注目の漫画「戦争中毒」日本語版発売

放送日:2002/10/26

戦争中毒−アメリカが軍国主義を抜け出さない本当の理由 今回は、昨日(10月25日)発売された漫画を取り上げる。「戦争中毒−アメリカが軍国主義を抜け出さない本当の理由」(ジョエル・アンドレアス作 合同出版 本体1300円+税)という本だ。

この本は、この夏ニューヨーク・ワールドトレードセンター跡地より下村がこのコーナーに生電話リポートをした際、紹介したものだ。その時点では英語の本があるだけだったが、それが日本語に翻訳され、出版された。

元々この本は、湾岸戦争の翌年に出版された。出版から年月が経ち、そろそろ改訂版を出そうと作業を始めていたところで同時多発テロが発生、急遽内容を大きく変更して出版された。
内容は、アメリカ建国以来の歴史を≪戦争の歴史≫というまとめ方でずっと綴ったもの。「湾岸戦争中、アメリカのマスコミはすっかり戦争応援団に成り下がってしまった。この国の人々に、何か違う種類の情報を提供しなければならない、そう私は感じていました。」(作者自身の前書きより)とあるように、普通の報道とは違った見方を提供している。

この春に完成してから、米国内では既に約2万部が売れた。さらに、「『戦争中毒』を広める会」として、全米の図書館、学校にこの本を送り、子供達を初めとして広く知ってもらおう、という活動も行われている。つまり、通常とは異なるルートで広がっている本なのだ。

戦争中毒−アメリカが軍国主義を抜け出さない本当の理由 この本の内容を簡単にご紹介しよう。初めは、ある家庭で、子供が母親にチャリティーバザーのお知らせを見せ、手伝って欲しいと言っている場面だ。このお知らせは、学校でトイレットペーパーを買うお金がないため、バザーを手伝って欲しいと呼びかけるものだった。このことがPTA会議で問題になり、学校側はお金がない理由を、「補助金が全く支払われないから」と説明する。母親側は、「何故あんなに高い税金を払っているのに?一体、あのお金はどこに消えてしまっているんだろう?」と疑問を持つ。ここで円グラフが登場。 アメリカの連邦予算のうち、自由裁量分の50.5%が軍事費に消え、他を全部合わせても49.5%にしかならない、というグラフが示される。これでは学校もトイレットペーパー買えないね、という話になっている。

このように、非常に身近な引用から、何故アメリカはこんなに軍事費を使っているのか?という説明に入っていく構成になっている。

この本で特に採り上げてご紹介したいのは、第4章だ。この章は、同時多発テロ後に急遽付け加えた「対テロ戦争」という題のもの。
最初に、左側半分に大きく燃え上がるワールドトレードセンターの絵。そこに、「この攻撃の後、ある一つの疑問が生じた。それは、あまりにも答えにくい疑問だったので、アメリカのニュースでまともに扱われることはなかった。」と書かれている。そして、子供がお母さんに、「お母さん、あの人達はどうしてああいうことをしたの?」と質問しているコマがある。普通に考えれば至極もっともな質問だが、アメリカのニュース番組は、この問題についてまともに扱ってこなかった、ということだ。
クリックすると大きく見えます そして、注目すべきは次のページ。オサマ・ビンラディンの似顔絵が描かれ、ビデオテープなどで語った彼の主張が丁寧に載せられている。「アメリカが今味わっていることは、我々が何十年も味わってきたことに比べれば、ごく些細なことである。我々のイスラム世界は、80年以上にもわたって、この屈辱と卑しみとを味わってきた」という内容が書かれているのだ。
さらに、このビデオは後に、「暗号メッセージが込められているかもしれない」という理由で、アメリカのテレビメディアでは放送されなくなってしまった。漫画ではこの事実にも触れ、「しかし、政府が一番気にしていたのは、本当に暗号メッセージだったんだろうか?いや、おそらくビンラディンが明言した方のメッセージ、つまり、9/11の攻撃は、アメリカの中東地域への軍事介入への報復だ、というメッセージが与える影響の方を心配したのではないか。」と指摘している。
さらに、その後の分析として、「ビンラディンは挑発の狙いがあり、アメリカが強大な軍事力を用いて報復してくることを望んでいた。ブッシュ政権は、ビンラディンの筋書き通りに動いてしまった」、「アメリカ国内についても、『本土防衛』という錦の御旗を掲げ、FBIや警察が、一般市民を監視できるようになってしまった」、ということについても触れている。

このように、「反戦争」をひたすら掲げるだけでなく、「戦争」を切り口としてアメリカの歴史を振り返り、いかに多くのことが透けて見えるか、ということがよく分かる内容になっている。文末の参考文献リストも145本を数え、かなり多くの資料にあたって作られた本だ。

もちろん、これらの資料のうち、本の趣旨に沿うものだけをピックアップし、“偏った”内容の本になっていることは否めない。だが、アメリカメディアの報道、アメリカ政府の公式発表からのみ得られる“偏った”情報ばかりに接してきた事を考えると、逆側に偏ったこの本を読むことで、新たな考え方に気付くことには価値がある。

この本の最後では、「この『戦争中毒』で、アメリカ国民・全世界の人々が、一体どんな目に会っているのか、それはいくら掛かるのか、儲けるのは誰だ、支払うのは誰だ、死んでいくのは誰だ、そのことを考えてみよう。」と述べられている。この本に書いてあることが全て真実だ!ということではなく、両側の意見に触れることで、少しでも真実に近づける、という考え方で読んでみてはいかがだろう。

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