今週月曜(5月12日)に中国・四川省で起こった巨大地震は、未だに新しい被害判明のニュースばかりが続いている。一方で、あの阪神大震災のときの事を考えると、発生から5日が経過した今の段階では、救援活動やボランティア活動が、新しい段階に移り始めるべきタイミングかと思われる。
今朝は、その視点に着目して、『海外災害援助市民センター(CODE)』の村井 雅清理事(眼のツケドコロ・市民記者番号№18)にお話を伺う。村井さんは、阪神大震災の被災者であると同時にボランティア活動のまとめ役としても活躍され、現在も、神戸に本拠を持つ『被災地NGO恊働センター』の代表を務めている。
■「対応が遅い」と嘆く日本人が忘れている事
――四川省のニュースに関しては、当初、「中国政府がなかなか救援を受け入れない」などという話が、苛立ちと共に随分伝えられましたけれども、日本政府も阪神大震災のとき、海外からの救援申し入れに対して、そんなにすぐ対応出来ませんでしたよね?
村井: やはり、十分には出来てなかったですね。有名なのは、スイスのレスキュー犬が「入りたい」というのに対して、すぐに政府が返事出来なくて。実は当時、私のボスであった草地賢一さん(故人/阪神大震災地元NGO救援連絡会議・元代表)のところに間接的に連絡が来て、(政府は即応してくれないから)「何とかNGOで受け入れられないか」という話になって、その後受け入れたんです。
――だから、これって、別に「中国政府はダメだ」という話じゃなくて、不意を衝かれると最初は皆、こういうものなのかな、っていう気がするんですが…。
村井: そうでしょうね。それと、阪神大震災から13年という経験がありますが、その教訓というのが国際社会の中で共有出来てない、ということでしょう。
■次のステージの課題
そんな中、日本の救援隊が、外国からの助っ人としては第1号で公式に受け容れられ、ようやく現地入りを果たした。
――阪神大震災のときのご体験から考えますと、発生から5日という現在は、どういう段階と捉えたらいいでしょうか?
村井: 確かに専門家の中では、「72時間が命のギリギリの時間だ」と言われています。でも、これまでの災害の経験からしても、90時間とか100時間が過ぎても奇跡的に助かっているケースはあります。ですから、《たった1人の命》を救うという意味でも、ここはやっぱり最後まで望みを捨てない、ということをしつつ、次のステージとしては、「せっかく生き延びた命を落とさない」ということだと思うんです。避難所という状況の中で、皆さんが苦労されますけれど、衛生・医療・食糧等についての体制を十分に取るということを必然的にやらなければいけないでしょうね。
中越地震のときは、地震を生き延びたのに、避難所で命を落とす人が続出した。今回、それより遥かに規模が大きい、被災者1000万人の災害となると、これは大きな課題だ。
また、日本の近年の地震災害では、あの範囲の広がり具合ですら、有名被災地と無名被災地という情報格差が毎回生じ、支援の集まり具合等にアンバランスを引き起こしている。今回の広大な被災面積だと、この格差は、更に極端に現れてくるだろう。
■壊れた住まいは《増殖型再建》で
――間もなく、瓦礫に呆然とする時期を過ぎ、再建という時期に入って来ますが、建物の建て直しについては、どう考えたらいいでしょうか?
村井: 日本に伝わる映像では、8割あるいは9割という倒壊率です。だから、住まいの再建に関しても、間違いなく、《耐震》というのを強制的にするぐらいの制度を作らないといけないと思うんです。ジャワ地震でも、「耐震の構造にならなければ援助金を出さない」と言ってます。最近は、そういう傾向が出てきました。
「災害を事前に止めることは出来ないが、起きても被害を少なくしよう」という意味での“減災”を考えますと、耐震というのは、第一に取組まなければいけない対策ですよね。
――これから先、住まいを建て直すときに、村井さんがよくおっしゃる《増殖型再建》という考え方をご紹介いただけますか?
村井: 皆さん、ある程度落ち着くとどうしても焦って、「早く元の家のような住まいを」と志向されます。大変なことは分かりますけど、これだけ大変な経験をしたわけですから、焦らずにじっくりと、住まいを始め自分の人生設計をしっかりやって行かなければいけないんじゃないかと。その為には、少しずつ確実に、住まいの再建・暮らしの確立をして欲しいと。
――新しい完成品を一気に建てようとするのではなく、アメーバが“増殖”するように、じわじわと…
村井: そうです。ジャワ地震のときにも、神戸大学の人達が出動して、向こうのガジャマダ大学と連携して、まず小さな規模の、最低限住める家を造って、そこからまた次々と増やす、ということをしました。
■「復興」自体を職業にする仕組みを
――この地震で、恐ろしい数の失業者が出たと思うんですが、仕事の回復の方は、どう考えたらいいですか?
