TBSラジオ、イランで優秀賞取り・・・大統領と会見!

放送日:2007/5/26

私達にとっては非常に耳慣れたTBSラジオのサウンド・ロゴ「♪聞けば、見えてくる。TBSラジオ♪」が、先週イランで開催された「国際ラジオ・フェスティバル」で、第2位に当たる優秀賞を獲得した。この授賞式に出席して来た、TBSメディア推進局国際部の小川潤部長が、全く予期せず“時の人”アハマディネジャド大統領と話す機会を得た。対米強硬発言を連発する大統領と、ナマで会った印象を、小川部長に聞く。

■言語を超えて響いた“リンリン”

国際ラジオ・フェスティバル優秀賞でいただいた盾 ――まずは授賞式の話から。これが盾ですね。金の延べ板にちゃんと刻まれていますが、何が書いてあるんですか?

小川: ステーション・ロゴ部門―――局のキャッチコピーといった部門での優秀賞を表彰しているものなんです。最優秀作品(賞)は、地元イランの放送局に行ったみたいです。

――じゃあ、外国からのエントリーではトップということになりますね。どういう所が評価ポイントだったんですか?

小川: 具体的な講評は無かったです。ラジオっていうものは、要は《言葉》ですよね。《言葉》を国際的に評価するっていうのは、日本語が分からない人達がどうやって評価するんだろうって思うんですけど。出品にあたっては、対訳を付けて出しました。ラジオがまさに目指すもの、耳に聴こえたものが頭の中にイマジネーションとして広がっていく。そういった点で、“リンリン♪”っていう自転車の音が多分、国際的な審査員にも響いたんじゃないかな、っていう風に思いますね。授賞式は、1番東側のマシュハド(Mashad)という、イラン第2の都市で行なわれました。比較的豊かな町です。

――その後、首都テヘランへ行かれたわけですか?

小川: (帰りの国内線の)空港に向かうバスの中で、突然何気なく「このままテヘランに戻ったら、そのまま大統領府に行きます。大統領がお会い致します」という話になりましてね。私達もびっくりしまして、「えーっ!?」という一方で皆「やった~!」と。

■「米国との対話の時が来る」

小川: テヘランの空港に着いて、そのままバスで大統領府に向かいました。(バスには)18カ国位のラジオの制作に関わる人が乗っていたんですけど、日本人は私だけです。「じゃあ、どうしよう?」って、皆ポケットからテープレコーダーを出したり、カメラを出したりっていう感じでワクワクしていたんですけど、「カメラ・その他の物は、一切持ち込み禁止だ。録音もダメだ」と。

――実際、大統領とどんなやり取りがあったんですか?

小川: その会は最初、ちょっと珍妙になりました。というのは、質疑の場ではなくて、参加した私達の方から代表の何人かが立って、「今回の大会は大変良かった」と、ありがとうみたいなメッセージを出して。言ってみればこれは、下手をすればプロパガンダの場に使われるものだったのかもしれないんです。イランは国際社会から孤立をしてるということになっているので、逆に「そうじゃないんだ。これだけ国際的なメディアが来て、大統領と会っている」という(宣伝の)場に使われるような意味合いもあったのかもしれません。でも、そこに集まっていたのは皆、メディアに関わっている人ですから、そういうようなある種の儀式がちょっと一段落したところで、「質問があります!」という感じで声が出て。「対話が必要だって言うけど、アメリカと直接対話しないんですか?」みたいな話が出たり…

――おおっ、いきなり直球!

小川: 大統領は、「いずれそういう時が来ると思う」という風に答えました。大統領自らこういう発言をしたのは、初めてだと思うんですね。今、イランとアメリカとの直接的な協議が、1979年に断交して以来初めて、《イラク問題》を巡って行なわれるっていう風に言われていますが、「それ以外の《イランの問題》についても話し合ってもいい」というような事を大統領は言いました。これは、ニュースだと思います。
 ただ、そこでもう1つ大統領が言ったのは、「あくまでも対等な立場でなければ出来ない」と。これは何かと考えますと、アメリカが一方で、軍事力で譲歩を迫ろうとしている姿勢もあるわけですね。「それはイヤだ。軍事的圧力には反発する」という表明だったんじゃないかと思うんです。

■「憎しみではなく、ロジックで」

――直接会っているときに感じられた大統領の人柄って、公式コメントを語っている姿がニュースで流れる時とかと、何か違う雰囲気はありましたか?

