高遠菜穂子のイラク月例報告(8)
米国で見えた、“攻め入った側”のモヤモヤ

放送日:2005/6/25

高遠さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.1)は先月(5月)、アメリカ訪問を終え、その後、アンマンを経由して今月(6月)19日に帰国した。いったいアメリカでは、彼女達のアピールはどう受け止めれられたのだろうか。今回はこの点に絞ってお伺いする。

高遠:
アメリカでは、イラクの写真展や劣化ウラン弾に関するワークショプ、報告会を開催してきました。
1週間ニューヨークで、森住卓、佐藤好美、安田純平、志葉玲さん等の撮ったものを中心に50点くらいの写真を展示しました。場所は、マンハッタンのど真ん中にある、ニュースクール大学の大学院です。写真展の他に、報告会は、全部で9回やりました。前半はニューヨーク州内で、後半は私一人でロサンゼルスへも行って2回やりました。とにかく反響がすごくて、行って良かったです。

―日本では、高遠菜穂子と言えば知らぬ人はいないけれども、アメリカではどうやって皆に告知したんですか?

高遠:
NGOのオフィスとかが結構ありますので、そこに"飛び込み営業"で行きました。私自身のことは特に言わずに、「イラク写真展をやります」と。手渡すチラシには、展示してる写真の他に、子どもたちの絵も入れてたんですよ。それは、癌患者、白血病患者である子ども達が描いたもので、イラクの現状とか自分の夢を絵で表現したものだったんです。それを、飛び込み営業でアピールして回りました。ユニオンスクエアとかでも「イラクからのメッセージです」と言って配ったんですけど、そうすると「エッ」って感じで受け取るんですよ。しかも、かなり皆見入ってるんですよ。なかには、それを読んで、私達のところに戻ってくる方も結構いました。

―反応はどうだったんですか?

高遠:
「何時から?」「じゃあ、もう何枚か置いてって」っていう感じで好意的でしたね。だから、そのへんに投げ捨てちゃう人とかは一人もいませんでしたし、やりやすかったです。皆で「嬉しいね」とか話してました。日本では、私は路上でのビラ配りをやったことがないんですけど、飛び込み営業は、昔カラオケボックスの商売やってたんで、実は経験があったんです。その頃は「また後でね」とか言って軽くあしらわれちゃってたんですけど、今回はそういう扱いは全然受けなくて、「まあ、まず座って」みたいな対応をしてくれました。カラオケとイラクの反応を比較するのも変ですけど。

―ちゃんとした会場以外に、公園でも写真を展示したんですよね?

高遠:
そうです。それも最初からちゃんと計画していて、絵を含めた60点を常設にして、さらに50〜60枚の写真を公園でゲリラ的に展示しようと考えていました。全部で100枚以上のパネルを持っていってたんですよ。結局、天気のいい日にユニオンスクエアでやったんですけど、反応が様々ありまして、これまた面白かったですね。

―ユニオンスクエアと言えば、本当にマンハッタンのど真ん中ですよね。そこにいきなり写真を並べた。

高遠:
木曜日は公園がオープンになる日で、何をやってもいいんですよ。その真ん中にある柵のところに写真を展示したんですよ。警察官の方もたくさん見に来てくれて、特に怒られることはなかったです。
見に来てくれた人のなかには戦争帰還兵もいれば、若い夫婦や学生もいるし、ユニオンスクエアでダンスを踊ってた人、もちろんビジネスマンもたくさんいて、もう本当にいろんな人が来てくれました。通りすがりに立ち止まる人は皆、短くても10〜15分くらいかけて、ほぼ全部の展示を見てくれましたね。

―アメリカ自身が行った行為によるものだから、普通は目を背けたくなるんじゃないかと思いますけど、そうじゃなくて、ちゃんと見てくれるんですね。

高遠:
とにかくたくさんの人がいますので、もちろん目を背けた人もいたと思います。
その野外の展示の方には、私が撮った写真や、プロのカメラマンの写真もありました。それから、因果関係は証明されてませんけど、劣化ウラン弾が原因だと思われる癌の子ども達とか奇形の子ども達を、イラク人の医者の方が撮った写真もあったんです。やっぱりそれを見るのはちょっとハードなんですね。でも、やはりそこが一番アメリカ市民の関心を引いたんです。「なんで、こんなことになってるんだ?」って。で、その劣化ウラン弾のことは、ほとんどの人が知らないんですよ。「えっ、何?もう1回言って」って感じで。アメリカ人の人達は"劣化ウラン弾"という言葉自体を知らないんです。

―写真を見た人達はどんな感想を述べてましたか?

