初の「世界市民記者フォーラム」、ソウルで開催

放送日:2005/7/16

史上初めて、世界中の「市民記者」が一堂に集まった「世界市民記者フォーラム」が、韓国・ソウルで先月(6月)下旬、4日間に渡り開かれた。今回は、日本から参加した、インターネット新聞『JAN JAN』の田所誠三記者(眼のツケドコロ・市民記者番号No.4)、同じく『ライブドア・ニュース』の三國裕史記者(眼のツケドコロ・市民記者番号No.5)にお話を伺う。


−まずは、自己紹介からお願いします。

田所:
『JAN JAN』の竹内謙社長とは高校時代のラグビー部仲間で、立ち上げのときに頼まれて記者登録をして以来になります。もともとは小学校の教員でしたが、南アフリカのエイズ孤児と関わりがあって、記事を書いたのが最初です。
三國:
私は大学を中退してベンチャー企業を起こしたんですけど、また勉強がしたくなって大学院に戻りまして、今は、『ライブドア・ニュース』のパブリック・ジャーナリストとして、記事を書いています。もともとのきっかけは、ホリエモンがあれだけ騒がれて、「また何かするのかな、8000円なら登録してみよう」と思ったことです。登録してみたら意外と面白くて、最近は月に10本くらい記事を書くようになってます。記事を書くために考えたり取材したりして、報酬よりも自分の楽しみのためにやってます。

こうやって、いろんなきっかけで"市民記者"が誕生している。今回の「世界市民記者フォーラム」の主催は、韓国のインターネット新聞社『OhMyNews』

−今、『OhMyNews』はどんな様子でしたか?

田所:
すごいエネルギーを持ってるなと感じました。配布資料によると韓国国内だけで、現在の市民記者の総数は3万8千人です。当初は727人からスタートして、ここまでの規模になっているということです。韓国国外にいる記者も400人いるということです。

−今回は、『OhMyNews』に限らず、世界中から皆さんのような方を呼んできたということですよね。実際にはどれくらいの人が集まったんですか?

三國:
50ヶ国くらいから最多時で300人ほどが来てたと思います。普段のニュースではあまり聞くことのないような国からも集まっていて、皆、英語で話してましたね。
田所:
アメリカからは10歳の最年少市民記者が来ていて、最年長の方はカナダから来た71歳の記者ということでした。距離的には一番遠い地球の裏側、18,340km離れたチリからも31時間かけて参加していました。

−どんなプログラムだったんですか?

三國:
いろんなプログラムがあったんですが、フォーラムでは、事業展望としてビジネス寄りのテーマがあったり、市民記者の成功体験談、『OhMyNews』のこれまでの経緯などが語られました。それから、アジア地域での展望ということで、『ライブドア・ニュース』からは田端信太郎チーム長、『JAN JAN』からは竹内社長、それに台湾の『OhMyNews』市民記者のチャ・ハオシュ氏が、事例発表しました。

−竹内さんはどんな報告をされたんですか?

田所:
韓国の方から「『JAN JAN』は『OhMyNews』のようになっていない」と指摘されたことを受けて、その理由について竹内は、韓国を「凸型」社会、日本を「凹型」社会と呼んで分析しました。つまり、積極的に出て行くタイプと、消極的に引っ込むタイプですね。私自身は狩猟型と農耕型という分類をしてますけれど。 私自身は、そういう国民性の大雑把な違いに加えて、日本の場合、記者クラブ制度にみられるような問題もあるのかなと思います。竹内は、朝日新聞を辞めた後の鎌倉市長時代には、記者クラブを廃止しましたけどね。

−市民記者が記者クラブに入れない排他性の問題ですね。しかし、国民性の違いが市民メディアにも影響している−−−つまり、バーッと急成長した『OhMyNews』と、なかなかそこまでは伸びない『JAN JAN』の違いは、その国民性に理由がある、という指摘は面白いですね。
一方の『ライブドア・ニュース』田端チーム長の方は、どんな報告を?

三國:
韓国で『OhMyNews』に参加したり見たりしている年齢層と同じ世代−−−いろんな意見や世の中への反感を持っている日本の若者は何をしているのか。田端の報告では、巨大掲示板とかに書き込んだり、(ライブドアは特に多いですけど)ブログをやってたりしてる。そういう匿名だったり責任が無かったりという場所で、《ガス抜き》をして終わりになってて、誰かに向けて《発信する》までにはなってない。生活が脅かされているわけじゃないし。その辺の危機感の抱き方が、韓国と日本では大きく違っている。自分の親族が関係している場合には、声を高くして言う人は多いんですけど、実際にはいろんなニュースに対しても一歩引いて見てるようなところがあって、市民記者がどんな記事を扱うかというのも韓国とは違うと思うんですよね。日本の市民記者の力が足りないとすれば、そうしたところに理由があるんじゃないか、という話でした。その時、僕もその意見を初めて聞いて、「なるほど、確かにそうかもしれないな」と思いましたね。

