これまでにもこのコーナーで色々とお伝えしてきたメディアリテラシー教育。日本ではまだまだ取り組みが始まったばかりで、関心を持った先生達が「どこかに良いモデルはないか」と世界中をキョロキョロしている段階だ。で、ついにお手本にできる教育モデルを発見した! という事で今回は、まだ1ヵ月半ほど前に小さな勉強会で初めて発表されたばかりのそのホットな情報を、日本のメディアで初公開する。現地視察団の中から、川崎市立麻生中学校の中村純子先生と、杉野服飾大学の奥泉香先生にお話を伺おう。
- 奥泉:
- その「モデル」を発見した場所は、南半球、西オーストラリア州なんです。今までヨーロッパやアメリカばかり見てきて、盲点だったんですよね。
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メディア授業 (私立プレスビテリアン女子高) |
日本の視聴覚室よりも、図工室の方が近いのかもしれない。このメディア教室は、テレビやスクリーンの他に、
- スクラップ用の新聞、雑誌
- 撮影用機材
- 編集室が幾つか
- 映画のポスター、モノクロ写真、新聞スクラップなどの掲示物
- 奥泉:
- ラジオでミニFM局をやっている高校もありましたよ。休み時間に生徒が番組を作っていて、実際に半径2キロ以内の一般家庭で聞けるような放送を、ちゃんとやっているんです。(放送局として)認定をもらっているので、番組コードに触れてはいけないとか、きちんと気をつけていました。
日本の放送部のように学校内だけに留まらず、地域に密着して活動しているのだ。
こうしたラジオによる≪発信≫実体験の顕著な教育効果は、私たちも日本の『BSアカデミア』で実証済みだ。
−高校だけでなく、他にも色々見て回ったんでしょう?
- 中村:
- そうなんです。例えばこれはね、小学校6年生が作った新聞です。
「ノースコット・クロニクル」というこの新聞、掲載されている記事内容は子供たちの周囲の出来事だったりするのだが、体裁はプロの新聞とまったく変わらない。我々が子供の頃に作っていたガリ版の新聞や模造紙の壁新聞とは全く違い、かなり驚きだ。
- 中村:
- これは、パソコン・ソフトの中にある程度の新聞の枠組みが出来ていて、そこに生徒達が「どんな写真を埋め込もうかな」「どんな見出しをつけようかな」って作っていくんですね。内容は、大体は学校行事とか、実際にその頃の時事問題で生徒達が関心のあるものなんかを、自分たちで編集してるんですね。
- 奥泉:
- 私たちが見に行った時は、凧作りが上手なおじいちゃんに、作り方を取材する、っていうのをやってました。
- 中村:
- これは、西オーストラリア州の学校新聞コンクールにも出してます。つまり、自分たちで作ったものを校内だけで読むんじゃなくて、外に向けて発信しているんです。小学生でも、そうやって発信する中で、≪情報を編集する≫事を学んでいるって分かりました。
- 奥泉:
- 新聞作りを発展させて、その次は「広告を作る」という学習につなげていくんですね。
これだけ本格的だと、子供たちも記者の気分になりきって取組めるし、責任も感じるだろう。更に、記事だけでなく、広告をも載せるとなると、また全く違った“伝え方”の訓練が、同じ「新聞作り」という方法の中で出来てしまうわけだ。
−こういう指導を、普通の先生が誰でも行えるものでしょうか?
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ビデオ制作実習 (エディスコーワン大学) |
- 中村:
- 更に、それを小・中・高校生達に≪教える≫時にはどういう工夫をするべきか、を分析していました。
−これまで日本で紹介されてきた欧米のメディアリテラシー教育と、どんな点が違うんですか?
