まずは前々回お伝えした「たんぼシンポジウム」開催の様子を、NPO「めだかのがっこう」理事長で主婦の中村陽子さんに伺う。
- 中村:
- 「とても熱気あふれる会でした。環境庁の局長さんも、庁内のたんぼの勉強会には人が集まらないのに、と感心しておられました。」
−集まったNPOの方々同士も刺激しあえた、ということですか?
- 中村:
- 全国から、既に環境復元に取り組んでおられる農家の方々も集まりましたし、東京の市民グループも多く集まりました。また、たんぼと学校給食を連動させているグループの方や、琵琶湖浄化の運動をなさっている市民グループの方もおいでになり、活動にたんぼのことを取り入れた方が良い、という申し出を頂きました。
また、宮城県田尻町の田園研究所に出入りしていらっしゃる農家の方は、『80年間生きてきた中で、こんなに充実したたんぼのシンポジウムは初めてだ』とおっしゃっていました。
−今後のご予定などは?
- 中村:
- これからがまだまだたくさんあります。社会に訴えていくために、連絡を頂いた方々と政策勉強会などをしていきたいと思います。
さて、今回の本題は、岡山県笠岡市立小学校の授業の試みのご報告。
「総合的学習の時間」が今年から本格的に始まり、各所で色々な取り組みがなされている。その中でも、自分達で映像を作ってみよう、という市民メディアの動きが起こっている事は、これまでにも何度かご紹介した通りだ。
今回は、2・4・6年生の3つの授業を取材させて頂いた。まずは、6年生が作った30秒の作品をご紹介しよう。
笠岡市は瀬戸内海に面しているため、ゴミで海岸が汚れることを問題にした班が2つあった。1つは、ただ黙々とゴミを映し続ける映像だったが、もう1つの作品は非常に議論を呼ぶものになっている。まずは、こちらをお聞きいただこう。
[作品ナレーション]
「ごみひろおうや〜。(ゴミを拾っているシーン。そして、集まったゴミを)今、拾ったゴミをリサイクルしたいと思います。
(そして、街のスーパーにゴミを持っていき、リサイクルボックスに入れる)拾ったトレーをリサイクルします。
海をキレイに、自然をまもろうをモットーに、環境を守りましょう。」
この作品が何を訴えたいのか、見た生徒に聞いてみると、「海を綺麗にしたい」という当たり前の答え。だが、制作者は、「自分達の手で積極的に綺麗にしたい」ということを表現したかったと言う。このズレはなぜ生じたのだろうか。
この班は、ゴミ拾いの映像を分かりやすくするため、一旦自分達でゴミをまき、それを拾うところを撮影したそうだ。先生はこれを創意工夫として誉めていたが、下村は「君たちが撮影をした後、笠岡の海岸は綺麗になったの?」と問いかけた。
自分達でゴミをまき、それをまた拾うといういわゆる「やらせ」をやってしまうと、ゴミを拾うシーンは確かに効果的に撮影できる。だが、いつもの海岸でポツリポツリと落ちているゴミを一生懸命みつけながら拾っていくシーンを撮影した方が、見ている人に「熱意」が伝わるのだ。作り物の映像からは、撮影したことがウソとはばれないまでも、「本当だ」と感じさせ、揺さぶることはできないものなのだ。その為に、本当に表現したかった「自分達の手で海岸を綺麗に」という部分が伝わらなかったのだろう。
これは6年生の合同授業だったのだが、こうやって良かれと思って「やらせ」というものは生まれる危険があるのだ、ということを肌で感じてもらえた、非常に良い例となった。
次の作品は、笠岡市の目玉「カブトガニ博物館」を題材にしたもの。こちらについても、2つの班が映像に取り上げた。 まずは、一つ目の作品を聞いていただこう。
[作品ナレーション]
「これは、カブトガニの卵です。カブトガニの赤ちゃんです。これは、カブトガニの種類です。これは、カブトガニの化石です。これは、カブトガニの成長の様子です。」
という30秒。展示しているものを順番に映していく単純なものだが、カブトガニの成長の様子が分かるようになっている。しかし、コメントが全て同じ文型になっているため、情報が薄くなってしまっているのだ。
この作品へは、「見ている人に何が分かっていて何が分からないか、区別しよう。見ている人には分からない情報をナレーションとして入れれば、見ている人は飽きないで見られる」というアドバイスをした。つまり「これはカブトガニの/です」と繰り返す代わりに、その時間を使って他の情報を盛り込もうということだ。
慣れないうちは、カメラに向かって喋ることがどうしても定型になってしまう。特に、小学生は作文の書き方にも強く影響を受けているだろう。だが、何度か繰り返していくうちに、定型を崩すことが身に付いてくるのだ。
次に、もう1班の作品をご紹介しよう。
「これから、カブトガニセンターに行って来ます。出発、到着!
あ、カブトガニ!
『ようこそ、カブトガニセンターへ。』(男の子が、カブトガニの扮装で登場)
うわ、カブトガニ!
『カブトガニは、どの仲間になるでしょう?次の3つから選んでね。1,2…』
みんなも来てね〜!」
最後のクイズでは、敢えて答えを紹介せず、センターに行かないと分からないようにした、とのこと。最初のワープのシーンなども、演出に凝っている。かなりクサイ演出ではあるが、見せる工夫をしたことは非常に評価できる。
だが、演技に時間をとられ過ぎて、情報が少なくなってしまったという欠点もある。これは、先生方も試行錯誤の途中であり、「30秒」という設定に無理があった。
テレビCMは15秒ないし30秒だが、CMはプロ中のプロが練りに練って作ったもの。先生方は「初めてだから短い方が簡単だろう」という配慮をなさったのだろうが、逆に短いほど作りにくいのだ。このグループは、時間設定がもっと長ければもっと良い作品が作れたかもしれない。
その他、4年生は「インタビューの仕方の実習」ということで、地元の保険士さんに人体の構造を質問する、という課題。「何を聞きたいかの明示」という課題はクリアしていたが、「相手の質問を聞いて、第二の質問をその場で考える」という課題が難しいようだった。これが可能になれば、会話のキャッチボールが色々出来るようになってくるだろう。
2年生は、「紙芝居」。3枚の絵を組み合わせて、好きなストーリーを作るというもの。全員が全員違うストーリーを作って来て、一つの答え以外は全部×の算数とは違うおもしろさがある。表現には色々あって良いのだ、ということを、みな目を輝かせながら楽しそうに学び取っていた。
このような取り組みは、下村のライフワークでもある。全国呼ばれればどこでも伺うので、詳しくは下村のホームページhttp://www.ken1.tvまで。