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世界移植者スポーツ大会、今日から神戸で

2001年8月25日

今日から神戸で、『世界移植者スポーツ大会』というビッグ・イベントが始まる。臓器移植を受けた人たちが世界中から集まって競技を行う、オリンピックのようなイベントだ。アメリカの国内大会の様子は去年お伝えしたのだが、今回はその世界大会が、各国に比べ脳死問題にかなり根強い抵抗感を持っている日本社会で開かれる、ということで皆さんにお伝えしたい。

臓器移植が最も盛んな米国では、毎日平均60個の臓器が人から人へ移植されているという。例えば、私の持っているニュージャージー州の自動車免許証には、裏に臓器移植についてのいくつかのチェック項目が当然のように載っている。「死亡した場合、私は次の臓器を寄付します」という欄から始まり、心臓・肝臓・腎臓・目…など、自分で好きな所に印をつけられるようになっているわけだ。車に乗っている人は誰でもこれを持っているから、アメリカでは、まさに臓器移植は「身近」な存在だ、と言えよう。また、上記の一文の「死亡」の部分は「my death」とサラッと書いてあって、脳死か心臓停止かの区別すらない。(脳死反対論者にしてみれば、そういう書き方にして問題を隠している、とも言えるが。)

一方、日本で臓器移植法が制定されたのは、97年。それから4年が経過しているにも関わらず、先週の金曜日に新潟で提供された臓器を含めて、国内での臓器移植の実績は、まだ16件にとどまっている。

そんな空気の日本に、世界中から移植を受けた人たちが集まって、今日からどんな大会が展開されるのだろうか。神戸現地本部事務所にいらっしゃる、鈴木正矩さんに伺った。

鈴木さんはかつて、人工透析で殆ど歩くことも出来なかったのだが、16年前にアメリカに渡ってドナー(臓器提供者)の臓器をもらい、今では大会の事務局で働くことができるまですっかり元気になっている。その時の感謝の気持ちから、日本でも臓器移植を普及させよう、と運動を始め、現在は日本移植者協議会の会長をなさっている。

鈴木: 今日からの大会には、49の国・地域から、約1200名の競技者が参加します。競技者たちは、遠くはアルゼンチンから、交通費・滞在費ともに自分の費用ではるばる日本までやってきます。世界中の臓器移植を受けた人間が年に1回輪を作ろう、その健康を確かめ合って、世界で一番大きな「ドナーへの感謝」をそこでやろう、と、そういう大会です。
  ― 競技に先立って行われる「臓器提供者への感謝の集い」というプログラムは、どういったものなのでしょうか。
鈴木: 日本で初めて行う、ドナーと我々との交流の場になると思います。今までの日本には、ドナー(臓器を提供する人)とレシピエント(臓器を受け取る人)の間にどこか壁があって、お互いに吹き抜けられないような感情・行動がありました。しかし、去年のアメリカ大会の交流ぶりを目の当たりにされた方が、ドナーもレシピエントも、お互いに「これではよくない」と認識されて、日本の世界大会では交流を深め、お互いに見知らぬ人同士(アメリカでも、日本同様、基本的にドナーの特定はされない)ではあっても、何かでつながっているということを確かめ合おう、と考えました。レシピエントが、亡くなられたドナーの方に感謝の気持ちを伝えることはできないので、ご遺族の方々に、命の贈り物を頂いた人間として感謝の気持ちを示したいのです。
  ― 去年の米国大会の開会式では、「ドナーの皆さん、ありがとう」の横断幕を先頭に、選手団、続いて脳死ドナーの家族たちが並んで入場しましたよね。客席の、臓器をもらった患者の家族は、ずっと立ち続けてその行進に向かって大拍手。その中を、ドナー家族たちは感激して泣きながら歩いていました。去年、鈴木さんはこの開会式に特に感動していらっしゃっいましたよね。
鈴木: 「ありがとう」を言うべき相手に会えない、だから、その開会式に集まっているドナーの家族の方に、なんとか「元気になっているよ」ということを伝えたかったのですが、涙ばっかりで...もう...嬉しかったですね。
今回の大会でも、去年のような光景がきっと見られるのだろう。
  ― 来週いっぱい様々な競技が行われるようですが、フラッと行って見ることはできるのですか。
鈴木: すべて無料ですので、できる限り多くの方に見ていただきたいです。へー、こんなにみんな元気なんだ、ということがわかっていただけるんですよ。日本では、《移植》というのになんとなく暗いイメージがあって、移植の手術自体は多く報道されるのですが、そのフォローアップ、つまり元気になった姿というのはなかなか見えないんですね。これを是非とも、こういう大会を通じて皆さんに理解していただければ、と思います。

臓器移植の斡旋を一手に担う社団法人『臓器移植ネットワーク』が、金銭問題で厚生労働省の立入り検査を受けたり、先月初めの脳死移植が、親族の間の臓器移植で、受け取り手の決め方にルール違反があったんじゃないのか、という批判を呼んだり、と、最近逆風とも言える情報が続いている。

  ― こういったことは、この競技会とは直接は関係ないものの、やはり影響で苦労も多いのではないでしょうか。
鈴木: スキャンダルというか、報道内容には事実と違う点が多々あるのですが、この問題で一番苦労しているのは、これを理由に企業の方から大会への援助を断られることですね。

去年の米国大会では、その規模の大きさ、ゼッケンを付けた選手たち(つまり移植を受けた人たち)の明るさ・元気さ、といったイベントの堂々とした雰囲気そのものに下村は驚かされた。今回の大会も、世界から底抜けに明るい移植患者たち・脳死ドナーの遺族たちが集まって、日本人に一種のカルチャーショックを与えるかもしれない。日本では、臓器移植はどうしても入口の「脳死問題」で議論が沸騰して、他のポイントが霞んでしまいがちだが、だからこそ、敢えて、このスポーツ大会を見る事で、「臓器を受け取った側」の人たちのその後、という点に注目してみて欲しい。臓器移植に賛成・反対いずれの立場を取るにせよ、机の上の議論でなく、より多くの側面を目撃して、考えを深めるべきだと思う。

※文中の情報は、全て執筆時点(冒頭記載)のものです。