下村健一の「眼のツケドコロ」

注目！ SKIPシティの市民映像制作支援

放送日:2003/05/10

彩の国ビジュアルプラザパンフレット埼玉県川口市に、『スキップシティ』という“街”がオープンして三ヶ月が経つ。『スキップシティ』は、県がお膳立てして作った県民の映像制作支援の場。一角には、NHKの過去の映像が蓄積された『NHKアーカイブス』も、いわばテナントとして入っている。下村も先日ここを訪れ、その設備の充実に感動した。今回は、㈱スキップシティ取締役・事業企画運営部長の滝沢裕二さんにお話を伺う。

下村が訪れたのは、『彩(さい)の国ビジュアル・プラザ』という建物。スタジオ、映像ホール、映像ミュージアムなどの設備が、一般に公開されている。

－『彩(さい)の国ビジュアル・プラザ』の総設備費は？

滝沢：: 90億かかっています。これでも『スキップシティ』全体では、まだ3分の1しか開発が終わっていません。

－なぜ埼玉県が、大金をかけて映像制作の拠点作りを？

滝沢：: 埼玉県では、全域にわたって産業興しを行っています。『スキップシティ』は20世紀の終わりに、21世紀を想定して企画されました。21世紀といえばデジタル。デジタル技術の中で最も≪産業化≫と≪雇用の創出≫につながるものは何だろう、と考えた結果、映像に眼がツケられました。映像関連産業の創出を目指して、『スキップシティ』が企画されたということです。30年後までに、映像関連産業がこの地に定着して雇用を生むようにするのが第一の目的です。

産業育成という面では、『彩(さい)の国ビジュアル・プラザ』の中にあるインキュベート・オフィスに注目できる。インキュベートとは、卵を孵すという意味。デジタル映像技術を使って新しく何かを始めようとする企業に、破格の家賃で事務所スペースを貸しているのだ。

滝沢：: 18室あるインキュベート・オフィスは、今全て埋まっています。『スキップシティ』では≪デジタルシネマの制作支援≫が一つのキーワードになっていますので、デジタルシネマ制作を進める企業が多いです。その他にも、それぞれ映像関連ソフトの開発、周辺機器の開発などに取り組まれています。

そして、ここからが眼のツケドコロ！『スキップシティ』は、新進企業だけでなく、一般の人達に対してもオープンになっている。数ある設備の中で下村が特に感動したのは、『映像ミュージアム』だ。誰でも切符を買って入ることができ、子供も大人も楽しみながら、映像の仕組みや映像制作の過程を体験できるよう工夫されている。

－この設備は、誰がどうやって立案・設計を？

滝沢：: 全体計画は、民間のコンペによって募集しました。いくつかのグループがコンソーシアムを組んで、応募したわけです。ソニーグループを中心とした22社による『チャレンジ21』というコンソーシアムが採用され、㈱スキップシティがその意図を引き継いで実現した形です。

『映像ミュージアム』には、例えば、テレビ画面に磁石を近づけると画面が歪むといった実体験をすることでテレビの原理を理解できるコーナーや、自分が動いた通りに画面の中のコンピュータ・グラフィックスの登場人物が動く最新技術によるコーナーなどがある。全てのコーナーを楽しむには、二日はかかるだろう。

滝沢：: “ミュージアム”というよりも、映像作りの“工房”を意識しています。私達は、映像は言語と同じだと考えています。まず映像の作り方・在り方の原理を知ってもらって、自由に、思うままに使いこなせるようになってほしいと思っています。これからの子供達はどんどん映像を使う機会が増えるでしょうし、そのための環境を整備することが、一つのコンセプトです。

－ミュージアムの来場者数は？

滝沢：: これまでに2万5千人、ゴールデンウイークには2千5百人の来場がありました。人が一気に押し寄せて行列になるのは、あまり本位ではありません。ゆっくり長く来て欲しいと思っています。

ミュージアム内の設備の中には、県民が一時間単位で利用料を払って使える『県民編集室』がある。

－『県民編集室』の利用状況は？

滝沢：: 最近は、大抵のご家庭にビデオカメラがあります。しかし、映像で記録はできても、編集して一つのものに仕上げるということがなかなかできないんですね。やってみようと思ってはいても、高いソフトを買ってまではちょっとできない。そういう方が、気軽に、いっぺんトライしてみよう、と思えるような環境を整えています。創作意欲に火を着けたい、というのが狙いです。

ボランティア会員募集『県民編集室』から生まれた作品は、『スキップシティ』のホームページの中にある『SKIPシティ・チャンネル』というコーナーで公開されている。このコーナーでは、今のところ、地元の前川東小学校、桜木小学校、蕨第二中学校が頑張っている。

滝沢：: 私達は、県内の『総合的学習の時間』に映像制作を組み入れようと、県や市の教育委員会と一緒に働きかけて来ました。この三校には、施設が完成する前のデモンストレーションに協力していただいたんです。

－この三校には、特に熱心な先生がいらっしゃるのでしょうか？

滝沢：: どの先生も最初は手探りで、新しいことを始める戸惑いもあったと思います。しかし実際やってみると、生徒に非常に受けがよかったんですね。だから先生方にも、来年からもっと積極的にやっていこう、と言っていただいています。

そうした意欲を形にする仕組みのひとつとして、NPO『さいたま映像ボランティアの会』がある。その柱の一つが、子供達に映像制作を教える“映像インストラクター”を育てるための研修講座だ。

滝沢：: 講座がスタートして1年になるんですが、映像制作を教えるインストラクター、ミュージアム内で来場者を案内するミュージアムガイドの予備軍が、500名います。これまでにインストラクター研修を終えた方は80名で、毎週最低9校へ派遣されています。川口市を中心に、今現在117クラスが、学校や『スキップシティ』でビデオニュースを制作しています。

　新しい試みは一本調子にうまくいくとは限らない。今後、いろいろな課題もあるだろうが、是非是非がんばっていただきたい。

滝沢：: 埼玉だけでなく、こういった試みが各地に広がればと思います。『スキップシティ』がモデルケースとなるように、培ったノウハウを公開していきたいと思っています。

『スキップシティ』へのアクセスは、埼玉高速鉄道の鳩ヶ谷駅からバスで10分、JR西川口駅からバスで7分、JR川口駅からバスで13分。お問合せは、048－264－7777（代）まで。

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