小川: それはまさに、私も大変興味のあるところでした。なかなかこれまで、テレビの画面を通じて見ていても、どんな人なんだろうっていう雰囲気が分からなかったので、是非どういう人か、印象だけかもしれませんけど見極めていきたいなと思って行ったんです。
 (大統領は)物静かな感じでしたね。そのまんまなんです、掴みどころが無いって言えば無いのかもしれません。
 で、私も日本の立場から質問しました。1回しかチャンスはありませんから。「日本っていうのは被爆国で、こういった核問題に関して、大変懸念を持っている国なんだ。どういう風に考えているんだ?」と訊いたんです。そしたら大統領は「その事をそのまま世界に言って下さい。イランの核爆弾なんかを捜さずに、《核保有国に対して》核廃絶を訴えて下さい」と。要は、(核爆弾なんか)無いっていう趣旨で言っているんだと思いますが。

――「うちの国に言わずに、他の国に言ってくれ」と?

小川: 質疑があるっていう事が予定されてない会合だったのに、非常にキャッチボールが上手いって言いますか、投げた質問にパッと返って来て。彼は最後に、「憎しみではなくて、ロジック―――《理》で考えて欲しい」という言い方をしたんですね。もちろん、このロジックはイランのロジックなのかもしれませんけれども、ここに彼の精神があるのかなと思いました。《理》で考えたものがあるから、彼の信念、自信がそこにあるのかもしれないっていう印象を持ちましたね。ただ1回の、しかも20分の会談では、彼の人と成りはもちろん判断できないですけれども、そういう感じを受けました。

ニュースを表面的に(特に米国側の目線だけから)追っていると、アハマディネジャド大統領は、反米感情を煽るアジテーターのような人なのかというイメージすら持たれかねないが、実際の印象は、結構違ったようだ。

■プライドの裏返しとしての欧米不信

小川: 彼のベースになってるのは、市民からの支持なんです。それを思うと、あの国は、宗教というものが政治の指針になってるんですね。それは、人々の選択でそういう事になってる。一応民主国家で、ちゃんと選挙でなってるわけで、イスラムという宗教を政治の指針にしようというのは、ある意味では《国民の選んだ道》であると。それと同時に、あの国には、7千年近くの歴史があるっていう自負、そういう歴史的なプライドっていうものがありますね。そして近代の歴史を見ると、石油資本とか西欧に対する不信というものがある。《プライド、宗教、西欧不信》―――この3つのキーワードが、あの国を見るときに大事なんじゃないかって思います。
  そして大統領の人気も、この3つに立脚している。大統領はイスラム教に則って、非常に質素な生活をしているんだそうです。また、アメリカや西欧に対して、物を言ってくれる。民族的、歴史的なプライドっていうものを世界に主張してくれている。そういった事を「体現してくれているから、民衆の人気があるんだ」っていう風に、数少ないですけれども、(私が)接したイランの人達が言ってるんです。

――実際に接した方々の言葉の端々に、そういう《プライド》っていうのは感じられましたか?

小川: 歴史というものに対する、大変な誇りってものは感じますね。それはもう、町を歩いているだけでも、あちこちに遺跡とかペルシャ文化ってものが見えるわけです。日本の歴史の天平より以前に(イランは)あるわけで、これを考えますと、「なるほどな」って思いますね。

7千年の歴史という自意識を持って見たら、「欧米みたいな“ポッと出”の新興国が何を言ってるんだ!」という気持ちにもなるか。

■日本政府や日本人にできる事

――イランを巡る国際情勢は緊張状態が続いていますが、今回非常に平和的な名目の訪問をした小川さんから見て、日本は独自外交で、何が出来そうですか?

小川: 日本は、1953年に国交を樹立してから、イランと大変友好的な、良好な関係をずっと保って来てるわけなんです。そういう意味では、独自の橋渡し役みたいな事も可能なんじゃないかって思います。ただ、この問題は核の問題が絡んでますので、増してやこちらの東アジアにおいては、北朝鮮の核問題ってのがあるわけなんですね。それとの整合性っていうもので、手足を縛られている部分があるとは思うんですが、日本独自の動き方、日本の貢献の仕方っていうのがあるんじゃないかって感じて来ました。
 お互いが理解するっていうことは、大事だと思います。イランの人々の言葉には、(欧米)不信っていうのを一杯感じたんですね。「アメリカが何故?」みたいな事を一杯言うわけです。それは実際、日本人(である私)から見ると、同じ事柄を見てるんだけど、「ちょっとそれは視点が違うよな」っていうのを感じることがあったんです。そういう意味では、直接的な対話とか信頼の醸成ってのは大変大切なことで、1歩1歩そうやって紐解いていくことが大事なんじゃないかって思いますね。

整合性も考えつつ、日本独自の外交路線を見つけなければならないのは、かなり難しいだろう。政治レベルが難儀であればあるほど、今回のような民間レベル外交などの機会を捉えてお互いが行き来をし、会ってみるということは、ますます大事な“初めの1歩”だ。
受賞したTBSラジオの「聞けば、見えてくる」になぞらえて言えば、イランに「行けば、見えてくる」ものが、きっと一杯あるはずだから。

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