サイパンで逮捕された三浦和義・元社長のロサンゼルスへの身柄移送を巡ってまだやり取りが続いているが、今回は、渦中のこの人に眼をツケる。
逮捕以来の報道は、27年前のロサンゼルスでの銃撃事件当時の話の焼き直しと、サイパンで捕まってからの話がもっぱらだった。その間(特に2003年3月に無罪判決が日本の最高裁で確定してから今回サイパンに行くまでの期間)に、三浦元社長が何をしていたのかという部分は、殆ど報道されていない。
そこで今朝は、まさにその時期、三浦元社長と付き合いの深かった御三方から聞いて来た、意外な三浦和義像をたっぷりとご紹介する。(TBS『サタデーずばッと』で逮捕後最初の週に取材し、一部放送したインタビューの、拡大版である。)
■カレー事件・林眞須美被告の支援も
『人権と報道・連絡会』の山際永三・事務局長は、「報道のあり方を問う」という問題意識で三浦元社長と共同歩調を取ってきた。妻の一美さん“殴打”事件の方で三浦元社長の有罪が確定し、宮城刑務所に服役後、出所してからの三浦元社長の取組みを、山際氏は次のように証言する。
山際: もっぱらホームページなんかを立ち上げて、「いろんな人の法律の相談に応じます」ということで、特に民事については三浦さんが独自に開発したノウハウがあるんで、皆さんにアドバイスをしたりしていたんです。僕らとの間では、定例会にはいつも来ていました。北海道の恵庭事件も、三浦さんと僕ら一緒にやっていまして。(和歌山)カレー事件では、あんまり僕らとは相談する暇もないうちに、林眞須美さんに頼まれたらしくて…。
下村: そういうのは、直に当事者から相談が来るような感じですか?
山際: そうですね。まぁ、手紙もあったんでしょうけど、面会に行ったらしいです。頼まれれば、どこにでも行くっていう感じです。その他にも、相当いろんな所へ呼ばれてたんじゃないですか。三浦さんの良い所なんだけど、「自分は良い裁判官に巡り合ってきた。だから無罪になった。助かったんです」というようなしゃべり方でね、そういう《システムに対する信頼感》というか、近代的な社会構造に対して信頼感を持ってるんです。是々非々ですよね。その点は僕らもそうしなくちゃいけないなと思うくらい、全面否定は絶対にしない人です。
和歌山カレー事件の林眞須美被告に、ただ助言するだけではなく、三浦氏は今や『林眞須美さんを支援する会』の代表も務めている。この会が主催する「和歌山カレー事件を考える人々の集い」が、明日(3月16日)の午後から和歌山市民会館で開かれる。山際氏が代わりに取り仕切り、松本サリン事件で犯人扱いされた河野義行さんをゲストに迎えるという。
■「もうひとつの真実」から「産婦人科が少ない」へ
4年前(2004年)、『三浦和義事件~ロス疑惑・もうひとつの真実~』という映画を製作した東真司監督は、一美さん銃撃事件で最高裁が三浦元社長に無罪を確定させてから興味を持ち、この映画を手掛けたという。シロを確信して、それをキャンペーンするために映画を作ったわけではないと言う東監督が、直に会った三浦和義像を次のように語った。
東: ロス疑惑(報道)をずっと見てましたから、三浦さんという方に対しての僕の印象は、やっぱり半信半疑なんですよ。で、撮影をするにあたって、色々とインタビューをして。
下村: 実際、何回くらい会われたんですか?
東: 相当会いました。
下村: 製作中、頻繁に?
東: はい。現場にもいらしていたし。
下村: 会っていくうちに、そういう印象が変わっていった?
東: 変わりましたね。三浦さん、お酒飲まれないんですよ。あの当時いろんなこう銀座とかってゴシップみたいに出たときに、僕はお酒飲まれて遊ばれている印象ありましたけど、飲まない。
下村: 確かに、派手に遊んでいる印象はありますよね。じゃあ、イメージが、結構ひっくり返って行った…?
東: ひっくり返りました。
下村: (映画が)完成してからも、時々はやり取りとかあるんですか?
東: はい。冤罪支援とかも含めて。
下村: 一番最近はいつですか?
東: 去年になるのかな。「うちらはこういう映画をやりたいんだけど、監督撮れないかな」っていう相談でした。産婦人科が少ない、そこで死亡事故も多くなっているというところで、「そういうものを増やす必要があるんじゃないか」っていうのを映画化して見せたいというのを企画していたようです。
下村: へぇ、三浦氏と「産婦人科が少ない」問題って、どう結び付くんでしょう?
