣だな、と思えるのですが?
- 長谷川:
- 参加者も自分でお金を払って参加していますし、観客の皆さんにも「桟敷席」という有料の席を買って頂いています。事務局側のスタッフも、自主財源でお祭りを運営していこうというのが、ここの原則なんですね。みんなそれぞれの役割を演技しましょう、誰が表舞台・裏舞台ということではなく、皆それぞれの役割を果たしていく、というのが、この祭りの特徴だと思います。
参加者は皆自由な衣装、メイクで参加し、曲もソーラン節を自由にアレンジし、それに合わせて踊る。それぞれのチームが皆独自な踊りをするから、見ていて飽きないのだ。お客さんも、踊りを見ながら携帯電話で投票できるなど、色々な仕掛けがある。
−そもそも、この祭りを始めようと思ったきっかけは?
- 長谷川:
- 私は元々愛知県春日井市というところの出身です。大学は北海道に来たんですが、北海道には参加型の祭りがないな、と思っていたんです。兄が住んでいる高知の方に行ったとき、たまたまよさこい祭りというのを見まして、二十歳くらいの人が生き生きと踊っている姿を見て、「何でこういう祭りが北海道にないんだ!? 是非こういう参加型のお祭りを作ろう!」と思い付きました。北海道ということで、ソーラン節と、お祭りシーズンの8月ではなくあえて新緑あふれる6月を選んで、始めることにしました。
−最初は色々なハードルがあったのではないですか?
- 長谷川:
-
例えば、主催が「学生」という、責任所在のない団体が道路を借りることは、当時許されていなかったので、毎日警察で門前払いを食らいました。最終的には、隣の友人が、「思想の自由を前面に『デモ行進』ということで行こうじゃないか」と思いつき、踊りの練り歩きをデモ行進に見立てて申請し直し、1車線認めてもらった、という経緯があります。ですが、このお祭りは1車線ではできないので、3車線使って大目玉を食らったりということもありました。
北海道と言えば"官"依存と今迄言われてきましたが、これは、好きな人が自分達で祭りを作る、という組織だったので、パワーを持続できたということもあります。
−資金がかなり必要でしょう?
- 長谷川:
- 1回目は1000万円くらい掛かりました。今は2億4千万円くらいかかっています。このご時世ですから、寄付金とか補助金とかには頼れませんので、なんとか自主運営でやっていこう、というのが、この祭りの特徴だと思います。自己資金は、参加者・観客・事務局・事業者の4つで、約8割を分担しています。
−10年間でこれだけ大きくなったとなると、色々な所からの風当たりも強くなって来るんじゃないですか?
- 長谷川:
- 好きでやらしてもらっていることですから。自主財源での運営に関しては、《商業主義》であるとか色々言われることもあるんですが、メインの会場には広告看板がないんですよ。学生だけでやっているものですから、一切のコマーシャリズムは排除しています。こういうふうに、やりたい事もたくさんあるけれど、学生の若い頃に始めたものなので、そういう聖域を守っていくということと、その経験に基づいて規模を大きくしていく、この2つは非常に大事にしている点です。
−次に向けて見えてきた課題は?
- 長谷川:
- 祭りを終えた翌日からが勝負、「一息入れない!」というのが、この11年間大事にしていることなんです。来年については、雨の対策や、騒音対策などで、地域の人達の一層の御理解を得られるようにしたいと思います。それと、大通公園の芝生を傷めてしまったので、学生全員で芝生張り替えのボランティアをやろうか、とも考えています。
−最終目標は何ですか?
- 長谷川:
- 南半球のリオのカーニバル、北半球のソーランと言われるような、北半球最大のカーニバルにしようということで、今後の10年で勝負を掛けようと思っています。
この本は、こうしたイベントや新事業を立ち上げていく上で参考になるヒントが満載だ。目次を見ても、「エネルギーを企画化する」「独創を実現させる」「始めるより、継続の方が難しい」「リーダーシップのあり方」「ネガティブ感情にどう対処するか」など、ビジネスや運動にも即役立つ項目が、並んでいる。是非お読みいただきたい。
※『YOSAKOIソーラン祭り』公式サイト⇒ http://www.yosanet.com/yosakoi/