コムスンの元スタッフらが立ち上げる介護NPO

放送日:2007/11/17

昨日(11月16日)、東京の三鷹市で、市の主催する「ビジネスプラン・コンテスト」が開かれた。地域に貢献するユニークなビジネスプランを競い合うコンテストだ。応募した46件の中から、事業化を後押しする奨励金を獲得したのは、元コムスンの現場スタッフ達が始めようと計画している、介護NPOのプランだった。今朝はその中心メンバーである、介護福祉士の柳本文貴さんにお話を伺う。


■介護保険制度にとらわれないサービスを

今年6月に様々な不正請求が発覚したコムスンは、介護事業からの撤退を余儀なくされた。今月1日、その介護サービスのほとんどが都道府県ごとに分割され、同業他社や事業者に引き継がれた。先週このコーナーでは、新しい事業者の下で今までどおりに仕事を続ける道を選んだ、鹿児島のスタッフ達を紹介した。

――柳本さんは、同じ元コムスンの介護スタッフという立場でも、それとは違うチャレンジを始められると?

柳本: 元コムスンの仲間10人位で、NPO法人『グレース・ケア機構』を立ち上げる準備をしています。
 介護っていうのは今、分野として非常に不人気になってしまってるので、介護業界の人気を取り戻したい。また若い人達もどんどん入ってくるような、明るい楽しい仕事の場所にしたい。そのきっかけとして、ソーシャルベンチャーで事業をやって行きたいなと思っています。

――先週ご紹介した方々も、「どんどんベテランが出ていってしまう」と言っておられましたが、そこに歯止めをかけたい、ということですね。

柳本: このままだと、ジリ貧なので。どんどん人がやめて行く中で、残った人達で回していく。そうするとやはり、残ってる人もますます辛い。今も、そういう悪循環なんです。

――実際に行なうケアサービス本体は、今までとは何か違うんですか?

柳本: 介護保険で出来ない部分のサービスを提供するという形になります。全く別の、自由契約っていうのも変ですけど、保険外の部分になりますので、制限なく、いろんな形で対応ができると思います。
  今回、コムスンの問題もそうでしたけど、介護保険制度の先行きが難しくなってるのかな、と思ってます。お客様にしてみても、使えるサービスは限られてますし、制限も多い。サービスを提供するヘルパーもいろんな制限や縛りがあって、ほんとにしたい事がなかなか出来ない、というような状態なんです。そうではなくて、保険外の事業を含めて、上質のケアサービス、よりお客様本位で、スタッフも適正な報酬を得られるような事業がしたいと思っています。

――介護保険法で決められている「ケアプラン」に加えて、それ以外のサービスを全く別系統の料金で?

柳本: そうです。お金持ちに限らないんですけれど、ある程度余裕のある高齢者の方々がどういう暮らしをしているかっていうのを考えると、今の日本だと、超高級有料老人ホームしかないというのが現実なんです。有料老人ホームもいいですけれど、やっぱり《一番良いのは我が家》だなって、私は思ってます。
 じゃあ家の中で、これまでと変わらず豊かな暮らしを続けていくためにはどうしたらいいのか? そのためには、それに対応できるような良質のヘルパー、セクレタリー・アシスタント的な業務も含めて、いろんなスキルや能力やキャラクターを持っているヘルパーを派遣する。で、障害がある、認知症がある方々のキメ細かいニーズに応えていく。家の中で、住み慣れた地域で、今までの暮らしを継続していくお手伝いがしたいんです。

■叩くばかりで、本質見えず

コムスン問題が報道されたとき、柳本さんは、介護の本質的な問題が全然直視されていないということに違和感を持ったと言う。

柳本: 面白おかしく、そういう材料でもあったと思うんですけど。本当に、(親会社のグッドウィルの会長)折口さんのバッシングのような形が多くなってしまっていて。先週もお話があったと思うんですけれど、あれ(バッシング報道)のせいで現場的には、嫌がらせを受けたり、コムスンのユニフォームを着て街中を歩けないとか、そういう悲しい事もかなりありました。ただでさえ厳しい中で、頑張ってはいるんですけど、「退職をしたい」っていう人達の背中を、ちょっと押してしまった…。
  人材が不足しているのに無理をして拡大発展をしたコムスンの問題ではあるんですけれども、以前は良かったものがなかなか難しくなる
(行政の指導基準が一定せず、以前はOKだった事が処分対象になる)というような部分では、(介護報酬の)給付抑制のための《見せしめ》のようなケースも、中にはありました。
 自治体によって、認められる・認められないがあったり、行政の解釈次第で良かったり悪かったり。そうすると、ケアマネージャーも怖くて介護プランが作れない。ヘルパーも、実際の現場で介護をするより、周辺的な書類の作成とか、サービス提供責任者としてのケアマネージャーとの調整、あるいは役所への問い合わせとか―――やりたい仕事の中身と非常に違ってきてしまっている、っていうのはあるんです。

こうした問題に殆ど触れない当時の報道を、柳本さんは自身のブログで手厳しく批判している。

―――『グレース・ケア機構/とんち介護教室』ブログより――――――――――――――――――
(2007年6月14日付)
<現場不在のご都合対決! マスコミ×折口>
それぞ~れの思惑ばかり見え隠れする「介護」をめぐる大騒動。
はりきって折口を追及するキャスター。
「不正を知ってて指示したでしょ!逃れようとしたでしょ!会長を降り口!」と責任を追及して辞任を迫るという、お決まりのパターンばかり。
(中略)視聴者にどれだけウケるか。唇をなめなめ怒った口調で身振り手振り。あ~醜い。
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■もっと明るく採り上げようよ!