東: いや、三浦さんって、社会的なことに凄く興味を持っていますよ。
結局、このプランが具体化しないままに、今回のサイパンでの逮捕となってしまったという。
■「雄弁ではいけないんでしょうか」
いわゆるロス疑惑報道当時のマスコミの姿を映画の中で再現していた東監督は、今回再燃した三浦報道をどう見ているのか。
下村: こういう動きが急に起こって、監督どう受け止めていらっしゃいます?
東: 逆にどう思われました?
下村: 私は「これ、気をつけてやらなきゃな」っていうのがまず第一印象ですよね。あの頃と同じ騒ぎにならないように。
東: そうですよね。またこの騒ぎになって、テレビ見てると、皆でマイク持って「三浦さん、三浦さん」って。僕が映画で、ちょっと再現してみようってことでやってみましたけど、まさに今それですよね。
下村: サイパンでの様子ですね。脚本を書いて映画で演じた事と、全く同じ事がまた現実に起こっていると?
東: そうなんですよ。やっぱり三浦さんの雄弁さゆえにね、面白く突っ込みやすいという所もあったのかなと。松本サリン事件の河野さんもそうですけど、非常に《雄弁なので疑いやすい》という。なんで日本人は、雄弁ではいけないんでしょうかって思うくらい。絵になりやすいのかもしれないんですけど。
下村: 三浦氏は雄弁だとおっしゃいましたけれども、今回サイパンの裁判所のところで日本のメディアと接する場面がありましたが、その時も何も語りませんでしたが、あれはどう見ていますか?
東: 事件当時もそうでしょうけれども、(わ~っと来られた時の)“囲み”に関しては話をしていないようなんですよ。名刺を差し出して名乗った方には、確かに答えていらっしゃる。確かTBSさんの『報道特集』でも、名刺をいただいたので自宅に呼んでお話をした。そのルールは、三浦さんの中で決めているそうです。僕も名乗って名刺を差し上げて、名刺を差し出したのでお話をしてくれました。
東監督は河野さんを例に挙げたが、河野さんの場合は、雄弁というよりも喋り方の冷静さが、《こんなに冷静にしゃべる奴は、怪しい》という印象になってしまった。雄弁にせよ冷静にせよ、単にその人物のキャラクターにすぎないのに。
■後ろ指をさされた人たちとの対話
3人目の証言者は、河村シゲルさん。河村さんはフリーのテレビ・プロデューサーとして、三浦元社長と出会い、今現在、恐らく最も定期的に三浦氏と接触している人物の1人だ。
河村: 三浦さんが無罪になりましたよね、5年前に。その時に三浦さんの支援者の弁護士さんとか何人かいらっしゃって。三浦さんがこの先色々な事をやるのに、僕は放送界で台本を書いたり演出をしたりするので、「こういう人間が1人は居たほうがいいんじゃないの?」と、誰かが引き合わせてくれたんですよ。それで初めてお会いして。
下村: 紹介をされるときも「あの三浦和義!?」って…
河村: もちろんそうですよ。僕は初対面で言ったんです。「お友達になるのはいいけれども、あなたは無罪だけど、僕から見たらグレーですよ」って。「それは僕じゃなくて、日本の大多数があなたを灰色だと思っている」と。初対面の挨拶がそれだったんですよ。
下村: それを言われてムッとするとかは。
河村: しません、しません。
下村: その後、何度くらい会っているんですか。
河村: 回数は、数え切れないですよ。この5年弱、うん。
下村: その中で、会われる前と、イメージは変わっていきましたか?
