今回は、TBSのホームページの一角に眼をツケる。キッズ&ファミリー向けサイト『ブーブ☆キッズ』のキッズアニメワークショップに、小学生達がCGで作った、3D(立体)アニメーション・ビデオが15作品ほど、最近アップされた。1~2分のコントで、並の小学生のレベルを超越したオヤジ・ギャグを連発しつつ、CGで作られた立体的なキャラクター達が画面の中を動き回りながら、ストーリーが進んでいくというものだ。(注: 作品を見るには、リアルプレーヤーを無料でダウンロードする必要がある。)
―――<作品「メアリーとの出会い」より>――――――――――――――――――――――――
「宇宙人さん、地球に帰るには、どうすればいいの?」
「わたしを笑わせることができたら教えてやるわよ」
「じゃあ僕たちのギャグを見て下さい」
「校長先生、絶好調 ……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
子供達は、TBSのワークショップにたった1日来ただけで、その場でこういった作品を一から作り上げてしまった。この神業のようなワークショップを企画・主催した、TBSのi-camp(アイキャンプ)キッズプロジェクトチームの安田恵子ディレクターに、お話を伺う。
■これは簡単! 3Dアニメの出来るまで
安田: 小学校4年生から6年生の子供達に、1回のワークショップにつき20人ずつ集まってもらって、その20人を5つのグループに分けました。それを全3回やったので、全部で15作品ということです。
子供達は、ノートパソコンを使って、アニメーションを作りました。このノートパソコンの中に、DMD(デジタル・ムービー・ディレクター)というソフトウェアが入っています。これはもともと、NHKの放送技術研究所が開発した技術を基に、東京大学先端科学技術研究センターの安田・青木研究室の人達が作ったものです。(「ムービー塾」参照) それを特別に貸して頂いて、私達がワークショップを開催しました。
――今、このソフトウェアの画面を見ると、文字を書き込むようになっている空欄が一杯空いてますね。「誰」という見出しの空欄がまずありますが、誰を動かすか、ここにその名前を書き込むわけですね?
安田: はい。この空欄では、「ヤマ」と「トク」という2人のキャラクターのどちらかを選べるようになっています。(例えば)ここで、「ヤマ」と入れてあげます。
――そうすると、「ヤマ」の動作をこれから決めて行くことになるんですね。次に、「セリフ」という見出しの大きな空欄がありますが、普通にワープロみたいに、ここにセリフの文字を打ち込むわけですね?
安田: そうです。ここに例えば「皆さん、おはようございます」と打ちます。
――で、更に次の空欄。ここは、「表情」という見出し?
安田: はい。ここの空欄の中を見ると、「普通の顔・笑い顔・驚いた顔・怒った顔・悲しそうな顔」が選べるようになっているんです。朝の挨拶なので、「笑い顔」で行ってみます。最後の、「どうする」という空欄の中には…
――「殴る・うなだれる・2回頷く・首を振る・震える・普通のお辞儀・回転…」と、いろんな動作の選択肢が一杯書いてありますね。
安田: 「向く」っていうのを選択してみましょうか。それから、「何に」という空欄で、どこに向くのかを選択してあげます。「トク」ちゃんの方を向けましょう。
――向く方向、つまり動作の対象をここで決めるんですね。
安田: 次は「カメラワーク」に行きます。「カメラワーク」もいろんな選択肢があります。更に、キャラクターが2人いる場合は、2人を撮る「ツーショット」「グループショット」など、限りなく選択肢が沢山あるんです。
映像に映る登場人物のサイズ、どのアングルから撮るかなどを指定し、更に水平(つまり高さのこと、下から撮るあおり感・上から撮る俯瞰など)も指定する。実際にはカメラは無いが、ここでカメラの位置を選ぶと、その指定したアングルから撮っているかのような映像が出来上がるというわけだ。
安田: 「カメラワーク」さえ入れてしまえば、後は「再生」を押せば再生できちゃいます。ちょっと再生してみていいですか? (今指定した動きで、キャラクターが画面上で動き出す) 今、「ヤマ」ちゃんが「トク」ちゃんの方をクルッと向いて、「皆さん、おはようございます」としゃべりました。
――全部を文字で打ち込むだけで映像になるというのは、おもちゃとしても非常に面白いですね。
安田: これ(ソフトウェア)の良い所は、パチパチっと打って、再生すればすぐ見られるという、すぐ出来るというのが楽しいんです。
「アングルが違うな」と思ったら、カメラの部分だけを書き換えれば、違う映像に仕上がる。中に出てくるキャラクターは、文句も言わず、何回でも演じてくれるわけだ。映像にはBGMも流れるが、その曲も自分で選べるようになっている。
安田: BGMは、素材が400曲近く入っているので、自分の作りたい物に合わせて、選んで聴いてみて、違ったらまたやり直すという、やり直し作業が果てしなく出来るわけです。
「こうやると、こういう雰囲気になるのか」と、いくらでも試行錯誤が出来るようになっている。これなら、小学生もハマるだろう。自分達で作品をつくり、いろいろ作り替えて効果の違いを比較して行けたら、これは凄いメディア・リテラシーだ。
■子供の創造力を刺激する
――このソフトウェアを使って、TBSに子供達を集めて、作品を作ってもらった目的は?
