「平和省」を創ろう! 来週、東京で国際会議

放送日:2007/9/15

安倍首相の辞任で、新しい総理大臣や内閣が間もなく誕生するが、折りしも来週から、新しい政府機関を創ろう!と呼びかける、耳慣れない国際会議が日本で開かれる。その名も「第3回平和省地球会議」。
開催準備で大忙しの真っ只中の、一橋大学の 今村和宏 准教授にお話を伺う。

■既に設置されている国も

――「平和省」って、平和を司る政府機関の名前ですか?

今村: そうです。「平和省」を各国に創ろうという運動は、かなりいろんな国で行なわれておりまして、そういう事に取組んでいる人達が、世界中から集まって会議を開くんです。そういった活動を世界的に取りまとめている国際的な枠組みとして、平和省グローバル・アライアンス』というものもあり、その日本での主体が『平和省プロジェクト(JUMP)』です。

――各国には、防衛省や国防省など、軍事関係の省はありますが、「平和省」って具体的に何をする所ですか?

今村: 主に、戦争から家庭内暴力まで、あらゆる“争い事”を、暴力に頼らずに《創造的な対話》によって解決して行こうと、そういった方法を提案し推進する政府機関、という事になります。

――あったらいいけれど、実際政府にそれを置くのは、難しくないですか?

今村: よく、「そんな事って、理想としてはいいけれども、夢物語ではないの?」っていう風に訊かれてしまうんですが、実際に、たとえばネパールとかソロモン諸島には、既に国家に「平和省」があるんです。中米のコスタリカでも、既に法案が提出されておりまして、もう通過が秒読みの段階まで来ていて、すぐに出来るだろうと言われています。

――今回は「第3回」ということですが、過去2回は、どこであったんですか?

今村: 第1回が2005年10月、ロンドンで開かれました。去年(2006年)は、6月にカナダのビクトリア市で第2回が行なわれました。

――どういう経緯で、今回は日本になったんですか?

今村: 日本っていうのは、特別な国であろうと。それは、憲法9条もありますよね。そういう国でやってみるのも非常に良いのではないかという話で、日本に決まりました。

■日本の市民の寄付で、第3世界からも参集

――国際会議と言っても、こういうのってよく欧米に偏っていたり、近所の国だけだったりしますけど、参加国の分布はどうですか?

今村: 25カ国から、80名位の人が参加予定です。かなり全ての地域からいらっしゃいます。たとえばアフリカの方って、普段だったら、なかなかこういう国際会議には出られないんですけれども、今回はいらっしゃいますし、アジアも、中南米の方もいらっしゃいます。

――アフリカからも、自腹を切って来るわけですか?

今村: いや、それがなかなか大変で、航空運賃から言っても、年収に匹敵するような額がかかってしまう。だから、なかなか参加しづらいという状況もあるんです。第1回、第2回ではそういう事もあって、ほとんど先進国の人達が参加者ということになってしまったんですけれども、今回は特に、そういう第3世界の方達を沢山呼びたいということで、資金的な援助を行なってます。

――それは、誰がお金を出してるんですか?

今村: 先進国の人達が、いろいろ頑張って出してます。特に今回は、日本が主催ということで、皆で募金をして、日本からの拠出金はかなりな額になってます。それでもかなりきつい状況です。他の国だといろいろな団体が寄付したりとかするんですけど、日本の場合にはそういう文化が無いものですから、個人の寄付ということでやってますから。

――「平和省」っていう話し合いだったら、先進国だけで仲良くやっていてもしょうがないですよね。そういう国々の参加は、凄く意義がある…

今村: そうです。特に、紛争が沢山ある国っていうのは、割りと第3世界の方に多いもんですから、発展途上国の方に是非出て頂きたい。たとえばフィリピンなんですけれども、ずっと紛争が耐えなかったのが、つい最近やっと解決しまして、政府側の人と、反政府側の人と、仲介者の人と、3者が皆揃って、今回来るんです。

――それは、具体的な実践事例が聞けそうですね。

■コンサート、シンポジウム、ワークショップ…

今村: 来週金曜日(9月21日)に、「平和省地球会議 セレブレーション・コンサート」という、お披露目の為のイベントがあります。千葉県木更津市の『かずさアカデミアホール』という所で、18時半から。誰でも参加出来ます。コンサートだけではなくて、そこに参加される方達がいらして、簡単な挨拶とかメッセージが出されます。
  (会議)本体は、22日から25日で、主なものは一般公開ではないんですが、一部公開される部分もあります。

――4日間の会議の成果を、一般の人が知る場っていうのはあるんですか?