河村: 会っていれば、もちろん人間性が分かりますよね。時間は凄く守るし、約束は破らないし、気遣いができるし。本当に気遣いをする人なんですよ。
たまたま僕も、テレビの対談番組とかワイドショーの構成をやったりしていたんですけれども、長く自分でやってきて感じているのは、最近のテレビって《勝者の論理》で物を切っていくものが多い。でも勝者か敗者かと言ったら、世の中には敗者の数の方が圧倒的に多いはずです。だから僕は「敗者の声を出してみたい。それには、《1回後ろ指をさされた人たち》と話してみたい」という話を三浦さんにしたら、三浦さんも冤罪でいろんな関心があったから「そういう人は一杯いるから、河村さん、やろうよ」と言って。テレビ番組で企画なんか書いたんですけれども、通らないんですよ。「そんなものはテレビでは出来ないよ。ライブハウスでやろうよ。風穴は小さいかもしれないけど、やることが大事だから、やろう」と。
以来、東京・代官山の小さな洒落たライブハウスを借りて、三浦元社長と河村さんが聴き手になって、色んな冤罪事件の当事者などを毎回ゲストに招いてじっくり話を聞くというトークショーを、毎月1回、「痛快・現代人別帳」というタイトルで開いていた。一番最近の2月3日のトークショーでは、あの鈴木宗男議員の秘書だったジョン・ムウェテ・ムルアカさんがゲストだった。ムルアカさんも、鈴木宗男議員報道では、かなりもみくちゃにされた1人だ。三浦元社長の逮捕は、このトークライブを1箇所固定で行なわず、巡業のような形でこれから全国を回ろうという構想を練り始めた矢先のことだったという。
■サイパンから届いた伝言
実は、先々週の日曜(今月2日)に、このトークライブの第20回が予定されていた。その1週前に三浦元社長が逮捕されてしまったわけだが、捕まった後、サイパンにいる本人からもこのライブの件で連絡が来て、今回については予定通り開催されたという。
河村: 三浦さんから「是非、絶対やって下さい」って、伝言をもらいましたし。
下村: サイパンからですか。
河村: はい。奥様ルートで(来ました)。
下村: この事を気にしていらっしゃるんですね。
河村: もちろんですよ。三浦さんは、すごくのっていたし、冤罪で苦しんでいる人とか弱者を助けるんだと。それは、三浦さんは本当に真剣に思っていましたからね。
下村: 冤罪とかそういう問題に熱心なのは、「自分もそうなんだ」というのをアピールしたいから、そういうポーズをとっているのではないかと…
河村: だって、自分は無罪(確定済み)じゃないですか。あの方は、自分の冤罪をもう晴らしたわけでしょ。今、自分の冤罪を晴らすわけじゃない。冤罪で苦しんでいる人たちを救済することで、それをやっても三浦さんには何の得も無いじゃないですか。「最高裁で無罪」ですもの。それはやっぱり僕たち法治国家の中にいるわけですから、それを云々してはいけないと思うのね。そこは自分でちょっと明確にしておこうと思っています。
下村: 三浦さんの発言で印象的な言葉はありますか?
河村: 印象的な言葉というか、あの人が本当に言っているのは日本には更生の施設がないという事ですよ。刑務所の中で人間を更生していないと。それは少年刑務所でもそうかもしれませんけれども、出所して社会に出たらまた後ろ指をさされる。だから日本には人を更生するという場がない。やっぱりそういう場は必要なんだと、そのために今後ろ指をさされた人たちを支援する輪を作りたいという事。あの人が言わんとしている事は、いつもそれですよね。彼が言っている事は本当に正しいと思うし、弱者の味方をしていると僕は本当に感じていましたから、その一面は出してあげたいなと思うんですよ。
■“イメージと違う姿”も伝えよう
河村さんは、「ロス事件の真相は知らないが、それとは完全に切り離して、三浦元社長が今とっている言動はそのまま評価し一緒にやっていこう」という姿勢だ。
こういう「それはそれ・これはこれ」という分別(ブンベツでもあり、フンベツでもある)が、メディアは苦手だ。善人は、徹底的に聖人君子。悪役は、やる事なす事全て悪い。―――という、まさに“白黒テレビ”のような描き方になりがちだ。以上の証言から浮かび上がる三浦和義像も、いつも報道されているイメージとはかけ離れていて、戸惑う人も多いと思う。そこで、「戸惑わせては判りにくくなるから、放送しないでおこう」と判断するのではなく、「判りにくさも含めて、トータルな人間像を伝え、あとは情報の受け手にそれぞれの頭で考えていただく」こと。そういう《成熟した情報社会》になるといい。
三浦元社長の別の面を見ている人達は、今回の逮捕以来の動きに「異議あり」という声をあげようとしている。来週木曜日(3月20日)には、今日紹介した方々とはまた別の人達が、東京の水道橋で「三浦和義氏の逮捕に怒る緊急集会」を企画している。「一事不再理の原則」について、大学教授を招いての基調講演から始まり、報道のあり方の問題や、さらには今後の日本社会にとっても気になる「共謀罪」という言葉が今回チラチラ登場していることをどう捉えたらよいのか、といった観点でも、意見交換が行われる。大手メディアは報じないだろうが、興味のある方は、市民メディアなどで情報収集を。