安田: 子供達のクリエイティブな能力を伸ばすとか、メディア・リテラシーを身につけてもらうなど、子供達にとって、楽しくてちょっと為になるという事をやって欲しいなということで始めました。「子供達は、何が好きで、何を楽しんでくれるかな」って考えたときに、子供達はアニメーションとか、爆笑コントが大好きですよね。だから、そういう楽しい所に眼をツケました。
このワークシッョプの運営に携わったのが、NPO『CANVAS(キャンバス)』の、熊井晃史氏だ。
熊井: 『CANVAS』は、2002年に設立したNPO団体なんです。設立以来、こういったアニメーションを作ったり、映画を作ったり、あるいは音楽を作ったりという、《物づくり》―――子供達が想像して、表現して、発信できるようなワークショップを全国各地で開催しているんです。
――(今回のワークショップで)熊井さん達の役割分担というのは、どういう事だったんですか?
安田: 私達は、TBSの中にいて、《物づくり》の技術は沢山あるわけです。どうしたらコントが面白くなるか、みたいなノウハウはあるんですけど、「子供達が、それをどこまで出来るんだろう?」「子供達を相手に、どういう日程を組んだらいいんだろう?」という所は分からないので、そこは、ワークショップのプロに入って頂いて、技術をちょっと頂きました。
確かに、DMDのソフトウェアは凄いが、あくまで教材だ。いくら教材が優秀でも、良い教師が揃っていないと授業は面白くならない。子供たちの創造力を引き出すには、彼らをうまくノセなければダメだ。
――実際やってみて、どうでした?
熊井: 僕自身も、子供達のグループに付いて、お兄さん役として入ったんです。もともと、作品の台本は少し枠組みが決まっていたんですが、それを子供達自身がコーディネートして、新しく作り替える、ということをやってくれて、それがとても面白かったですね。このDMDというソフトウェアは自動音声で、セリフを入力すればそれを読んでくれるんですが、子供達の発想力に1番驚いたのは、遊びで滅茶苦茶な単語を打ち込んでいくわけです。たとえば「X、Y、あ、い」など、支離滅裂なスペルを自動音声に読ませる。それが、子供達(の間で)ヒットしちゃって。そういう使い方というのは、子供じゃないとなかなか思いつかなかったりするので、それが面白くて。
安田: 打ち間違いって、普通は、大人だったら直しちゃいますけど、子供はそれをそのままセリフにしちゃったっていうのが驚きましたね。
大人は、この世に存在する単語しか打ち込まない。しかし、子供達は、大人たちの固定観念に囚われることはない。
熊井: これは、子供達に付いているお兄さん役として、試されている感じになりましたね。結構、子供が変な事をやったら、つい大人側が止めちゃったりするんですね。でも出来る限り、子供が考えた事をそのままやってもらいたいな、と我々としては思っているので、その意味で「あ、オレはここで試されてる!」っていうことを感じながらやってました。
■豪華“助っ人”陣で、贅沢なメディア・リテラシー
安田: 今回、熊井さん達『CANVAS』に加わって頂いたのが1つと、もう1つ心強い助っ人だったのは、このソフトを開発した青木先生達が、技術スタッフとして当日来てくれたんです。だから、ソフトウェアを使っていてちょっと分からない事とか、うまく行かない事とかを東大の人達が助けてくれました。TBSからは、実際、テレビの第一線でCGを作っている人とか、音響効果をやっている人など、ゲスト講師を何人も呼びました。最後の作品の講評は、『アッコにおまかせ』という番組の海本泰プロデューサーがしてくれました。
プロが子供達の作品を見て、内容的な事まで講評してくれるとなれば、子供達も嬉しいはず。見る面白さもさることながら、何と言っても作る面白さが魅力だ。このワークショップは、メディア・リテラシー教育で私が実践している事と非常によく似ている。プロのCGアニメ作家を育てるというような狭い目的ではなく、子供達が発信・表現の仕方を学習するという広い目的で、非常に良い場となるだろう。このソフトウェアを、教材として学校教育に導入する方法も考えられるのではないか。
安田: こういう体験をすることで、テレビとか映画の見方が、一段と面白くなると思うんですよね。TBSだけじゃなくて、もっと全国各地に拡げて行きたいですね。
――『CANVAS』としては、それに関わって行けそうですか?
熊井: そうですね、是非よろしくお願いしますというところです。いろんな子供達に参加して行ってもらえればいいかな、と考えています。