- 中村:
- 日本ではこれまで、カナダ・イギリス・アメリカの事がよく紹介されてきたんですよね。でも、カナダだと「アメリカ(ハリウッド)文化に対する防波堤」、イギリスだと「自国の映画産業の活性化」、アメリカだと「タバコや銃の問題から青少年を保護する」といったように、それぞれの国の特殊事情に沿った内容になっています。だから、日本の学校の授業でどう採り入れたらいいのか、難しいなと思っていたんです。それに比べて、西オーストラリア州の学習指導要領は、私たちが求めていた≪答え≫だったんです。
- 奥泉:
- 日本は、教科によって縦割りで学習指導要領が作られていますが、西オーストラリア州では、まず全ての教科にまたがる13項目のフレームができています。最初に社会科とか国語科とか美術科とかの枠ありきではなくて、例えば「必要な時に必要な情報を、きちんとした発信源からとってきて、それを批判的に吟味して共有化する」なんていう目標だけが先に13個並んでるんですね。その目標に沿って、「じゃあ○○科の授業ではこんな内容」といったように、各教科の内容へ落とし込んでいくので、例えば国語科と美術科の内容をリンクさせるという事もやりやすいんです。
- 中村:
- ≪教科の横のつながり≫が、よくできているんですね。
−“国語と美術のリンク”というと、例えばどんな風に?
- 奥泉:
- 子供が大好きな玩具があるとしますよね。例えばリカちゃん人形とか。美術ではリカちゃん人形そのものを分析して、国語ではその広告を分析する。そんな風にリンクされているんですね。
- 中村:
- 今の日本の国語の授業は、≪書くこと≫≪話すこと≫だけの評価なんですが、西オーストラリア州では、その前段階である≪見ること≫までが国語の授業に含まれていました。
- 奥泉:
- その≪見ること≫を含めて、
・話す、聞く
・見る
・読む
・書く
の4つの領域で、更にそれぞれを4つの下位領域に分けた詳細なカリキュラムが組まれています。それが、幼稚園から始まって12学年までのレベルに分かれて、きわめて具体的に記述されているので、教師達はすごく授業を組みやすいと思いますね。
- 中村:
- 私たち日本の現場の教員が、参考にしやすいなと思いました。
- 奥泉:
- 学習段階でのレベルというのも、“このレベルに達した子供はこういう事ができるはずです”と具体的に書いてあるんですね。
- 中村:
- ≪到達度目標≫、「私はこれができる」と実感できるような目標を、学習者一人一人に持たせるんですね。
−しかし、西オーストラリア州の教育モデルを、一体どうやって見つけたんですか?
- 中村:
- 私たちは、川崎の国語教員が中心になって、国語におけるメディアの研究会という、勉強会を開いていました。そちらの顧問の、産能大の芳野菊子先生が、昨年カナダのバリー・ダンカンさん(メディアリテラシー界の大御所。カナダ・オンタリオ州で、メディアリテラシーのカリキュラムを最初に作った人)のワークショップに参加してきたんです。そこでダンカンさんから「今、世界の中では西オーストラリア州が一番面白い」と伺ったそうなんですね。
- 奥泉:
- 私たちが文献を調べてみた中でも、西オーストラリア州が最近すごい、という事が分かってきました。そこで芳野先生がダンカンさんから、現地の中心メンバーを紹介していただいたんですよね。
- 中村:
- 今回私たちが実際にお世話になった内の1人ジャン・マクマクホンさんは、ご主人のバリー・マクマホンさんと一緒に、20年間ずっと実践をしてきたんですね。ご主人は教育省で学習指導要領を作るお仕事をされていて、ジャンさんは現場の高校の教員を去年退職されるまで続けていました。退職してからは、メディアリテラシー教育を海外に紹介するビジネスをはじめようと考えられているんです。
- 奥泉:
- 私たちは、そのコーディネートのお客の第一号だったんです。
メディアリテラシー教育の実践のみならず、その先生を養成する講座があって、そういうカリキュラム全体を紹介する商売がある。“メディアリテラシー”という言葉だけがやっと普及してきた日本に比べて、2歩も3歩も先を行っている状態だ。
中村・奥泉: | 私たちも、資料を山のように担いで帰ってきましたので、それを一生懸命読み解いて、がんばっていきたいと思います。 |
この「西オーストラリア州 メディア教育事情視察研修報告書」
(全146ページ/川崎国語メディア研究会)は、
以下の手順で郵送してもらえる。
- ZXH01126@nifty.ne.jp に郵送先を連絡
- 代金1500円(冊子代、送料込み)を以下の口座へ振り込み
三井住友銀行 新百合ヶ丘支店
普通 口座番号 1405363
名義…国語メディア研究会 代表 中村純子