『オーマイニュース』発進!(2)
『2ちゃんねる』ひろゆき氏のネット新聞無用論

放送日:2006/09/02

前回お伝えした通り、一般市民が記者になって身の回りの記事を書くインターネット新聞『オーマイニュース』日本版が、今週月曜(8月28日)からいよいよスタートした。前回の入門編に続いて、シリーズ第2弾の今週は、ネット新聞の有りようについて、もう少し突っ込んで考える。

■発信者急増…市民メディアはどこへ行く?

同じ市民記者スタイルで3年前に日本でスタートした、インターネット新聞『JANJAN』は今、どうしているのか?強力なライバル登場で、市民記者が『オーマイニュース』に移籍したりするなどの影響を相当受けるかと思いきや……
一般の企業メディアでは、例えばTBS社員がフジテレビ社員を兼ねるというのは有り得ないが、そこも市民メディアの違う点で、どこに何を発表しようが自由だ。市民記者達は、今続々と両方に登録しつつある。勿論、同じ記事の二重掲載は原則お断りだが、テーマや気分によって、書き手側が“出し所”を選んでいくようになる。『オーマイニュース』の市民記者登録急増の中で、『JANJAN』の市民記者登録も、少しずつだが、依然増加を続けている。『オーマイニュース』の参入で、市民記者の奪い合いではなくて、総数が増える効果が出ているというわけだ。
『オーマイニュース』創刊当日の『JANJAN』も、「おめでとう!『オーマイニュース』日本語版!」という記事の中で、「プラスの影響はあっても、マイナスの影響はないでしょう」と明言している。竹内謙代表も「心から歓迎し、お祝いします。お互いに切磋琢磨しながら、市民メディアを大きく育てようではありませんか。」と、エールを送っている。
インターネット新聞がこうして増えて来る中、ブログや『2ちゃんねる』のような掲示板も盛んだ。もう「市民メディア」という一言では括れないほど、多種多彩になって来ている。
そこで、それぞれの機能や役割の違いを議論・整理しようという討論会等が、この頃あちこちで開かれている。今日(9月2日)も午後から、早稲田大学キャンパスで、『オーマイニュース』の鳥越編集長(先週出演)や有名ブロガー達などが一堂に会して、「市民メディアの可能性」というタイトルのシンポジウムが開催される。(次回のこのコーナーは、その報告をする予定)
それに先立って、今年3月に『JANJAN』主催で開かれた、同種のテーマのシンポジウムの録音を、初めて蔵出ししてご紹介する。私もパネラーとして参加した、このシンポジウムでは、あの『2ちゃんねる』の生みの親・管理人であるひろゆき氏が登壇し、ネット新聞を大いに揺さぶる興味深い発言を連発した。

■分からなければ、使わなきゃいい

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ひろゆき: 『2ちゃんねる』っていうのはインターネットの掲示板サイト(下村注:誰でも書き込める投稿スペース)で、1日に1億3000万〜1億6000万ぐらいのページ・ビューがあって、1ヶ月の訪問者数が大体1000万人弱、990万人、そういうサイトです。でまぁ、投稿数が、1日に200万件ぐらいある。たぶんその、掲示板サイトとしては世界でも一番大きいんじゃないかと思うんですけど、っていうサイトです。
司会:
僕は、『2ちゃんねる』っていう所の管理人がいるっていうんで、その人の顔が見たくって…(会場笑)とりあえず、顔を見たから満足したんですけど。
ひろゆき: それで呼ばれて良ければ、それでいいですけど。(会場大笑い)
司会:
もう一つ言いますとね、まあ、『2ちゃんねる』に出ている情報、その言葉が事実かどうかっていうことを、受け取った人が自分の責任で判断すると。それがなかなか、色んな物が沢山あるので、「どこからどこまで自分が判断したらいいか分からない」とか、「どうやって『2ちゃんねる』を利用したらいいか分からない」という人達も沢山いると思うんですけど、そういう事についてのアドバイスって何かありますか。
ひろゆき: まぁ分からない人は使わなければいいと思います。別にインターネット使わなくても日常生活に差し障りは無いので、その「分からないから使えない」というのであれば、使わなくても問題ないと思いますけど。
司会:
匿名性を持っているメディアってのは、編集がなかなか非常に難しいと思うんですけど。
ひろゆき: 別に匿名性があるから編集できる編集できないという問題ではなくて、《編集する仕組み》が有るかどうかです。その名前が本名なのかペンネームなのかってのは、あまり関係ないと思いますけど。

