ホーム市民が変える(トピックス)>小さなCATV局の手づくり番組を見つける喜び

松下村塾

小さなCATV局の手づくり番組を見つける喜び

2002年4月24日 月刊「放送文化」02年6月号内

実は子供の頃から、ほとんどテレビを見ていないんです。というのは、小学生の高学年になるまで家にテレビがなかったんですよ。僕が小さい頃にテレビが壊れて、「ちょうどいいから修理するのを止そう」と父親が言いましてね。当時、物心がついたばかりの弟は、絵本にテレビの絵が出てくると、「これ、何?」って聞いてました(笑)。

そういう環境で育ったものだから、今にいたるまで1日2時間以上テレビを見た日は数えられるくらいしかないですね。それなのに、何でテレビ局に入社したのか。成りゆきの不思議ではあるんですけれども、大学4年の時、地元に町田市民テレビ(現在のICN)というCATV(ケーブルテレビ)の開局準備室ができたんです。ボクはもともとミニコミが好きだったんですよ。映像でミニコミができるのは面白そうだなと思って、ママさんスタッフと一緒に市議選の開票速報とか、いろんな取材現場に行きました。

CATVは、身の回りの空白になっている情報を埋めてくれます。視聴者は総理大臣の顔は知っているけど、自分の街の警察署長の顔を知らない。つまり、情報がすごく偏っているなということに気がついたんです。そのまま町田市民テレビに就職したかったんですけれども、開局が延びてしまった。その時、開局準備室にTBSから出向した2人の技術指導者がいたんですね。じゃぁ、TBSに入って、出向で町田市民テレビに行こう。それだけが理由でTBSを受験したんです。結局、なぜかアナウンサーに配属になって、出向は叶わなかったんですけれども。

以来、CATVには注目してきました。その後、ずっと冬の時代でしたけど、インターネットがCATVの回線で見られるようになってから加入者がグーンと増えましたね。それで息を吹き返して、元気を出すCATV局も現れています。

大手テレビ局に絶対作れない“顔なし恋愛ドラマ”

例えば、今注目のCATV局の一つは、山梨県の小淵沢町の「にこにこすていしょん」。町民たちが毎週30分の情報番組を自らの手でつくっています。その番組を1日8回、週7日、つまり56回も再放送していて、56回分の視聴率の合計は80%くらいになるそうです。スタッフの人が「うちはとっくに事実上ビデオ・オン・デマンド(好きな番組を見たい時に呼び出せる)を実現してるよ」と笑ってました。

この5月には、町内の小学生達がつくった恋愛ドラマが放送されます。先日VTRで拝見したんですが、なんと全編、登場人物は首から下か、後ろ姿なかり。理由は「顔が映ると恥ずかしいから」だそうですが、結果的にこの表現が視聴者の想像力をかきたててくれるんですよ。プロの発想を突き破る、無限の可能性を感じますね。

なおかつ、自分で情報を発信する人があちこちの地方に出てきたら、空から降ってくる大手の放送を見ても、「ああ、これは編集が入ってるな」とか、内容を鵜呑みにしなくなるじゃないですか。したたかな視聴者があちこちに生まれる。付和雷同の大合唱から脱却するチャンス到来かもしれません。

もちろん、CATVは大手放送局に取って代わるものではありません。この先ブロードバンドが普及してきたら、市民グループがウェブTVを始めるという流れも加速するでしょうが、それも既存の大手テレビ局にとって、アンチの存在ではありません。大手局が「分かっちゃいるけど、フォローできない」部分を、補完する存在になると思います。

例えば、袋だたきの政治家の報道でも、全体的な事を知りたければ、大手のチャンネルを見てみればいい。別の角度で見たい人は、その政治家の地元のウェブTVを覗けば、違った主張の番組を流しているかもしれない。そういうチョイスが可能になることの意味は大きいと思います。ただ、ウェブTVは無制限に番組時間が取れるので、ダラダラと流し過ぎて付き合いきれないのが現状です。今後、どうやってコンパクトにしていくかが課題ですね。

こういう小さなメディアは、従来の大手地上波的な、万人に広く浅く、最大公約数的な面白さを求める必要が無い。そんな自由な番組を覗いて歩く事が、テレビ離れ人間だった僕がついに見つけた、テレビの楽しみ方です。

※文中の情報は、全て執筆時点(冒頭記載)のものです。