怒涛の三日間!静岡大学で下村集中講義

放送日:2003/02/22

先週水曜と今週の月・火の3日間(2月12日・17日・18日)、下村は、静岡大学で集中講義をしてきた。普段は東京大学(社会情報研究所)で週1回教えているが、今回はその半年分に当たる15コマを3日で教えるというハードスケジュール。当然、朝から晩まで授業となったのだが、こうしてまとめてやった方が、学生がビデオリポート作りの実践をしやすく、面白い授業になる。
招聘されたのは、浜松キャンパスの情報学部。ここの学生達は普段、情報を伝えるプラットフォームについての勉強をし、そこに載せるコンテンツについては全く勉強したことが無いとのこと。呼んでくださった堀田龍也先生の言葉を借りれば、「道路や車体の研究ばかりしていて、運転の仕方を知らない」ということだそうだ。

授業は、まず初日に20人位を5つの班に分け、3分前後の音声リポートを作ってもらう所から始めた。題材は、まず下村健一の個人ホームページを1時間取材し、その後15分間の“共同記者会見”でつっこみたい点を下村に質問、その結果をまとめて、ラジオ風のリポートにする、というものだ。そこで、構成の難しさや伝えるコツを体感してもらった上で、2日目・3日目で映像リポートを作成してもらった。2日目が終わったところで中間発表会、そこでまたアドバイスをし、3日目に修正をして最後に作品発表会をした。
中間発表会でのアドバイスは、様々な点に及んだ。例えば、逆光で撮ってしまって映像が真っ黒、と言うような初歩的なミスに対しては、ただ「逆光はダメだ」というのではなく、「何故真っ黒だと、情報として役に立たないのか」という≪意味≫に気付かせる、という形式でアドバイスを加えていった。

下村:
「やっぱり映像メディアでは、その人がしゃべっている≪言葉≫も大事だけど、どういう≪表情≫でそれをしゃべっているかというのがかなり重要だから。『これは本気で言ってるなぁ』とか『ちょっと茶化して言ってるな』とか、そういうことがわかるでしょ? だから、表情は重要な≪情報≫なんで、これは必ずもっと映るようにしてください。特に、この左の子なんか、どういう顔してるかほとんどわからないから。その辺、今日やる人は気をつけて。」

この他にも、代表的な助言の例をご紹介しよう。バレンタインデーをテーマに取り上げた男子学生3人のチームが、撮影用に、コンビニにチョコレートを買いに行ったという報告があった。その学生と、下村の対話をご紹介する。

学生:
「一応さっきコンビニで、資料として、売れ残った半額のバレンタインチョコ買ってきて、すごい恥ずかしかった。これほどむなしいことないですね。」
下村:
「その買ったシーンは撮れてる?」
学生:
「ああ、それはちょっと撮ってないですけど」
下村:
「え〜、もったいないじゃん! その売れ残りを買うむなしい表情があったわけだろう?」
学生:
「あ〜、それはしまった!」
下村:
「もう、≪現象すべてが取材対象≫だと。だから、ハイここから回しますよだけで撮ってると、一定の範囲内のつまんないものしか撮れないよ。だまし討ちとかそういうことは反則だけど、そうじゃない範囲は、すべてが表現材料だと思った方がいいよ。」
学生:
「はい、ありがとうございます」
下村:
「でまた、買いながらさぁ、お店の人に聞けるじゃない。『今日になってもまだこれを置いてあるっていうことは、買いに来るヤツいるんですか?』とか。」
学生:
「男の人買いに行きますか、とか聞くんですね」
下村:
「情報源でしょう?全てから情報を吸い取る。≪芋ヅルは、いっぱい伸びている≫んだから。はい、頑張って来てください。」

彼らのリポートは、最後に「僕ら3人、合計で0個でした。バカヤロ〜!」と夕日に向かって叫んでいるオチで終わる。だからこそ、チョコをコンビニで仕入れなければならなかった部分を取材する事が必要だったのだ。

次の例は、変わり者の集まりだと評判が立っている某研究室のメンバーが企画したもの。その研究室所属ではない学生が、ものすごく汚い研究室に入った瞬間の驚きを、2回撮っている。そのVTRに収められていたのは、こんな会話だった。

[VTRの中の音声]
(カメラマン/研究室に入って行きながら)「リアクション出来ないっすよ。これ、どうリアクションしていいかわからないですけど。」
(ディレクター)「オーッて言って」
(カメラマン)「オーッ」
(ディレクター)「って感じでもう1回行こうか」
(カメラマン/もう一回外に出て、再び研究室に入って行きながら)「オー、オー」

[試写後のアドバイス]
学生:「…という感じです。」(教室中爆笑)

下村:
「これ今のすっごく良いサンプルだけど、1回目と2回目と見て、明らかに2回目の方がわざとらしいでしょう、オーの言い方が。これでお分かりのように、やっぱりねぇ、繰り返す程、≪作りが入ってくるほど、情報としては嘘っぽくなる≫んですよ。これは、ペンでは出ないけど、映像・音声では必ず透けて見える。撮りながら入っている彼にとっては、正真正銘の初見だったわけね? じゃあ、やっぱり1発目の方がいいよな。 『これ、どうリアクションしていいかわからない』っていう声があるじゃない。あれが本当のリアクションなわけじゃない。でしょ? あれ、ほんとに入った人、そう思うもん。あの部屋、コメントのしようがない荒れ方じゃない。その方がずっとよくて、2回目のオーオーっていうのはすごい臭い。ね、わかったでしょ、皆見てて? そういうもんなんですよ。だからまぁ一言でいえば《芝居は打つな》ということだな。これでわかるように、みんな全然視聴者をだまそうとか誘導しようとかいう悪意はないんだけども、≪より分かりやすくしようという善意が、こういう作りやヤラセを生む≫んですよ。」