高遠:
いろいろありましたね。だいたい最初は何も言わないんですよ。私達もその人達を後ろから黙って見てるんです。で、質問があったりすると近くにいくんですよ。
そしたら「イランの核開発はひどいのね」とか言うんですよ。他にも「これは誰が落としたの?」って聞かれたから、「これは米軍が今、イラクで標準的に使っている、劣化ウラン弾が原因である可能性が非常に高いんです」って答えると、「劣化ウラン弾なんて国際法で禁止されてるのに、米軍が使うはずがないじゃない」って言うし、「本当に、イラクの武装勢力ってひどい武器を使うのね」とか言うんですよ。もう「エッ」って、私が英語を聞き違えたのかなと思うようなコメントがあって、びっくりしましたね。

―「イラクの武装勢力ってひどいわね」って言われると、どう説明を返すんですか?

高遠:
一瞬つまったんですけど、「いやー、あの、これは大きな高価な武器ですから、イラクの武装勢力はお金がないから買えるはずないですよ。そんなに簡単に手に入るもんじゃないですから」って。(苦笑)

―でも、見てもらった人には理解してもらえたんですか?

高遠:
どこまで理解してもらえたかは分からないですけど。例えば、広島のこともやっぱり、私達が思っているようにはアメリカの人達は学んでいませんし。イラクについても、これから先5年10年経つと、まったく別のストーリーで歴史が語られるんじゃないかって、そういう不安感を覚えたんです。だから今回は、種が蒔ければいいかな、ぐらいの気持ちでした。

―何も知らない一般の人の中で、今回の高遠さん達の働きかけに、ものすごく熱い反応をした人はいましたか?

高遠:
通りすがりの人で会場に戻ってきて、私のところに突進してきた若い黒人女性がいたんですよ、「写真見せてくれ」って。案内したら、すごく真剣に見てくれて「なんか、おかしいと思ってたんだ」って、写真を見てものすごくショックを受けて泣いちゃって。それから彼女は1回帰ったんですけど、また会場に戻ってきたんですよ。で、「私にも何か手伝わせて。これはアメリカ人全員が見なきゃいけないことだから。この戦争を支持してる人達だって、こんなの見たことがないんだから」って言うんです。それで私は、「ありがとう。その気持ちを今日、家族でも誰でもいいから伝えて欲しい」と言いました。

―それが《あなたのできること》だから、というわけですね。

高遠:
それから、アメリカでは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)のセラピストをしている方にもお会いしたんですけど、そこには、あらゆる戦争の帰還兵の方が患者さんとしてきていて、なかには第二次世界大戦の帰還兵の方もいらっしゃったんです。だから、60年経っても何十年経っても、そういう傷は引きずるんだなと思ってすごくショックでした。同時に、イラクの子ども達、市民達のPTSDのことも、あらためて深刻な問題なんだって再認識させられました。PTSDに関しての医療体制が整っているはずのアメリカでさえ、これだけ多くの人が苦しんでいるんなら、何も整っていないイラクでは、一体どうなってしまうんだろう、って思って。PTSDのPの字も知らない私の友達のイラク人の中にも、夜眠れなかったりとか、体重が落ちちゃったりとかしてる人もいるし、フラッシュバックに悩んでる友達もいるし。
アメリカに行って、あらためてイラクの問題の深さを思いました。

―イラクで活動していて、イラクの人達の気持ちや苦しみを知って、それを訴えにアメリカに行ってみたら、今度はアメリカの人達の苦悩が見えちゃったんですね。

高遠:
今回全体を通して、ニューヨークでもロサンゼルスでもそうだったんですけど、「また帰ってきて欲しい」って言うんです。この報告会をもう1回、今度は大きな規模でやって欲しいと。アメリカでは今、"インディペンデント・メディア"が注目されてるんですけど、アメリカ市民の中には「頼れるのはそれしかない」って思ってる方が多くて、「大手メディアは、こんなの全然流してくれなかった」って言うんですよ。つまり、アメリカの人達はなんとなく「イラクから、故意に自分達が遠ざけられている」って気付き始めてると思います。

明日(6月26日)は、文京区民センターで、高遠さんの他、映画『ヒバクシャ』の鎌仲ひとみ監督、NGOの職員や弁護士さん等、今回渡米されたメンバーによる報告会が開催される。それぞれの活動に立脚した多様な視点から、立体的な報告が聞けそうだ。

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最後にひとつお知らせ。
同じくイラク関連で、先日『リトル・バーズ』の監督、綿井健陽さんをこのコーナーで紹介したが、彼が所属する独立系(大手の報道機関の社員ではない)ジャーナリスト集団『アジアプレス・インターナショナル』が、明後日(6月27日)から7月10日まで、東京・渋谷『アップリンク・ファクトリー』で、『作品展』を開催する。
新作『Yesterday Today Tomorrow/昨日 今日 そして明日へ…』など、ここのメンバーが撮った映画作品7本が連続上映される。なかなか観る機会のないアジアの現実の映像をまとめて受け止める好機として、お奨めしたい。

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