今村: もちろん用意されてます。様々な地域で、シンポジウムで一般に公開されます。

  ●東京シンポジウム/9月26日(水) 19:00~ 於 オリンピック記念青少年総合センター
  ●広島シンポジウム/9月29日(土) 13:30~ 於 広島国際会議場
                                                                     (世界のピースメーカーの人々とのお話の会)
  ●長崎講演会   /9月30日(日) 18:00~ 於 教育文化会館
  ●沖縄シンポジウム/10月2日(火) 19:00~ 於 琉球大学

今村: 会議開催中に、代々木のオリンピック記念青少年総合センターでは、「非暴力コミュニケーション(NVC)入門講座」というのもあります。これ、なかなか聞き慣れない言葉だと思うんですけれども、平和の文化構築に欠かせない家庭・学校・職場から政治・国際紛争まで、あらゆる人間関係に利いてくるような、「平和を作り出すコミュニケーションの方法」(=Nonviolent Communication)を学ぶという試みなんです。《勝ち・負け》であるとか、《悪・正義》とか、《優・劣》とか、いわゆる普通行なわれる、二項対立だけで物事を考えるのではなくて、そこから抜け出して、必要な事が《お互いに満たされる》ような解決を見出す、という方法なんです。自分の気持ち、相手の気持ちに注目した新しい言語をマスターして、豊かな人生、平和な社会を創るワークショップです。

二項対立ではない考え方―――まさにこれは、9・11テロ後、「我々側につくか、向こう側につくか?」と世界に向かって言い放った某国のブッシュ大統領に、教えてあげたい発想だ。

今村: そういう発想が身につけば、やはり、物事はコミュニケーションが基本ですので、そういう事で家庭内や友人関係、仕事関係がスムーズに行く。ただ“スムーズに行く”っていうと、何か人に気配りをして、一生懸命自分を犠牲にしなければいけないんじゃないかと思うかもしれませんけれども、そういう事だけではなくて、《自分自身も満たされる》ようになっていく。そういう意味での、自然なコミュニケーションが出来るようになるというテクニックです。

国際平和というと、凄く遠い国家間の話のように感じられがちだが、こういった、社会の最小単位レベルの平和も、この活動は視野に入れている。

■英・加・米で提出された平和省法案

一方、国家レベル部分での取組みが「平和省を創ろう」という働きかけなわけだが、他の主要国の取組み資料を見ると、これが結構興味深い。
まず、英国平和省法案(2003年)は、首相等への提言、平和構築作業でのNGO支援、地域紛争委員会の設立・財政支援、紛争解決のための新しい科学技術(伝達、エネルギー等)開発…等と並んで、「天然資源保護」を謳っている。これからの国際紛争の最大の火種は、枯渇していく天然資源の分捕り合いである、という観点から、抜本的対策にも踏み込もうという姿勢だ。
カナダ平和省法案(2005年)は、平和的解決策の開発、市民平和プログラムの促進、自治体ベースの暴力防止プログラムへの資金提供…等と並んで、「平和教育を義務教育化するカリキュラムの開発」もメニューに挙げている。日本の検定教科書が進みつつある方向性とは、真逆のベクトルのように感じられる。
更に、米国の連邦平和省法案(2005年再提出)は、「国防予算のうちの2%を平和省の方に回せ」と、財源確保の規定まで明示している。また、注目すべきは、「米軍への支援」を行なうという部分だ。自国軍に対して、敵対勢力間の暴力抑止の為の実践的技術の提供のようなことを行なうのだという。高遠菜穂子さんのイラク報告を常々聞いていると、この「暴力抑止の為の技術提供」は、本当に必要だと思う。この技術が無いために、米国軍はイラクで泥沼にはまっているのではないか。

――しかしこれは、軍と平和省が対立し合ってしまう気もしますが、そうではない…?

今村: 非常に微妙な部分なんですけれども、要するに、米国っていうのは軍事大国ですよね。軍と対立するような形での平和省法案の提出っていうのは、不可能なわけです。そうではなくて、「今、軍とか国防省に足りない部分を補う」という形のアプローチということで、たとえばこういうものが出てるわけです。

もう1つ、米国平和省が緊急にしなければならない課題に、「家庭内の平和を回復しなければいけない」として、デトロイト市の例が挙げられている。デトロイト市警察の8割は、DV(=家庭内暴力)の対応に追われているのだと言う。

今村: 米国は、様々な社会問題を抱えてまして、特に暴力や犯罪の問題って言うのは凄く大きな問題として、いつも緊急の課題と言われてるんです。ある調査によりますと、「戦争との関わりの強い国ほど犯罪率が高い」という統計さえあるんです。世界一の軍事超大国でも、連邦議会の多くの議員の賛同を得て、このような法案が議論されているということに、非常に意義を感じます。

――米国がそういう議論をしているというのは、あまり報道されていませんでしたからね。

今村: そうなんです。それは、本当に残念な事ですね。日本でも、それが報道された事は、多分無いんじゃないでしょうか。

■日本の平和省と憲法9条

――じゃあ、日本版「平和省」は、どんな特徴を持つことになりますか?

今村: 日本の特徴として、1つ誇れるのは、憲法の第9条(戦争放棄)だと思うんです。ただ「戦争放棄」ということだけではなくて、平和というものを真剣に考えて、平和のある意味での《文化》というようなものを明文化しているところに、非常に意義があると思うんです。それを持っている日本であればこそ、「平和省」っていうのは無きゃいけないんじゃないだろうか、という問題意識が多くの人にあります。

――「平和省」は、憲法9条の精神を、具体的な形にして行くセクションということになるかもしれませんね。

今村: その可能性は、高いと思います。

今回の「第3回平和省地球会議」は、果たしてそこに向かってのステップとなり得るだろうか。

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参加したい方は、『平和省プロジェクト(JUMP)』まで。

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