村井: 被災地人口が2000万人としても、それに対して12~13億人という総人口がありますから、当面はまず、ここに向けて国の大きな施策を導入することです。兵庫県もそうだったんですが、特別な経済特区にしたりとか。同時に被災地の人々に対しては、瓦礫の片付け1つとっても、(行政が)何か報酬を支払うような仕組み。“キャッシュ・フォー・ワーク”と言うんですけれど、「仕事をすることによってお金を払いましょう」という…
――つまり、「復興」自体を、被災地の人達の当面の「職業」にするということですね。
村井: そうです。(復興を)一時的な職業にするというのは、国際社会のNGOのやり方としては、結構もう定着してるんです。復興特需ということで、特定の企業にお金を流していくやり方じゃなくて、その被災地の中の人々自身が、それですぐさま元気になっていくようなインセンティブを持ってもらうと。この先に希望を持って、その(被災)地を離れずに、その地でまた再建しようという風になった方が、トータルでは経済効果があるんじゃないかなと。
――これは、(四川)省とか、もっと小さな県とか、地方行政が作るべき仕掛けということになりますか?
村井: 大きな制度は国が用意して、その後、それぞれの小さな自治体で対応するんでしょう。それは、お金さえあれば出来ますが、残念ながら多分日本と一緒で、小さい自治体になればお金は無いでしょう。ですから、日本で言うとコミュニティビジネス、スモールビジネスのようなものを、ボランティアベースでどんどん興して、国内でお金を集めていくということであれば、僕はお金が発生すると思います。
近年、中国も自分で起業する人がどんどん増え、一昔前とは随分変わってきているようだが、それを今回は、復興という場面でもやっていこうというわけだ。
――そこに突入する1つのきっかけに、災い転じて、出来るかもしれない、と?
村井: ですね。
■中国版“ボランティア元年”となるか?
――阪神大震災のときも、あの年が“ボランティア元年”と日本では言われましたけど、中国でもそういう事が起き得ますか?
村井: うん、そういう胎動を、何となく感じるんです。新聞記事を見たら、物凄い数の若者が、手に水や衣類、あるいは布団を持って集まり出してますから、そういう事が可能かなぁ、と。
ただ、神戸の場合は、全国から押し寄せるボランティアを上手に取りまとめ、有効なパワーに転化する、草地さんや村井さんという存在があった。
――ボランティアをオーガナイズする人材っていうのは、必要ですよね。
村井: だけど、それは必ずしも、最初から居ないといけない、というものではなくて、自然に生まれてきた訳だし。
神戸のときも、2ヶ月で延べ100万人という、とんでもない数のボランティアが集まったでしょう? あの時は、申し訳ないけど私達(みたいな)、何も経験の無い人間ばっかりが知恵を寄せ合って、「ああでもない、こうでもない」と言いながらやって来たんですよ。もちろん失敗もして来たし、悪い事をするボランティアもいたかもしれないけど、それはごく僅かじゃないですか。延べ100万人のほとんどの人達は、神戸の為に活躍して、帰っていただいたんです。
僕はこれは、素晴しい事だと思うんですが、実は、1人1人の人間にそれだけの能力がある、ということなんですよ。だから、スーパー・コーディネーターみたいな人は、その中から勝手に生まれてきます。
――今回の四川省でも、そういう動きは自然に現れ得ると?
村井: はい。恐らく、「命が大切だ」ということだけが共有出来てるので、この一点で皆が、ある時期まではずっと進めると思うんです。神戸もそうでしたから。
■最大のパワーの源は、普通の人々
――神戸と同じような展開に、四川省が今後なっていく為に、必要な事って何かありますか?
村井: やっぱり《今、被災者と共に汗をかく》ということしか無いと思うんです。神戸のとき、実は後で分かった数字ですが、あの直後に35,000人が瓦礫の下に埋まっていたんです。で、自衛隊・警察・消防が助けたのが、その内の8,000人。あとの27,000人を助け出したのは、偶然生き残った被災者達なんですよ。外から来たボランティアじゃないんです、間に合ってませんから。この27,000人という数字には、誰もがびっくりしてるんです。普通の人間でも、これだけの力があるということですから、この事を共有することが、次のボランティアへの大きなうねりに繋がると思うんです。
怪我をしながら、瓦礫をリレーで片付けている人達を見ていると、僕はもう、涙が出ます。本当にそういう意味での、ボランティア精神みたいなものが広がるんじゃないかなぁという気がします。
それから、東京も、この前、首都直下型地震の想定が出ましたけれど、「自分達の足元で起きた時にどうするんだ?」ということも、同時に考えて欲しいなと思います。