「日本メディアリテラシー教育推進機構」発足!

放送日:2006/1/7

この元日(2006年)に、『日本メディアリテラシー教育推進機構(JMEC)』という全国組織が発足した。初代理事長に就任した、千葉大学助教授の藤川大祐さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.17)にお話を伺う。

―「メディアリテラシー」という言葉は、このコーナーではよく登場しますけど、実際に学校現場では、全国で今どれぐらいの数の先生が、どういう取り組みをしているんでしょう?

藤川:
今は、国語とか社会科の教科書にメディアについて学ぶ単元が載っていますから、基本的には全員やっている筈なんです。ただ、それがメディアリテラシーというものだ、という自覚を持ってやってらっしゃる先生は、まだまだごく僅かだと思います。

■『授業づくりネットワーク』と、充実のメルマガ

―今回出来たのは全国組織ですけど、以前から地方組織なんかもあったんですか?

藤川:
北海道、千葉、愛知などに組織があります。福島県でも、「創ろうか…」なんて話が今でてきています。それに元々、『授業づくりネットワーク』という全国的な民間教育団体の内に、メディアリテラシー教育のプロジェクトが在りまして、今回それが独立をして新しい組織になったんです。

―この『授業づくりネットワーク』というのは、どういう団体なんですか?

藤川:
全国の先生達や教育研究者たちが集まって、新しい授業を創っていこうという団体です。教科とか小・中・高という学校の区分も超えて、異質な者同士が学び合うというところがポイントなんです。もう20年位、活動していて、授業づくりの上手い先生たちが、沢山入っています。

―いわば、やる気のある先生たちの相互研鑽の場ですね。このメディアリテラシーの分科会に限らず、他にも色んな分科会が、のれん分けしたりしてるんですか?

藤川:
はい。例えば、『全国教室ディベート連盟』という、ディベート教育を推進している団体なども在ります。議論のゲームのディベートですね。「ディベート甲子園」なんていう大会もやっている団体ですけれども、これも元々は、『授業づくりネットワーク』の傘下の研究会が、10年程前に独立したものです。

今回できたJMECの前身『メディアリテラシー教育研究会』は、既に『メディアリテラシー教育21』というメールマガジンを発行している。私も定期購読しているが、授業実践、研究会の情報等が満載で、もう200号以上出ている。

藤川:
これは、6年位前に始めたメールマガジンです。当時、メルマガというのは、まだまだ一般的ではなかったんですが、早くから私達は始めまして、メディアリテラシーに関心ある方は、多分もれなく読んで下さっているんじゃないかと思います。登録者数でいうと1500人弱です。

―編集スタッフも全国横断的なんですよね。

藤川:
編集長は愛知の中学校教諭です。愛知県というのは、メディアリテラシー教育の盛んなところです。編集メンバーは、北海道の中学校教諭、東京のソフトウェア系の企業の人などです。

例えば、元日号に載っている情報で、ごく近いところでは…

  • 明日(8日)午後、「千葉県メディアリテラシー教育推進機構」の定例研究会。
    テーマ:『インターネット・携帯電話とのつきあい方を考える授業』
    ゲスト:インターネット博物館の宮崎豊久館長

  • 明後日(9日)午後には、神奈川の先生達が集まる「第40回・国語メディア研究会」。
    テーマ:『映像作品をどうやって《教える》か』
    ゲスト:群馬大の中村敦雄助教授が、イギリスで最近視察して来た授業プランに基づいたワークショップを実演。

藤川:
私たちは、JMECの活動だけじゃなくて、この神奈川の『国語メディア研究会』等、他の団体がやられている活動についても積極的に情報を戴いてご紹介するようにしています。

■着々進む、千葉県での授業実践

―メルマガ発行以外に、JMECとして、どういう活動をしていきますか?

