先週末(10月28日)、日本新聞教育文化財団主催の第2回「わがまち新聞コンクール」の審査結果が発表された。全国の最優秀賞に輝いたのは、北海道・夕張市立清水沢中学校1年生、小野真如月(きずな)さんと島谷祐希さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.36/No.37)という、夕張生まれの女の子2人組による作品だ。
■頑張っている人達を紹介したくて…――これは、学校の新聞部の活動ですか?
- 小野:
- いえ、違います。小学生の頃から、個人で2人とも別々に新聞を出していました。この「わがまち新聞コンクール」が去年から始まったので、2人で作ってみようってことで、去年も参加しました。
実は小野さんと島谷さん、去年もこのコンクールの小学校部門で、同じ2人で優秀賞を取っている。その時の新聞のタイトルは、「ゆうばりばりばり パワフル全開」。炭坑の町から老人の多い町になった夕張市。元気のない町と思われがちだけど、「元気なお年寄りがいるはず」という視点で、お年寄りを訪ね歩き紹介するカラフルな壁新聞だった。
- 小野:
- 今年は、ちょうど今話題になっている、「財政再建団体」入りする夕張市の事を採り上げて記事にしてみました。
2人で作った今回の新聞のタイトルは、「I LOVE 夕張発信局〜わがまちの明暗〜」。
炭鉱で栄えた夕張市が、この夏とうとう「財政再建団体」に移行する(民間企業の倒産に当たる)ことを発表した。そんな町の現状を、彼女達の新聞は、紙面を“暗い影”と“明るい光”の2コーナーに分けて記事にしている。
――どうして、こういう内容にしよう、と決めたのですか?
- 島谷:
- 最近、ニュースで夕張の暗い話題を目にするようになって、いろいろ気になることがあったというのと、それでも明るく頑張っている人達をいろんな人に紹介したくて、2人で決めました。
――中1ってことは、13才ですよね。夕張炭鉱の閉山が16年前だから、炭鉱の思い出とか、無いですよねぇ?
- 小野:
- そうですね、私達の年代では(炭鉱の思い出は)無いんですけど、親やお婆ちゃん・お爺ちゃんから何度か聞いたことはあります。
- 島谷:
- 小学校の頃から、授業で炭鉱のことを習ったり、身近にも「石炭の歴史村」っていうテーマパークがあるので、夕張は炭鉱の町だっていう実感はすごくあります。
トップ記事は、「どうなるの? 〜先の見えない不安〜」という見出しで、現在632億円の借金を抱えている夕張市の今の状況を説明している。「市役所がもっと早く市民に本当の財政状況を明らかにして、対処方法を探していれば、今のように借金が膨れ上がることは無かったのでないか」と、大人のメディアでも見かけるような指摘も一応しているが、その後に、彼女達独自の見方が光る。
―――(記事より抜粋)―――――――――――――――――――――――――――――
当時の市長は、「炭鉱の町から観光の町へと夕張を変えよう」と、「石炭の歴史村」をはじめとする数々の観光施設を建設しました。 / 結果として市のやり方は間違いだったのかも知れませんが、「町を建て直そう」という思いは、間違いでなかったと思います。
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- 小野:
- これは、自分達で話し合って、(書こうと)決めました。結果として、いろいろな施設を建てたことにより赤字が増え、こういう状況になってしまいましたが、炭鉱がつぶれて、何か違う方法で夕張を盛り上げようとした市長さんの気持ちは決して間違いではないということを伝えたかったので、こう書きました。もう少しやり方を考えて欲しかったという気持ちは、確かにあります。
当時の市長が聞いたら、嬉し涙が出そうな話だ。
この後に、自分達でインタビューした「市民の声」を載せている。
―――(記事より抜粋)―――――――――――――――――――――――――――――
- これから公共料金の値上げなどで支障が出るのは当然。何をしようにも夕張には資金が無いから耐えるしかない。自然豊かな夕張なので全市民で「エコ生活」をしていく事が最善。
- 今は石油の時代となり夕張は炭鉱が閉山になってしまったが「時代はめぐりゆく」という言葉があるように、きっとまた石炭を使う時代がくると思う。
- こうなる前に自分たち市民も1人1人が夕張のことをもっと愛し、よく考え市外の人にもPRをしたりして観光客を増やしたりもできたのではないかと思う。
――こういう声は、周りの大人達に聞いて回ったんですか?
- 島谷:
- 自分達の家族とか、通っている学校の先生に意見を聞きました。
――様々な意見を聞いてみて、どう思いましたか?
- 島谷:
- 納得するものもたくさんあったんですけど、誰かを責めたりして「自分は悪くない」と言ってしまう人がいたら、それはやっぱり良くないと思います。皆さんから意見をもらい、自分の暮らす町の事を真剣に考えるのが大切だなぁ、と思いました。
更に、“暗い影”のコーナーでは、「相次ぐ閉校の歴史」という見出しで、市内の小中学校の減少データをグラフなどで載せている。
――生徒が減っていく、という寂しさみたいなのは、実感としてあるんですか?
