かの人気バンド・MR.CHILDRENの新曲「タガタメ」が、今月(9月)はじめから、CD発売未定のまま、ラジオのみでオンエアされるという異例の形で流れている。MR.CHILDRENは、去年の夏にボーカルの桜井和寿さんが小脳梗塞で倒れて以降、年末のライブ1度を除いて、ライブ活動を休止中だ。今回は、この「タガタメ」を作った桜井さんの、半年前のあるコメントがきっかけとなって今週行われたイベントに、眼をツケる。
桜井さんは、今年3月(アメリカ軍のイラク攻撃が始まった直後のタイミング)、テレビニュースを見ていて感じたことを、次のようなEメールで発信した。一部分だけ、御紹介する。
大使館の前で、戦争反対を訴える人達の姿がテレビから流れる。
新宿の街で、銀座の街で、インタビューに答える人のほとんどが戦争に疑問を感じている。
でもこの戦争が、そんな事で終わるはずない。
ただ「祈る」だけでない『平和』とのつき合い方、
「NO WAR」と叫ぶ以外にある『平和』との向き合い方を探したい。
世界が平和であることを望むのなら、そうなるための努力を
それぞれが日常の中でしていかなくてはいけないと思う。
このメールはたくさんの人に転送されて広がり、メッセージに共鳴した人たちが動き出して、1冊の本が生まれた。先月(8月)15日=終戦の日に出版された「戦争をしなくて済む世界を作る30の方法」(“平和を作る17人”共著 合同出版 1300円)だ。桜井さんのメッセージの全文も、この本の最初のページに掲載されている。
この本には、17人がアイディアを持ち寄って、個人が知らず知らずのうちに戦争を支えなくて済むよう、個人レベルで実現可能な方法が具体的に30個列記されている。
この本の内容を更に膨らませる形で、今週月曜(9月15日)に行われたのが、今回紹介するイベント。そこからいくつかアイディアをご紹介する。
- 星野:
- パレードやっても戦争は止められない。それは確かだと思います。私が参加したパレードも、報道には結構「ブーム」という感じで取り上げられて、若い人達がワールドカップみたいな感覚で参加してる、戦争や平和をそんな軽い気持ちで扱っていいのか、っていう意見もありました。
それでも、これだけの人が動いて、意識を向けたっていうのは、非常に大きな事だったと私は思うんですね。1人で家にいて、テレビ見てパソコン見て新聞見て、ため息ついていると、どんどん暗くなっていくし、どんなに勉強してもそれは自分だけで終わっちゃう。だけど外に出て、声を上げてみる、自分で表現をしてみると、出会いがあって、本当に空気が変わっていく。それを体験できたんじゃないかと思います。
そのメッセージがどれくらい伝わったかっていうのは、これから見えてくると思うんですね。デモが一段落して、参加した人達が「あれは何だったんだろう」そして「今戦争は止まってないけれど、自分はこれからどうしたらいいんだろう」って考えた時に、例えばあの本(「戦争をしなくて済む世界を作る30の方法」)を読んだりとか、自分でできる事を探す。今は“根を張る時間”じゃないかなって思ってます。
では、個人個人が軽い気持ちでスタートして伸ばした根が、いずれ葉をつけ実を結ぶためには、具体的にはどうすればいいのか。このイベントで挙げられたいくつかのアイディアをご紹介する。
まず1つ目、【投票しよう】と提案するのは、羽仁カンタさん。
- 羽仁:
- 戦争が始まる前にあれだけの人がイベントに集まって、僕も「おお、すごいんじゃん!」って思ったけど、でも、それでも戦争は止まらなかったんですよね。“戦争止まらなかったから、やってもしょうがなかった”とは思わないですけれども。
で、その時僕は、戦争を止めるためには当然、政治にアプローチしなくちゃならないんで、国会に足を運んで、議員会館に行って議員と話をするっていう事を1年くらいやっていました。ところがその時思ったのは、僕らがハッと動いた時にいた議員というのは、その前の選挙で選ばれてる人達だって事です。で、「戦争いいじゃん別に」って、全体としてはそういう流れだったわけですよね。だから止められなかった。
今、せっかくこれから選挙なわけだから、ここでなんとかして戦争嫌いな議員を作っていかないと、次また何かあった時に、議員が戦争好きだったって状況になっちゃいます。それじゃいけないから、ここで皆さん、選挙近いですから。来月、さ来月ですからね。