藤川:
3月までは組織の基盤作りと考えています。4月からの新年度になりましたら、東京都内で年3回位、ゲストを招いての研究会をやっていこうと思っています。

―どんな事をやれるのか、具体的にイメージするために、JMECの下部組織である『千葉県メディアリテラシー教育推進機構』(藤川理事長)の去年の活動を具体的に教えてください。

藤川:
千葉県は、私も地元なので、私共の学生ですとか、地元の先生達と一緒に授業づくりなどをやっています。例えば、去年9月には、千葉市内の中学校で《風評被害》をとりあげた授業をやりました。

―風評被害って、噂だとか、尾ヒレがついて広がっていく…ということですね。

藤川:
そうです。新潟県の越後湯沢を取材しました。新潟県では、中越地震がありましたが、地震の被害は越後湯沢にはあんまりなかったんです。ところが、観光客が減ってしまった。地元の方は、「これは、メディアによる風評被害だ」という分析をした上で、それをどうやって乗り越えるかという回復策を、やはりメディアを活用して行おうと考えたわけです。例えば、女将さん50人が東京でキャンペーンをして、その様子がテレビでとりあげられたり…。あれは、お金もそんなにかけずにキャンペーンをやって、メデイアでとりあげてもらうという形の“メディア対策”をしたわけなんですね。メデイアを肯定的に活かしていくという意味で、《メディアを通しての社会参加》は、すごく重要なことだと思いますので。

―それを中学生は理解吸収できるものですか?

藤川:
さすがに、地震のことは、生徒達もよく知っていますから。その背後でこんなことがあったということを、身近に感じてよく理解してくれたようですね。その際、ビデオ教材なんかもつくりましてね。途中にクイズを挟んだり、授業として、興味を持てるように工夫しました。具体的には、まずは、「風評被害が何で起こったのだろうか」という分析をさせました。例えば、地震の被害地がよく分からないカタチで報道されたので、どこが被害に遭って、どこが被害に遭っていないのか分からないまま、多くの人たちは何となく「新潟の辺りはみんな大変だ」というイメージを持ってしまった。或いは、JRの新幹線の表示に、「新潟方面への旅行をお控えください。」なんて書いてある。これもある種のメディアですから…。そういったことをひとつひとつ、生徒達に分析してもらって、それぞれ《どうやったら解決できるか》を整理してもらい、実際に越後湯沢の旅館組合の方々の取り組みを紹介して、比較検討するという授業をしました。

―小学校では、どうですか?

藤川:
例えば、千葉市内の小学校から「メディアリテラシー教育をもっと頑張りたい」ということでご相談を受けて、《CMを分析する》という、授業をやりました。これは、実際にある食品会社に伺いまして、制作者側の意図などもよく理解した上で、そのCMをよく見て分析してもらうという授業です。子供というのは無意識のうちに色んなことよく知っているんですね。子供達は、かなり素朴には、メデイアリテラシーの能力を持っている、と我々は考えています。CMについても、少し課題を与えて考えさせるだけで、細かいところまでよく気付いてきますね。

メデイアリテラシーの授業というのは、中途半端な先生がやると、本当に「騙されないように気を付けましょう。メデイアは嘘つきです。」で終わってしまいがちだが、その先の「じゃあ、どうしたらいいんだろう?」という肯定的なところまでもっていくところが、素晴らしい。

―今の子供達って、テレビ以外にも、インターネット・携帯電話・TVゲーム等、本当に接するメディアが幅広くなっていますが、そういうものとの付き合い方はどうですか?

藤川:
これが、ここ数年のメデイアリテラシー教育の重要な課題ですね。かつては、「テレビ番組やCMを分析する」というのが、主流だったんですけど、今は「インターネットや携帯電話のトラブルをどのように防ぐか」ということで、色々な取り組みが必要です。例えば、去年つくられた『携帯社会の落とし穴』というNHKの番組の制作に協力したりとか、今度、千葉県の高校から依頼を受けて、7クラスで2時間ずつの授業をうちのスタッフがやらせていただくという計画もあります。

―そうやって、出張して授業をやっていくと、そこの先生はそれを見ていて、出張授業先の学校の先生にも継承されたりしますか?