- 小野:
- はい。どの学校も、全学年1クラスずつしかないので、すごく寂しいですね。小学生からずっと同じクラスメートのまま中学生になったので、(もっと)いろいろな人と交流したいというのもあります。また、部活が成り立たなくて、合同にしなければならなかったり、廃部になってしまったり、という事も避けられないので、それもすごく寂しいです。
紙面の残り半分は、「明るい光」のコーナーだ。暗い記事だけで終わらないところが、地元で暮らす人が書いた新聞ならではの魅力だ。
まずは、「自分達の手で!!町おこし〜フリーマーケットで笑顔溢れる〜」という見出しの記事で、今年7月に開かれた「第9回 フリーマーケット」を紹介している。毎年、沢山の人達が集まる賑やかなイベントだが、今年は財政問題などもあり、一時は中止になりかけ、何とか開催にこぎつけた、という経緯が書かれた後に…
―――(記事より抜粋)―――――――――――――――――――――――――――――
私達もこのような町おこしのイベントに参加して少しでも町を盛り上げるお手伝いをしたいと思い、出店してみることにしました。前日の朝から夜まで時間をかけて6種類、およそ50個のパンを作りました。売れた時にはとてもうれしく『ありがとうございました』の声がよりいっそう大きくなりました。参加してみて、普段接することのない地域の人達と交流ができ、とても良い機会になりました。このような暗い時だからこそ、地域の交流の場となるイベントを減らさずに続けていって欲しいと思います。
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――ただ取材しに行くだけでなく、参加体験記にしちゃおう、と思ったのは、何故?
- 島谷:
- 自分達も、(市民として)盛り上げるお手伝いに参加できたらいいな、と思ったからです。
- 小野:
- 普段はなかなか、地域の人と交流できない部分もあったんですが、これをきっかけに交流できたので、参加してとても良かったと思っています。これからも、こういうイベントをなくさないで欲しいと、改めて思いました。
また、横の記事には、地元の夕張太鼓保存会『竜花』の活動も紹介している。平均年齢13歳前後のグループで、日本太鼓ジュニアコンクールに、今年で通算4度目の全国大会出場という実績があるという。「目指すは全国制覇!! 〜響け!!みんなの心の中に〜」という見出しは勇ましく、前向きで明るい記事になっている。
- 島谷:
- 練習を見せてもらいに行ったんですけど、とても迫力があって、身体の中まで響いてくる感じで、凄かったです。
―――(編集後記より抜粋)――――――――――――――――――――――――――――
農家の人達も、毎年のように夕張メロン作りを続けてがんばっています。このように何かをがんばっている人達の姿は、見ている人の心もがんばろうという気持ちにさせてくれます。最初は一つ一つの小さな光でも、集まれば大きな光となり夕張市全体を明るく照らせるはず。そんな日が、一日でも早く来て欲しい、と思いました。
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――これは、どういう気持ちを込めて書いたんですか?
- 島谷:
- この状況の中でも頑張っている人は、夕張にもたくさんいるから、皆で暗くなってしまわずに、盛り上げて、この状況に負けない夕張であって欲しいっていう思いで、この記事を書きました。
この「編集後記」は、そんな《希望》表明だけで終わらずに、2人の《決意》表明へと続いていく。
―――(編集後記より抜粋)――――――――――――――――――――――――――――
町を明るくしていく事は、暗い事を「見て見ぬふりする事」ではなく、現状を見つめ、それを「乗り越えていく事」だと思いました。私達も、自分達の出来る事から一歩一歩踏み出し、心まですさまないように、前向きに進んでいきたいと思います。
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――「出来る事から1歩1歩」って書いてあるけど、まずはこの後の“初めの1歩”って、何だと思いますか?
- 小野:
- きっと、自分達で何か行動するのはすごく難しいことだと思うんですけど、こういう状況だと、やっぱり市民が盛り上げて行かないといけないと思うんですね。だから、市民が一丸となって助け合う事や、皆で夕張を支えていく事、これからどうやったら少しでも夕張を建て直せるかを考える事が大切だと思います。そして何より、1人1人が、こういう時だからこそ、夢や希望を捨てない事が、一番大切だと思います。
そんな意味も込めて、新聞の最後は、少し大きな活字のこんな言葉で締めくくられている。
―――(紙面より抜粋)―――――――――――――――――――――――――――――
今はこんな夕張でも、私達のふるさと。だからこそ、I LOVE 夕張。
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――これからも、こういう発信を2人で続けてくんですか?
- 島谷:
- できればまた新聞作っていきたいので、その時は見てくれたら嬉しいです。
この夕張市で町の再生に取り組もうとしている市民と、映画『三池』の仕掛け人である大牟田市役所の職員が、今日(11月4日)夕方4時から、シンポジウムを開く。場所は、東京・JR中央線東中野駅のすぐ前の『ポレポレ東中野』という映画館。先週このコーナーで紹介した、『六ヶ所村ラプソディ』の上映が昨日で終わって、今日から『三池』が異例の再アンコール上映となったので、その初日を記念してのイベントだ。
タイトルは、《「三池」と「夕張」から日本を掘る》。4月にこのコーナーに出演してもらった熊谷博子監督と、私もコーディネーター役として加わる。シンポジウムの趣旨は、「全国にあった炭鉱は、まさに日本という国を支えてきた。三池の問題を掘り進めると、その坑道は地下で他の炭鉱ともつながり、現代につながる。三池の人と夕張の人の目線で、日本社会を掘ってみようじゃないか」というものだ。この内容は、次回ご報告する。