柳本さんのブログは、巻頭言に、「この悲観的な状況をどう吹き飛ばし、明るい高齢化社会をつくるか??? 介護の現場から頓知とやせ我慢、空元気で発信します!」とある。採り上げる内容は深刻だが、ユーモアで上手くくるんでいて読みやすい。
そして、単なるマスコミ批判だけでは終わっていない。ある日このテーマを採り上げた『NHKスペシャル』を、介護制度の問題点への警告がよく出ていたと評価した後で、“望ましいトーン”を(あえて冗談めかしてはいるが)次のように提示している。

―――『グレース・ケア機構/とんち介護教室』ブログより――――――――――――――――――
(2007年9月18日付)
う~む。番組のトーン、1時間中、ずっと沈んだまま。
ヒュードロドロというような暗雲垂れ込めるBGM、鳴りっぱなし。
どうして介護番組っていうと、とってもヒューマンでハートフルってヤツか、こういう重労働低賃金、人材がみ~んな逃げていくっつう暗いヤツに限られるのだろうか。
介護保険前のあの明るさ、高度経済成長前の屈託のなさみたいな元気を取り戻したい。
NHKもスペシャルなら、例えば、ラスト。ニチイ学館の寺田会長が底抜けの高笑いをしながら、コムスンのあとはまっかせなさ~い、と京都は清水の舞台からパーッと番傘を開いて飛び降りるパフォーマンスをしてみせるとか、
(中略)そんな前向きなオチが欲しい。
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柳本: (ハートフル型もヒュードロドロ型も)もう飽き飽きしてますよね。

これには非常に共感する。私も、20年以上前にテレビ報道の仕事を始めたときから、「身体障害者の人がテーマで、その主人公が可笑しい事をやったら、ちゃんと《指差して笑える》ような番組を作りたい」と言い続けている。「駄目ッ、あの人達のこと笑っちゃいけません」というのは、逆差別なのだから。

■“We are the aged”キャンペーン

マスコミが変わるのを待ってはいられないと、柳本さん達は、自分達で前向きに発信・行動しようとしている。

柳本: このままだとジリ貧ですから、ちょっとこれを大逆転をしていけるようなキャンペーンをしてみるっていうのは、面白いんじゃないかなと思うんです。
  「給料安い」「重労働」みたいな話が出て来ると、「じゃあどうすんだ?」といった時に出て来る結論は、「介護報酬あげなきゃね」という話。でも、法律が出来れば一番いいんですけど、社会保障の枠組み、総額が決まってる中で、そうそう大きな報酬増は期待できない。であれば、もうちょっと《別のお金の流れ》っていうのを作りたいと思ってます。
 (キャンペーンの名前は)“ケア・エイド”です。80年代にWe are the world、We are the childrenというのがありましたけれども、それをもじりまして、We are the world、We are the agedで。

――“我々は、高齢者だ”?(笑) このキャンペーンが、『グレース・ケア機構』の活動の、もう1本の柱なんですね?

柳本: はい。皆いずれ、年を取りますし…。これからそういう人達が増えていくのは間違いないわけです。その中でどういう風にそれを支えていく仕組みを作るのかというのは、問題意識として、もっと持ってていいと思います。
 一人ひとりの問題になるわけですから、その中で、もう少し《支え手の側を支援》できるような寄付金を(広く一般から)募りたいと思ってます。それを財源にして、一方で介護現場のほうから、いろんなステキなエピソードを募集して、表彰する。魅力的な人や面白い人、いろんな介護職がいるので、実際に出会ってる利用者との関わりとか、「非常に明るい」「ポジティブな」「人材不足で大変だけれども、楽しくやってるよ」みたいな、現場に埋もれている、介護の不人気を吹き飛ばすような前向きなエピソードを、どんどん評価していく。そういう流れができたらなと思ってます。

いわば現場エピソードの“明るさコンテスト”というわけだ。それで受賞作に面白い話が並んだら、確かに、介護の先行きにつきまとう暗いイメージは変わっていくに違いない。

■ただ今、水面下で準備中

――で、共に『グレース・ケア機構』設立という新しい道を目指す皆さん、とりあえずコムスンが無くなった今月1日からは、当面の仕事はどうしてるんですか?

柳本: それが、あまり大きな声では言えないんですけど…

――じゃあ小さい声で。

柳本: (小声で)聞こえますか?(笑) ご承知のとおり承継会社というのがありまして、それぞれの会社にわかれて勤務は続けてます。私たちの仲間は、あまり辞める人っていうのがいなくて。目の前に(介護の)必要なお年寄りがいらっしゃるわけですから、辞めることが出来なかったっていうのもあるんですけど。

――今までケアしていた、利用者の皆さんをそのまま介護しながら、次の活動の準備をしていると?

柳本: やっぱり皆、いろんな思いがありますので。このままじゃ先が見えないっていう不安の中で、何か新しい物やりたいなって気持ちがあります。

――その新しい物が、なんで会社じゃなくてNPOなんですか?

柳本: コムスンの問題もそうですけど、企業組織に対しての不信感っていうのは世間的にも根強いですし。私たちも、新しい事やるのに、また新しい会社の中でやりたくないなっていう気がしました。(会社だと)株主の意向とか利益追求という要素は、どうしても抜かせないわけですから。それよりも、現場の介護職がきっちりと、より適正な介護報酬を得られるような形に出来るのは、NPOの方が(万全ではないにせよ理想形に)近いのではないかなということで、選択しました。

――今、手続き中ということですね。

柳本: 申請は今月中に出します。(認証を受けて事業をスタートするのは)来年の春です!

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