“志金”循環を目指して…NPOバンク全国大会開催

放送日:2008/2/ 9

先週末、東京で「NPOバンクフォーラム」というイベントが開催された。4年前に、北海道で初めて開催され、今回が3回目の全国集会だ。
“NPOバンク”は、一昨年にもこのコーナーで採り上げたが、いわばNPO専門の金融機関だ。法的には銀行とは分類されず、貸金業者の登録になってしまうが、中味はサラ金とは相当違う。市民が自分たちのお金を集めて、自分たちの判断で、市民の事業に融資しようとする仕組みだ。

■言葉や祈りではなく、《金》が現実を変える

一般の銀行は、NPOや市民運動グループに対してなかなか融資をしないから、《借りたいニーズ》はかなりある。しかし、それだけでなく、実はそういう所に《貸したいというニーズ》も結構多いのだと言う。つまり、市民運動の財源というと寄付というイメージがあるが、「寄付まではできないが、自分のお金を社会の役に立てたい」という人たちも少なくない。そういう思いの受け皿として、いわば“後で返してもらう寄付”=融資というアイデアが浮上したのだ。
また、それだけではなく、「自分の預金を大手銀行に預けると、軍事産業や環境破壊産業などに投資され、結果的に自分がそういう事業に資金援助していることになるのが嫌だ」という人たちの、預金の受け皿としても機能している。
今回のフォーラムでは、“NPOバンク”の1つ、『未来バンク事業組合』の田中優理事長(眼のツケドコロ・市民記者番号No.30)が、まず世界の「マイクロクレジット」の成功例を紹介した。これは発展途上国で近年普及してきているアイデアで、貧困層の人たちにごく少額(=マイクロ)なお金を貸して、自立の為の“初めの一歩”を提供するというシステムだ。“NPOバンク”と発想が似ており、当初は、「そんなのは理想論、誰が出資するんだ!?」とも見られていたが、今や大いに実績を上げている。

田中: バングラデシュで、貧しい人にしか融資しないというバンクを作ったところ、1990年にはバングラデシュ最大の銀行になっていた。今現在も、バングラデシュ最大の銀行です。
 我々の未来を作っていくのは、我々が《頭で考えたこと、祈ったこと》ではない、ということです。私たちが口で言った未来なんてものは、何一つ実現しません。「平和が大事だ」と言おうが、「環境が大事だ」と言おうが、そんなことは何一つ現実にならない。「我々の未来を作るのは、《どこにお金を預けたか》だ」という風に言うことができると思います。

向田: 預貯金の使われ方ですね。我々が反対していることにお金が使われている。反対しながら自分がお金を出しているんだったら、自分自身も加害者じゃないかっていうことで、反省しました。今まで銀行に預けてきた、《預けっぱなしにしてきた自分の責任》もあるんじゃないか、ということで動き出したわけです。

後半の発言は、同じく“NPOバンク”『女性・市民信用組合(WCC)』設立準備会の、向田映子代表だ。

■《心の配当》を求める人々の殺到

利率ばかりでなく、預けた自分の金が社会でどんな投資に回っているかを、しっかりと気にしようという考え方は、理想としては立派だ。しかし、これはバングラデシュのような、深刻な貧困が目の前にある社会だからこそリアリティがあって支持され成立する話ではないのか。日本のような社会では、こんな立派な考えを掲げても、“浄財”は集まりにくいのではないか? ―――と思いきや、日本社会にも、こうした資金が集まる下地は結構あるようだ。2001年9月、北海道・浜頓別に建った「市民風力発電所」は、建設資金調達の方法の1つとして、一般市民から出資を募って成功した。その経緯を間近で見ていた『北海道NPOバンク』の樽見弘紀理事が、フォーラムで事例報告した。

樽見: 全国で初めて、市民出資という形で風力発電所、1号機はなんと2億円もする風力発電所を、なんと市民出資で1億5千万円(正確には1億4千2百万円)も集めて建ててしまったんです。当時、出資金一口というのは50万円でした。数ヶ月の間に1億5千万円が貯金通帳に見る見る記帳されていく。50万、50万、50万、と積み上がってゆく。50万円出資すると2%の配当がある。そういう金銭的な配当=《懐の配当》と同時に、風力発電所が建って、オルタナティブな発電方式が産まれる中で、世の中が変わっていくという《心の配当》も得られる。《懐の配当》と《心の配当》と呼んでるんです。

このケースは、風力発電所を作るという1つのプロジェクトに向かって集められた融資の話だが、それをより拡げて、色々な市民活動に融資できるようにしようという器が、“NPOバンク”というわけだ。

■「何なんだろう」から、「それじゃあ自分たちで」へ

先程の向田さんの『女性・市民信用組合』の場合、市民から集まった出資金は、1億3千万円。それが融資によって何回転もしているから、今までの融資総額は、97件の市民活動に対し3億6千万円と、今回のフォーラムで報告されている。向田さんは、このシステムを立ち上げようと決意した時の思いを、こう語った。

向田: これまでの金融機関とかシステムへの疑問です。思い出していただきたいんですけど、1990年、バブルが崩壊していろんな金融機関の不祥事が出ました。破綻する銀行もありました。私たちは初めて「金融機関って何なんだろう? どういう役割を果たしたらいいんだろう?」ということを考えました。必要な所にお金が回っていない。私たちが思うような金融機関が無い。それじゃあ、自分たちで作ってやろう! こういう事で銀行を作ろうという風になったわけです。
 「出来る事は何だ?」と考えまして、皆がお金を出してそれを融通する昔の頼母子講とか無尽のような形でお金を融通し合ったらどうかというアイディアが出まして、それで貸金業登録をして、開始しようということになったわけです。この当時私たちは『未来バンク(事業組合)』と言う存在があることを全く知らないで活動しておりました。活動してる時は、自分たちは孤独だなあと思っていたんですけど、やり始めようとしたら先輩がいたということで、大変力強く思いました。

