小下村塾/投球の仕方--自分で発信!

東京大学「メディア表現演習」講義

第1講 2003年4月28日

ケースワーク-下村制作「減りゆく胴丸型郵便ポスト」
[1]イントロダクション(話:下村)

「これだけ大学の中でメディアについて研究されているのに、日本のマスメディアが抱える問題って変わってないでしょう? なぜかっていうと、研究の世界(大学)が現実の世界(マスメディア)に対して、有効な≪働きかけ≫ができていないから。
この講義では、みんなにうんと屈伸運動をしてもらって、現場の人間に聞く耳を持たせるような、鍛えぬかれたメディア論を展開できるようになってもらいたい。運動量の多い講義になるかもしれないが、面白がってついてきてほしい。
半年間のうちに3~4回、みんなにグループに分かれてもらって、VTRリポートを作ってもらう。本当に良い作品ができたら、僕がTBSに売り込むことも考えますから、みんながんばって!」

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[2] 教材説明

この半年の講義では、学生諸君が作るリポート自体を、その都度教材として活用する。そこには、すべての学ぶべきエッセンスが、どんな書籍よりも高い鮮度で内包されているから。 ただし今回は、学生作品がまだないので、下村がTBS若手社員時代(講義を受けている学生とあまり変わらない歳の頃)に作った8分間のニュース「減りゆく胴丸型郵便ポスト」を教材にする。このニュースにはどんな「情報伝導率を高める工夫」があるのか、読みとっていこう。

「減りゆく胴丸型郵便ポスト」制作の背景
  • 「減りゆく胴丸型郵便ポスト」を制作した頃は、丸型から角型へ変わる過渡期だった。
  • 昔懐かしい鋳物の胴が丸いポストは、地域によっては残っているが、ほとんどが角型に変わってしまった。都内にはもう1本も残っていない。
  • 「減りゆく胴丸型郵便ポスト」を制作した頃は、丸型から角型へ変わる過渡期だった。
  • 下村は「あの愛嬌のある人間くさいポストはどうなってしまうんだろう」と思い、関東郵政局に取材。すると、「ほとんど壊しちゃうよ」という答えが。

この"ヒマネタ"を、どうやって視聴者に聞く耳持ってもらえるような伝導率の高いリポートに構成するか。まず、≪君だったら何を撮る?≫を考えよう。

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[3] 素材の仕込み
[A]主人公の<今>を見せる
 ・<主題の瞬間>を見せる …今回取り上げるテーマそのものの映像化
 ・<日常の姿>を見せる …ニュースと視聴者の距離を縮めるには、主人公の特別な瞬間だけを見せていても駄目。自分と変わらぬ日常を見ることで、視聴者にとってニュースは「テレビの中の特別なお話」でなくなる。
[B]<今まで>を見せる …カメラが撮影できるのは、ただの≪現在≫に過ぎない。それだけでは物事の理解は深まらない。いかにして、≪過去≫を映像化するか。
[C]<対極>を見せる …事物だったら「対照的な存在」を並べて、陰影を。主張だったら「反対論」を並べて、バランスを。
[D]<外野>を見せる …例えば、世間の認識。外側が見えると、輪郭の形がわかる。
[E]<数字>を見せる …形容詞の受け止め方は一人一人違う。数字なら、そのものズバリ。データを示すと、説得力は飛躍的に増す。
[F]脇を固めるインタビュー …映画でも助演男優・助演女優は大切。主題の伝導率を高める、過不足ない人選を。

  学生が挙げた素材 下村が挙げた素材 両者が挙げた素材
[A]
主題の瞬間
  ・最終の地への到着 ・撤去、移送
・丸型ポスト最後の姿
[B]
日常の姿
    ・郵便物を投函されるシーン
[C]
今まで
・ポストが登場する古い映画
・再現ドラマ
・博物館の資料
・生まれ故郷
(作られた工場)
・現存する古いポスト
[D]
外野
    ・道行く人に「ポストの絵を描いて」
[E]
対極
    ・最新型ポスト
・丸型ポストの“古さ”強調アングル
[F]
数字
    ・域内の丸型ポスト数の経年変化グラフ
[G]
脇固め
・集配人「減少の実感」
・新しいポストの周辺住民
・丸型ポストを作った工場の人 ・郵政当局
・最終の地の責任者

学生達のアイディアには、下村も「ああー、当時気付いていればなあ」と、時々感心。

さて、仕入れが終わったら、次に考えるのは料理法。≪君だったらどう並べる?≫ を考えよう。構成の手がかりは、例えばこんなポイントだ。

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[4] 素材の料理

冒頭スタジオ情報は?

… 何を伝えるのか・どこが興味深いのか、を端的に。

・V入りのアテンション・ゲッターは?

… ここで逃げられると、後は何も伝わらない。

「?」(情報飢餓感)と「!」(情報充足感)の連鎖

… これが最も大切な、構成の基本形! 「知りたい」という気持ちが起きていないうちに「答え」を押しつけられても、受け手の脳には沁み込まない。

・主題・主人公を身近に見せる工夫

… 「どうでもいい」と思っている人にいくら話しても、鼓膜には届いても胸には届かない。

・Vラスト・シーンは?

… 着地が決まると、伝えたいメッセージが明確になる。

・しめスタジオ情報は?

… 饒舌は禁物。映像表現しきれなかった情報の補足など。


…というコツを下村が示した後で、学生達が約4人ずつ10班に分かれて作り上げた構成表は、見事に10通りに分かれた。誰もが、自分達の並べ方が最も伝導率が高いと自負しているはずなのだが…。

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[5] 下村の"答案"開示

ここで初めて、下村が実際にオンエアしたこの番組の構成を紹介する。これは、本講義での≪11通り目の答案≫に過ぎず、≪唯一の正解≫ではないことを、念押ししつつ。
(著作権の都合上、このビデオをHP上でご紹介することはできません。)

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[6] 解説
  • なぜこの順序で素材を並べると伝導率が高まるか、下村なりの経験則を語る。
  • 更に、ナレーターの一人称の設定や声質、ズームアップの意味、字幕スーパーの書体やタイミング、無音という"効果音"、現場で"透明人間"化する工夫、視覚的"季語"の導入…等々、視聴者が気付かぬところで凝らされている伝導率アップの工夫の数々をタネ明かし。

  • こうした手法は、情報の受渡しをより円滑にするための"潤滑油"にもなる一方、悪意を持った伝え手が乱用すれば、いかなるイメージにも視聴者を誘導できてしまう、という≪諸刃の剣≫であることを指摘して、この日の講義は終わった。

    次回予告―

    次回はいよいよ、制作実体験の第一弾。班に分かれてラジオリポートの実習を試みる。

    第2回講義へ

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