環境破壊としての戦争…今日、東京平和映画祭

放送日:2006/07/22

TBSラジオでは環境キャンペーンの真っ最中。このコーナーらしく一捻りして、『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』(\480税別)というブックレットを今年5月に岩波書店から出版された、田中優さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.30)にお話を伺う。

■ゴミ分別の感覚で、戦費調達も阻める!?

――この本のタイトルはつまり、「戦争は環境問題である!」ということですね?

田中:
はい、その通りです。たとえば今一番問題になっているのが、地球温暖化です。二酸化炭素の排出量が問題なんですが、実は戦争からも莫大に二酸化炭素が出るんです。米軍がイラク攻撃を始めた03年3月に発表したデータによると、一日に約5.7万キロリットルの燃料を消費しているというんです。地球温暖化防止のために、二酸化炭素の排出量を各国が一生懸命に減らして行ったとしても、戦争がそのまま続けば、そちらからの排出量で地球はやられてしまう事になるんです。環境保護に熱心な人でも、「環境と戦争は別問題だ」と分けて考えていると、戦争が原因で、環境的に滅びてしまうというわけです。

――だからブックレットの中の小見出しには、「戦争が僕らの努力をムダにする」というのがありますね。

田中:
たとえば、燃費で計算してみると、今の日本車だと1リットルで20キロくらい走るんですが、戦車は1リットルあたり200メートル位しか走らないんです! まるで、ジョウロで燃料を撒きながら走っている車です。もっとすごいのは、戦闘機です。1機が8時間飛行すると――クウェートからバグダッドを往復すると大体8時間位なんですが――もうそれだけで日本人1人が一生涯に呼吸や生活で排出する二酸化炭素の量に達してしまうんです。我々がレジで「レジ袋はいりません」と断っていたり、いろんなことを我慢しているのに、一生分のトータル排出量がたった8時間で消されちゃうわけですから、すごく空しい事態になるんですよ。

――でも、環境保護で、ゴミの分別などの身近なものなら我々も取り組めますが、戦争を止めるとなると、我々の日常生活の中で出来ることって…?

田中:
あります。米軍の戦争に使われているのは、実は、私たちの貯金なんです。銀行や郵便局にある日本人の貯金が、政府の出す短期国債に流れて行って、そこから結局行き着く所は、アメリカの発行している国債全体の約40%を買っているんです。それで、莫大な軍事費調達が可能になっているんです。つまり、私たちの貯金が間接的に、軍事費の捻出を支えているという事です。

だから、まず貯金するときに、自分の預けた金がどこに使われるかをチェックすることから始めよう、というわけだ。しかし、「ここに預ければ使途も納得」という理想の金融機関など、あるのだろうか? これについては、後述。

■省エネ節約マネーを“先取り”する仕組み

田中さんは常々、「戦争反対! 環境を守れ!」という精神論だけでなく、「お金の回り方、カネの流れを変えることで実効性が出せる」と主張している。戦争問題に限らず、一般の環境対策でも、かねてからそんなアイデアを実践している。中でも一番面白いのは、地元の江戸川区で行なっている、冷蔵庫の買い替え融資だ。

――どんな仕組みなんですか?

田中:
この10年の間に、冷蔵庫の省エネ化はすごく進んで、今の冷蔵庫は電気消費量が、10年前の5分の1位にまで減っているんです。電気代では、年間で2万何千円か安くなるんですよ。だったら、冷蔵庫そのものは10万円で売っているんだから、【旧式の冷蔵庫を持っている人に購入代金10万円を丸々融資して、省エネ型を買ってもらい、以後、年2万円ずつ5年間で返してもらう】プランを組めば、新品を手に入れる事が出来て、かつ、電気代の安くなった分で返済資金も賄えます。こうして1円も自己資金を使わずに5年で完済した後は、もうずっと、ただ安くなった電気代を払うだけで済む、と思ったわけです。それで実際に、私自身も融資を受けてやってみたんですが、現実に年間2万5千円も電気代は安くなりました。だから、黒字になりながら返済が終わりますね。今、地元のNPO『足温ネット』(足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ)では、無利子でこの融資制度を実行しています。

将来的に得する分を先に融資してしまう事で、設備の更新を実現してしまおう―――というこの発想は、いろいろな応用が利く。たとえば、断熱効果を高めたコストの高い家を建てようと考えた時にも、将来的に得となる冷暖房費分を先に融資で得られれば、建設が実現できる。

田中:
それについても実際に計算してあります。エコロジー的な家にすると、光熱費が半分になります。エコハウスを建てると、300万円ぐらい余分に建設費がかかるんですが、その分を月々のローンに上乗せしても、そこから光熱費の減額分を引き算すると、従来の家のローンより安上がりになるんですよ。私たちが省エネについて政府から言われているのは、いつも「努力」「忍耐」ばかりでした。でも、融資という仕組みを使えば、意外にも楽々とこういう事が実現可能になるんです。

世間に今ある、「エコは大事だけど、高くつく」という目先の常識を、長い眼で見てひっくり返しているわけだ。

■“儲け”より“意義”に投資する人々

――こういった環境保護や戦争回避の為の取組みや“志”に対して、優先的に低利で融資してくれるような奇特な金融機関が増えたらいいですけどねぇ。

田中:
実は、それもあります。12年前に『未来バンク事業組合』を作っているんです。もともと先程言ったように、戦争=環境破壊の費用が、郵便貯金や簡易保険・年金などの財政等融資で作られてしまっているから、我々がこのまま貯金していては環境破壊を止められない。それならば、貯金そのものをもっと別な形に変えていかなくてはダメだと考えて、市民で勝手に作ってみたんです。たった7人で400万円を出し合って、環境に良い事や、市民がNPOを興す際などに融資をしようと決めてスタートさせました。

しかし発足当時は、「そんなのは理想論だから、すぐ潰れる」と言われ、田中さん自身、同バンクの理事長にも関わらず、「そうだろうな」と思っていたと言う。

田中:
そりゃ、あまり期待も出来ませんから。失敗したら、それでも仕方ないかなと思ってやっていたんですが、意外な事に、12年経った今の時点で、出資金が1億7千万円集まっています。

――そういう事に出資したいという人が、どんどん集まったという事ですか?