向田さんの言う、「自分たちだけかと思ったら、他の場所で同じ事を始めている人たちがいた」という現象は、《社会の空気が変わる時》にしばしば起こる象徴的なパターンだ。誰かが旗を振るわけでもなく、日本のあちこちで、自然発生的に同じ動きが沸き起こる。かつてのリサイクル運動や、今の市民メディア運動なども、皆そういう立ち現れ方をしている。“NPOバンク”についても、そういう流れが生まれつつあるのかもしれない。

■融資の審査が、市民運動を鍛える

もちろん、実際の貸付には、審査がある。いくら一般の銀行と違うと言っても、「貸してくれ」と頼んでくる市民団体全てに、ノーチェックで貸してしまうわけではない。このフォーラムでも、お金を借りてみたいと思っている市民団体の人が会場から質問し、実際に審査業務を担当している人が答えるという一幕があった。

会場: 実際に融資する現場で関わっていく時に、どんな点を重点的に見ているか、経験から少し観点をお話ししていただいて、「こういう風に頑張れよ」みたいなメッセージを頂ければなと思います。

審査担当者: 我々の審査は、基本的には組織の《目的の社会性》ですね。そこの所が一番、最終的な決め手になっております。あとは、我々も面接審査をしてまして、“バラ色の非常に夢いっぱい”の事業計画は、ちょっとよしてほしいなっていう…。「3年後に、3000万円ぐらいの事業規模になります」って言われると、「ちょっとそれは…あなたの夢ですよね」って言うことになってしまう。やっぱり10年後に大きな夢を持っていても、《次の1年、何をやりたいか》です。

大切なのは、手堅い事業計画だ。この審査がしっかりしており、しかも《排除》機能ではなく《指導》機能を果たしているから、日本の“NPOバンク”でもバングラデシュの「マイクロクレジット」でも、貸し倒れは驚くほど少ない。
そもそも、日本の市民運動の大きな弱点は、資金計画がしっかりしていない、ということだ。入ってくる寄付金も少ないし、スタッフも無償のボランティアが当然だという空気がまだまだある。欧米では、1つの市民団体が億単位の活動資金を動かす例はざらにあるし、優秀な人材を集める為に、きちんとした報酬も支払われる。そういう基盤のしっかりした市民運動に脱皮をしていくトレーニングとしても、日本の市民団体がこういう審査を経験するのはプラスかもしれない。

■《志》でカネが動く社会を目指して

“NPOバンク”は貸金業法で登録されるので、行政側も、その動きを《把握》はしているが、まだ積極的に《理解》を示しているという段階ではない、と向田さんは言う。

向田: 「規制すること」だけが行政の中でずっと行われていて。新しい市民の動きがあって、今、それにふさわしい金融が市民側から求められているっていうのに、対応できていない。市民の要望を行政当局がキャッチできない。議員の人たちもそれを知らないという、そういう中にあるんじゃないかなと思うんです。
 ヨーロッパでは、それがもう凄く連携しているんです。で、市民がどんどんそこに預金して借りてるっていう。普通の銀行が1~2%くらいの成長率なのに、“市民バンク”はすごく増えている。そういうことを、(日本の)金融庁の方々はキャッチしていらっしゃらない。調べればすぐ出来ることなんですけれども、そちらに顔が向いていないという事実があるので。

行政と並んで、既存の銀行業界も、この“NPOバンク”という動きには、恐らくなかなか理解を示せないだろう。(その辺は、大手メディアが市民メディアの役割をまるで理解しないのと一緒だ。)
それでも、既存の金融人の中にも、理解者はちらほらと出てきている。中央労働金庫の総合企画部次長・山口郁子さんは、日本の金融機関としては初の「NPO事業サポートローン」という制度を立ち上げた人で、今回のフォーラムでも、こんな発言をしていた。

山口: 私たち金融っていうのは、「どっちを向いて仕事をしなきゃいけないのか」ということをあらためて感じました。《金融庁の顔色》を見て仕事をするのではなくて、私たち金融機関で言えば預金者、“NPOバンク”で言えば出資者の方々が何を望んでいるのか、どんな社会を作っていくことを望んでいるのかということに今一度立ち返って、《自分たちの金融のあり方》っていうのを見直さなければいけない時期なんだと、あらためて思っています。
 金融機関は、金融庁の定める金融検査マニュアルに従って、様々な金融機関経営を監視されておりますので、どうしても金融機関の制度上では応援できない事業者の方たちもいらっしゃいます。しかしながら、その既製服に合わない人たちのための、オーダーメイドの服も作らなきゃいけない。そういうために“NPOバンク”があり、金融があり、それぞれを改革していったり、新しい仕組み作りを誕生させていく必要があるんだろうなと思います。

「どんな社会を作っていくか」に立ち返って金融のあり方を考えようという姿勢は、とても青臭いが、大切な原点だ。その発想を込めて、今回のフォーラムのタイトルは、「志金循環のつくり方――わたしのお金ができること」と謳われた。“資金”ではなく、《志》の金という意味での“志金”。

私も高校時代、社会科で“金本位制”という言葉を習った時から、《志》本位制の「“志本”主義社会」が生まれたらいいと思っていたので、このフォーラムのタイトルを目にした時には、「ついに来た!」と膝を打った。これからどう発展していくのか、注目したい。

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