―――これらを受けて、3日目に直し作業をし、完成品の発表会を行った。ここで初めて、下村だったらこうする、という代案を提示した。

まずは、先程のバレンタインデーがテーマの班。この班は、浜松キャンパス内でのチョコの流通量を詳細に調べ、結果を箇条書きで画面に出した。それに対して、視聴者役の他班の学生達からは、分かりにくい、見にくい、という意見が出た。その際の会話をご紹介しよう。

下村:
「これをグラフ化するときに、なにもベタッと数字じゃなくたってさぁ、例えばキスチョコなんかを買ってきて、34個机の上に並べて、それを線で仕切って『もらえた人・もらえなかった人』を表現するとかさ。何だってやりようがあるじゃない。≪絵で表現≫できるでしょ、そういう事すれば。だから、あまりコンピューター・グラフィックスに頼りすぎない。その前に、もっと面白い方法がないか考える。例えば、米国のある市民メディアが、何か円グラフを示す時に、その円グラフのパイ自体が膨張してるとか縮小してるとかいうようなことをたしか表現するのに使ったんだけど、風船に円グラフ描いてさ、その風船をその場でプーッと膨らませたり萎ませたりして伝えたいことをすごくビジュアルに表現したんだ。そういう風にちょっと≪知恵≫を使えば、金もソフトも使わずにできるんですよ、もっともっとわかりやすく。でもまあ、努力賞。ここまでデータ集めたのは、へーっと思わせるから。それはいいと思います。お疲れさまでした。じゃ、次いきましょう!」(拍手)

次は、学内の理髪店閉鎖を惜しむ職員にインタビューした班。この班は、エンディングに非常に悩み、結局は陳腐なナレーションと理髪店のイスの映像でごまかした。そこで、下村が示した代案は、理髪店の入り口ドアに貼ってあった「都合により営業を休止します」という張り紙への着目だった。

下村:
「1番最後のナレーションの台詞なんだっけ?」
学生:
「なくなってしまうのは寂しいことですね、っていう感じの。」
下村:
「ああそうか。えーと、≪事実をもって語る≫方が、説得力あるのね。そうすると、僕だったらここのエンディングは、ずーっと見せてきて、最後にあの張り紙にスーッと寄っていって、『ドアの張り紙の言葉は“休止”。“廃止”とはまだ書かれていません』というナレーションで終わる。それは事実しか言ってないけど、すごく気持ちがこもるじゃない、彼らの。これはまだ休んでるだけなんだ、いつかまた復活するんだ、という思いが、その単語選びにこもってるでしょ、張り紙1枚の。そうやって、その現場で見たものの中から、≪鉱脈を掘り当てる≫んですよ。あ、この休止の“休”の字が今回のテーマだ!とかさあ。映像と事実で語れ、≪メッセージはそこにある!それに気づくこと!≫ はい、じゃ次行きましょう。」

もう1つは、徹夜で卒業研究に励む4年生を追った班。一晩中研究室に同居し、刻々と進む時計と室内の様子を交互に映し続けた。だが、映像がどの時刻も同じで、黙々と作業を続けている学生達の姿ばかりだった。

下村:
「壁の時計から学生達の方へ、ただ黙ってカメラをスーッと動かして、『あ〜さっきと同じ映像になっちゃうな、これだと午後8時と10時と12時と午前5時の差が無いな』、ということになっちゃったら、やっぱりこうパーンした時に、ちょっと話しかけるんだよ。『まだ帰らないんですか』とかさ。そうすると、それに対する答え方が、だんだん変わってくると思うんだよ。」
学生:
「あ〜なるほど!」
下村:
「『あと2時間!』とかさあ、『4時間たちましたけど…』みたいな感じで。あるいは、発言内容が言葉として変わってなくても、そのトーンが絶対にトーンダウンしてくるじゃない、もう何時間もたってくると。その喋りを聞く≪聴覚≫からも、それを答えてる時の表情を見る≪視覚≫からも、あ〜時間がたってる、大変な思いしてる、と伝わってくるよね。あれだけ遠景で撮ってて無言だと、目からも耳からも、それが伝わらないの。『時間がたってるけど、まだいるな』っていうレベルに情報が留まっちゃってて、『まだいる』だけは伝わるんだけど、もったいないよ。あすこには金脈がいっぱいあって、もっといっぱい掘りあてられる情報がある。この場合、メッセージは、目つきとか声の張りとか、そういうところにあるんだよね。」

今回の授業で下村がテーマにしたのは、≪情報の“伝導率”を高めよう≫というもの。各班とも、伝えるテーマは面白いし、熱意もあるが、伝導率がまだまだ低かった。それを高める方法は、3日間でいろいろ学んで貰えたと思う。いくら≪伝えるテクノロジー≫が進歩しても、結局は≪わかりやすく伝える工夫≫がきちんと出来ていることが決め手だ、ということを強調して帰ってきた。
このような動きは、授業以外でも自分達でどんどん続けていけるもの。助言を求められれば、下村はこれからも全国を飛び歩きます。

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