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実に、単純明快な考え方だ。

■《編集》の有無が、“ゲリラ”と“権威”の分岐点

今の発言の最後の部分で、ひろゆき氏が軽く触れている点は非常に重要で、『2ちゃんねる』には《編集する仕組み》というものがそもそも無く、編集プロセスの無い発信の場なのである。これはブログにも言える。つまり、ブログや掲示板と、インターネット新聞との最大の違いは、《編集》が介在するかどうかだ。
これに伴って、面白い現象が生じつつある。こういう無編集の発信が急速に増えて来た結果、ついこの間まで既存メディアに対する《ゲリラ的存在》だったはずのインターネット新聞が、逆に《権威的存在》に見え始めたのだ。自由な発言が命のはずの市民メディアなのに、権威を感じられるようになるとは、思いもよらぬ展開だ。それでも「じゃあもう、編集やめた!」とは行かないネット新聞側の心情を、私が代弁してひろゆき氏にぶつけた。

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下村:
編集する側の気持ちとしては、やっぱりその、「いい加減なものを出すと、このサイト自体の信憑性が揺らぐ」みたいな思いがあるわけですよ。
ひろゆき: 例えばそのじゃあ、編集をしようと決めた場合に、どれを載せてどれを載せないかっていうのは、調査がきちんと必要なんですよ。で、いちいち記事1個1個に1時間調査していったら、1日何時間あっても足りないわけですよね。そうするとじゃあ、見切り発車をしてしまって「この人は信用できるから載せてしまえ」とか、「この人じゃ分かんないから載せるのやめよう」とか、その記事の信憑性ではない部分で判断せざるを得ないと思うんですよ。で、それがまぁ正しいのかどうかっていうので、僕はあまりそういうのが好きじゃなくて。要は「肩書きを持ってる人は正しくて、肩書きの無い人は正しくない」ってのはどうかなっていう考えがあるので、「じゃ、そもそも編集ってのをしなければいいのかな」っていう風に、考えてます。
編集をしないことによって、クオリティが低い物ってのはもちろん集まるんですけども、じゃそのクオリティが低い物とクオリティの高い物が混在する状況で《どれを選ぶか》ってのは、見た人が判断すればいいことだと僕は思ってるんですけど。

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「編集しないことによって発信内容が玉石混交になるから、受け手の方で選べ」という考え方は、私がいつも唱えている《メディアリテラシー教育の重要性》に直結する話だ。

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ひろゆき: 後はその、じゃあ、それなりの『JANJAN』が認めるクオリティに達した物しか載せないっていうのも、ハードル高くなる。じゃ、「ハードル高くする」っていうのが存在価値(の確保)だとするのであれば、たぶん(『JANJAN』は)マスメディア側の方に行かざるを得ないと思うんですよね。そうすると書ける人が少なくなるので、大して書くことが出来なくなる。なので多分、それであれば、やらない方がいいと思うんですよね。

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「編集の入るネット新聞なんて、マスメディアに近いから、やらない方がいい」とまで、ひろゆき氏は言う。一方、既存メディアの人達は、「誰でも書けるネット新聞なんて、アマチュアの遊びだ」と言う。両者の狭間に立って、インターネット新聞は、今、立ち位置の明確化を迫られている。どこにその答えがあるのか、私なりの考えは、来週の第3回で述べてみたい。

■“自由な場”の管理人の、腹の括り方

もう一点。編集をしないと、危ない問題発言がそのまま流れてしまうリスクもある。実際、『2ちゃんねる』には掲載内容についての抗議がたびたび寄せられているようだが、ひろゆき氏はそういう事に対してはどう考えているのか?

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下村:
『2ちゃんねる』の最大の強みっていうのは、「何でもどうぞ」というところだと僕は思ってるんです。今までも『2ちゃんねる』でいろんな事が起きてきましたけど、ひろゆきさんってホントにタフだなぁと思います。「何でもどうぞ」を貫くってのは、「編集をする」よりずっと難しい事じゃないかと思うんだけど、なんでこれが達成できてるのか。ひろゆきさんの、キャラクターのなせる業ですか?すごい興味あるんだけど。
例えばじゃあ具体例で、ちょっとイメージしたいんですけど、一番最近来たクレームで、「『2ちゃんねる』にこんなの載ったぞ、お前どうするんだ、責任取れ」って言われて、それにひろゆきさんがどう応えたかっていうの、ちょっと教えて下さい。
ひろゆき: えーと、昨日の夜中の2時ぐらいに電話があったんですけど、レーザーラモンHGって知ってます?その人の彼女が『2ちゃんねる』で叩かれていて、それについて(書き込みを)消して欲しいって、そのレーザーラモンHGの知り合いの人から電話が来て。そもそも別に、叩かれる叩かれないって状況にもよりますけども、ただ削除するべき内容であれば、「『2ちゃんねる』内に『削除依頼』というのがあるんでそこに申請を出してもらうか、もしくは東京地裁に行くか、警察署に行くかという手段があるんで、そっちを使って下さい」っていう説明に終わりましたけど。
下村:
なるほど。

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「ご不満なら裁判所か警察にどうぞ!」―――とは、すごい腹の括り方だ。それにしても、例示を求められていきなり昨日の例が出るということは、抗議が余程多いのだろうか…。(汗)

■『2ちゃんねる』に、赤字はない?