藤川:
そうですね。実際に先生方にこのことを理解して貰わないことには、拡がっていきませんから。私共も、スタッフが中心でありながらも、その学校の先生方にも一緒に関わって頂いて、チームティーチングという形で《一緒に授業をやる》ということを大事にしています。

■『侍ファイブとリボンの天使』の効用

この他、藤川さんが教育学部助教授として、学生達と組んでいる研究活動も興味深い! 最近の実践例として、地元の幼稚園児たちと組んで創った、ヒーロー・アクション物のビデオ作品『侍ファイブとリボンの天使』がある。台本制作・撮影・出演の全てを園児達が行なったという。

―これは、実際にヒーローや悪役は、それっぽい衣装や武器を持ってたりするんですか?

藤川:
はい。『侍ファイブ』というのは、学生達が大学の授業の活動の中で考え出したキャラクターで、侍イエローとか侍ブルーとか、五色のキャラクターがいるんですね。中心人物の“侍レッド”は、女子学生が演っています。その女子学生も含めて、全員の衣装を自分達で、手作りで、幼稚園の先生方とも一緒に作りまして、幼稚園児も真似出来そうな服にしています。

―手の届く範囲で再現可能なこと、というのがポイントなんですね。結局これをやったことで、幼稚園児たちは、何を獲得したんでしょうか?

藤川:
子供たちは、日頃から素朴にテレビ番組を真似して遊んだりしますよね。だからこれは、「ごっこ遊びの延長」だという風に私は考えています。今回はそれに加えてビデオカメラで、自分たちの様子が映像として撮れてしまう。そこで、さらに格好良く撮るためには、色んな《工夫がある》ということを知ります。例えば、侍ファイブで武器を使って闘うシーンがあるんですね。これは、「暴力を振るっている」ということで、ともすれば、「幼児には、悪い影響を与える」となってしまうんですが、実際の武器は、相手を突くと凹むようになっています。そういう仕掛けのある武器を使って闘っていて、「実際には痛くない」ということを子供達は知るわけです。そういったことを知った子供たちは、暴力的な喧嘩になりそうになると、「侍ファイブだって、実際には痛くしてないんだから、ちょっと手加減しなよ」とか「本当に痛くするのやめようよ」なんていう話をしているそうですよ。

―最初から、「これはやっちゃ駄目」と押さえ込むんじゃなくて。

藤川:
「真似してしまうから、テレビ番組は良くない」と、多くの方はおっしゃるんですが、だとしたら、逆にその影響力を逆手にとって、「テレビ番組は実はこういう風に創られてるんだから、実際の暴力もやめようね」という方が余程賢く理解できますよね。

こうした実践を紹介すると、「サンタクロースは実はいないんだよ、と幼児に教えるようなものだ」という異論が必ず出るが、「こういう学習体験をした後、子供達がテレビのアクション番組を楽しめなくなった」という研究データはない。からくりが分かってからも、《夢を見続ける能力》を人間は持っている。現に大人だって、芝居だとわかっていても、あれだけ、韓流ドラマにはまっている。メディアリテラシーの学習によって、テレビの影響力のネガティブな部分だけを除去し、ポジティブな楽しみ方だけを残すことは、可能なのだ。

―こうした地元・千葉での実践を足場に、今年から全国組織へと活動拡大していこうというわけですよね。

藤川:
先日は名古屋の中京テレビ(日本テレビ系)にお邪魔して、10代の、主に高校生の人達とテレビについて議論する、というフォーラムに参加させていただきました。

中京テレビに限らず、こうした地方局の取り組みは、本当に増えている。JMECが出来たことで学校現場が更に活性化され、TV局側に色々要望を出してくると、今年から一段と面白い展開になるかもしれない。

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