−韓国のネチズン(Net + Citizen = ネット社会の市民)は、胸を張って主張するけれど、日本のネチズンは《つぶやき型》になってしまうのかもしれないですね。

三國:
もうひとつ。『OhMyNews』を見ている人は若者が中心なので、そうした年齢層をターゲットにした広告を集めたりしていたそうです。『ライブドア・ニュース』もそうなんですが、日本で同じ年齢層の人達のことを考えると、政治にはあまり関心がないと思うんですよね。 それは何故か。僕自身は、韓国には徴兵制があることも影響しているんじゃないかと思ってます。あとは、韓国は大統領制なので、誰でも可能性として「自分は大統領になれる」って思ってるって言うんですよ。日本だと、「将来、自分は総理大臣になる」なんて夢は、小学生でも書けないじゃないですか。
『OhMyNews』が盧武鉉韓国大統領の誕生に大きな役割を果たしたと言われているように、政治的なテーマがクローズアップされていて、韓国の人自身が「政治以外の記者はたいしたことない」って言うくらい、あくまでも政治が中心で、やはり「日本だと政治はちょっと難しいよなあ」という感じは受けましたね。

−日本の場合、「郵政民営化」のような、大きな政策論議が行われていても、政治家同士が熱くなることはあっても、それ以外のところには広がらないですよね。そういう政治への関心度の違いと、その受け皿の違いが、市民メディアの伸びにも影響しているというわけですね。 もうひとつ、台湾の事例はどんなものでしたか?

田所:
2000年以後、台湾でもインターネットニュースが沢山スタートしたそうなんですが、ネットバブルがはじけたり、受益モデルの創出に失敗したりして、1年程で潰れちゃった事例が報告されました。他にも、台湾特有の政治の問題があって、ここでもお国柄の違いを感じましたね。
でも『JAN JAN』は、いわゆるナショナリズムに左右されるインターネット新聞ではない。いい意味でのグローバリズムというのが、インターネット新聞に課せられた課題だなと思います。そうすれば、小国であろうと大国であろうと、お国柄に関係なく問題点を共有できます。

その《グローバリズム》の意識は、開会式での『OhMyNews』の呉連鎬(オ・ヨンホ)代表のスピーチに表れている。このスピーチの日本語訳が『JAN JAN』に掲載されているのだが、とにかく熱い人だと感じさせる内容だ。一部、引用する。

呉:
・テーブルに居る仲間の顔を見て下さい。隣に座っている方の手をとってみて下さい。お互いの顔を見て「ジャーナリズムの歴史に新しい章を記録しているんだ」と伝えて下さい。

・双方向ジャーナリズムを可能にしたのは、インターネットの出現があったからこそです。しかし、インターネットが自動的に市民の参加をもたらすわけではありません。世界をより良いものに変えたいと思う市民がいるときにのみ、インターネットは参加の便利な媒体となるのです。
技術だけでは世界を変えることはできません。参加する市民、書く意欲を持っている市民がいるときにのみ、技術は世界を変えるために前向きに使われるのです。インターネットの技術を正しく使うことで世界を変えるのは、市民記者としての皆さんなのです。

−最後に、フォーラムに参加してのご感想をお聞かせ下さい。

田所:
呉連鎬さんの最初の挨拶にあったように、「どのようにしたら、より良い世界を作れるか」、それを皆で考えようというのが、この集まりの目的だったと思うんです。世界が直面する問題は、それこそ市民記者が世界中で手を握り合えば解決できるんじゃないかと感じました。
三國:
『OhMyNews』自体の成功というのは、韓国にとっては歓迎されることだと思うんですけど、日本には日本ならではのやり方がきっとあるんじゃないかなと思います。『ライブドア・ニュース』もまだ今年始まったばかりですけど、続けていく中で、その答えが見つかるんじゃないかなと思ってます。あまり考え過ぎていても、記事を書く人がいなければ無くなってしまうわけだし、やはり書き続けることで少しでも反響があれば、いろんなことが見えてくるのかなという感じがしてます。

《理念を掲げる》田所さんと、《とにかく継続》の三國さん。市民記者になったきっかけが十人十色であるように、活動のスタイルも、人ぞれぞれである。

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この歴史的な『世界市民記者フォーラム』に歩調を合わせて、このコーナーでも今後、ゲスト出演して自分のテーマについて報告して下さる市民の皆さんに、「眼のツケドコロ・市民記者番号」を勝手に謹呈させていただくことにする。
番号の起点は、記念すべきフォーラム開幕日の6月23日。ということで…

※眼のツケドコロ・市民記者 No.1 高遠菜穂子さん(6月25日報告)
No.2 矢野健司さん (7月 2日報告)
No.3 直井里予さん (7月 9日報告)
No.4 田所誠三さん (7月16日報告)
No.5 三國裕史さん (7月16日報告)

この番号が日本の総人口と等しくなる日まで、このコーナーが続けられたらいいな。

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