市民メディアの関心事に、経済的にどう成り立たせるか、という問題がある。この点については、こんなやり取りがあった。

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司会:
『2ちゃんねる』ってのは、赤字っていう概念は無いの?
ひろゆき: 僕は資産家ではないので、赤字になったら潰れてると思うんですけど。
司会:
そういう計算っていうか、かかる経費があって、誰かが支払うっていう…。
ひろゆき: もともと無料のサーバーを渡り歩いてやっていたサービスで、まぁ、もともと僕がアメリカにいる時にやったんですけど、無料のサービスを1ヶ月に1個ずつ移転したりしてって横に広げて、まぁようやくサーバー代ぐらい出るようになったって感じですけどね。
質問者(会場): 『2ちゃんねる』ってのは国民の10人に1人が見てるってことは、相当な広告料が入ってるだろうなって…
ひろゆき: 『2ちゃんねる』はイメージ悪いんで、広告費あんまり取れてません。(会場笑)まぁ、ご存知の通り。
会場:
知り合いの社長に聞いたんですけど、企業の人が悪口を『2ちゃんねる』に書かれてないかと思って結構チェックするんで、「悪口書いてあったら教えます」っていうサービスをやってる会社がいて、その会社は『2ちゃんねる』さんに相当金払ってるって言ってました。そういう手法ってかなりあるんで、ひろゆきさんの『2ちゃんねる』ビジネスってのはどれぐらいの規模でやってるのか…。
ひろゆき: ガーラっていう会社が『2ちゃんねる』の記事をまぁ調べていて、それに関連するキーワードが出てきたら企業に売るっていうのやってまして、でもそれ、そんな大した額じゃないすよ。
会場:
金額はどうですか?
ひろゆき: えーと、ガーラ社の方に聞いて下さい。僕が外に言える金額ではないので。

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■“当事者発言”を増やすには…

最後の方で、『JANJAN』の竹内代表が、「当事者が発信することの大切さ」を語った。それを受けて司会者が「まだまだ当事者発言は日本では少ない」とボヤくと、ひろゆき氏はまた切り返す。

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竹内
やはり、今のマスメディアは大変《書けなく》なっております。記者個人個人は大変高い能力を持っている方ばかりですけれども、やはりこれが組織の中に入りますと、なかなか書けない。そこで、そういう枠に捕らわれない市民の自由な立場で書いていけるような、より《当事者性》の高い、そういう情報をですね、発信していかなければいけない。斯様に考えております。
司会
『JANJAN』なら『JANJAN』みたいな物は、そういう機能をできるだけ拡幅してくことが出来たらいいなと思ってたんですけど、意外に日本の人ってまだ発信しないような気がするんですけど。どうですかねぇ、その、《当事者が応える》って、一番重要なんですが。
ひろゆき: 当事者発言の多いか少ないかって、要するに、使ってる人数の問題だと思うんですよね。新聞社は1000人ぐらいしか(記者が)いなくて、日本には1億人います。何分の1ですか。一方で、『2ちゃんねる』は1000万人で、(国民の)10人に1人が使ってる。だから(当事者=書き手となる)可能性が高いってだけで。
そうするとじゃあ、当事者発言の可能性上げるには、ユーザーをどんどん増やすしかないんですね。そうすると、現状の「記者登録しなければいけません」ってのがハードルにはなってくると思うんですよ。例えば自分が交通事故に遭って、事件の当事者になりました。それを逐一インターネットに書くぐらいだったら、慰謝料もらって美味しい物喰いに行った方が楽しいんですよ。(会場笑)そこを何か、時間費やしてよくわかんないインターネットのサイトに登録して、なんだかわからない仕組み覚えて書くことに、何の意味があるのかっていう方が、僕は不思議だと思いますけども。
例えばその、自由に書いてる2ちゃんねらー、ブログみたいな物があります、と。もう既にインターネット上に存在するわけですよ。

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皆が好き勝手に書けばいいのだ、という考え方の前に、『JANJAN』や新生『オーマイニュース』は、どう対抗して行くのか?今日午後のシンポジウムでは、ひろゆき氏に代わって、錚々たる名物ブロガー達が登場する。どんな議論になるのか、楽しみだ。

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