田中:
宣伝もしないのに、どんどん来てくれるんですよ。貸出し累計も7億円になっていて、貸し倒れは“無し”です。

この『未来バンク』を真似た“NPOバンク”は、今、全国にじわじわと増えている。

田中:
全国で10個位出来てます。その中の1つが、坂本龍一さんや、ミスチルの桜井さん、小林武史さん達で作った、有名な『ap bank』です。
先週末(7月15日〜17日)に、掛川で「ap bank fes ‘06」を開いて、8万人が集まりました。ライブをやって、有名なアーティストが続々と出演してとても面白かったんですが、そこでどんな事が融資対象になっていて、どんな事を実現したかという紹介もしました。この『ap bank』が知られた事で、他の地域でも作ろうという人達がどんどん増えて来ています。

都会に大きい“NPOバンク”が1つできるよりも、各地に小さな“NPOバンク”がたくさん出来た方が、恐らく理想の形だろう。

田中:
金融の大問題は、中央集権だと思います。みんな東京に集められて、使い道を決められてしまう。そうではなくて、地域分散型で、各地のやりたい人達が自分達の貯金を集めて、自分達の必要な事に融資をする。そうすれば、今の馬鹿げた巨大開発などはしなくて済むようになる、と思っています。

■1日で、イラク、ジャマイカから六ヶ所村まで

この「ap bank fes ‘06」に続いて、今日(7月22日)は、やはり田中さんが関わっている、「第3回東京平和映画祭」がある。毎年このコーナーでも紹介しているが、今回は10時スタートで、田中さん達の企画を挟んで今夜9時まで、延々11時間にわたって開催される。途中の出入りは自由なので、興味のある所を覗いて見られる。

<上映時間>
【1】 10:05〜11:49
『リトルバーズ〜イラク戦火の家族たち〜』(綿井健陽監督)
このコーナーでも、封切り当時、異例の2週連続で採り上げた、超お勧めの一作。当時見逃した方には、願ってもないチャンス到来だ。

【2】 12:04〜13:32
『ジャマイカ楽園の真実』(ステファニー・ブラック監督)

田中:
ジャマイカはリゾート地として凄く有名なんですが、一歩外れるととんでもなく貧困な状態が広がっています。私自身もジャマイカに行きました。人口の3割が失業している現状は、実は彼らのせいではなくて、国際的な仕組みの中で起こってしまっているんです。なぜ途上国の人達が、とてつもなく貧しい状況に置かれたのかという事を、ドキュメンタリーで描き切っている作品です。

○ 13:45〜14:55
この映画祭の人気コーナー「監督とランチ」。既に定員締め切り。

田中:
私も、出品される映画監督の方達やお客さん達と、いろいろな事をお話する予定です。

【3】 15:00〜15:18
『魔法のランプのジニー』(ステファン・ソター&トレース・ゲイナー監督)
アメリカの12歳の少年2人が描いた、広島・長崎原爆に関する16分の短編ドキュメント。1年かけて「マンハッタン・プロジェクト(核兵器開発計画)」に関わった科学者などをインタビューし、ロサンゼルス国際ファミリー映画祭とシカゴ国際子ども映画祭で、最優秀賞を受賞。国連の核不拡散条約会議でも上映され好評を博した。今日、ついに日本上陸、初公開! 核兵器を象徴する魔神ジニーは、広島、長崎で何をつぶやくのか?

【4】 15:33〜17:35
『六ヶ所村ラプソディー』(鎌仲ひとみ監督)
『ヒバクシャ』でこのコーナーにも出演していただいた鎌仲監督の最新作。今回の作品は、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場が建てられた青森県六ヶ所村のルポ。工場容認派の住民の声も丁寧に取材していて、まさに1人1人の《選択》が浮かび上がる。

【5】 17:50〜19:22
特別企画『平和の創り方』―――映像・トーク・パフォーマンス。田中さんも登場する。

田中:
このステージでは、戦争と環境問題が、実は非常に深く繋がっているという事、それに対しての解決策を説明して行こうと思っています。

【6】 19:37〜20:57
『映画 日本国憲法』(ジャン・ユンカーマン監督)
去年のキネマ旬報ベスト・テン「文化映画」部門第1位、日本映画ペンクラブ会員選出「文化映画」部門第1位の作品。世界の人々は、戦争放棄の日本国憲法をどう見ているか、米国生まれの監督が実際に世界を旅したインタビュー集。前作『チョムスキー9・11』の続編、という位置づけ。

入場料は、25才以下\2500、26才以上\3500。頑張って全部見れば、1本\600にもならない計算だ。会場は、国立オリンピック記念青少年総合センター(小田急線参宮橋駅徒歩7分)。

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