1人1人の意思表示の機会を生かそうよ、という主張だ。有事関連法案など、前回の総選挙後に通った法案はたくさんある。まもなく解散総選挙と取りざたされているが、それを変化の最初の段階とできるだろうか。
次は、戦争の根本的な原因の一つである≪エネルギーの確保のし合い≫の緩和のため、【省エネしよう】という、田中優さんの提案。
- 田中:
- 家庭の中で圧倒的にエネルギーを消費するのは、エアコン、冷蔵庫、照明、そしてテレビの4つです。この4つが、エネルギー消費の3分の2を占めます。4つの中で一番重要な冷蔵庫については、製品の省エネ化が進んで、マイナス83%まで行きました。こういった省エネの商品を使う事で、私達はそもそも、消費エネルギーを少なくしていく事ができます。我々が、≪石油に頼らない社会≫にしていくという事が、大事だと思います。最終的には、ブッシュが一生懸命に戦争をして石油をせっかく取ったんだけど、何の役にも立たない、そんなもの取っただけムダだった、間抜けだ、という社会を作る事が、我々にとって肝心だという風に思ってるんです。
「環境・資源保護のため」でなく「戦争回避のため」の省エネ、という発想だ。
次は、貯蓄好きな日本人向きの提案。【預金する先を選ぼう】。つまり、戦争を支えている企業へ融資をしているような金融機関には、自分のお金を預けないという行動だ。それが高じて、市民だけで、自分たちの金融機関『未来バンク』を作ってしまった人達がいる。それを作ったグループの1人、奈良由貴さんの発言。
- 奈良:
- 郵便局や銀行の融資先に目を光らせて、預金者として声を上げていくという事。金融をいうのものを、もっと市民のレベルに引き寄せていくという事ですね。本来ならば、信頼の中で、あまっているお金を足りない人に融資していく、というのが金融の基本です。そういう仕組みが、もっと市民レベルで出来ないだろうか、という事で、色々と検討を重ねて、融資先を環境・福祉・市民事業に限定しまして、設立当初は20人が出資した400万円でスタートしたのが『未来バンク』です。“こういう市民金融は続かないだろう”“お金の問題だし難しいし”という事だったんですが、大方の予想を裏切って、現在では、出資高が1億円、融資実績が5億円を上回るという事業になっています。
プロの銀行が、こんなに不良債権で苦しんでいる時に、市民の手による銀行がここまで実績を挙げているのだ。
もっとたくさんのアイディアをご紹介したいのだが、最後に一つ。【いい報道を誉めよう】。最初に紹介した星野ゆかさんと、今回の戦争中イラクで一時身柄を拘束されてニュースになった、フリージャーナリストの志葉玲(シバレイ)さんの提案だ。
- 星野:
- 最近私は、テレビでも新聞でもなんでもいいから、1個いいものを見つけてそれに電話をする、っていう事をやっているんです。良い番組があったら電話する。変な発言があった時も電話をする。これ、続けてくると日課になってきて、影響力もあると思うので、皆さんもやってみてください。
- 志葉:
- 私、昔テレビ・ディレクターだったもので、視聴者から来るハガキをよくプロデューサーに届けにいってたんですよ。作り手は、ちゃんと読んでます。例えば一つの番組で、50通の苦情やあるいは賞賛のハガキがきたら、それはえらいことですよ。だからこの会場にいる皆さん全員が送ったら、変わるかもしれませんよ。そんなもんなんですよ、実は。メディアっていうのは第4の権力ってよく言われますよね。だとしたら、メディアも市民が育てていくような、そういう社会になればいいなと思ってます。
“悪いものに対して抗議しよう”とはもちろんセットで呼びかけているが、“良いものを褒めて支えよう”という発想が並んで提唱されている事は、メディアで発信する者として嬉しい。私もよく講演会等で、「メディアを良くするにはどうすればいいんでしょう」という質問を受けて、これと同じ事を答えている。
これらの方法1つ1つでは、もちろん戦争は止まらない。だからこそ、これから無数にこういうアイディアを出していこう、それを積み上げていけばいつかは―――という発想だ。無理しないから疲れない。だから挫折もしない。それが21世紀の新しい市民運動(市民運動という言葉自体もう古くなるのかもしれないが)の形に思える。